元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする)   作:銀鈴

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14話 ねんがんのおおゆみをてにいれたぞ!

 

「弓という武器は古代から現代に至るまで、さまざまなな者達に使用されてきた道具だ。

 投擲に次いで生み出された遠距離火力という発明は、古来よりその威力を神格化し崇拝の対象とされてきた。呪術、或いは神事における祭具としての梓弓(あずさゆみ)や、近現代戦における戦場の女神とされた砲兵及びその前身たる弓兵がその良い例だろう。

 しかし、こと神話の兵装や英傑の武器となると、弓という存在は途端にその数を減らす。何故だか分かるか、“渡り人”ヤブサメ?」

 

 頼んでいた武器を受け取りに向かった例のお店。そこでの開口一番飛び出して来たのは、あいも変わらず頭の痛くなるような長文だった。

 鉄面皮としか言いようのない表情のなさだけど、それでも割と楽しそうな気配が伝わってくるのが割り増しで辛い。いやでも、段々癖になってきた気がしないでもないんだよなぁ。

 

「物語性を作りにくいからでは?」

「後世の創作者や観測者としての一面からすれば、その意見は全くもって正しい。スナイパー同士の単騎戦などという非現実的な想定からなる戦線でもなければ、剣や槍と違い遠距離武器に物語性は発生し難い。

 例外として詠唱を伴う古代の儀式魔法などは遠距離からの攻撃でありながら物語に組み込み易いが、それは魔法がある種の特殊な法則と畏怖により成り立っているからに過ぎない」

 

 近接武器とは違い意思のぶつかり合いが発生しづらく、魔法と違い神秘性という点が足りていないと。

 確かにそう考えると、いわゆる『伝説の剣』や『伝説の魔法』は幾つか思いつくが『伝説の弓』などは思いつかない。

 心当たりがあっても個人の武勇が数個程度。イラン神話における弓兵の語源となった勇者(諸説あり)とか、日本の船上の扇を撃ち抜いた武者くらいか。

 

「そして、この世界における弓や投擲も同じ道筋を辿っている。

 この世界が広く開かれる前に起きた弓や刀の使い手が起こした暴走も一因として、数多くの存在していた筈の歴史ごと情報が葬られた」

 

「つまり?」

 

「──おめでとう。事実上この武装は君専用だ」

 

 その後も、一言、二言、三語、五語とお小言を貰いながら受け取ったのは、製作を依頼していた新しい大弓。

 アブっさん達と狩っていた地上版リーフィーシードラゴンみたいな蜥蜴の樹木と、大型の蜘蛛型mobの糸。弾バカ達と挑んだダンジョン由来の工業素材。それらをゴブリンロードのアイテムを核に纏め上げた、2mサイズの巨大弓。

 その名もGB-16という、初心者の大弓と比較するとかなり近代化したメカメカしい大弓だった。

 

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【GB-16】

 正式名称:旧中央旗艦防衛軍制式採用型巨大弓。100年ほど前、武装が統一規格に変更される流れの内に歴史の波間へ消えた剛弓。

 軍の制式採用品だけあり、機械チックな見た目であるが、西の砂漠や東の海中でも優秀な成績を残している。

 Str+20 Dex+10 Agl+10

・耐久値自動回復

 耐久値:470/470

 強化試行回数:10

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【GB-16M】

 GB-16用の大型矢筒。

 入れた矢は望まない限り落ちることはなく、MPを消費することで自動的に任意の矢をストレージから補充できる(MP消費1/1本)

・耐久値自動回復

 耐久値:500/500 装填数:25/25

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 この新たな装備をFluoriteさんの装備していた市販品の槍と、アブっさんの装備するプレイヤーメイドの大盾と比較するとこう。

 

 【鋼の長槍】   Str+10 Agl+3

 【〈凄惨な牙〉】 Vit+28 Min+12

 【GB-16】    Str+20 Dex+10 Agl+10

 

 それぞれの合計上昇値は13、40、40

 特殊能力はなし、ダメージ反射、自動修復

 単純な比較をすればそう分類できる。

 加えて初心者装備では不可能だった、武器の強化が10回も試行可能。槍は3回、盾は9〜10回であることを考えれば、その性能は破格も破格。

 つまりこのゲーム中最も話が長い店主の技量は、プレイヤーと同等かそれ以上ということが証明されていた。その分とんでもなく話は長いが。

 

「その様子であれば、近くアウステルを襲う災禍にも対抗できるだろう」

「やっぱり起きるんですか。軍も動員しなければいけない何かが」

「子曰く『渡り人は吉兆であり凶兆である』という。此度はゆめ、内輪揉めで失敗などしてくれるなよ」

 

 最後に期待するとだけ言い残して、店主は店の奥へと引っ込んでしまった。どうせなら未だ空欄の頭装備も買いたかったが、まあ無理なものは仕方がない。

 簡易離脱ポイント*1と帰還札*2は買ったし、新たな大弓の習熟がてら山籠りでも──と考えながら数歩、歩いてから気が付いた。

 

「…………店主、リアル世界とβ版世界認識してなかった?」

 

 その時、ヤブサメに電流走る。或いはアイデアロールが成功したように、微妙に感じていた違和感が形になっていく。

 VR世界の全てが、うん、分かってきた。そうか、VRとは、AI搭載型のNPCとは、ゲッターとは……

 

ろうひはんれふは(どうしたんですか)やふはへ(ヤブサメ)。んぐ、宇宙猫みたいな顔をして」

「宇宙猫……宇宙ネコ……そう、俺は地球猫……」

「またこんど!」

「待って」

 

 おれは しょうきに もどった!

