人獣伝   作:abc2148

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どなどなどな

流木に捕まって海を漂う、真冬の雪が降る極寒の中で。

これは頭がいかれた事で行う奇行ではなく、物事の成り行きでそうせざる得なかっただけだ、自らが望んで行っている事では決してない。

海水の冷たさが骨身に染みそうなところだが、自前の毛皮が何とか水を弾いているが長くは持ちそうにない。

急いで捕まっている流木に身を載せるが後脚はまだ海中に浸かっている。

念力で近くを流木を集めると同時に大剣の欠片を高速回転させ中身を削り取り浮力を稼ぐ。

 

寄せ集めた流木に突起を作り急いで組み立て全身を載せる事が出来る筏を組み上げる。

全身を海中から出し濡れた身体を乾かす──その最中に遠くから全身を轟かせるような音が響いてきた。

 

音の発生源に視線を向ければ寒中水泳をする事になった原因、跡形もなく吹き飛んだ島があった。

だがあるのはめくれ上がった島の大地に島の中心から吹き上がる噴煙が空を覆っていた。

ついさっきまで島にいて殺し合い等をしていたはずだが島の面影は何処にも無かった。

 

途方に暮れるしかない、森と海辺に作った拠点も備蓄食料も武装も何もかもが吹き飛んだ。

島を吹き飛ばした程の爆発に巻き込まれながら生きているのは奇跡──ではなく大剣を盾にしたり、大剣以外の武装のを放り出して全身強化に集中したおかげだろう。

それでも最後には吹き飛ばされ海に投げ出されたが生きているから良しとしよう。

そう思い込まないとやっていけない。

 

生活の拠点も島そのものも吹き飛んだ、これでどうやって今後生きていけばいいんだよ!

そもそも即身仏倒したら島が吹き飛ぶってどうなってんだよ、あれか、死なば諸共って考えで何か仕込んでいたのかよ!

そして大海原に放り出されてこれからどうしたらいいんだよ、クソミイラが!

 

頭の中では次から次へと怒りと罵声が沸き上がる。

だが幾ら心が荒もうと現実は何も変わらなかった。

 

「くる~……」

 

聞き慣れた声が聞こえて

傍らにいるチビは身体を縮込ませて落ち込んでいるように見えた。

 

「グルル」

 

チビの頭に顔を寄せる、お前のせいではない、その思いが伝わるように。

寧ろチビは巻き込まれただけであり、その後は膨張を続ける肉塊を何らかの方法で中断させた。

考える程に落ち込む理由は無く、寧ろ助けられたから私が感謝するべきだろう。

だがそれを伝える筈の言葉通じない、その代わりに落ち込むチビを尻尾で優しく包み込む。

今更ながら自分の尻尾はかなり大きく、チビを包んでしまえるほどの長さもある。

そしてチビは何時も勝手に尻尾を枕にして寝るのが好きだった。

 

そうして優しく慰める様に包んでいるとチビは尻尾を枕にして小さな寝息を立て始めた。

その姿を見て安心すると同時に釣られるように自らも大きな欠伸をしてしまった。

流石に限界が来た、立て続けに大量の力を消費し、肉体も酷使してかなり疲労している。

幸いにも海は荒れておらず波も穏やかだ、筏が崩れる心配はしなくてよさそうだった。

身体を楽にしてチビの傍で眠りにつく。

 

森は消し飛び、島のは土台から吹き飛んで帰る場所は無くなった。

それでも生きていれば何とかなる、そう考えて瞼が落ちるまで島であった場所を見続ける。

潮の流れに身を任せ小さくなっていく島、胸に沸き上がる気持ちは何なのか自分でも理解できなかった。

 

 

 

 

「……、……、……、くる~」

 

遠くから声が聞こえ、何かが顔を叩く感触がする。

ぺちぺちと叩く感触からしてチビの肉球であることは間違いない。

それでも未だに眠気が強く、チビを無視して起きかけた意識がまた深く眠っていく。

 

「くるっ!」

 

「グァッ!?」

 

チビが耳に噛み付いた、かなりの強さで。

ガリッと相棒の耳を噛めば突き抜けるような痛みが頭に駆け巡り二度寝しかけた意識は無理矢理に覚醒された。

眼を覚まし代わりとしては痛すぎる噛みつきに恨めしい視線を送るがチビは意にも介さず、それどころか気付け替わりなのか小さな鼻先を脚で叩いて来る。

 

頭を振ってチビを振りほどくと頭と首を回して辺りを見回す。

そうして漸くチビが早く起こしたがっていたのか、その理由が分かった。

 

載っていた筏は壊れることなく海を渡り切ったらしく砂浜に乗り上げていた。

後には海があり、前方には砂浜に遠くに山が見え陸地に流れ着いたようだった。

筏からチビと降りると波の音と遠くからは鳥の鳴き声、そよ風が木々を揺らす音が耳に届く。

足元には砂を踏みしめる感触が確かに伝わってきて五感で感じる情報が目の前の光景が幻ではなく現実であることを伝えてくる。

 

その事を理解するにつれて胸から喜びが溢れ──る前に盛大にお腹が鳴る。

傍ではチビも同じようにお腹を鳴らしている。

 

先ず最初に行うべきは空腹を鎮める事だった。




チュートリアルとプロローグがやっと終わりました
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