元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする)   作:銀鈴

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忘れがちですが主人公、検証班なんですよね一応。


15話 イベント前準備期間、またの名を虚無期間

 

 スキルシステムは1回進化してからが本番だということは、義眼の所為で身に染みて思い出せた。

 だがアレはあくまで、常在効果のパッシブスキルの場合。技や魔法を使うためのスキルや、一時的な強化スキル。それらアクティブスキルが1段階進化した場合どうなるのか?

 

 その答えは──システムがレベル式からスキルツリー式に変化する。

 

 参考までに《弓》スキルを挙げると、

 

 《弓Ⅹ》

 Ⅰ──技『パワーショット』

     『ロングショット』習得

 Ⅱ──技『アーマーピアス』

     『ダブルショット』習得

 Ⅲ──スキル性能強化

 Ⅳ──技『スナイプショット』

     『ファストショット』習得

 Ⅴ──技『ストップショット』

     『トライショット』習得

 Ⅵ──スキル性能強化

 Ⅶ──技『アサルトショット』

     『レンジショット』習得

 Ⅷ──技『アンカーショット』

     『アローレイン』習得

 Ⅸ──スキル性能強化

 Ⅹ──大弓装備時攻撃力+3%(パッシブ)

 

 こういった形で成長していく。

 分かりやすいレベルアップ形式で、基本的に成長は一律。全プレイヤーが同じスタートラインに立ち、よーいどんでスタートして、全く同じゴールに辿り着く。

 ゲームを運営する側としては楽な方法だが、正直プレイヤーとしては面白くない。娯楽的にも、それ以外の意味でも。

 

 だからこそ第2段階から実装されるスキルツリー方式は、自由度が格段に増した代わりにシステムが複雑化している。

 簡単に言えば『スキル熟練上昇時に数値×10のポイントを取得し、それを様々に割り振ってスキルをカスタマイズしながら成長させる』のが第2段階だ。取得時は1ポイントだけ貰える。

 実際それがどうなっているのか、この度《弓》スキルからめでたく進化した《剛弓Ⅱ》のスキルで見てみよう。

 

剛弓マスタリー(3/10)Lv1《弓》スキル継承

Lv3剛弓・烈火(3/3)剛弓・轟炎(1/5)剛弓・爆焔剛弓・獄火

剛弓・旋風(3/3)剛弓・旋刃(1/5)剛弓・疾風剛弓・鎌鼬

剛弓・時雨(3/3)剛弓・驟雨(1/5)剛弓・篠突豪弓・滝落

 

 当然この後も、Lv5・7・10と刻んで表が下に進むほど習得できる(アーツ)の種類は増えていく。右に進んでも当然増えていく。

 弓スキルの時点であった『スキル自体の性能強化』も《スキルマスタリー》のツリーで同じポイントを消費して行い、当然渡されるポイントは全てを埋めるには足りな過ぎる。

 ただし時間と資金消費こそあれポイントの振り直しは自由で、例外もあるが1ポイントでも振れば技自体は習得可能。よく出来た形で、友情裁定も出ている。

 これで魔法系のスキルよりは、まだ割り振る項目が少ないのだからお笑いだ。笑えないが。──とまあ、自由度が桁違いに跳ね上がっている。

 

「ゔぁー……」

 

 結果として、検証作業は地獄のような手間暇をかける羽目になったのだった。ログインできる時間の都合も相まって、かかった時間は1週間。

 諸々の費用は依頼してきた検証班本部側に全額負担、報酬もいい感じの額を出してもらった。が、それはそれとして脳が溶けるような日々だった。

 

「どうしましたヤブサメ。FXで有り金全部溶かしたみたいな顔をして」

「タマ……時間は全部溶かしたよ……だって、ほら、大弓なんて。大弓の派生スキルなんて、俺しか使ってないから……」

「タマじゃなくてバッチバチなのですが」

 

 心配そうな声音で話しかけてくれた弾バカに、ふわっふわした脳でフワッフワな答えを返す。

 問題はやはり弓を使うプレイヤーの少なさ。そのせいで一応β版の時点で存在するスキルだったのに、変更点がないか大体全部を1人で再検証する羽目になったのだ。

 

「結果はどうでした?」

「エフェクトのON/OFFが追加されただけで実数値は特に何も」

 

