元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
『故に、ここからは加減なし。全力で叩き潰す!』
「発狂モード、来ます!」
夜の闇を煌々と照らす炎の中、咆哮が響き渡った。
同時に俺のHPが9割ほど吹き飛び、まるで凍りついたかのように身体が動かなくなってしまった。私の残りHP4/155ですってよ奥さん。誰だよ奥さんって。
「やっば」
思わず呟きながら視線を動かした先、自分に表示されているのは〈麻痺Ⅰ〉の文字。MP欲しさに微妙に振った10程度のMinでは、状態異常の付与に耐えられなかったらしい。
まあ、たかだか中距離アタッカーである俺が死ぬのは良いとして。不味いのは、最後衛であったクローニンにまで麻痺が入っていること。射程:シーンか何かなのだろうか、あの咆哮は。
前衛組2人と弾バカには入ってない辺り、恐らく足切りラインはMin20〜30の間くらいか。火力と耐久優先で、異常対策を頼み忘れたのが裏目に出ている。ロードの動く速度からして至近で食らわなければ大丈夫そうだが……このタイミングで回復役と司令役が潰れたのは、些か不味い。
『潰れるがいい!』
そんな中、これまで全くヘイトが向いていなかった筈のクローニンに向けロードが進撃を開始する。炎を纏い戦斧を振るい、まっすぐPTの核を叩き潰さんとして──
「グポン」
《技《カバーリング》起動。戦線の維持に徹する、とマスターは仰っています》
──当たり前のように、アブっさんがその侵攻に割り込んだ。
「来た! メイン盾来た!」
「ぐぽーん」
《何時のネットミームだ、とマスターは仰っています》
アブっさんの言い分も尤もだが、興奮する弾バカに今回ばかりは同意したい。これで勝つる!
鋼と鋼がぶつかり合う激しい音に、減少したアブっさんのHPは1割強。
「──よし治った! 光魔法《エリアヒール》!」
などと感心している間だった。
想定よりも遥かに早く、回復したクローニンが全体回復を飛ばしてくれた。見れば飲む途中に咽せたのか、口から胸元をびちゃびちゃにしながらも状態異常が解除されている。
「持っててよかった麻痺治し! でも次はないので、咆哮のモーションが見えたら潰しに行って下さい!」
「いただきます」
「待って!?」
返事は弾幕とエンジン音と食事の挨拶だった。
ところで、その、俺の麻痺も解除してくれませんかね。
「光魔法《クリア》! ヤブサメは領域を防御に切り替え、それでチェックメイトです!」
「了解。領域変更、《
民主主義は時に“必要”に負けるのだ……などと言い訳しながら、領域魔法を与ダメ増加の効果から、被ダメ軽減の効果に切り替える。
ダメージの軽減率は僅か10%、されど補助魔法によるステータス上昇とは別系統。故にこそ、ステータスが上昇してから被ダメ軽減が改めて適応される。
「グポポポーン」
《鉄壁。すなわち、無敵。とマスターは仰っています》
即ちゴブリンロードがアブっさんに与えるダメージと、アブっさんの自己回復とクローニンによる回復。その被ダメと回復の割合が、
よって、この戦闘の趨勢はここに決定した。
麻痺付きの
重装備の
故にもう、先程までの苦戦はどこにもなく。
ラストアタック*1とかいう悪しき文化もない以上、後は流れで。
『よもや、我を打ち破るとは……な』
ずずん、と重苦しい音を響かせて。ゴブリンロードが膝をついた。
同時、視界に表示された【Congratulations!】というシステムメッセージが、祝福するように瞬いた。
「終わっ、たー!!」
疲れ切った様子のクローニンが、ばんざいしながら地面に倒れむ最中。段々とフィールドの明度が上がり始める。安全を確認したのか夜闇を照らしていた蟲たちが騒ぎ出し、静かに激戦の予熱を冷やしていく。
〈レベルアップ! Lv24→26〉
〈称号:開拓者 を獲得しました〉
〈スキル枠が解放されました(現在10)〉
〈スキルアップ! 5件〉
〈レベルアップしたスキルを確認してください〉
〈ステータスポイントを割り振ってください〉
〈獲得したアイテムを確認してください〉
〈運営からのメールが2件あります〉
最後の2つの通知こそ見慣れないが、戦闘後の処理も終わったのは間違いない。
