人獣伝   作:abc2148

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ゴメン、悪かったから

浜辺から連なる森の中、未明の朝日が挿さない森の中は薄暗く見通しは悪い。

それでも周囲から辛うじて入る僅かな光で物の輪郭程度は分かる。

 

そんな森の中を静かに、しかし迅速に進んで行く一団があった。

肉好きは余り良くなく、痩せ細った身体ではあるが山の中を歩くには十分な力はまだ残されている。

そんな彼らが残った力を振り絞り誰もが背負うものが魔獣の肉、そして彼らが急いで森の中を歩き続けなければならない理由でもあった。

 

「なあ、本当に大丈夫なのか?」

 

「しつこいぞ、もうやってしまった後だ」

 

その集団の先頭を歩く壮年の男性、無精髭と鋭い目つきを持つ男は先程から不安げに訪ねてくる男にうんざりしていた

 

「それに今更コレを戻したところでどうなるか分からん馬鹿でもないだろう」

 

「そうだ、そうだな……」

 

「大丈夫ですよ、私はともかく林爺がいますから」

 

不安が色濃く残る男、一団の中で最も多くの魔獣の肉を運ぶのは村一番の力持ち、だが生来からの臆病者であり村の誰からも力の持ち腐れと言われる男でもあった。

そんな男を励ましているのが未だ幼さが抜けきらない少年、一団の中でも特別な生まれを持つ筈であるが薄汚れた顔をしてることからも特別扱いはされていない。

それでもこの一団にいると言う事は必要な力を持っているに他ならない

 

「後どれくらいだ」

 

「もう間もなく」

 

少年から先頭に立つ男へに質問、不安げな男とは違い丁寧に答える様は彼等の立場を明確に表したものである。

しかし今現在に関しては一団の責任者は男になっており、そうせざる得ない事態が起こっていた。

 

「もう少しだ、立ち止まるな」

 

声を抑えての少年と男の問答ではあったが、それを聞いた一団が少しだけ速度を上げる。

だがまだ不安であった壮年の男は一団に聞こえるように、しかし声量をなるべく抑えて一団に告げる。

その言葉が発破となったのか森の中を進む足がさらに速くなる。

この分だと夜明け前に辿り着けるだろう。

 

そんな一団を率いていく男を眺めながら少年は少しだけ歩く速度を落とす、そうして最後尾に近付く少年は最後尾にいる一団の中で最年長の男に詰め寄る。

その顔は不安げな男を慰めた時とは全く異なる、不安げな表情をしている。

 

「足跡は大丈夫か」

 

「無論手抜きは無い、無い筈ですが……」

 

少年に答える老人の言葉にはいつも感じられる自信が全く感じられない。

何時も口煩いくハッキリと物申す男が此処まで口を濁すのを少年は初めて見た。

しかし、それだけで自分達が置かれている現状が良くないモノであると自覚できてしまった。

 

「そうか、分かった」

 

「でしたら、そのような顔をしてはいけません」

 

不安げな少年をたしなめる老人、それを聞いて少年は笑う。

この様な状況であっても自らの責務を忘れる事もなく物を申す男は筋金入りだ。

ならば自分が落ち込んでいては……、そうして少年は一団に追いつくように足を動かす。

そして、ふと森をみれば見慣れた風景に変わっていた事に漸く気付いた。

 

「もう少しだ、結界に入れば……」

 

もう少しで帰れる、そう考えるだけで重くなっていた脚は少しだけ軽くなったように感じた。

 

 

 

 

「くるッ!」

 

朝食を奪われた怒りと悲しみを燃料にしてチビは森の中を歩く。

 

昨日仕留め、丁寧に干した獣の肉の匂いを辿り、時々立ち止まっては辺りの匂いを嗅ぎ再び歩き出す。

その足取りに迷いはなく、いずれ肉泥棒に追いつくだろう。

 

「グルル……」

 