 調べた結果は以下の通り。

 

 『炎系』の剛弓は炎のエフェクトがカッコイイが邪魔で、

 ・烈火→低射程高火力の強化版《パワーショット》

 ・轟炎→同上+距離が近いほどダメージ増の強化版《アサルトショット》

 ・爆焔→クリティカル時にダメボが付く強化版《スナイプショット》

 

 『風系』の剛弓は風のエフェクトが五月蝿く邪魔で、

 ・旋風→長射程低火力の強化版《ロングショット》

 ・旋刃→同上+距離が遠いほどダメージ増の強化版《レンジショット》

 ・疾風→高速射撃の強化版《ファストショット》

 

 『水系』の剛弓は水飛沫が結構綺麗で、

 ・時雨→5本同時射撃、言うなれば《フィフスショット》

 ・驟雨→文字通り矢の雨を降らせる強化版《アローレイン》

 ・篠突→水飛沫が眩しい範囲射撃+速度と攻撃力デバフ

 

 獄火、鎌鼬、滝落はポイント不足で検証失敗。

 どれも共通してエフェクトこそあれど魔法ダメージはなく、王道な進化をしたお陰で概ね上位互換へ変化した形だ。マイナスは少々SP消費が重くなったことくらいか。

 

「あー……でも。元々《剛弓・雨垂》だった(アーツ)が、《篠突》なるものに変わってましたね」

「ほう、その心は」

「防御貫通から特殊な範囲射撃になってました」

 

 元の《雨垂》は範囲攻撃のツリーにあるのに何故か単体攻撃で、SP消費が軽く、柔い敵にも硬い敵にも使え、累積防御down付与とかいう最強汎用技。

 改めて羅列すれば明らかに修正案件だが、当時のメインウェポンだっただけに悲しい所がある。

 

「弾バカこそ何か進展は?」

「《障壁魔法》が《力場魔法》に進化した程度です。《弾幕魔法》の進化にはまだ足りないのですよね」

 

 ──などと、適当にギルドホームで駄弁っている理由は1つ。

 今日はイベント開始1日前(リアル時間)、FEV(このゲーム)はイベント直前の虚無期間であった。

 あとレベル上げの為に適正レベル帯以上のマップに凸って乙ってデスペルティ中でもある。

 

「というか、ガッポリ報酬貰ったんでしょう? 何か奢って下さいよヤブサメ」

「残念ながら既に金欠なんだな、これが」

「博打でもしました?」

「通常矢以外は、矢弾の値段がね……」

 

 高防御を抜くための『徹甲矢』

 魔法による防御を抜く為の『破魔矢』

 矢版フラッシュバンである『雷鳴矢』

 etc……

 寂しかった弾薬ストレージを埋めた結果、結構なGが吹き飛んでしまった。その分やりたいことをやれるようになって来たが。

 

「もう一度検証班して来たらどうです?」

「断固拒否」

 

 確かに検証班として珍しく活動したお陰で、特化成長時の体感やスキルの使用感覚を学べた。改めてヤブサメボーゲン2035の構築(ビルド)方向も決められた。報酬だって独り占め。

 向こうもこちらもWin-Winで取引は大成功……である筈だ。

 だったのだが……ただ、こう、なんと言えばいいのか。

 疲労が、疲労感が凄い。

 未だに脳裏に過るのだ。まだ休んじゃダメですよって、検証を続行させようとするウサミミのプレイヤーが。上増しされた報酬に、嬉々として頷く自分が。魔王だ……あれは魔王だ……

 

「みんなもさ、ほら、使おうよ弓。最悪クロスボウとかそっち系でもいいから」

「お、壊れましたねこれは」

 

 俺もやってるんだからさ(同調圧力)

 クソ地味ってクレームにも、当てられないってクレームにも、こんなに運営がテコ入れしてくれたんだ。ほら、かっこいいでしょ、エフェクトも派手なのがついて──

 

「ハァイ、ジョージィ……」

「バッチバチですが」

 

 I guess so. (そっか。)I gotta go.(ばいばーい)と脳内からカッパを着た少年の幻覚が去っていった。Oh……No……布教失敗。

 

「ふむ……ヤブサメヤブサメ!」

「ボーゲンです」

 

