元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
それは当たり前の真実であり、全プレイヤーが己のキャラ
即ち──スキルシステムは、1回進化してからが本番だと。
〈レベルアップ! Lv31→32〉
〈スキルアップ! 《弓Ⅵ→Ⅶ》
《狙撃Ⅴ→Ⅵ》
《望遠Ⅸ→Ⅹ》〉
〈ステータスポイントを割り振ってください〉
〈スキルの進化が可能です〉
「お、レベル上がりましたね」
それはゲーム開始3日目、リアル時間夕方の頃だった。
ログインタイミングが合ったFluoriteさんとアブっさんと一緒に[西部前線都市オキデンス]に向かう街道の途中。
中央のケントルムから真っ直ぐ西に進んだマップの奥深く。何度目かの敵襲を撃退した後、気が付けばスキルの進化に必要だった《望遠》のレベルがカンストしていた。
「グポーン」
《了解。どうする、一旦戦闘やめる? とマスターは仰っています》
「どうせなら。昨日時点だとまだ未確認のスキルの進化もありますし」
「グポン!?」
《えっ、何それ見たい。とマスターは仰っています》
分かる。どうせなら落ち着いて見たいよね、完全未判明の新スキル。
「ん、それなら残り倒しちゃいましょうか」
槍を構えたFluoriteさんの言葉に頷き、俺は弓に剣状矢を番え引き絞り、アブっさんは盾を目の前の大群に向け構える。
昨日クローニンや弾バカとやっていたのが機動力を活かした電撃戦だとするなら、今日2人とやっているのは罠猟か防衛戦。
アイテムと挑発スキルでマップの敵を集中させ、火力役と一緒にそれを狩る。ほんの一歩間違えばMPK*1になりかねないが、機動力のない
「《アサルトショット》」
「《ダイブインパクト》」
「グポーン」
《技《シールドスマイト》起動します》
という訳で、群がってきていた昆虫系の有象無象に向け、己が最大火力を全力投射。
飛び上がり空から着弾したFluoriteさんの一撃で群れの多数に大ダメージを負わせ、追撃で俺が放った剣矢とアブっさんの大盾によるぶん殴りが残りを刈り取った。
敵平均レベルが30程度の適正レベル帯なこともあって、特化型の火力が光る光る! 鳴る! DX初心者の大弓、今始めると貰える!
「それで新スキルとは」
「ちょっと待ってください。今出します」
モゴモゴとなにかを食べているFluoriteさんに急かされながら、チャチャっと操作して必要な部分を可視化させていく。
《暗視》
暗闇の中でも視界が確保できる。
【進化が可能です】
・夜の目(条件:達成済み)
・鷹の目(条件:達成済み)
・???(条件:達成済み)
《言語学》PS
未知の言語であっても判読が可能になる
【進化が可能です】
・読書(条件:達成済み)
・考古学(条件:達成済み)
・???(条件:魔力操作Ⅹ)etc……
《望遠》PS
望遠機能を解放する
【進化が可能です】
・ロックオン(条件:達成済み)
・視野拡大(条件:達成済み)
・???(条件:近距離系スキルⅩ)etc……
「むっ」
表示させた全てをスクショし記録していると、僅かに文言の表示が変わっていた。昨日までは色が特に付いていなかった???の部分、そこが赤く点灯している。
確か今朝方にオンメンテ*2してたしそれだろうか。内容、一部テキストの修正だったらしいし。
まあ、一旦それは置いておいて。
「気を取り直して。新スキルは《望遠》《暗視》《言語学》と各種アイテムを素材にしたヤツです」
「ふむ、《鷹の目》ではないと」
「グポン」
《未知の進化、滾るよね、とマスターは仰っています》
副産物的に上がった《言語学》は兎も角として、割と
「さて、さっさと進化させてお披露目し──マ?」
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【注意】
素材とするスキルのレベルによって、
進化後のスキル性能が変化します。
進化を実行しますか? Y/N
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よくもまあこちらのテンポを乱してくれる。
けど一応スクショで保存しつつ、Yに勢いよく指を叩きつける。変数となり得る数値や固定アイテム名じゃなかったモノは《言語学》のみ。だがそれも既にカンストしてる以上、躊躇う理由はどこにもない。
「──す」
「良い調味料ですよね、酢」
「ぐほーん……」
《そっちじゃないと思う、とマスターは仰っています》