 ふざけるのは一旦辞めて、本当に正気に戻る。Fluoriteさんが引き留めてくれなければ、危うく電子の海に溶けるところだった。

 

「それで、何用ですか? 可食部の減ったヤブサメさん」

 

 うーん扱いが食材。

 

「いや、話しかけて来たのはそっちでは……?」

「ご飯と思ったら猫になってましたので」

「なるほど」

 

 文章.zipだがまだなんとか理解出来た。

 この前誘ったら食べ歩きに付き合ってくれたので、今回も誘おうとした。が、宇宙猫スタイルで固まっていたから心配してくれたと。

 思ったより昨日の目玉事件を気にしてくれているらしい。優しさが電子に染みる気がする。いや、食欲の方が強いやこれ。うん。

 

「ヤブサメさんはこんな場所で──ああ、森ですか」

 

 視線が俺、弓、顔と戻って納得したようにFluoriteさんは頷いた。疑問の途中で自分の中に答えが出て、納得出来てしまったのだろう。なまじ答えがほぼ合っているからタチが悪……悪いか? 

 

「新しい武器に慣れるついでに。Fluoriteさんも来ます?」

「ええ、美味しいご飯の呼び声がします。それに私も、カンを戻さなければなりませんので」

 

 そう言った彼女が背負う武器は、区分としては槍の系譜にあるのだろう。

 だがそれは槍と呼ぶには禍々しく、長く、異形の外観をしていた。

 先端に5つの刻み目を持った両刃の矛先があり、それを星のように5つのスイカに見える半月刃が彩っている。さらに半月刃の先には以前と同様、カラフルな水ヨーヨーが5つ接合されている。

 

 まるでそれは、夏が咲いた槍の花。

 

 正式名称を『混天截(こんてんせつ)

 斬・突・打の全てをこなす代わりに、使い手に桁違いの技量と体格を要求する、方天画戟と同系統のマイナーな重量武器。

 本来のFluoriteさんの得物が、その手に戻っていた。

 

食糧庫(もり)にはいつ出発しましょう?」

「今すぐにでも、と言いたいところですが。クローニンも呼びましょう。ヒーラーが居ると安心ですし、何より本の虫過ぎます」

「……いいですね、たらふく食べて貰いましょう」

 

 序でに配信でもして貰えば、あの増えてしまったチャンネル登録者達への供養にもなろう。

 半裸フードの機械化不審者(俺)が居るのはマイナスだが、可愛い女の子(片方は男だが)が、キャンプしながら、美味しそうな物を食べる。割とそれだけで、男という生物は釣られてしまうのだ。

 

 

 と、言うわけで。

 

「「「ここをキャンプ地とする(します)!」」」

 

 ゲーム内準拠数時間後。傾きかけていた日が傾き、しかし既に灯りが消えた黄昏時の森。虫の声と獣の気配が渦巻く中で、焚き火を中心に俺たちは休憩に入っていた。

 

「成果確認、ヤブサメから!」

「鹿肉! 鶏肉! 猪肉!」

 

 とても疲れ切った表情のクローニンの声に従って、食糧になり得る成果物を大きく掲げる。

 ここで一晩を明かす(ゲーム内時間)予定なのだ。街外で飲まず食わずで長時間活動すれば、必然『脱水』『空腹』『徹夜』を始めとした生理系のデバフが発生してしまう。

 

「Fluorite!」

「キノコ、草、果物、虫などですね」

 

 それを解消するには、よく食べよく飲みよく眠るしかない。幸いこの場にいるのは、全員が『鑑定』や『識別』持ち。毒に引っかかることも、食べ合わせくらいでしかないだろう。

 

「ボク! 煮沸した水! 魚! エビとカニ!」

 

 イェーイと、全員でハイタッチ。

 豪華、あまりにも豪華。自然の恵みはかくも偉大なり。主食になり得るパンや白米がないのは残念だが、そこら辺は街で調達済みなので無問題。

 

「調理開始の宣言をしてください、ヤブサメ!」

「調理開始ィィィ!」

 

