「僕?僕は普通に志願兵っていうか、職業軍人だけど。なんでそんな事聞くのさ」
「……いや。オレが言うのもなんだけど、ずいぶん若いなと思ってよ」
「そりゃあ、おやっさんとかに比べたらって言うか、普通に最年少だけどさ」
他のクルーが救命ポッドに釘付けになってる間、オルガとクロトの2人は食堂にいた。
「こんだけいりゃお前ら2人いても変わらねえけど、別にいなくても変わらねえから自由にしていいぞ」というマードックの言葉を受け、後者を取った2人であった。
食堂のテーブルを挟み、互いに向き合う2人。
「でも、よくMS動かせるよね。僕なんかからっきしだってのに」
「オレからしたら、よく整備なんか出来るよなって話だぜ。色んな意味で」
「色んな意味って何さ。まあ、確かにそうなるか。人間なんだし得意不得意あって当然って」
「………………」
「…………なに?さっき会った時から、僕の顔じっと見てさ。知り合いにでも似てる?」
「………いや、なんでもねぇよ」
「知り合いに似てるどころか、むしろ知り合いそのものだ」と言い掛けたオルガだったが、なんとか抑え返事をする。
正面に座るクロトは、自販機で飲み物を購入しに行くため、席を立つ。
購入と言っても代金はかからないが、1回の利用につき1人1本というルールが定められているのを、近くの張り紙を見てオルガも気付く。
(………マジでクロトだな。薬入ってない普通のクロトだ。百歩譲って整備士やってるのはいいんだが、なんでアークエンジェルにいんだ?たしかアイツ、ロドニア出身だったろ)
そう思考を巡らせるものの、自身で答えに辿り着くことは不可能だというのは、オルガ自身も理解していた。
(…………オレが知らなかっただけかもしれねぇが、アドバンテージなんて機体も聞いたことねぇし、丸っ切り同じってことは無いってことか?オレがオーブの住民カード持ってたり、ヘリオポリスにいたことも疑問だしな)
「ほら、水でいいでしょ?」
「あ、ああ。悪いな」
ペットボトルの水に口を付け、改めてクロトを見るオルガ。
自身の記憶とは異なるものの、お仲間の1人と会うことになった衝撃は和らいでいった。
(………まあ、普通に過ごしてんならそれに越したことはねえからな。この分だと、シャニもどっかで過ごしてるのかもしれねえ)
「あっ、オルガさん!ここにいたんですね!」
「……おっ?ああ、トール達か。救命ポッドの確認は終わったのかよ?」
そう考えてるうちに、食堂の入り口からトールの声が響き、オルガ達に近付く。
トールの他にもミリアリアとカズイもそこにいた。
「オレ達は直接見てないんですけど、そうらしいですよ。なんか、女の子が乗ってたようで」
「だったら、キラが拾って良かったな。あんな壊れかけのポッドになんざ、長い間いたくねえだろうし」
「その子、フレイ・アルスターって言って、同じ女子の私から見ても、すごく綺麗な子なんですよ」
「ふーん。フレイ…………?」
「ど、どうしました?オルガさん」
「………いや。もしかしてあの、赤ってか、ピンクみたいな髪した女か?たまに車の乗り場で見かけた」
「ああ、そうですそうです。よく女子グループで過ごしてた」
「キラが気になってる子でもありますよ。高嶺の花だろうに」
「……そ、それ…トールが言って……」
「ん?なぁにカズイ」
「い、いや!なんでもないなんでもない!!」
ミリアリアがカズイに向けて睨みを利かす光景を眺めながら、オルガは思考を巡らせる。
フレイという名前に、聞き覚えがあるどころか、前回会った人物と照合していた。
(たしかアイツだよな。なんか、オレが拾ったポッドに乗ってた捕虜。あの女、やたらポッドに縁があるな)
「あっ、噂をすれば」
「なんだ、ここにいたのか」
「………あっ。オルガさん、さっきは…」
「礼は言わなくていい。むしろオレも無茶したしな」
そうしている間にサイとキラ、そしてフレイの3人もその場に集まった。
キラはオルガの隣に座るものの、サイとフレイは入り口に立ったままでいる。
「オレ達は先に部屋に戻ってます。今のところ一室にまとめられてますけど、すぐに他の部屋を手配してくれるらしくて」
「そうかよ。じゃあ、あとでな」
そうして立ち去ったサイとフレイを見送るオルガ達。
一言も言葉を発しなかったフレイだったが、あまり現状を呑み込めてない様子なのは全員察しており、とくに何も言わなかった。
「……今更だが、オレ達ってこんな自由にしてていいのか?」
「ああ。それは艦長達に言われてるから大丈夫。食堂ぐらいならいいってさ」
「ならまあ、いいんだがよ」
「ところで、その格好してるってことはここの整備班?だと思うんだけど、オレ達とあまり歳変わらなくない?オレ、トール・ケーニヒ」
「トールね。僕はクロト・ブエル。さっきオルガにも言われたけど、僕みたいな歳の子が軍人してても、そんなおかしな話しじゃないよ。無理矢理やらされてるワケでもないしさ」
「なら、なんでクロトはそうしてるんだ?」
「…………まあ、なんでって言われると。僕って父さんがいなくて、母さんを支えるには働くしかなくてさ。それで一番金になるのが軍人ってだけで」
「………そうなんだ」
