がらら、と扉を開け、教室の中を見渡す。教室の中には二、三人で宿題に取り込んでいる集団が幾つかと、ボーっと窓の外を眺めている少女一人がいた。
「あ、ローズヒップ!こっちこっち!」
窓の外を眺めていた、深窓の令嬢然とした少女、倉部浅海が扉を開ける音に反応してこちらを見ると、無造作に伸ばした美しい金髪を揺らしながら手を振って自分の方に来るように促す。
「倉部さん。遅れて申し訳ないですわ!」
「いーよいーよ。それより、富和瀬と勝井はもう行っちゃったよ。向こうで待ってるって。」
ガタガタと音を立てて席を立ち、片付けておいてくれたのか自分の鞄と私の鞄を背負って駆け寄ってくる。横に並ぶと、ローズヒップが比較的小柄であることも影響しているのだろうが、ただでさえ長身な彼女が一層大きくに見える。
「それで、どうだった?クランベリーちゃんの車。」
「ええ、ちゃんと直りましたわ。富和瀬さんの言う通り、チェーンが消耗してしまっていたみたいですわね。」
慣れているのか、それにどうとも思う様子はなく雑談をしながら学校を出て、学校近くのファミリーレストランへと向かう。そして入店してすぐに声を掛けてきた友人たちの席に着く。
「遅かったね。私もうフレンチトースト食べ終わっちゃった。」
「もう一つ頼む?あ、ローズヒップちゃんと倉部ちゃんも、なんか頼んで。」
机に倒れ込むような形になりながらミルクティーを啜る、短めの茶色のウェーブがかった髪を持つ、真面目そうな雰囲気の少女、富和瀬稚夜と、それに、甲斐甲斐しく世話を焼く、長い栗毛をツインテールにまとめた少女、勝井羽仁が出迎えてくれた。
「…私はもういいや。丁度ミルクティー無くなったし、ローズヒップと倉部の分も持ってくる。」
そう言ってがたりと立ち上がった少女は、机に突っ伏していた時からでは想像もできない長駆を曝け出した。横に並べれば、倉部と同じか少し低いというほどの身長だ。
「じゃあ私メロンソーダ。」
「私はストレートティーをお願いしますわ。」
「了解。ちょっと待ってて。」
「ああ、私が行くのに…まあいいや。二人はどれ頼む?」
勝井は流れるような会話をして、さっさとドリンクを取りに行ってしまった友人に多少悲しそうな顔を見せるが、すぐに別の世話焼き対象を補足して絡み始める。
「パウンドケーキ!」
「日替わりスイーツを。」
「おっけー!」
卓上ベルを鳴らし、やってきた店員さんに二人分の注文をする。注文を取り終えた店員さんが戻っていったタイミングで、ドリンクバーへ行っていた富和瀬が戻ってきた。
「ただいま。取ってって。」
カチャンとトレイが置かれ、それぞれ飲み物が注がれたカップを取る。
「そう言えば、次は大洗ってとこに寄港するらしいよ。」
席に座るなりまた机に倒れた富和瀬が、寝た状態のまま呟く。
「大洗?どこですの?」
あまり聞かない地名にローズヒップが首を傾げ、その疑問に富和瀬が顔をこちらに向けながら答える。
「茨城県にあるらしいけど。」
「じゃあ結構近くだね。」
「ショッピングできるかな?」
「調べてみますわね。」
スマホを取り出し、大洗について調べ始める。そんなこんなで、届いたスイーツを食べ終えても暫く、わいわいと会話は続いたのだった。
「着いた!大洗!」
「一番乗りですわ!行きますわよ〜!」
「ちょ、ちょっと待って!ローズヒップちゃん、倉部ちゃんも!富和瀬ちゃんを連れてくの手伝ってよ〜!」
振り返って頬を膨らませながらぴょんぴょんと跳ねる少女、続いてその隣で座り込み、海を見ているヘッドホンをつけた少女を流し見ると、試合場の方向へ走り去っていく戦車隊を確認し、二人の少女に駆け寄っていく。
「もう大丈夫ですわよ。」
肩を叩き、振り返った少女に街の方を指さすと、すぐに立ち上がってヘッドホンを外す。
「…ありがとう。」
重そうなヘッドホンを下ろしながら感謝を述べる少女にいい、いいというように手を振っていると、心配そうにもう一人の少女が覗き込んでくる。
「あれ、本隊について行かなくてよかったの?アッサム様に呼ばれてたんじゃ…」
「観光するって伝えましたわ。アッサム様も了解です、と。」
「ほんと?じゃあ今日はゆっくりできるね。どこ行く?」
「この前調べたあそこでいいんじゃないんですの?戦闘禁止区域でしたし。…あ、でも試合はまだなんですわよね。なら少し町の中を散策してみませんこと?」
「いいね、私さんせーい。」
「まあ、いいんじゃない。私も行くよ。」
「私もついていくよ!」
雑談などをしながらゆっくりと港を過ぎる。町中に入ろうと軽く散策していると、大洗女子、聖グロリアーナ、地元の人ですっかり埋まってしまっている、大通りらしき道を見つけた。
「凄い人だかりですわね…!」
「だねー…どっかで休めたらいいんだけど。」
街中に入り、出店を出している人たちから次々渡される商品を食べながら辿り着いた無人の神社で涼んでいると、同じように出店で買ったのだろう、それぞれ食べ物を持ち、私服を着た少女たちの一団がこちらに近づいて来た。
「ちょっと良いかしら?」
その中から数人が別れ、ややきつそうな印象を与える白髪の少女が声をかけてくる。
「…?はい。なんですの?」
「あなたたち、聖グロの子よね?」
「そうですわ。」
白髪の少女がよかった、とでも言うように他の少女たちと目を合わせると、一度咳払いをしてこちらを見る。
「ちょっと、聞きたいことがあるの。今、時間は大丈夫?」
「…ふむ?大体のことは答えられると思いますけれど。何でしょう?」
白髪の少女が他の少女たちの方をチラ、と見てから話を始めた。
「…結局、なんだったんだろうね。」
神社の石垣に座った勝井が首を傾げる。
「さあ…今日の試合に出る選手とか、戦車とか。色々聞かれましたけど…なんのことだか。」
揃って首を傾げる二人に、倉部が呆れたようにため息をすると、こちらを向いて口を開く。
「いや…試合に関係あることを聞くとか、試合で対策を立てるために決まってるじゃん。多分あの子たち、大洗だよ。」
当然、という顔で話す倉部に、富和瀬がだるそうに同意する。確かに、とハッとした顔をしだした二人は、打って変わって慌て始めた。
「え、どうしましょう!?大体話しちゃいましたわ。」
「だ、ダージリン様に怒られちゃうんじゃ…ニルギリちゃんに電話する…?」
「んー…今から追いかければ見つけれるんじゃないかな?」
スマホを取り出した勝井をやんわりと止めつつ、倉部が別の案を出す。
「こうしちゃいられませんわ。合流する前に見つけますわよ!」
ぴょん、と階段を立ったローズヒップが走り出した。少し遅れて勝井も走り出すと、心底楽しそうに倉部が富和瀬を引っ張りながら追いかける。そのまま試合開始のアナウンスが流れるまで、四人は大洗の町中を爆走していた。