元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
夜。
それは珍しく、ゲーム内とゲーム外の時間が一致を始める時間帯。現実の夜と空想の夜が交錯する時。そしてなんやかんや、アクティブなプレイヤーが1番多い時間でもある。
それはこの中央旗艦都市ケントルムにおいても変わらない。まだサービス開始2日目ながら、街を行き交うのはNPCの人達だけにあらず。俺たちと同じプレイヤーも、ちらほらと現れ始めていた。
その中には、
同一人物かどうかは兎も角として。その中に居た(らしい)所謂生産職の知り合いに、挨拶ついでに大弓を頼めないかと尋ねたのだが……
「うわぁ……うわぁ……」
夜陰に沈む街並みを抜けると地獄だった。
無数のプレイヤーがひしめき合う満員電車のような惨状があった。
その目的は言わずもがな。β版で有名だった彼女……彼? メタリックで不定形なアイツの腕を求めて、という事なのだろう。
「よお、
そんな様子を遠巻きに眺めていると、同じようにゲンナリした顔のプレイヤーが話し掛けてきた。
伽藍堂な金属の鎧が黒い煙に繋がれて浮遊している有様からして、恐らく種族はリビングメイルか幽霊辺りか。何となく《識別》で名前を確認すれば……
「まあそんな感じです。弓使いとしては、感謝してもし足りない相手ですし。挨拶だけでも、と」
あわよくば武器を、なんて思いはこの人混みを見て砕け散った。故にもう、人混みの中心にいる不定形な存在……PN:フォンぶそスに接触することは諦めた。この人混みじゃ挨拶すら叶いそうにない。
「そういや、通常矢が12本セット10Gになったのはあの人のおかげだったか」
「ですね。『暇だから極限まで効率化する』って言って完成させてくれなきゃ、例のアレが無くても弓使いは全滅してました」
何せ初期の矢は、1本10Gとかいう値段設定だったのだ。とんだ金食い虫でまともな運用なんて出来なかった。
なんて懐かしい話に花を咲かせている間も、どんどん人混みは増えていく。彼(暫定)に会いにきたプレイヤーだけでなく野次馬が膨れ上がって、遠巻きに見ていた俺たちも飲み込まれそうだ。
「……退散した方が良さそうですね」
「全くだ」
仕方がないと。これ以上は無理だと頷き合う。
此処でわざわざ粘って悪印象を持たれても面白くない。
「ここで会ったのも何かの縁だ、一狩りしていくか?」
「いいですね。序でにフレンド登録しておきましょうよ」
「いいぜー」
という訳で、気分転換にゲームらしくそういうことに相なった。
袖振り合うも多生の縁、躓く石も縁の端くれと言うように人の繋がりは大切なのだ。これでお前とも縁が出来た!
「それじゃあ改めて、ワンダー
今の時間はPMだ。
「レベルは25。戦闘は鎖を使った近〜中距離メイン、耐久はそこそこあるが探索はからっきしだ。よろしく頼む」
「ヤブサメボーゲン2035です。レベルは29。戦闘は大弓と体術で近距離から遠距離まで全対応、装甲は
お互いに軽く自己紹介をしてガッツリと握手をする。
「種族は一応[
「こっちの種族は[獣人(猿)]、顔隠してるのはPTとの顔面偏差値バトルに負けたからですね」
「至って普通に見えるが……美少女揃いだったもんな、あんたら」
「1人男ですけどね」
「!?」
前衛と後衛のペアというオーソドックスな組み合わせ。回復手段が心許ないが、それ以外に問題は特にあるまい。臨時のコンビだし。索敵と撃滅が出来れば最悪なんとかなるのだ。サストロサストロ。*1
「武器の都合上、俺は生物系の相手だと都合がいいんだが……そっちはどうだ?」
「同じく。通常矢で装甲抜くの手間ですし」
剣などの近距離武器であれば力の限りぶん殴ることが出来る。
魔法という遠距離攻撃であれば適当にぶっ放すだけで済む。
