フレイの言葉により、騒動が収まったあと、アークエンジェルの格納庫には、沢山の人間がいた。
そのほとんどは、アークエンジェル所属の者ではなく、アルテミス所属の者たちである。
そしてそのまた半分近くが、ストライクとアドバンテージに、それぞれ群がっていた。
「こんなの見たところで、お前らにどうにか出来んのかよ?」
「黙れ。貴様に選択肢などないのだ。さっさと従え」
「へいへい…」
先ほどオルガを捕えようとしたガルシアの部下が、そう言った。
アドバンテージのコクピットで、OS情報のコピー作業をしているオルガだったが、始まる前からずっと苦虫を噛み潰したような顔をしている。
(ったく……。あの女、止めたかったってことは分かるが、止め方が最悪過ぎるだろ。ここがどこだか分かってんのかよ……)
その原因は、先ほどのフレイの行動だった。
動機は理解できても、その行動、というより言葉は、容認出来るものでは無かった。
(……分かってねえんだろうな。つい最近まで、中立国のコロニーで学生してたんだから、そこまで考えが付かなくても、あまり責められたもんじゃねえか……。いや、んなこと言っても問題は問題だ。せめてこの時だけは言わせろ、あの女)
あれからすぐ、キラとオルガと整備班の面々は連れられたが、他のクルーが残された食堂からは、トールの怒り声が響いていた。
それからすぐに自分も言うことは無いだろうと、オルガはほんの少しだけ配慮していた。
(………キラが言うならまだしも、オレが言ったところでな)
「……貴様はコーディネーターではないのか」
「ちげぇよ。オレはナチュラルだ。ただの一般人」
「そんなはずがあるか。もう1人がモビルスーツを動かせるのは理解できる。コーディネーターならば、それぐらいは出来るだろう。貴様はナチュラルだと言うのならば、モビルスーツを動かせると言われて、納得出来るか」
「知るかよ、そんなこと。出来ないことをとやかく言われるならまだしも、出来ることに対して言われても、どう答えりゃいいんだ。出来るから、としか言えねえだろうが」
「…………何者なのだ。貴様は」
「だから、ただのナチュラルだよ。ぶっ壊されたヘリオポリスにいた、オーブの一市民だっての。ったく、なんでアンタなんかにここまで言わねえといけねえんだよ」
自分を睨みつけてくる士官に、オルガはそう答えるしかなかった。
オルガからしたら、モビルスーツを動かせることよりも、オーブの住民カードを持ちながらヘリオポリスにいたことの方が問題だったため、士官の言葉には別の意味で響いていた。
(………オレが何者かなんて、オレが一番聞きてえってのによ)
「………ふん。だが、貴様もナチュラルなら、これからも……」
士官の言葉は、それ以上続かなかった。
「な、なんだ!?」
「今の振動は、いったい……!?」
突然の振動に驚く面々だが、一番驚いていたのは、ガルシアとその部下だった。
「管制!今の振動はなんだ!?」
『わ、分かりません!周辺に敵影も…!』
「だが、これは爆発だぞ!?」
「うわっ…!」
「超長距離からの攻撃かもしれん。傘を開け!索敵も急げ!ぐずぐずするな!!」
再び、振動が響く。
2度の予期せぬ揺れにより、これは敵からの襲撃だというのは、この場にいた全員が理解した。
「おい!この警報はなんだ!?」
「え、えっと、これは……」
「分かんないのかよ!?」
「だったら今すぐに聞いてこい!この複数の揺れは、明らかに攻撃だろ!!」
一方その頃、他のクルーたちが集められた食堂。
こちらでも揺れを感知したノイマンたちが、アルテミスの兵士に問い詰めていた。
自分たちも、この原因を確かめたいと思った兵士たちは、部屋を出ようとしたところ……。
「やるよ…!」
「ああ…!」
『ぐわぁ!?』
その隙を突き、クロトにトール、サイ。そしてノイマンたちが兵士を押さえつける。
脱出の隙を窺っていたアークエンジェルのクルーにとって、この揺れは絶好の好機だった。
「ま、待て!!」
「そんなことしてられる場合じゃないだろ!」
「僕たちは格納庫に行くから、トールたちはブリッジに行きな!」
「あ、ああ…!けど、オレたちだけで行っても……」
「艦長たちもいい具合に脱出するはずだから、心配いらないって!ぐずぐずしてると、アルテミスと心中することになっちまうよ!」
「……分かった!」
クロトとマードックら、整備班とは別れ、ブリッジへと走るトールたち。
その間にも、振動は続いていた。
「な、なんだと…!?傘が壊された!?」
「チッ……!!」
「ぐわっ…!?き、貴様!何を……!」
