「試合…ですか?」
先程まで静かだった会議室がざわつき、一人の少女がその原因に口を開く。
「ええ。大洗女子学園…なんでも、昔やめた戦車道を最近復活させたんだとか。」
隊長がそう言うと、ざわつきがどよめきへと変わる。
「隊長!今は全国大会前の大切な時期。今は無名校…しかも初心者チームの相手をするより、チーム練習をした方がいいと思います!」
一人の少女が発した言葉に、そうだそうだと他の少女が賛同する。少女たちの視線と意見を一身に受けた隊長は、手に持った紅茶を一口飲むと片手を軽く上げ、少女達を静止する。これの意味は、考慮済み。つまり、それらの状況も考慮した上で受けた、ということだ。少女達が静かになったのを確認すると、話を続ける。
「ルールは殲滅戦、車両数は5…チャーチル一両、マチルダ四両で行くわ。これについて、何か質問は?」
少しざわつくが、今度はすぐに静かになり、数人の少女が手を挙げ、その少女達を一人一人指名していく。
「相手の編成は?」
「四号D型、M3リー、八九式、38t、三号突撃砲F型よ。警戒すべきは三号ね。」
「どのような戦術で行きますか?」
「練度の差と装甲圧を生かして正面から行きますわ。今言ったように三号に注意しつつ、正面を貫徹できない他の戦車を叩きます。」
「乗員は誰が?」
「そうね…ルクリリ、ニルギリ、シッキム、ドアーズ、私たちで行くわ。」
「それって、次期本隊メンバーじゃないですか?」
「ええ。…きっと、いい練習になるわ。試合に出るチームはしっかり準備をしておきなさい。試合は今度の日曜日よ。」
と一気に言うと、他に手を挙げている子がいないかを確認し、もういないと分かると隊長は黙って紅茶を飲み始める。もう彼女からの情報は充分と判断した少女たちは次々と会議室から出始めていき、やがて三人の少女が残るのみになった。
「…言わなくて大丈夫だったんですか?」
紅茶の切れたカップに紅茶を注ぎながらそう言うと、隊長は薄く笑いながら返答する。
「ええ。西住流と戦うとなればあの子達の戦意も上がるけれど…その前に固くなってしまってはね。」
なんとも気楽に聞こえる発言に、軽く眉を寄せながらさらに質問を投げかける。
「…もし、負けたら?」
「あの子達にはそれでもいいのよ。」
そう言い切り、紅茶を嗜み始めた隊長に、分からないというような視線を向けるが、そんな視線は意にも介さず隊長はスコーンのおかわりを要求するのだった。
大洗女子学園対聖グロリアーナ女学院の親善試合、当日。大洗の町はいつにもなく賑わっていた。学園艦を降りた直後に囲んできた、大洗の生徒や町の人たちの海をなんとか切り抜けて、今はACV-IPで試合場の偵察に向かっている。
「…そういえば、ローズヒップはどこかしら?」
「観光に行く、と言って出て行ってしまいました。」
「全くあの子は…」
風で舞い、顔にかかった髪を払いながら、足元から聞くともなしにに聞こえてくる会話に耳を傾ける。ローズヒップ…あの子か。顔を思い出すとなんとなく、言うだけ言って止める間も無く走り去ってしまうという情景が容易に思い浮かぶ。
「それよりオレンジペコ、どう?車外の様子は?」
一人だけ身を乗り出している私に、二人分の視線が向けられる。チラと二人の方を見て、車外に視線を戻して答える。
「普通の街並みです。特段…って、あれ?黒森峰も見に来ているんですね。ダージリン様、教えたんですか?」
「黒森峰…どこかしら。」
立ち上がり、身を乗り出してくる隊長に、指で指してみせる。皆私服に身を包んでいたが、しかしいくつか見たことがある顔が並んでいた。
「…先頭のあの子、黒森峰の隊長じゃないですか?」
ACV-IPの運転手の言葉につられて少女たちの先頭を見ると、そこには国際強化選手として何度もテレビや雑誌で取材を受けている、特に見知った顔が少女たちに指示を出しているようだった。
「挨拶しに行きますか?」
少女たちの確認だけして、すぐに座り直してしまった隊長の方を向いて聞くと、軽く目を伏せて首を横に振る。
「…いえ。行かなくても大丈夫でしょう。」
「そうですか?なら、いいですが。…そこの道、入り組んでますね。逃げ込まれると面倒そうです。」