Blood Fate 〜宙の獣は運命に吠える〜   作:サンサソー

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アンケートはどれか一つを取るつもりです。締切は5話目を投稿した時ですかね。



長い夜の夢

墓石に囲まれた白い花畑。そこにそびえ立つ大樹の根元に、老人ゲールマンはいた。

 

「…ああ、ローレンス…どうだ、よく燃えているだろう?ずっと狩人を捕らえ、おぞましい狩りを課し、血と狂気でそれを腐らせる。呪われたこの家も、もはや不要。浄化は、炎の業じゃあないか。ハッハッハ…」

 

どこか寂しげに、しかし晴れやかな顔で彼は笑う。燃えゆく家を、火に飲まれる呪いを嗤う声が静かな花畑に響いた。

 

「忌々しいものが、すべて燃えているぞ…すべての狩人、その遺志を。私たちはついに解放されるのだ。ハッハッハッハッ!」

 

密やかな笑いは狂笑へと変わり、ゲールマンは大きく手を広げた。笑って、嗤って、哂いつづけて。大きく息を吐いた彼は背もたれにゆったりと背を預けた。

 

「ローレンス…こちらも、もう終わる。夢はすべて燃え尽き、フローラが月から戻ってくる。だから、なあ、最後の約束を果たそうじゃないか。狩人はもういらない。俺と、お前が殺し合い、生き残った方が彼女に食われる。それが、四人で決めた結末だっただろう?なあ、そうだろう?ローレンス…」

 

車椅子に腰掛け、やがて来るであろう狩人の到着を待つ。助言者としての最後の役目。良い狩りを成し遂げ続けた、あの狩人を目覚めさせるために。

 

足音が聞こえる。ようやく来たかと、ゆっくり目を開く。しかしそこには、かの狩人の姿は無く。代わりに懐かしい檻を被った誰かが立っていた。

 

「ハハ…、工房に火をかけるなど。ゲールマンよ。覚悟した方がいいぞ…、今夜はどうやら、恐ろしく深く、そして長い夜になりそうだ」

「……君は、ああ、思い出したよ。すまないね、何分長く居すぎたようで」

「謝罪などいらんさ。知っているんだろう?ローレンスは狩られ、ウィレームは瞳に飲まれた。後はもう、私と君だけというわけだ」

「なら、あの狩人は。……いや、ここまでよく香る。なるほど、介錯を代わったのか。人の仕事を奪うとは、まったく、酷いものだよ」

 

薄く笑う。そして男は腰に差した剣を抜き、背にある柄の先端へとはめ込んだ。目を細めたゲールマンは、ゆっくりと立ち上がり、また男と同じように剣をはめ鎌と成す。

 

「…もう長い間、夢をみている…。もはや狩りなどできぬ身なれど、それが私の役目なのだ…。友だちと、約束したのだよ…約束をね…」

「殺し合い、彼女が戻る。そう、彼女に見えることができるのは一人だけ。そして、それは君ではないぞ、ゲールマン」

「ふふふ、見違えるものだ。なるほど、すでに何かに飲まれたか。狩りか、血か、それとも悪夢か?まあ、どれでもよい。そういったものを始末するのも、友人の務めというものだ」

 

──ゲールマンの狩りを知るがいい

 

「知っているさ。だからこそ、狩らねばならないんだ」

 

 

二人の大鎌が交差する。ゲールマンは下から引き斬ろうと鎌を上げると、男は横へ刃を逸らし手元を持ち替えながらゲールマンの背後へ刃を回し引き寄せようとする。

 

柄を打ち上げる事で刃の軌道を逸らすゲールマン。次いで大きく振るわれた鎌は男の防御に阻まれるも、大きく距離を離させた。

 

「やれやれ、狩りなどできぬと言いながらも、最初の狩人は健在じゃあないか」

「いや、いや。右足の義足が見えるだろう。速さを求めたあの頃とは脆く、遅いさ」

 

ゲールマンが一息に踏み込み、下から鎌で掬いあげようとする。男の鎌が回転し衝突、威力を殺すも、檻に刃が掠り割れてしまう。

 

反撃としてその場で回転し連撃を見舞うも、素早く後方へ下がったゲールマンが鎌を構え突進してくる。男は軸足で深く踏み込むことで少しばかり回転斬りのタイミングを遅らせ、目一杯力を込めてゲールマンの鎌へと打ち当てた。

