駆ける、駆ける、道なき道を進み、踏み越える。
道の先に立ちふさがる獣が何頭いようが止まることは無い
潰し、射抜き、圧し折り、蹂躙していく。
囲まれた時とは比べ物にならない殲滅速度、武装を整えた今、凡百の畜生どもに足を止める事は出来ない。
踏みしめた足跡の上には血と肉片が降り注ぎ、雪の白さを塗りつぶすような紅い道が出来ていた。
その足が止まったのは森の中心、目的地に辿り着いたから。
そして其処は一目で異常でである事が伺える奇妙な場所だった
森の中心にあったの廃墟、明らかに人の手で作り上げた家屋であり規模も大きい。
それでも長い間手入れをされていなかったのか家屋の壁は崩れ、庭園は荒れ果て、塀は全て崩れ落ちていた。
そんな廃墟の中心、其処にチビはいた。
何らかの力で宙に浮かされ黒い靄に包まれている。
遠目からでもその表情に苦痛が浮かんでいるのが見て取れる。
その傍らには一人の人間がいた。
いや、あれは人間と呼べるものなのか。
其の身体は既に干乾び、まだ離れているのにもかかわらず腐臭が漂ってくる。
着物の様な物を纏うも生地は蟲に食われ、劣化し元の色が何であるか分からない。
その姿を見た時に記憶の中から思い当たるものが一つあった
──即身仏
昔の日本民間信仰において、死して仏になることを目指した人がなるもの。
生死の境を超え、衆生救済を目的として永遠の瞑想を行う、であったろうか。
だが視線の先に立つモノは知識としてある即身仏とは何もかも違う。
土気色に変色した死体は普通は動かない、それが常識だ。
だが目の前ソレは動き、その身からはこれでもかと黒い靄が漏れ出ている。
どう見ても人の世の安寧を祈るものとは対極の存在、人の世に災いを齎そうとする化け物にしか見えない。
その即身仏はぎこちなく身体を動かし此方を指さす。
すると頭には森で聞こえたモノよりはっきりとした声が聞こえた。
──畜生にしては賢いな、コレの命が惜しければ何もするな。
すると即身仏の後ろ、後方に伸びる影から何かが這い出てくる。
それは巨大な蛇だ、長い体躯は鱗に覆われ口からは細長い舌がチロチロと見えている。
だがその身体は所々腐っている。
鱗が剥げた箇所があれば、片方の眼球は白く濁り、片方は眼が無かった。
──大人しく喰われろ。
蛇が口を開ける。
目の前の獲物が余程美味しそうなのか腐りかけた口から涎を垂れ流しながら蛇はゆっくりとこちらに向かってくる。
──ふざけんじゃねえぞ。
準備は済ませて来た、身体に纏わり付かせていた礫を全て展開する。
その中でも特に紅く輝く礫、蛇と即身仏に向けて発射する。
蛇は何の妨害も無く進み大口を開けた上顎に衝突、その直後爆発を起こして三分の一を消し飛ばす。
だが即身仏へ発射した礫の軌道はあらぬ方向に逸れると、後ろにある地面を盛大に吹き飛ばした。
突然の出来事に理解が追い付かないのか即身仏は動きを止める──発射と同時に駆け出した身体で体当たりを行い即身仏を吹き飛ばす。
ぶつかってみた感触として何かが即身仏との間にある。
まるで膜のようなそれは体当たりの衝撃の大部分を吸収して本体を守った。
それでも敵を吹き飛ばす事は出来た。
宙に浮いているチビに駆け寄る。
身体を覆う黒い靄に向けて白い火を吹きかける。
頑固な汚れを落とす、そんなイメージで作り出した火は靄に燃え移ると順次分解していく。
「く、く、くる…」
「グル」
目覚めの悪そうなチビだが靄以外には致命的なモノは追ってないようだった。
だが体力や力はかなり消耗したらしく何時もの元気は見られない。
自力での移動は難しいと判断して背中に載せる。
するとチビは落ちないように自分の身体に私の毛を巻き付けて固定するとそのまま目を閉じて眠り出した。
「!!!」
悲鳴とは違う何かが空気を震わせる、金属が軋む時に出るような音が辺りに響き渡る。
音の発生源を見れば其処には即身仏と蛇がいた、だが其の姿は酷い有様になっている。
身に纏っていた着物の様な物はボロ雑巾と化し、左右の腕はあらぬ方向に曲がり、陥没した頭蓋骨からは黒い血の様な物が流れ出ている。
蛇も同様に身なりは汚れ、何より頭部の三分の一が消し飛んだお陰で伽藍洞の頭蓋骨からは黒い液体と黒い靄がこれでもかと溢れ出していた。
だがその姿も次第に元通りになろうとしていた。
黒い靄が負傷した部分に集まれば腕は正常な状態へ、吹き飛ばされた頭部が再生していく。
そうして元通りの姿に戻った即身仏が此方を指さす。
すると頭の中に声が響いて聞こえるが内容はまとまりがなく、唯ひたすらに何かを喚いているで内容は分からない。
だが発言が何であれコレは不快であり、何よりも煩い。
喧しく雑音を生み出す即身仏、その腕を斬り飛ばす。
身体を覆う膜を斬り裂いて首を斬る筈であったが、途中で膜を強めたせいかそれは出来なかった。
腕の断面からは血ではない黒々とした液体が流れ続けている。
再び腕を再生するため靄が断面に集まっていく、それと同時に即身仏から出る靄が減った。
立て続けに傷を負ったことが驚きなのか、頭に響く声は小さく弱弱しくなった。
死体であるから表情を読み取る事は出来ないが如何やら驚いている様、それでも傷が治れば再び怒りの感情をぶつけてくる。
間違いなく怒り狂っているのだろう。
此処まで手間を掛けてくる様な相手だ、思い通りに物事が進まない現実を受け入れられずに喚き散らすしかないのだろう。
それに今回の事を考えても生前からしても悪行を重ねてきたような相手に違いない。
この場から逃げ出せたとしても必ず逆恨みで復讐してきそう。
そして島から出られない以上何時かはまた出会う。
だから此処で仕留めた方がいい、この場で仕留めなければ後が怖い。
──武装展開
念力の使用を前提とした武装、その全てを制御下に置きその刃を即身仏と大蛇に向ける。
身体を覆えるほどの光沢を持つ赤褐色の大剣、土に熱を加え圧縮して作り出した半分ガラス化した大剣、計六振り。
大剣と比べれば小さくとも抜群の操作性を持つ蒼く輝く薄刃、巨大貝の貝殻から削り出した磨き上げた薄刃、計十四振り。
そして愛用している礫、その中でもとびきり鮮やかな赤色を帯びた礫が溜め込んだ力が解放されるのを待ちわびる、残弾五十。
現時点で操作可能、投入可能なすべて武装を展開する。
「!?」
ガラスと化した大剣、生物を容易く斬り裂く薄刃、破裂を待ちわびる赤色の礫を見る即身仏が驚愕している様だが気に掛ける価値はない。
──死にぞこない共を黄泉へ送って差し上げようか。