本当にあったとは言い切れない、それぞれの日常 シーズン3G   作:JUBIA

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月光アイスタンス ~ 抗いがたき苦悩との戦い

【月光アイスタンス】

 

 凍土のとあるエリアに、家具屋を営むウルクスス夫婦がいた。

 

 素晴らしい装飾の家具を作っているのは、無口で頑固な職人気質の旦那さん。

 奥さんは、いつも笑顔を絶やさず、客の相手をしている。

 素晴らしい職人技としての家具に、凍土では(おおむ)ね好評のようだ。

 

 家具屋の営業時間は、夜間だけだ。

 月の光に輝く家具の数々は、来客を魅了してやまない。

 

 今日の客は、ボルボロス亜種の奥さん。

 

「あら~、いつ来ても素敵な家具ばっかりね~」

「そうでしょう? これなんか、今日完成したばかりのタンスよ」

 

「あら~、素敵! あ、そうそう、イトコのボルボロスの結婚祝いに、これ贈ろうかしら~」

「ふふっ、きっと喜ぶわよ」

 

「それじゃ、このタンスにするわ♪」

「ありがとうございます! アンタ、このタンス売れたわよ!」

「…………」

 

 チラッとこちらを見て、無言でまたトンテンカンと作業に戻る旦那さん。

 

「ごめんなさいね、いつも愛想がなくて」

「いいえ~、旦那さんは家具を作るのが仕事なんですもの~。あ、このタンス配達してもらえるかしら?」

 

「送り先はどちら?」

「えっと~、この住所にお願いするわ~」

 

 住所の書かれたメモを受け取る奥さん。

 

(こ、ここは……)

 

 メモに書かれていたのは、なんと、砂原だった。

 

「……ごめんなさい。砂原だと、ウチの家具は……」

 

 そう、この家具屋で売られている家具は、氷で作られたものだった。

 

「大丈夫よ~、砂原は砂原でも暑いエリアじゃないから、きっと溶けないわよ~」

「そ、そう? それじゃ……一応、念の為、夜に到着するように送るわね」

「そうしてちょうだ~い」

 

 氷でできたタンスを砂原へ送ってから数日後。

 家具屋に、一本の電話が鳴り響いた。

 

「毎度ありがとうございます。ウルクスス家具店です」

「もしもし、おたく、氷のタンスを送ってくれた家具屋さん?」

「はい、そうです」

「おたく、大変なことをしてくれたわねー!」

 

(え? ……まさか? でも、ボルボロス亜種さんは溶けないって……)

 

「……あのう、何か不手際でもありましたか?」

「何か、じゃないわよー! タンスを開けようとした主人が、引出しに指がくっついて取れなくなって、指が凍傷しかけたのよ! 私達が氷に耐性がないの知ってて、これ送ったの?」

 

「あ、いえ。ボルボロス亜種さんから頼まれまして……、その……」

「あなたね、いくら亜種姉さんが頼んだからって、送っていい物と悪い物の区別もつかないの? 責任者出しなさいよ、責任者っ!」

 

(ア、アンタ! この間の……砂原に送ったタンスのクレームきてるけど、どうしよう?)

 

 トンテンカンと家具を作っていた旦那さんは、その手を止めると、無言で電話を代わった。

 

「……もしもし」

「あ、ちょっと! 責任者って、アンタ?」

 

「…………」

「あのさー、おたくから届いたタンスなんだけどさ」

 

「…………」

「それでさー、弁償としてさー」

 

「…………」

「ちょっとー、聞いてんのー!?」

 

「……文句があるなら、ボルボロス亜種に言え」

 

 ガチャッ!