そんなやる気に満ちたチビの後ろに付いて行くように歩いているが、成程、地面にはそれらしい足跡が隠されていた。

かなりの纏まった頭数で肉を持ち帰ったようで地面に生える草木が圧し潰されている。

もう二三日すれば消えていくものでがあるが今であればハッキリと見える。

無論相手も追われるのを分かっているのか隠蔽には気を使っているようで見つけるのには苦労したが。

 

この足跡を見るに相手は猿かゴリラの類かもしれない。

島にいた奴らは地球の生き物とは似ても似つかないが便器上そう呼んではいる。

特に猿、小さく集団で襲い掛かり時には獲物を横取りする憎たらしい畜生には散々手を焼かされた。

対抗する為に薄刃を作って手数を増やす必要に迫られ、時にはチビを食い殺そうとした。

群を幾つが潰したが、此処にも似たような獣がいるなら手を焼かされるだろう。

 

反対にゴリラは与し易かった。

基本的に単独、力自慢なのか正面から向かってくるので落とし穴に落として大剣で頭を潰せばよかったので楽だった。

しかし肉の味はなんとも言えずは焼くより煮物で食べた方が良かったかもしれない、それでももったいないから全部食べたけど。

 

「くるッ?」

 

そんな事を考えていると先を歩いているチビの足が止まった。

肉泥棒に追いついたのかと思って見ればそうではなく、不思議そうにして辺りをくるくると回っていた。

そんな姿を暫く見守っていると何かに気付いたのかチビは目の前の空間を睨みぐるぐると唸り声を上げ始めた。

チビの睨む先には何もない……、様に見えるが薄く、まるで膜の様なものが其処にはあった。

 

睨むばかりで膜には触れようともしないチビ。

こう見えて何かしらの危険を感じ取るチビの勘の良さは何度も助けられているので信用している。

そのチビが警戒している事から見に迫る危険か敵対的な獣の接近を警戒して戦闘態勢をとる。

しかし、どれだけ経っても目の前膜は何も変化を起こさなかった。

隣のチビを見れば、こちらも何が何だか訳が分からない様子。

暫く互いに見つめ合い、試しにと礫を拾って投げてみる。

何時もの感じで礫を飛ばしたが膜にぶつかるような抵抗は全くなく礫は膜を素通りするだけだった。

礫だけでなく土や木の枝も投げ入れてみるが素通りするだけ、これにはチビも益々不思議そうな顔をするだけになった

試しに脚先を膜に触れさせてみるが此方も素通りした。

 

「くるるッ!?」

 

チビが驚くのを横に全身を膜の向こう側へ入れてみる。

全身が膜を潜り抜けたが体調には何の変化も無くこれといった痛みも感じなかった。

だがチビは膜に触れるのが嫌らしい、脚先で膜を突いてみたり手前でウロウロしてするだけで一向に入ってこない。

 

もしかしらチビの様な獣が入るのを嫌がらせるのが膜の役目かもしれない。

そう考えて口にチビを加えて強制的に膜を潜らせてみとやはり自分と同様に何かしらの悪影響も無いようだ。

 

「くるる~!」

 

嫌がるチビを無理やり潜らせたことは悪いと思っているのでチビ怒るのは仕方がない。

それでも暴れた状態は危ないので落ち着くまで咥えて暫くすると大人しくなった。

チビも激しく揺れる事が出来た事から身体には何らかの不調が起こっていない事が分かったらしい。

暴れるのをやめる代わりにジト目で睨んでくるチビを口から離す。

しかし地面に降りるや否や直ぐに身体によじ登り耳を噛まれる。

ガジガジと耐えられるギリギリの痛みで噛んでくるチビ、振り落とすことなく受けるのは気分を害してしまった詫びでもあるがそろそろ離してほしい。

そして不満を発散したチビは噛むのを辞めると今度は背中に張り付くように乗ってきた。

 

「くるッ!」

 

進め!ともいえるような鳴く声を上げるチビを背中に載せて私は膜の向こう側へと足を踏み出して行った。

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