「1+1は?」

「みそスープ」

 

「8+7は?」

「ば な な」

 

「よし、ふざける余裕はまだあるみたいですね。シベリア送りにしてあげます」

「!?」

 

 思わず古いヤンキー漫画によくありそうなマークを出しながら、突っ伏していた机から弾バカに手を引かれて──引かれて? ああ、力場魔法。便利なバリアだこと。

 

「気晴らしに出かけますよ。何かよく分からないものが売ってる謎の店とか、意味不明なアイテムを売ってる謎の店とか行きましょう」

「なんですかねその、絶妙に興味が唆られるけど唆られないラインナップ」

 

 とはいえ、断る理由も特になし。むしろ行ってみたいわそんな店。まて、これは「慌てるな、孔明の罠だ」案件では?

 

「あ、2人とも。遊びに出かけるなら、検証班本部に宅配頼まれてくれませんか?」

 

 まあいいかとなされるがままになっている所で、少し慌てた様子のクローニンに呼び止められた。まあそれくらいなら、と弾バカの方を見れば頷く……ような雰囲気の動き。

 

「あとヤブサメには視聴者プレゼントがあります。名指しなんて人気ですね」

 

 そう言って、トレード画面を起動させたクローニンからアイテムを受け取る。視聴者プレゼント……ということは、動画関連だろうか?

 

 ==============================

【正体隠しの仮面】

 目元に穴が空いている白い仮面。歴戦の傷跡か、赤褐色の爪傷が走っている。

 Vit+1

 変声:女性・自然・大人しめ

 耐久値:1000/1000

 強化試行回数:5

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《添付メッセージ》

 可愛い女性ボイスの中に男性ボイスが入ってるのはノイズ。

 なので是非欠けているお姉さんボイスメンバーになれ。なってください。なって欲しい。お願いします。本当にお願いします。

 添付:100,000G

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 無言で装着した。

 ち、違うんだ。これは決して金に屈したとかそういうわけでは。

 

「ヤブサメ? どうかしましたか?」

なんでもないですよ。今度こそ行きましょうか

「ブフォッ!」

 

 よし、一発ギャグは大成功。

 そうして俺たちは、正式サービスを始めて以来初めて[クエスト]*1を受注して、俺たちは街へと繰り出した。

 

 

 そうして数分もせずたどり着いた目的地。中央旗艦都市ケントルムの一角、ギルド【ワールド・シーカーFEV本部】のホーム。クローニンが出したおつかいクエストの終着点。

 

「どうだ、クローニン嬢のところの

 検証班(俺たち)努力の結晶(ブツ)を見てくれ。こいつをどう思う?」

「「すごく……大きいです」」

 

 そこで俺たちを待ち構えていたのは、携行できる盾──という名目で作られた馬鹿みたいなサイズと厚さの壁だった。

 それは盾と言うには、あまりに大きすぎた。 大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。 それは正に城壁そのものだった。

 丸太の筏に金属と取っ手をつけただけに見えるそれは、俺たち末端じゃない検証班本部のマッド達が作り上げた対イベント用決戦兵装。

 

「名前を【ランパート・シールド】。重装備しか作らないお抱えの変人と、城を作ることを夢見る変人、そして最前線を越えて素材を取ってくるあんたらみたいな変人。その総力が合わさり完成した城壁だ」

 

 正に名は体を表すを具現したバカみたいな盾は、試しに《識別》スキルを使ってみても解析不能。相当以上の素材が使われていることは明らかだった。

 1日経つと設置などで所有権が放棄されたアイテムは消えてしまうので、取れる対策としてはこれが一番だろう。次点で落とし穴とか塹壕掘り。

 

「あー、そーゆーことですね完全に理解しました」

「してない奴の常套句だろうがよオメェ」

 

 雑に答えた弾バカに、キレながらため息を吐いて男が……検証班のトップの方にいるらしい、PN:アスピダは答える。

 

「この『盾』としてストレージに入れて携行できる『壁』を使って、俺たちは今度こそNPCの盾になるのさ」

「もしかして、β版で街中に取り残されたクチですか?」

「正確には残って守ろうとした、だがな」

「あー……」

 