だが鎖や大弓と言った中〜遠距離の物理武器はそうはいかない。弓や鎖は金属装甲に弱く、糸や鞭系統も厚い装甲には無力──あれ、ちょっと待って。マイナー武器、全部装甲に弱くない? 装甲 is ジャスティスじゃん。
「となれば、適当な街の外にしておくか」
「賛成です」
鎖や大弓などのマイナー……珍しい武器の使い手が少ないのは、それ相応の理由があるという良い例だった。デメリットを理解して対策を打たないと、こんな武器まともに使えない。ロマンだけで戦闘は出来ないのだ。
「しかし、よく武器としての鎖なんて初心者武器以外でありましたね。ドロップする敵もまだいないでしょうに」
「知らないのか? 正式サービス版から、NPCの武器屋でも依頼すれば作って貰えるぞ」
「マジです?」
「マジマジ」
曰く、素材とお金と大まかな
初めて知ったそんなの……その場の勢いで突っ走った結果とは言え、些か急き過ぎたのかもしれない。
「良かったら場所を教えようか?」
「あ、お願いします。弓本体は既製品でもいいんですけど、矢に関しては特注したかったんですよ」
「折角なら大弓自体も特注してもらえよ……」
「資金がね……ふふ、ないんですよ」
夕方の全滅後に《看破》のスキルを買ったことで、悲しいことに俺の資金は底を尽いた。そんな状況で大弓──それも特注品を注文すると考えると、考えたくない値段になるのは目に見えている。
「序盤の金策って覚えてるか?」
「一攫千金ダンジョンギャンブルか、全力疾走お使いクエストのどっちかですね」
因みに前者はともかく、後者は場所がアウステルなので競合待ったなしだ。つまり迷宮攻略ができる仲間が居ないのなら、地道に敵を倒してドロップ品を狙うしかないのであった。
「そのまあ、なんだ。頑張れよ」
「……もうちょっと看破のLv上がったら、トレジャーハントでもやりますかねぇ」
ポン、と肩に手を置かれ慰められた。別にいいのだ。
街の外でログアウトする為に『簡易拠点』も買わなきゃいけないし、本格的に外へ出て行けるのは一体いつになるのだろうか。
「さて、そろそろ狩るか」
「語尾に♠︎付けなくていいんです?」
「フジャケルナ! モアイ!」
「うーんスペード違い」
割とノリいいなこの人。
「そろそろ本当に行きましょか」
「だな」
などという事がありつつ、適当に眠くなるまで戦闘を満喫してから解散したのだった。鎖で足止めしつつ大弓でぶち抜く、最高にクールな戦法だった。悪くない。
〈レベルアップ! Lv29→30〉
〈スキルアップ! 《弓Ⅴ→Ⅵ》
《狙撃Ⅳ→Ⅴ》
《望遠Ⅵ→Ⅷ》〉
〈ステータスポイントを割り振ってください〉
翌日(リアル時間)、サービス開始3日目。
ここは南部前線都市アウステルの一角。初心者のあふれる大通りではなく、路地を数本別にした裏通り。初日に入った古物屋とはまた別の装備屋が集中している区画。
「一応ここであってる、筈」
見上げた先にあるのは、煤に汚れ半ば傾いた看板。2階建ほどの建物に工房らしき場所が併設されてるようだ。何処となく不安を感じるが、紹介して貰ったのだから間違いない……筈。そう信じて、店の中に一歩踏み込んだ。
「いらっしゃい」
店の奥、カウンターから答えてくれたのは線の細い女性だった。よかった、ちゃんと人型のヒトがやってる店だ。
「ここ辿り着いたということは、君は私の客のうち誰かから紹介を受けたと考えられる。好んで使用する武器の形状が特殊で一般販売がなされていないのだろう。安心して欲しい、私の店は君の要望を違えることはない」
ホッと息を吐いた次瞬には、割と店に入ったことを後悔していた。なるほど、クセの強い武器を扱うプレイヤーはクセが強いのだから、作り手だってクセが強いと。
だがここで気圧されたら負けだ(???)