 

大きく鎌が弾かれ、隙を晒すゲールマン。その腹に手刀を突き入れるも、咄嗟に動いたゲールマンの手が男の腕を掴み止めた。

 

指が半分ほど沈むばかり。穴は幾つか空いたがそれまで。ゲールマンは男の腹を蹴ると、鎌を構え体勢の崩れた男へと斬りかかる。が、男は鎌を持たない手を回し刃を受け止めた。

 

「この手、ああ、そうか。君も獣となったか」

 

刃は黒い毛が豊かな剛腕に阻まれていた。男の腕は僅かに切り傷を作ったが、まだまだ動かせるようで。鎌を引っ張ることでゲールマンを引き寄せると、鋭い歯が並ぶ口を開けた。

 

男の噛みつきを顎を殴ることで防ぎ、横へ素早く踏み込みながら鎌を男へ合わせた。脇腹を斬られた男は少しばかり呻くが、すぐさま持ち直し鎌を大きく振り回す。

 

ゲールマンの首へ寸分の狂いもなく刃が迫るが、軽く屈むことで回避。鎌の持ち手の先端で男の腹を突き、うずくまった男の顎を蹴り上げた。

 

だが男も黙ってはいない。己を蹴りあげた足を掴み、獣の如き剛力で投げ飛ばした。空中で体勢を立て直し着地したゲールマンへ、勢いよく踏み込み鎌を振るう。回避が間に合わないと判断したゲールマンは柄で受け止めた。

 

がら空きの脇腹へ、鎌から片手を離し鋭い爪で掻き裂こうとする。しかし、ゲールマンは柄を持っていない腕を一閃。いつの間にやらその手に握られていた鎌の刃は、曲剣となり男の爪を弾いた。次いで放たれる突き。曲剣は頑強な男の身体を深く貫いた。

 

「ぐ…ぬはぁっ!!」

「ぐっ…!?」

 

獣の咆哮を放ちゲールマンを引き離す。鎌を仕舞い取り出したのはとある黒獣を素材とした『獣の爪』。白い靄を纏った男は、獣の爪を両手に分離し、先程とは比べ物にならない速さで迫った。

 

剣を振るえど素早く回避され、背後に回られる。少しばかり翻弄され、爪で小さな傷を幾つか付けられる。しかし、流石は最初の狩人と言うべきか。彼はやがて対応し始めた。

 

再び背後へ回られるも、振り向きながら剣を一閃。しかしそこに男の姿は無く、振り向いたゲールマンの背後に回っていた。大きく獣の爪を振り上げ、強撃を叩き込もうとする男。しかし、それはゲールマンの片腕に阻まれた。

 

銃声。男の身体は軸を崩され大きく隙を晒す。振り向いたゲールマンは剣を振るったが、正面に散弾銃を持った片手を構えていたのだ。

 

なんとかその場を離れようとする男へ、ゲールマンの手刀が叩き込まれる。それは身体を貫き、内蔵を傷付けた。確かな致命傷の手応えを感じたゲールマン。

 

その瞬間、男は大きく吠えた。異変を感じ取ったゲールマンが腕を引き抜き素早く背後へ下がると、男を中心に蒼い雷が降り始める。

 

白い靄は蒼く染まり、男はゆっくりと立ち上がる。蒼い靄は神秘の証。男は上位者の力を使用しているのだ。

 

「やれやれ。飲まれたかと思ってはいたが、まさか全てとはな」

 

狩りに、血に、悪夢に飲まれた。相反するはずのそれらは、何の因果か一つの肉体に共生している。

 

であれば、その醜い生を続けさせる程の酷もあるまい。

 

ゲールマンは月に祈りを捧げる。やがてその身から蒼い靄が浮かび、狩りの本番を告げた。

 

「今宵は深く、そして長いが、加えてもう一つ。もう二度と見たくはない、酷い夜だ」

「いいや違うさ、全てが尽く終わるのだ。こんなにも喜ばしい夜は無いだろう?」

「なるほど、君はそうなのだろう。だが、少しばかり気遣って欲しいものだ。求めは時に業となる。忘れてはいけない、いけないのだよ」

 

──かねて血を恐れたまえ

 

警句はしかし意味を成さず、男は雷を落とす。ゲールマンもまた、友の姿をその瞳に映し、剣を鎌へと変形させるのだった。

 




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