「明らかに襲われてんだろ!だったら、こんなことしてる場合かよ!オレたちが出なきゃ、どうにもできねえだろうが!!キラ!!」
「はい……!!」
そしてその頃、格納庫にいたガルシアに、アルテミスの傘が破壊された報告が入った。
それを聞いたオルガは、近くにいた士官を蹴り飛ばし、アドバンテージのコクピットを閉めた。
それに続き、ガルシアを蹴り飛ばしたキラも、ストライクのコクピットを閉める。
「出るぞ、キラ!すぐそこに、襲撃犯がいるはずだ」
『……………』
「……?おい、キラ!聞こえてるか!?」
『あっ……。は、はい…!分かりました……!!』
反応が遅れたキラに引っかかるも、今はそれどころじゃないと、アドバンテージを発進させるオルガ。
その後ろから、ソードストライカーを装備させたストライクも続く。
『いた!あいつら、今日こそ…!』
『くそっ…!こんな所で…!!』
「ブリッツ……。コイツが悪さしてやがったのか!」
出たところには、黒いG兵器。ブリッツがそこにいた。
(ブリッツって言うと、シャニのフォビドゥンのヤツだったな……。全く関連性が分かんねえが、たしか姿が消えるシステム積んでたんだよな。そりゃ、あの傘におんぶに抱っこなアルテミスなんざボロボロだろうよ)
『くそっ……!もう僕たちを、放っておいてくれ!!』
「……キラ」
ブリッツと交戦を続けるストライクに乗るキラから、悲痛な叫びが聞こえて来る。
ガルシアに何かを言われたんだろうということは、オルガにも分かった。
「とにかく、ここから上手いこと脱出しねえと……」
『オルガくん!キラくん!聞こえて!?』
「艦長…!いくらこっちが2機とは言え、こんな狭いとこでブリッツの相手はキツいぞ!」
『分かってます!2人とも、アークエンジェルまで戻って!反対側の港から脱出するわ!!』
「ああ…!分かった!聞こえたかキラ!援護するから、さっさと戻るぞ!」
『……っ!』
『くっ…!逃げるのか!?』
迫ろうとするブリッツを振り切り、アークエンジェルへと戻ろうとするストライク。
それを追おうとするブリッツだったが、アドバンテージから放たれる弾幕と、アルテミスに起きた大きな爆発により、追撃は叶わなかった。
「ストライク、アドバンテージ、着艦!!」
「アルテミスから脱出する!最大船速!アークエンジェル、発進!!」
着艦を確認したミリアリアの声を聞いたマリューにより、アークエンジェルは超高速で発進する。
後ろでは、大きな爆発が起き、アルテミスは半壊した。
「キラ、オルガ!大丈夫だったか!」
「ああ。オッサンたちも、無事だったな」
「……………………」
「………キラ?」
帰艦した2機のいる格納庫に、オルガたちは降りる。
そこへムウが声を掛けてきたが、キラは返事もせずに、格納庫から出て行った。
「キラはどうしたんだ?」
「………あのアホ司令に、なんか言われたんだろうな。ちょっと様子見てくる」
「あ、ああ…。悪い、頼んだ」
それに続き、オルガも格納庫から出る。
行き先は、キラの部屋だった。
「キラ。大丈夫か?」
「………………」
「………入るぞ」
部屋の扉をノックするが、返事は無い。
先に一言を告げてから、オルガはキラの部屋へと入った。
「………あのアホに、なに言われたんだ」
「…………………」
「……コーディネーターがどうこうとか、言われたか?」
「………裏切り者のコーディネーター。地球軍につくコーディネーターは貴重……」
「………ったく、好き勝手言いやがって」
ガルシアに言われた言葉は、キラに大きな穴を開けていた。
それを知ったオルガは、キラが寝ているベッドに座り込む。
「裏切り者も何もねぇだろ。元々ザフトにいたってんならそうだろうが、お前はただの民間人だったんだ。何を裏切るってんだ」
「………………」
「………いや、そうだったな。友達がいたんだよな、あっちには」
「………自分の意思でストライクに乗ったのに、いざああ言われると、ショックを受けている僕自身にも、嫌気が差して来てしまって……」
「なら、どうすんだ。オレ1人でも……」
「………いえ。戦います。僕が選んだんですから」
「………そうかよ」
「……でも、ありがとうございます。オルガさん」
「あん?」
「わざわざ、部屋にまで来て、心配してくださって」
「………礼言われるこたぁねぇよ。フラガのオッサンたちも心配してからよ、後で一言言えよ」
「……はい」
それからしばらく、オルガはキラの部屋にいた。
その後2人は、言葉を交わすことは無かった。
精神的にはかなりマシですね、ここのキラ。