毅然とした対応で立ち向かわなければ(謎の対抗心)
「ワンダーAMさんに紹介して貰いました。大弓専用の矢って作って貰えるでしょうか?」
「大弓専用の矢は言葉としての含意が広い。通常矢であろうと調整を施せば専用になり得、バリスタの矢弾であろうと発射できるよう改造すれば専用矢になり得る。またそういった矢を撃つのであれば専用の弓を作ることが望ましいことは君も理解している筈だ。だが弓を要求しないということは資金面に難があるのだろう」
長い……長い……心が折れそう。
「それで望みはどんな矢だ?」
「金属製の、ぶっちゃけて言えば剣です。データはこちらに」
そう言って、纏めておいたサルベージしたデータを提出する。
==============================
【通常矢】
極めて一般的な矢。
金属の鏃、木製の基礎、鳥の尾羽より成る。
ダメージ倍率:100%
飛距離倍率 :100%
弾ブレ :ほぼなし
耐久値:100/100
==============================
【剣状矢(小)】
何処かの馬鹿により生み出された〈矢〉区分になっている細身の〈剣〉材質:鉄
純金属製なのに何故か飛ぶ。破壊力は抜群。
ダメージ倍率:300% 《制限》
飛距離倍率 :50% Str:80以上
弾ブレ :小 大弓限定
耐久値:300/300 矢筒装填可能数3
==============================
これまで使ってきた、これからも使う通常矢と比較するとこんな感じ。アイテムとしてのスタック数も通常矢が99本に対し、剣状矢は僅か10本。いわゆる決戦兵器に近い。
まあ撃ち込んだ後、近づいて引き抜いて撃ち込むのを壊れるまで繰り返す予定なのだが。《体術》+《軽業》+高Aglの
「データは十分、作成は可能だ。私が素材を負担した場合は1本500Gの値段が掛かる。だが君のことだ、恐らく使える素材もあるのだろう?」
「一応、中央のダンジョンで倒した警備兵のものが」
言いつつ、アイテムのトレード画面を起動する。
選択するのは【警備兵の装甲】を始めとした、取り敢えず売らずに持っておいた金属系の素材。現実と違い鋳溶かせば、ある程度均一に金属アイテム化してくれる筈だ。あのサイバネわんこの素材なら、確か鉄か鋼辺りには。
「ふむ、問題ない。本数はどうする」
「10本お願いします」
「了解した。こちらの手間賃と素材の代金を差し引いて、値段は3,000Gになる」
メインで使用する矢が10本で3,000G……また貯金が尽きるけど、格安の部類だし悪くない。大弓、 オーダーメイドで依頼すると10,000Gくらいは飛ぶんだよなぁ……
「即金で」
「#小難しい前提小話#
では、1時間後にまた来るといい」
細々とした部分の話を除けば、大凡そういう流れになった。
どっと疲れた重い気分を背負い店を出て、大きく深呼吸をする。品質は最高峰だと昨日の夜に理解しているけど、凄い疲れるし贔屓にするかは──
〈スキルアップ! 《言語学Ⅵ→Ⅹ》〉
草。レベル上がってら。NKT*2……
激戦の余韻に浸りながら、凝った気がする身体を大きく伸ばす。バキボキと骨が鳴る音を響かせながら、なんとも言えない爽快感が広がる。
「あ゛ぁ〜……疲れた」
見方を変えれば、スキル上げも出来る最高品質のマイナー武器製作を請け負ってくれる場所なのだ。贔屓に……贔屓に、あんまりしたくないがするメリットがデカい、余りにも。
==============================
From:Fluorite
件名:電波を受信しました
本文:食べ歩きしましょう。アウステルの
オススメのご飯屋さんを案内します
==============================
そんなことを思いつつ、何か食べ歩きでもしようかと思っていた時だった。
あまりにも狙い澄ましたようなタイミングで、ゲーム内のフレンドメッセージを受信した。もしかして近くにいるのだろうか? いやでも、領域魔法で探査しても反応ないってことは半径200mには居ない。
「取り敢えず了承、と」
Fluoriteさんの嗅覚に微妙な畏れすら感じつつ、都合は良いのでそういった旨の返信を送っておく。返信はすぐ、10分後に噴水前に集合とのことで──あ、所持金ないじゃんヤッバ。
「ヤバい! ヤバいって‼︎」
弱みを迂闊に見せたら最後、間違いなく俺はクローニン(動詞)される。
それを防ぐにはどうにかして、急速に食べ歩きが出来る資金を確保しなければならない。けれど所持金は尽き、手持ちで売れる物では足りず、お使いクエストは時間が足りない。
ならば、今から出来る最善の選択は──?
「蜂の巣凸ってアイテム集めてデスルーラ!!!」
した。