 苦味を噛み締めるようなその答えに、どうしてこんなバカみたいな盾を作っていたのか得心がいった。

 βテスト期間中の初回拠点防衛イベント。それは悪夢の同義語だ。たった1人の馬鹿なプレイヤーとそれを支持した集団によって、半ばゲームが崩壊した最悪の日。

 まるで人と変わらないNPCが、自らの腕の中で冷えて砕け散る感覚。それをトラウマとして抱える者は少なくないと聞く。

 

「逆に聞くが、お前たちは何もないのか?」

「トラブるのが分かってたので、あの時はあまりログインしてなかったんですよね。弾バカは?」

 

 俗に言う弓道警察暴走事件。あの時は弓を持ってるだけで余計な輩に突っかかられたので、あの時期はログイン頻度が激減していた記憶がある。受験勉強がその分捗った。

 

「面倒なので元鞘に収まって遊んでました。ヤブサメも一緒にやりませんでしたっけ?」

「あー……あの弾幕ゲーなのに、自機同士の対戦モードを盛り込んだアレですか」

 

 あのVRゲーム、まだオンラインサービス継続してるのだろうか。久し振りにやりたくなってきた。

 

「まあ、あんたらにトラウマがないならいいさ。相変わらず遠距離火力は足りねぇが、またバカが出ない限りはなんとかなる」

 

 ガッハッハと笑うアスピダの言う通り、β版と比べて正式サービス版はアクティブプレイヤーの数が桁違いだ。規律だって動くプレイヤーはあまり居ないだろうが、戦いは数ですよ兄貴。

 ところで弓兵隊は……? NPCしかいないと。魔法部隊はPL側でも組めるのに? そう……

 

「そうですね! まさか正式サービスでも、アイツが騒ぎを起こす筈もありませんし!」

「フラグを立てるな、輪っか叩き割るぞ弾幕野郎!」

「残念! 私は性別不詳の弾幕の精霊──野郎ではありませんとも!」

「ああ言えばこう言う……PvPだこの女郎!」

 

 さてはノリノリだなこの盾男?

 謎の店巡りもいいが、こういうのも気分転換には悪くない。フラグが立ってしまったような一抹の不安感はあるが、張り切っていこーう!

 

「HAHAHA、弾幕の私にPvPを挑むなど笑止千万!

 友情トレーニングの時間です!」

「うぉぉぉぉ、唸れ【ランパート・シールド】!」

 

 なお、勝ったのは当たり前に弾バカであった。

 弾幕使い相手に戦域を限定したら、そらそうなるよ……

 


 

【おまけ】

 本編じゃテンポを崩すので入れなかった、クソ面倒な魔法側のスキルツリー(現行のヤブサメくんの割り振りを添えて。

 自由度の代償さん。領域魔法の場合、2つ目ツリーが領域の数だけ存在することになる。

 

領域マスタリー(6/10)Lv1領域4種取得
Lv3領域追加権(要50P)+同系2種同時展開
Lv5領域追加権(要50P)+異系2種同時展開
Lv7領域追加権(要50P)+???
Lv★フィル・コントロール

 

円形強化効果範囲増加Ⅰ(5/5)効果範囲増加Ⅱ(10/10)効果範囲増加Ⅲ(15/15)

表示数増加Ⅰ(10/10)表示数増加Ⅱ(15/15)表示数増加Ⅲ(20/20)

欺瞞情報無効化Ⅰ(10/10)欺瞞情報無効化Ⅱ(0/20)解放条件:Ⅱ(20/20)

探知情報詳細化Ⅰ(0/10)解放条件:Ⅰ(10/10)解放条件:???

領域内オートマッピング(10/10)領域内オートマッピングⅡ(0/30)解放条件:Ⅱ(30/30)

 

 角形強化状況:効果範囲増加Ⅰ(5/5)

        ダメージ増加Ⅰ(5/30)

 方形強化状況:効果範囲増加Ⅰ(5/5)

 星形強化状況:効果範囲増加Ⅰ(5/5)

 

領域習得円形索敵(初期)索宝(5/5)──

方形堅守(初期)抵抗(5/5)──

角形強攻(初期)高速(5/5)──

星形迎撃(初期)天導(5/5)──

*1
直訳で探索とか。ゲームにおいては依頼とか試練など、言うまでもないアレである。




ヤブサメくんの装備がどんどん不審者ロボになっていく……
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