だというのに……何故か、ボスモンスターであるゴブリンロードが消えていない。β版ではなかった変化。なれば続くのはイベントか、はたまた2回戦か。
『汝らは、夜明けを目指す力を示した』
つまり先に進む資格を得たと。
戦闘に発展することはないだろうと弓を下ろし、言葉に耳を傾ける。ああアブっさんも聞く? イベントっぽいし。
『故に本来であれば、次なる道を指し示すのが我が道理……で、あるのだが』
「話聞いてるの、俺とアブっさんだけですね」
「グポーン」
《残酷なことだ、とマスターは仰っています》
はぁ、と深く深くゴブリンロードはため息を零した。
後ろを見れば、その理由は察するにあまりある。疲れ切って撃沈しているクローニン、光る蟲と弾幕でトリップしている弾バカ。物理的に道草を食べているFluoriteさん。どう見ても話なんて聞いてくれそうに無いのが大半だ。
『……まあ、良いか。元より無茶と無謀をよしとする汝らに、助言など必要あるまい』
こんな反応できる辺り、噂通りネームド級の
『ではな。再戦の機会があれば、その時はまた戦を楽しもう』
そして、こちらのそんな事情に構うことなく。立ち上がったゴブリンロードは薄く闇が満ちる森の中へ、傷だらけの背を向けて歩き消えていった。
「何か、盛大にフラグ建築に失敗した雰囲気が」
「グポーン」
《だよね、とマスターは仰っています》
戦闘所要時間:00:27:32
サービス開始からゲーム内換算で約5時間。外部時間換算で約1.7〜8時間。
β版の適正レベル帯における記録の2倍近い時間を消費しながらも、俺たちにとって初めてのボス戦は終幕したのだった。
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From:運営
チュートリアルボス【Guardian of Auster“Goblin Lord”】の撃破が現時刻を以って確認されました。
討伐者はPN[クローニン][Fluorite][†
またチュートリアルボスの討伐により、ワールドクエスト〈1章:いつか再び空の果てへ〉が開始されます。
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ゴーンゴーンと鳴り響く鐘の音から続いたGMアナウンスと運営からのメールという、音と文章の双方で名前を晒されながら。
◇
そんな、衝撃的なデビューからおおよそ10分後。夕陽が照らすどこまでも続くような、通常フィールド草原に俺たちの姿はあった。
エンジン音を響かせるアブっさんに全員が乗りながら、目指すは[中央旗艦都市ケントルム]。ガタゴトと揺れる戦車の上で、げっそりとしたクローニンが幽鬼のように立ち上がった。
「それではァ! これより大反省会を始めたいと思いまァす!!」
こうして逃げるように移動している理由は言うまでもない。
目立ちすぎた。ただそれだけに尽きる。
少し前にあった運営からのアナウンスとメールによる名前の発表。それは一面だけを見れば、自らの好きなゲームに己の名前を刻みつけた輝かしい結果だ。だが見方を変えれば、それは運営公認の名前晒しに他ならない。
つまり、何が言いたいかというとだ。
俺たちは全員、ボス戦用のサーバーから通常サーバーに帰還した直後もみくちゃにされたのだった。人こそあまり居なかったが、俺たちも作戦会議をしたあの場所は半ばキャンプ地と化している。
こんなサービス開始間もない時にそんな場所にいる連中が、最初に討伐を成した俺たちを逃す筈がなかった。悪質なプレイヤーが居なかったことは幸いだったが、クローニンは犠牲になったのだ……
「私たちに足りなかったものは、それは──」
すぅ、と大きく息を吸って。
「装備、自重、資金、準備、時間、スキルに、自制心! そして何よりも── レ ベ ル が 足 り な い !! 」
これまでの恨みつらみを吐き出すように、全力で捲し立てTS少女は膝を着く。おいたわしや苦労人。1番話が通じると思われたせいで大量に絡まれて、断りきれないのが運の尽きだった。
「ふむ、では私たちに足りていたものは?」
「やる気、実力、好奇心」