妙なタメに突っ込みを入れられつつも進化を実行。数秒のローディング演出の後、無事に成功。
色々と付いている性能からして、良いスキルであるのは間違いない。間違いないのだが──同時に、問題も多く抱えているモノが完成していた。
【試式測距定義眼】AS/PS
暗視・拡大・翻訳機能を有した義眼。
遠距離攻撃のクリティカル発生率+10%
SPを消費(1/10s)することで、不可視状態の
存在を視認・接触することが出来る。
・起動キー:意思起動/発声「霊視」
※片目分です。初回起動時は、目を抉り取り
自動装備することで起動して下さい。
要は進化元の3つの能力にプラスして、クリティカル発生率上昇と一部の敵への接触能力が追加された形だ。変数値がどこだかはわからないが、区切り的にクリティカル率と消費SP辺りだろうか。
「これ、性能としてはどう見ます? 俺としては《鷹の目》より初期クリ補正が5%も低いのが残念ですが」
「──ん、2つスキル枠が空いて尚と考えればプラスかと」
「ぐっぽーん」
《非実体のゴースト形敵mob嫌だなあって気持ち、とマスターは仰っています》
全員あえて最後の1文は無視して、純粋な性能だけを見てまずは考えてくれた。そしてその答えは、概ね俺自身の所感とも一致する。
倍率は気になるが、3つのスキルが1つになることで2つスキルの枠が空く。それは間違いなく超級のメリットだ。
存在が仄めかされた厄介そうな敵についても同様。知っていれば起動して撃ち抜けば良いだけのこと。
「ふぅ……」
深呼吸を1つ。
ともあれ、使ってみないことには始まらない。
始まらない……の、だが。
「GMコォォォル!!」
初めて通報以外の要件で、運営へのホットラインを起動した。
何せ全年齢対象のゲームで自分の目玉をほじくり出せとか、絶対に正気の沙汰じゃない。一応R指定が付くゴア描写フィルターとかはあるけども!
Q.新しく取得したスキルの使用条件に『初回使用時は目を抉り取れ』と記載されています。コレはどういうことでしょうか?
A.目玉を抉り取るか、取られるかして起動するということです。
Q.全年齢対象のゲームなのにおかしくないですか?
A.はい
Q.救いはないのですか?
A.そこになければないですね
「#ジャパニーズスラング#ッ!!」
最後の方は遊んでくれた運営に感謝をしつつ、しかして罵りながら手元のウィンドウを地面に叩きつけた。ガラスが割れるように砕け散る質問フォームが心地よい、ちょっとだけ気が晴れた。
「はーい質問です。この中で、ゴア描写フィルター解除してる人──!!」
R18指定のVRエロゲではそういうプレイもメジャー化して来ているらしいが、俺はまだそんな境地に達していないのだ。
やっぱりリアルの快感じゃバーチャルには勝てないのよと叫んで、違法ダイブの挙句逮捕されたジャンキーも記憶に新しい。
だが俺は!
そんな境地に!
達して!
いない!!!
「はい」
手を上げるFluoriteさん。知ってた。きっと貴女ならやってると確信を持っていた。OFFにした方が何故かご飯美味しくなるし。
ところでぇ、そのぉ、フィルターONにしてくれないですか……? くれない? そう……
「グポーン」
《覚悟、決めよう? とマスターは仰っています》
そんな僅かばかりの抵抗も虚しく、いつの間にか後ろに回っていたアブっさんに両肩を拘束されていた。
そのまま両足、胴体と自慢の6腕に固定され、磔にされた姿は手術台の上の患者もかくや。ならば、いつもより楽しげ──愉しげなFluoriteさんは執刀医か。
「優しく、痛くしないでシてあげます」
嫌だなぁ、嫌だなぁって。怖いなぁ、怖いなぁって。とんだホラー体験だ。この背中がゾクーッっとする気持ち、恐らく被捕食者のメンタル。センチメンタル。
「右目と、左目。どちらが良いですか?」
「ぇっと、スゥー……左目でお願いします」
ええいままよと、今日日聞かないフレーズで腹を括る。スキルに関しては実利優先。左前で射撃することが多い以上、文明の利器に頼るなら左側だ。
「大丈夫です。私、失敗しないので」
そう何処から来ているか分からない自信を胸に、最後の防壁であったフードが払われる。ゲーム内では久方ぶりに晒された陽光の下、小さなFluoriteさんの手がスッと左目に向けて伸びてくる。
「ぐぽん」
《許せヤブサメ、とマスターは仰っています》
誰が血継限界持った種族か。
内心そんな突っ込みを入れる最中、トンっと眼窩に細い指が添えられる。ふわりと香るのは甘い果物のような匂──いや違うこれメロンの匂いだ。確信犯だコレ! かなり古いドラマなのに!
