森に生える木々が枯れ始め秋入りを感じさせるようになってきた。
緑豊かをを通り越して薄暗い原生林も葉が落ちてくることで日の光が入るようになって明るくなってきた。
そのオマケで冷たい風も吹くようになって肌寒さをヒシヒシと感じるようになってしまったが。
自前の毛皮である程度の雨風は凌げるとはいえ寒い物は寒い。
それが嫌で何とか暖を取ろうとすれば火を起こすしかない。
しかし火は加減が利かず熱くなりすぎる事もあるし夜寝ている間に起こした火は朝を迎える前に消えてしまう。
正直言って不便なのだ。
寝ている間まで暖かく、熱すぎない、そんな便利な電気毛布みたいな物は森には無かった。
だから作ってみた。
「くるる~♪(あったか~い♪)」
チビが懐に抱え込んで暖を取っているのは赤みを帯びた小石、それから微弱な熱が放出されチビの身体を温めていた。
それは試しで作ってみた熱を発する石、これは念力で消費していたエネルギーを別の力に変換して石に込めた単純なものだ。
今や手足の様に使っている念力だが、使うたびにエネルギーを消費して、それが空腹という形で表れていた。
そのエネルギーを念力以外の力に変換できるのでないか、その事に気が付けたのは狩りで戦ってきた獣達を身近で観察する機会に恵まれたからだ。
風を巻き起こし、炎を吐き出し、地面から杭を出し、身体の輪郭をぼやけさせる、今迄狩で戦ってきた獣達は、そのどれもが得意な力を持っていた。
そして戦っていく中で何となく感じるようになった、これらの力と自分の扱う念力、元は同じものではないかと。
確証は無かった、それでも物は試しと試行錯誤してみれば出来るようになった。
無論、本家本元には著しく劣る。
炎を出そうと思えば出てくるのは小さな火であったり、地面から鋭い棘を出そうとしても出てくるのは小さな土の小山でしかなかった。
変換効率で言えば1%あるかないかだろう。
お試しで作った熱を発する石も熱に変換した力が石からちょろちょろと漏れているだけでやった事は石に力を入れる事だけ。
込めた力も大半が霧散して石に入ってたのはその一部でしかない。
それでも自分の持つ力の可能性が広がったのは喜ばしい事だった。
「くるる~?(なにしてるの~?)」
「グルル(実験だ)」
宙に浮かせた小石をどうしようか悩んでいるとチビが興味深そうに見つめて来た。
思えばチビとの付き合いも長くなっって今では何を言っているのか何となく分かるようになってきた。
言葉が通じている訳ではなく仕草や鳴き声を通してのぼんやりとしたものであるが。
それでも今では時に軽くじゃれ合い、寒い夜には一緒に一塊になって寝る仲だ。
そんなチビも出会った頃とは大きく変わっていた。
荒てボサボサだったくすんだ毛並みも艶やかで綺麗になった。
小さく骨と皮だけの様な痩せ細った身体は大きくなり太い骨と発達した筋肉を内包した身体に育った。
やはり木の実や草だけでは成長に限界があったのだろう。
やはり肉はいいものだ、木の実や草とは比べ物にならないカロリーとタンパク質を豊富に含んでいる。
肉を食べるようになって栄養状態が目に見えて改善され成長する事が出来るようになった。
まあ今はそんなことよりも小石で何をするかだ。
視線の先には宙に浮いた小石、さてこれで何をするべきか。
事故はなるべく起こしたくないから何かが原因で暴発しても小石程度なら自前の毛皮で防ぐ事は可能だ。
それ以前に小石にはこれといって特徴も何もなく、素材としては貴重ではなくありふれたものだ。
此処は失敗を織り込んで数をこなしていく事が重要だろう。
「くる、くる~?(ねぇ、ねぇ、なにしてるの~?)」
「グ、グル(こら、近寄るな、危ない)」
身体が成長すると共に生まれ持った強い好奇心のせいかチビは私が何かする度にすり寄ってくる。
危ないと何度も伝えてはいるがまるで聞き入れる気配がしない──まあ、鳴き声でそこまでの深い意思疎通が出来ない事も一因だが。
一回厳しく吠えたらいいのだろうか、だがそれで臍を曲げられてしまっても困る。
どうすればいいのだろうか。
小石を宙に浮かべながらチビとじゃれ合う、小さな脚が身体に食い込んで地味に痛い。
じゃれ合っているとふとした時に、これからの事を考えてしまう。
今の状態はなんとも不明瞭であり、先行きが明るいわけは無く、むしろ五里霧中と言えるだろう。
それに最近は寒くなってきていてもう暫くすれば雪でも降りそうな気配がある──そもそもこの世界に四季があるのかさえ知らないのだが。
それでも仮に雪でも降るくらい寒くなってしまえばどうなるだろう。
今日くらいの寒さであれば自前の毛皮で耐えられる、だがそれよりも気温より下がってしまえば困ってしまうだろう。
何か身体を温める方法を開発するべきか、それに加えて冬に備えて食料を備蓄するべきなのだろうか。
考えることは沢山あって、出来ることは限られる、分からないことだらけで不安が無くなることは無い、なんとも言い難い状態だ。
それでもじゃれ合うチビを見ていれば何とかなるのではないかと考えてしまう。
何より悩んで答えが出ない問題なら悩むだけ無駄なのだ、その時はその時、将来の事は未来の自分にポイと投げ捨ててしまえ。
それがこの世界で生きていくコツなのだ。
そうして悩むのは辞めたなら最優先する事一つ。
目の前で生意気盛りのチビを臍を曲げない程度に懲らしめる事だ。