「違いありませんねヤブサメェ!」
HAHAHAと笑ってみれば、項垂れたクローニンの気が沈む。ずんずん沈む。だがまあ、悪くはない話に違いないのだ。有名税みたいなものは生まれるだろうが、名声とはそういうものだし。
「グポーン」
《β版の時と同じで利用しつつされつつの関係性で良いのでは? と、マスターは仰っています》
「そうかな……そうかも……ボクにとって、ヤバいくらいのメリットだし。知名度」
Fluoriteさんがご飯に、俺がファンタジー自然環境に、弾バカが弾幕に、アブっさんが亡きゲームのガチタンに傾倒しているように、クローニンは情報に傾倒している。
メインストーリーではなく、狙いはあくまで馬鹿みたいに作り込まれた文化や歴史。特に書物やNPCにそうであると伝わっている口伝などが、クローニンの集める情報にあたる。そういうモノを集めるにあたって、知名度ほど有用なものはそう多くない。
元我らがギルドであった……名前なんだっけ。
「……あ、それで思い出したんですが。クローニンはβ版から何引き継いだんです?」
弓を構え警戒しながら、ふとそんなことを思い出し聞いてみた。
何か勢いでここまで来てしまったからか、クローニンにだけはそれを聞いていなかった。俺は領域魔法、弾バカは弾幕魔法、Fluoriteさんが課金種族、アブっさんは資金を引き継いでいる。
「? あれ、Fluoriteから聞いてませんでしたか」
となれば、やはりあの膨大な資料を買い戻すための資金だろうか。そんな考えでの質問だったのだが、帰ってきたのは不思議そうに小首を傾げた言葉だった。
「ボクが引き継いだのはアイテム。つまりギルドが入ってた建物全部ですよ。消耗品やら武具は無理でしたが、フレーバーアイテムは残してくれるとのことでしたので」
「「えっ」」
「グポーン!?」
ギルド機能は完全に喪失。集めてあった“使えるアイテム”は一切の引き継ぎ不可。ただその代わりに、図書館と化した建物とその蔵書に関しては9割近くがそのままらしい。
システム上は図書館型の拠点が引き継がれるだけ。そのことによるメリットは精々が、立地争いに勝る程度。βテストの報酬としては適切な部類になると判断されたそうな。
「ということで、拠点購入費用が要らないので着いたら即座にギルドは組めますよ。名前どうしましょうか?」
「……ん。女の私が言うのもなんですが、クローニンちゃんのメス堕ちは早そうですね」
近寄るモンスターがいないからか、槍に括り付けられた水ヨーヨーをでんでん太鼓のようにして遊んでいたFluoriteさんが呟いた。
「ちょっと待ってどういうこと!?」
「青草おいしいです」
「あ゜あ゜あ゛あ゛モグモグタイム!!」
でも実際、そういう事になったら早そうだとは思う。
微妙に仕草がそれっぽくなってたりするし。
「グポーン」
《まだ規制が緩かった頃のR18版VRゲームに、性別自由でそういう行為が出来たものがあった筈。と、マスターは仰っています》
「人間の欲ってのは深淵ですねぇ。性別不詳で通してる私が言うのもなんですが」
魅せ弾幕で遊びながら弾バカが追い打ちをかけた。よし、こうなったら俺も参加せざるを得まいて。
ネットに接続して、古いVRゲームなら適当に密林*2でも探れば出て──あった。同人作品か。ええと、マロンブックスとかメイトでの委託販売は終わってて……最新版がSmoke*3に売ってら。制作:サークル[ナナナナナナナ]? うわ、超大手じゃん。
「今見つけたので、あとでSmoke経由で送っておきますね」
「やめて!?」
疲れを吹き飛ばすように騒がしく、けれど普段と変わらず緩く。最速攻略者の風格なんて感じさせない悲鳴とエンジン音が、黄昏時の草原に響き渡った。
【称号】
《開拓者》
Guardian of Auster“Goblin Lord”を倒した記念称号。
NPCからの好感度が上昇する(セットしていなくても効果あり)
【領域魔法】
《方形──堅守》(起動1・継続1/5s)
PCを中心に半径50m方形内の味方に、被ダメージ軽減10%(最大付与人数10)
《三角──強攻》(起動1・継続1/5s)
PCを中心に半径50m方形内の味方に、与ダメージ増加10%(最大付与人数10)