 酒でも煽ったかのようなテンションだが、こういう野外料理は勢いが大切なのだ。勢いが。あと丁寧な下処理。

 しかしここで、1つの問題が浮上する。

 あくまで今居るこの空間はVRゲームの中。よって調理という行為にも、必ずやスキルの制約が付き纏う。具体的には、スキルなしのプレイヤーが作る料理はゲロマズだ。食材や調味料の使用にも制限が入る。

 そんなスキルなしが作った料理は、食べたという判定は残してくれるが最悪だ。だがわざわざ《料理》なんてスキルに10個しかない枠を割くのは、相当な変人か料理が趣味の者だけ。

 

「では私は、ふふう(普通)()おいひい(美味しい)もの()ふく()りますね(りますね)

 

 長距離遠征には食事等の補給が必須だが、補給の為に裂けるスキルの枠はない。故にかつてのβテスター達は考えた。その全てを一挙に解決する方法を。そして実現した。その全てを叶えた万能を。

 

「これなるはβテストプレイヤーの血と涙の結晶」

 

 万能調味料βと銘打たれたそのアイテムは、かつてのプレイヤー達が吐き気と毒とゲロマズ料理の果てに完成させた物。正確に言えば、現実(リアル)のアウトドアスパイス+衣を付けられるゲーム万歳アイテム。

 それを下味として付け、スキルなしでも1回の工程は失敗しないため準備は完了。失敗回避のため食材をクローニンへ受け渡し、最終工程に移行する。

 

「油にぃぃ、ぴょぉぉん!!」

 

 大鍋に満たし熱していた高温の油に、取り敢えず食材を全てぶち込んだ。

 水気たっぷりの海老を筆頭に、どうしようもなく発生する水蒸気爆発。

 暴れる油。ぐらつく鍋。そして全力で退避する俺とクローニン。

 何かクローニンの掛け声がちょっと可愛くなってるが、それ以外は幾度となく繰り返して来た雑調理。やったか……? 勝ったな。

 

「なんか、久しぶりにやると楽しいですねこれ」

「全く以て同意です。偶には外に出て遊ぶのも悪くありません」

 

 メス堕ちしても、心の内なる小学3年生スピリットは消えていなかったらしい。軽く拳を打ち合わせ、焦げる前のピックアップ準備に入る。

 

「空気が美味い」

 

 むしろ美味しい。

 

「空も綺麗」

 

 黄昏の色だ。

 

「ソロでの遠征は大好物ですが、やっぱり皆と行くのは特別楽しいですねぇ」

「まあヤブサメに誘われても、ボクはさらさら行く気ないですが」

 

 死に戻り前提の最大遠征には付き合わないと、話題を出す前に断られてしまった。知っている結果ではあったが残念だ。

 

「なら今回みたいな半キャンプなら?」

「喜んで」

 

 やったぜ。

 などと遊んでいたら、嫉妬と羨望で配信のコメント欄が爆速と化していた。フード取れ? 嫌です。ハーレム野郎? 残念ながら、本質はFluoriteさんの逆ハーレムだ。性別的にも、食材的にも。

 そうして、もぐもぐタイムを取ること暫し。完全に日が暮れ、現実世界でも日付が丁度変わった時だった。ピロンと、3人全員がメッセージを受信した。

 

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 【イベント予告】

 『前線都市防衛戦β』について

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 送信元は運営。その後にずらりと続く細やかな説明は一旦置いておくとして。

 遂に、アウステルの街で示唆されていた大規模な魔物の侵攻が。このゲーム(FEV)初めてのイベントの予告が、全てのプレイヤーに届けられた。

 

*1
指定場所以外でログアウト出来るようになるアイテム。通常時と違いアバターが残るので、テントなどで防御を固めないと危ない。

*2
最後にログインした場所に転移するアイテム。キメラの翼




 PN:ヤブサメボーゲン2035
 称号:大物喰らい
 種族:獣人(猿)
 Lv:32 所持金:1054 G
【ステータス】
 HP:185
 MP:80
 SP:192
 Str:85(105)Dex:45(61)
 Vit:5(14)  Agl:50(65)
 Int:5     Luk:20
 Min:15(18)
【スキル】
《弓Ⅶ》《体術Ⅵ》《領域魔法Ⅳ》
《隠密Ⅳ》《狙撃Ⅵ》《識別Ⅴ》
《試式測距定義眼Ⅰ》《軽業Ⅴ》
《看破Ⅲ》《疾走Ⅰ》
ー控えー
《支援AI --》《偽装Ⅰ》
【装備】
 頭:
 胴:弾薬ベルトwith野伏のマント
  (Dex+4 Agl+2)
 右手:GB-16(Str+20 Dex+10 Agl+10)
 左手:鋼鉄の弓籠手(Vit+5 Dex+3)
 腰:多機能ベルト(Vit+1)
 足:ハードキッカー(Vit+3 Agl+3)
 アクセサリー(3/10)
 ・GB-16M
 ・対異常の護符(Min+3)
 ・アイアン・サック(Str+3



 ヤブサメ君の弓は現在、最高飛距離が200mくらいです。
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