「メロンです」
「はい」
「猿轡です」
「ふぁい……」
そして一応気遣ってくれたのか、愛槍の一部を噛ませてくれた。痛みはないとはいえ、絶対叫ぶだろうからありがたい。
「それじゃあ、せーので行きます」
無言で頷く。
「せーの」
ぐりゅん。
小さいけど大きな掌が迫って来て、細いけど太い指が入って来て──瞬く間にその全ては過ぎ去り、何事もなかったかのような光景が広がっていた。
「──!!」
暗転。
後に確認作業を開始する。
望遠よし、暗視よし、翻訳不明、霊視よし。新スキルは無事に起動してくれたらしい。よかった、本当によかった。
「ホラゲよりこわかった……」
「グポーン」
《よく頑張りました、とマスターは仰っています》
全身の拘束を解きながら、優しくアブっさんに頭を撫でられる。荒んだ心にはこういう人の温もりが一番効く。鋼の冷たさしか感じねぇや。
「……もしかして俺、気を失ってたりとかしてました?」
「ぐぽん」
《そうだね、30秒くらい。《気絶-特殊》の状態異常も出ていたよ、とマスターは仰っています》
そんな表示の状態異常は知らないが、察するにVR機器側からの緊急信号辺りだろう。心拍数やらなんやらの健康指標が、目玉を抉り取られる体験に反応して規定の閾値を突破したと。
例えばホラーが苦手な人がフルダイブVRホラゲをやった時に、ままあると言っていい反応だ。これだから近接戦闘、向いてないって断言されたんだよなぁ。
《運営AIとしては一時的なログアウト、及び精神の安定化を推奨します》
しみじみと考えを巡らせていると、これまで受動的だったアブっさんのAIがそんなことを伝えて来た。緊急ログアウトしないタイプのフルダイブVRゲーとして、とても一般的な対応である。
「いえ、大丈夫です。もう落ち着きました」
大きく深く、深呼吸を1つ。弓を撃つ時の応用で、心はすぐに落ち着けられる。
《心理スキャンを開始──完了。精神状況の乱れ小、ゲームの健常プレイは可能と判断》
「そういう訳ですので」
《了承しました。では引き続きゲームをお楽しみください》
〈スキル獲得! 《支援AI --》〉
一応そう対応してもらったが、目をつけられたっぽい。スキル自体は控えに回しておくが、字面からしてそういう雰囲気だ。
「ところで、下手人のFluoriteさんは何処に?」
「
ヌッと気配もなく、すぐ隣に呼んだ当人は現れた。なにか口がモゴモゴしてる辺り、また何か食べてるのだろう。こんな草原のど真ん中で何を食べてるのかは知らないが。
「さっきはありがとうございます」
「
「おや」
「
なんだかんだ一瞬で終わったし感謝しようと思ったら、全く同じタイミングで謝られてしまった。
むう、間合いの取り方を判断しづらい。何か食べてるのはいつものことだし、特に責める内容は無いのだが……
「謝罪は受け取ります。が、特に何も気にしてませんので」
「
これにてプラスもマイナスもなし、そういう風な事にしておきたい。だって悪いのは運営だ。*3
「んぺ。あと、これもお返ししますね。りんご味でした」
そう言ってFluoriteさんから手渡されたのは、直前まで食べ……舐め?ていたピンポン玉より小さいサイズ白い物体。まさかと思い手の内で回転させれば、なんという事でしょう。目が合った。Oh、、、
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【ヤブサメボーゲン2035の左目】
このアイテムは如何なる場合においても失われず、盗まれず、基本的に加工することはできない。
何かに使えることがあるかもしれないし、使うことは金輪際ないかもしれない。可能性は未知数である。
なんと爽やかりんご味。
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運営も正気じゃなかった。
邪神の末裔か何かか???
「なぜ?」
「好奇心に負けました」
「そっかぁ」
それなら仕方ない。マグロとかのは美味しいしね、実際。
「しかしなんだ、この、胸の、この……なんだ?」
Fluoriteさんを見ているとドキドキするような、ハラハラするような、そんな気持ちが止まらない。
「ぐ、ぐぼーん」
《恐怖か何かの類だと思う、とマスターは仰っています》
開けちゃいけない扉を開きかけてる気がする中、そのまま穏便にレベリングは続行されたのだった。
P.S.
個別にスキルを意識する必要がなくなった分、思っていた5倍くらいは《義眼》は便利なスキルだった。