本当にあったとは言い切れない、それぞれの日常 シーズン3G 作:JUBIA
【女王、乱心す】
ここは、女王が支配する孤島。
女王であるリオレイアは、孤島の治安維持や生態系維持、孤島に住まう、すべてのモンスターを管理していた。
「ふー、今日の仕事はこれで終わりね」
見晴らしのいい高台で、溜まっていた仕事をあらかた片付けた女王は、一息付こうとした。
「ちょっと早いけど、ティータイムにしてちょうだい」
「御意!」
執事のドスジャギィは、手慣れた様子でお茶の用意をしている。
「本日のお茶菓子は、子ケルビのブリュレにございます」
茶菓子をテーブルに置いた執事は、その説明をした。
「…………」
女王は、不穏な間をおいたあと、翼でテーブルの上のお茶と菓子を一掃した。
「っ!? 何か、ご不備でもございましたでしょうか?」
「何かじゃないわよ! 今日は、ポポって気分だったのに!」
「お言葉ですが、ポポは原産地が離れているため、取り寄せに少々お時間がかかりますゆえ……」
「取り寄せ? バカじゃないの? 誰かに取りに行かせればいいでしょ? クルペッコとかどうせ暇してるんだから、あの子に行かせなさいよ!」
「ポポの原産地は凍土ゆえ、失礼ながらクルペッコ様ではご無理かと……」
「ったく使えない子ね! それじゃあ、空がダメなら海路でガノトトスか、ラギアクルスにでも行かせればいいでしょ!」
「恐れながら、あの者達は水から陸へ上がった途端、凍死してしまうかと……」
「ったく、どいつもこいつも使えないわ! ほかに誰かいないの?」
執事は、考えをめぐらせている。
「……あ、ブラキディオス様ですが……ただいま火山へ外遊に行かれておりますので、戻られてからとなると……、やはり取り寄せと何ら変わらないかと」
「ったく、タイミング悪すぎよ! ほかは?」
この孤島から凍土まで行ける者を、脳内で片っ端から洗い出していた執事は、一頭の顔が頭に浮かんだ。
だが、この者だけは
その名は、イビルジョー!
以前、緊急時であの者に依頼した見返りとして、貯蔵していた食材を根こそぎ持っていかれたことがあった。
万が一、現在貯蔵してあるもので不服だった場合、女王様の身が危ぶまれるかもしれない。
否、この孤島全体が危機にさらされると言っても過言ではない!
この者の名だけは、女王様に覚られないようにしなくては!
なかなか答えを出さない執事に、待ちくたびれた女王は自分で適任者がいないか考え込んでいる。
「いたじゃない! ジョーなら、どこでも行けるでしょ?」
っ!!
「い、いけません、女王様! その者だけは!!」
「どうしてよ? 私の小腹と、どっちが大事なのよ?」
「あの者は……、あの者と関わったら、身ぐるみ剥がされるどころか、女王様ご自身も危ぶまれます!」
「大丈夫よ、ちょっとジョーを呼んできてちょうだい!」
「いけません! 私の目が黒いうちは、決してなりません!」
執事は、懸命に女王を諦めさせようとした。
しかし、女王もまた自分の欲求を通そうと必死になっている。
「イヤよ、イヤ! ジョーを呼ぶか、ポポを連れてくるか、どっちかじゃないとイヤーー!」
女王はバサバサと翼を広げ、辺り一面に火のブレスを吐き散らかし、子供がダダをこねるように、執事の手を余してしまった。
「誰か、誰かおらぬかー! 女王様がご乱心された!!」
一方、崖上から落ちてきたものに近寄る者がいた。
イビルジョーだ。
クンクンと匂いを嗅ぐと、ケルビの香ばしい匂いが漂っている。
ばくばぐ……、う、美味い!
イビルジョーは、崖の上を見上げた。
確か、この上って……女王のいるところだよな。
ってことは、これを作ったのは……あの桃執事か?
ったく、いい仕事するな、あいつは。
どれ、ここは一つ、お招きにあずかるとするか。
イビルジョーは、ヨダレを垂らしながら女王の元へ向かった。
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【聖母のプライド】
凍土の毒研究所には、研究員として働いているギギネブラ達がいた。
「私達の仕事ってさー、なんか矛盾を感じるわよね~?」
「え? どうして?」
「私達って毒にする側じゃない? なのに、その毒を使って抗体を作る研究って、なんかなぁってね~」
「それもそうね、ふふっ」
所内で、同僚のママさんネブラ達がおしゃべりをしていた。
「あら? あなた、背中に何背負ってるの?」
「え? あっコレ? 実は……今朝生まれたの、可愛いでしょ♪」
ママさんネブラの背中には、淡いピンク色の卵が張り付いていた。
「あなたねぇ、保育園にでも預けてから来なさいよ。子供を職場に連れて来たら、所長に怒られるわよ」
「えぇ。でも、空きがないからって断られて……」
「え? あなた達、わざわざ保育園に預けてるの?」
「え?」
「え? 常識……じゃないの? 私なんて、その辺に産みっぱなしよ」
「えー!? 信じらんな~い」
「心配じゃないの?」
この職場では、保育園に預ける派が大多数のようだ。
「保育園に預けるだなんて、そんな過保護にしてどうするの?」
「だって、もしものことがあったら……」
「私、初産だったし……」
「私達の子供はね、放任主義でいいのよ、放任で!」
「そ、そうなの?」
「大丈夫かしら?」
そんなおしゃべりをしていると、所長のロアルドロス亜種がやってきた。
「ヴォッホンッ! ちょっと君君ィ~、そのォ~なんだ、背中に背負ってるのはァ~、何かね?」
「あ、ごめんなさい! 保育園の空きがなくて……」
「困るよ君ィ~、神聖な職場に子供を連れてきちゃァ~」
「すみません、まだ孵化しないと思うので、今日だけ許してください!」
所長は「うゥ~む」と、顎の海綿質をゆっくり撫でている。
「まァ~、孵化しないなら今日ばかりは仕方ないかァ~」
すると、ママさんネブラの背中に張り付いていた卵が、モゾモゾとうごめきだした。
「おゥ~っとォ~?」
所長は目を見開いて、孵化の様子を観察している。
ピキーッ、ピシャーッ!
小さな鳴き声とともに、卵からワラワラと小さなギィギ達が這い出してきた。
「あぁっ! すみません! まだ孵化しないと思ってたんですけど……」
ママさんネブラは、必死にこの場をどうしたものかとうろたえている。
しばらく、ギィギ達の様子を観察していた所長は、
「うゥ~む、こんなに数がいるならァ~、どうだろうかァ~。この研究所で実験対象として毒のォ~……」
所長は、ワラワラとうごめくギィギ達を、実験動物でも見るように、ギラギラした目付きで見つめている。
「だ、ダメですよ! この子達は……この子達だけは!」
ママさんネブラは、子供達を守ろうと必死に所長へ懇願した。
「ははァ~、冗談だよォ~、冗ォ~談ッ♪」
しかし、所長の目は笑っていなかった。
ママさんネブラは思った。
所長、あれ絶対本気だわ!
もし私が「うん」って言ったら、実験に使う気だったのよ!
実験に使われるくらいなら、同僚の言う通り放任しておいたほうが、よっぽど安全だわ!