「ホントは、パイロットやらされるはずだったみたいでさ。でも僕って、全く適正無かったらしくて。そこをマードックのおやっさんに見つけてもらって、扱かれてるよ」
「んじゃあ、なんか武器の整備とかしてんのか」
「まあね。さっき金になるって言っといてあれだけど、こんな仕事無い方がいいんだよ。でも、そうも言ってられないし。………ていうか、さっき名前聞いたけどさ。あのフレイって子」
「フレイがどうしたの?」
「アルスターって言ってたよね?」
「ああ、そうね。フレイ・アルスター」
「アルスターって、たしか大西洋連邦のお偉いさんの名前だけど、その娘で合ってる?」
「あ、合ってるよ…。フレイ自身も言ってたし……」
「………ブルーコスモスのシンパとも聞いたけど」
「………あー」
会話を続けていたトール達だが、その名を聞き言葉を濁す。
反コーディネーター団体、ブルーコスモス。
その中でも比較的穏健派なのがフレイの父親、ジョージ・アルスターなのだが、それでもブルーコスモスに所属していることには変わりない。
「この戦争の引き金って、血のバレンタインじゃん。ブルーコスモスに影響受けた将校が暴走してさ。流石にドン引きだよ、あれ」
「…………」
「……まあ、その報復でエイプリル・フール・クライシス引き起こしたのも、ドン引きだけど」
「…………アレのせいで地球がめちゃくちゃになってるからな。しかも奴さん、地球にもコーディネーターいるって知ってる上でやってるし」
「………戦争が続いてるのも、そういうことなんですかね。やられたらやり返して、その繰り返し……」
「……とは言え。民間人の住処に核撃つのも、地球をめちゃくちゃにするのも、どっちもやり過ぎでしか無いけどね。って、こんな話よくないか。じゃあ、僕MSデッキに戻るから。何かあったら来てよ」
「……おう。その時は頼むぜ」
そう言って一気に水を呷り、食堂から立ち去るクロト。
それに続き、オルガも水を呷る。
「じゃあ、オレも行かねえとな。そこの自販機、1本なら好きにしてもいいみたいだぜ」
「……えっ?オルガさん、どこに行くんですか?」
「艦長のところ」
「な、何でですか……?」
「なんでって、MSデッキに行く許可貰いに。どうせ、また来るだろうしな」
「またって……まさか…!?」
「ああ。あのクルーゼ隊、ヘリオポリスぶっ壊しといて、追撃して来ないとは思えないしな。お前達も、早いとこ部屋に戻れよ」
「ま、待ってください!オルガさん!!」
食堂から立ち去ろうとしたオルガだったが、腕をキラに掴まれ、足を止める。
「………キラ?」
「あっ、あの……。ザフトが、また来るってことは……」
「………分かった。キラも行くか」
「…………………はい」
「お、おい!キラまで何言ってるんだよ!?オルガさんも!」
「………やらなきゃやられる。それだけってことはねえが、命あっての物種だ」
「………っ!」
勝手に話を進めるオルガとキラを止めようとするトールだったが、オルガの言葉を聞いて、勢いを弱める。
一瞬、ミリアリアとカズイにも目をやり、立ち去るオルガ達。
食堂に残されたのは、悲痛な顔持ちをした3人だけだった。
「………なあ、キラ」
「……どうしました?オルガさん」
「あの赤いMSのパイロットのことだがよ」
「…………あとで、マリューさん達にも説明します。その時に」
「………分かった」
「邪魔するぜ」
「ん。2人か」
「オルガくん!?どうしてここに…」
「MSデッキの立ち入り許可、一応得た方がいいと思ってよ。自分の機体の確認ぐらい、しとくべきだろ」
「…………キミの意志は伝わったが。キラ・ヤマト、キミもいいのか?ここに来たってことは、そっちの坊主と同じってことと認識するが」
「……………はい。オルガさんだけに、無茶はさせられません」
「………悪いな、キラ」
「……ならば、そのようにする。整備班にも伝えておこう。軍服を支給しなくてはならないな。フラガ大尉、サイズ計測を頼みます」
「はいよ、バジルール少尉。じゃあ、こっち来い…と言いたいとこだが、他にも言いたいこと、あるんだろ?」
「………はい。あの、赤いMSのパイロットについてです」
「イージスの……?工場区まで攻め込んできた、赤服の兵士のことかしら?」
「…………そのパイロット、僕の……月にいた頃の、友人なんです」
「…………そう、か。ならなんで、キミはここに?たしかに、戦えるための力があるならそうするべきだと、俺も思う。だがキミはまだ子供だ。友人同士で戦うことなんて、我慢できるか?」
「……………」
「そこは、オレもカバーする。別に徹底的に殺さなくても戦闘は出来るし、立ち回りによってはそもそも戦わなくても済むだろ。オッサンも、なるべくそうしてくれ」
「オッサンじゃない。だが、分かった。ここまで巻き込んどいて、無理するなって言える立場じゃないからな。俺たちは」
「………………」
「…………では、フラガ大尉。頼みます」
「おう。じゃあこっちだ、坊主達。着いてこいよ」
「………はい」
「おう」
ムウが先導し、立ち去るオルガとキラ。
ブリッジに残されたのは、マリューとナタルの2人。
「………………酷い大人ね。私たち」
「…………………」
オルガが察してたため、キラ1人が抱えることは回避出来ました。
その分マリュー達に飛び火してますけど。