元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
「遂に、この日がやってきたか……」
VR用のヘッドギアの中、ダウンロードされたアイコンを見てしみじみと呟く。βテストが終わってから早1ヶ月。この日をどれだけ待っただろうか。夜も8時間しか眠れなかった。十分寝ているとも言う。
兎角、大学の課題が手につかないほど楽しみにしていたゲームのサービス開始なのだ。心が躍らないわけがない。
タイトルの意味は未開拓と、先駆者だか開拓者だかを意味していて、分類としてはよくある剣と魔法のライトなファンタジー+α。
荒廃した大地を捨て宇宙へと活路を見出した人類が宇宙進出して幾星霜。色々あって失敗し故郷の惑星に出戻ってきたはいいが、そこは大暴走した自然に飲み込まれていた惑星になっていた……プレイヤーはそんな世界に
そんな背景もあって、文明レベルは復興途中であるため基本的に中世風ファンタジー。だけど古代遺跡や宇宙船など、未来的な要素も積もうと思えば積めるようになっている。
プレイヤーの目的は、ゲームタイトルが開拓者/先駆者とある通り。魔物と呼ばれる敵を倒したり、未知の素材を採取しながら、自然に飲み込まれた世界を切り拓いていくこと。そしてゆくゆくは、いつか再び宇宙に昇ることを目指して……と。
簡単に言ってしまえばそんなゲームである。
ゲームとしての目玉要素は3つ。
1つは『現時点で3倍弱の時間加速』
要はゲーム内で3時間遊んでも、現実では1時間しか経過していないということになる。時間のない現代において、こんなに素晴らしい機能はそうそうないだろう。
安全性の観点からプレイ時間の規制こそ存在しているが、それも納得の超科学である。
次に『人型を完全に逸脱したキャラクリエイト』
自由な種族という煽り文句に偽りなく、プレイヤーのアバターに関してはかなり自由にカスタマイズ出来るようになっている。オーソドックスな人や獣人から、スライム、ロボット、多腕に無機物まで何でもござれ。
どんなニーズにでも答えてみせると言わんばかりに、業界の先端技術が惜し気もなく投入されている。
そして最後が『馬鹿みたいに広大すぎる活動フィールド』
βテスト版における実装範囲は街が2つと限られたフィールドのみだったと言うのに、当時の攻略組も検証班も、誰1人としてマップの端に到達出来なかった広大さ。それがさらにバージョンアップして実装されるらしい。
その広さといえば、運営が公式ホームページで『ランダム生成部分は運営も把握しきれていない』などという、バグが発生していない事が奇跡的な降参発言をしているほど。
まあ一応のお題目こそあれ、そんな世界で自由に生きていくことが出来るという訳だ。と言うか実際1ヶ月前までは、入り浸っていたと言っても過言ではない。
昨今の世界では見ることができなくなった大自然。そこに混じり合ったファンタジーという超常や、宇宙船などといったSFが調和しながら混じり合っている違和感。それが現実と遜色ない五感で味わえる。
流石は『変人に意味不明な技術力を持たせたらこうなる』を地でいくことで有名なCrescent Moon社。作り込みが三日月の変態の異名に恥じない完成度だった。
『
そしてそこまで沼に沈んでおいて、製品版を買わないなんて話はない。
「戸締まりよし、トイレよし、カロリーよし、水分ヨシ!」
ヘルメットを被った猫が脳裏を過ぎる言葉で準備を確認して、VR用の機器であるヘッドギアをパイルダーオン。そのままベッドに横たわる。
これにて準備は完了。あとは懐かしい世界に想いを馳せながら、開始時間を待ち──あと数分。手持ち無沙汰だ。
≡ # 雑談
.ヤブサメ 11:55
.さて、そろそろ本サービス開始の時間ですが。
.そういえば合流とかどうします?
ということで。起動しっぱなしのグループチャットに、開始までの暇つぶしがてらメッセージを投げ付けた。
.蛍石 11:56.
.合流……出来ると思います?
.アブ@決闘者 11:56
.無理に一票
.出来たらするでよくない?
.弾バカ 11:57
.同じく
.私は撃てれば何でもいいです
.暗証番号は5963 11:58
.協調性さんどこ……?
.もう既に胃が痛い
すると数秒と経たずに、いつも連んでいる連中から返事がきた。恐らくみんな待ちきれないのだろう。約1名なぜか既に胃を痛めているけれど。
益体もないことを考えつつ駄弁っていれば、サービス開始時間までもう間も無く。それではゲーム内でまた、と一時解散してチャット欄が静かになる。
「それじゃあ俺も行きますか……ゲームスタート!」
携帯型仮想現実接続 没入システム起動しました
ユーザー認証:
登録情報確認:適正ユーザーです
2世代ほど前のギア特有の音声認証を確認しつつ、気合を入れて久し振りの仮想世界へと旅立った。
性懲りもなく新作です。
今作もよろしくお願いします。