 旦那さんは、勢いよく電話を切った。

 

「ア、アンタ……」

「……あんなの相手にしなくていい」

 

「アンタ! ぐすっ、惚れ直したわ!」

 

 奥さんは、旦那さんへ熱いハグをした。

 

 それ以来、地方へ家具を送る時は、次の内容の念書にサインを書かせることにしたそうだ。

 

 1.家具本体の不備以外、当店では一切の責任を負いません。

 2.当店の商品は氷製のため、温度管理のできない地区への発送は責任を負いかねます。

 3.お客様都合による返品、返金は応じかねます。

 4.理不尽なクレームは、一切受け付けません。

 

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【抗いがたき苦悩との戦い】

 

 この世には、2種類のモンスターがいる。

 

 狩る側と、狩られる側。

 ツイている奴と、ツイてない奴。

 

 残念ながら、僕は後者だ。

 

 アプトノスは、遠い目をした。

 

 好きな子に求愛しても、ことごとくフラれてばかりだ。

 草を食べていると、気が付かないうちに、マヒダケを一緒に食べてマヒしてしまったこともある。

 散歩しようと少し遠出した時、リオレイアに追い掛けられたり、何もないところでコケたりもした。

 

 僕の不注意もさることながら、なぜモテないのか?

 辺りの雄のアプトノスと見比べても、外見上はほとんど差はないように思う。

 

 尻尾のスパイクに、ちょっとした傷があるくらいだ。

 いや、それでも、言われないと気付かないレベルだ。

 

 となると、外見上の問題はない、と。

 中身……性格の問題、か?

 

 いや、自分で言うのもなんだが、いたって普通の性格だと言える。

 変な趣味があるわけでもない。

 暴力を振りかざしたりもしない。

 どちらかというと、優しい部類に入るのではないかと思う。

 

 相性の問題だと言われたら、それはそれで諦めるしかないが、男らしさの問題なのだろうか?

 アプトノスとして生きてきて、何をもって男らしい行動というのか?

 

 あえて、肉食系に挑むこと?

 いや、それは違う気がする。

 

 危険から女子を守ること?

 残念ながら、この僕には……実に守るべき対象となる女子がいない。

 

 では、どうやって『男らしさ』を証明できるのか?

 ……。

 …………。

 

 残念ながら、今の僕にはその答えが見付からない。

 いったい、いつになったら答えが見付かるのだろうか?

 

 そして、いつまで僕は、毎日毎日同じことを考えるのだろうか?

 何ヶ月、何年……、もしかしたら寿命が尽きて死ぬその瞬間まで、答えは見付からないかもしれない。

 

 ……いや、ちょっと待て。

 もしかしたら今、僕がこうして生きていられのは、もしかしたらもしかしたらだけど、ツイているほうなのではないだろうか?

 

 モテはしないけど、大きな病気もせず、いまだに捕食されずに生きている。

 僕は……今、生きていることに感謝すべきなのかもしれない。

 

 うん、きっとそうだ。

 僕は……ツイている。

 

 今日初めて、僕は前者となったのだ!

 

 アプトノスは、目を閉じてこの『生』に感謝していた。

 

「ねぇねぇ、あそこにいるアプトノスってさ、たまに難しい顔をして何考えてるか分かんないよね?」

「そーそー、変だよねー」

「でも、話してみると、いたって普通なんだよね」

 

「そーそー、普通、普通。普通過ぎて普通!」

「悪いアプトノスじゃないんだけどね」

「うん、どちらかというと、いいアプトノスなんだけどねー」

 

「でも、たまに何にもないとこでコケたりしてるよね」

「そーそー、見たことあるー。ドジッコさんなのかなー?」

「ドジトノス!」

「ナニソレ? キャハハっ」

 

 アプトノスから少し離れた場所で、三頭の女子が話をしながら、こちらをチラチラ見ているのに気付いた。

 

 彼女達……僕を見ている。

 もしかして……僕とお知り合いになりたいのだろうか?

 よし、思い切って話し掛けてみよう。

 

「こ、こんにちわ!」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 ……あれ?

 何か様子がおかしい。

 

「き、今日もいい天気だね!」

「……あ、あたし、用事を思い出した」

「あ、私も……」

「待ってー、私もー」

 

 女子達は、いっせいにアプトノスから離れていった。

 

 ……何か気に障ることでもしたかな?

 天気の話がまずかったのか?

 ここは素直に『お友達になってください!』と言えばよかったのだろうか?

 

 うーん、うーん……。

 どうして僕は、こうまでして女子達に嫌われるのだろうか?

 うーん、うーん……。

 

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