元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
[p.m.20:04(
[南部前線都市アウステル・南門]
1限の講義は入れてなかったとはいえ流石に平日。2限3限4限5限と普通に講義はあったので、泣く泣く午前10時頃にはログアウトした。
再ログイン出来たのはこの時間になってから。リアル朝の狙撃パーティーから数えて、今はゲーム内では1日経過した昼頃になる。そうなれば、多少は戦局が動いていてもいい筈なのだが……
「やっぱり、こういう所はちゃんとゲームしてるんですね」
掲示板を探ってみたり実際に門の上に登って確認したが、戦局は朝の時点から大きく変化していないようだった。
地上から迫る敵mob達はNPCが築いた陣地で迎え撃たれており、変化は鳥型の敵mobが出現し対空射撃が盛んになった程度。
プレイヤーも変わらず陣地内から迎撃したり、パーティ単位で離脱して狩りと言えばいいか、遊撃と言えばいいか。好き放題暴れるような動きをしている。
「南部戦線異状なし──」
プレイヤーはびっくりするくらい死に戻ってる?
NPCと違って復活するし、別に被害として計上しなくていいだろう。
故に、総じて変化なし。
流石にイベント開始初日から、どデカく何かを動かすような真似はしなかったらしい。ゲーム的な配慮が有難い限りである。
して、そんな平和な膠着が続いている間に、再びイベントに参加と洒落込みたいのだが…………いつものみんなが、アブっさんしかログインしてない。
悲しいかなネトゲの宿命。フレンドがログインしていない事例に直面してしまっていた。
アブっさんとのペア狩りも決して悪いものじゃないが、俺だけじゃおし寄せる雑魚を捌ききれない。いずれ真綿で首を絞めるように、俺だけ削り殺されるのがオチだ。
同じ理由でソロ参戦もアウト。範囲攻撃が出来るにしても、12〜3発しか撃てないんじゃ長くは保たない。
「こういう所も、弓使いが増えない理由ですよねー」
独り言の後、大きくため息。
後で銃に乗り換える人は能力
さて。ここで問題だ。
現状の自分には範囲火力が足りず、
イベント参加が可能な程のフレンドが居らず、
今朝と同じ高台からの火力支援か、今朝の消費分の補給程度しかやれる事はない。
Q.この状況でイベントを楽しみつつ、いい感じにスコアを稼ぐには何をすればいいでしょう?
「へーい、そこの特攻隊! 俺もメンバーに加えて貰っていいですかー?」
「おー、あんたもスコア稼ぎか? いいぜ、人数増える分にはなんともねぇ!」
A.今朝から一定数いた生存度外視のプレイヤー群に参加する
門の外。NPCの陣地の後ろでたむろしていた連中に声をかけた。
多分これが一番早いと思います。
大体スコア稼ぎがしたいだけの集まりだから、必要以上の何かもない。一番気楽にこのイベントを遊ぶなら、割とこういう立ち位置が最高だと思う。
「ヤブサメボーゲン……ってあの森の奴か。ざっくりでいいから何出来るか教えてくれ!」
「メインは索敵、紙耐久ですが火力とバフは撒けますよ!」
「了解、なら中段か後方からいい感じにやってくれー!」
「へーい」
確認されたのは何が出来るかという最低限だけ、今朝見ていた集団の中でも緩そうな場所に入ったお陰か、そんな感じで受け入れて貰えた。
しかし『森の奴』で周知されてるのは、なんか微妙に納得がいかない。せめて弓とかゴリラとか入らないのだろうか。
「何人か飛び入りが増えましたが、そろそろ突撃の時間です。という事で、ウチらの隊長からちょっと挨拶があります」
そう魔法使いらしき人が告げると同時、視界外からエントリーしてくる3つの影。
左側、ケモケモしい屈強なモフモフのプレイヤー。決めているポーズはモストマスキュラー。
\キレてる! キレてる!/
\毛皮と筋肉のマリアージュ!!/
右側、透き通った鉱石生命体。筋肉はどこかは知らないが、自信満々にサイドチェストを決めている。
\土台が違うよ土台が!/
\結晶筋が光ってる!/
そして中央。今朝も見た筋骨隆々な、大剣二刀流のキメラなお方。ビシッと決めているのはフロントダブルバイセップス。
\生物の特徴と一緒に筋肉も取り込んでるのかよ!/
\暗黒筋肉のキメラ=アント!/
何処からともなく聞こえてきた掛け声に、何故か現場のボルテージが上がっていく。心なしかDJが回しているようなBGMの幻聴まで聞こえてきた気がして────
「「「スピアヘッド隊へようこそ!!!」」」
カッッッッ!
突然筋肉が放った眩い閃光が目を焼いた。
おお、筋肉。或いはマッスルよ。我らがパワー↑の祈りが聞こえぬのか……
「やめんかバカ共!」
即座に直前まで説明をしていた人が、3人をハリセンで殴打して筋肉の発光現象はおさまった。
どうしようキャラが、キャラが濃い……でもゴリラとマッスルは≒だから分からなくもない……なんだこの感情は。
「……!」
などと考えていたら、目が合った。
キメラの人が何かを感じ取ったのか、明らかにこちらを見据えながら無言のラッドスプレッド・バック。筋肉と白い歯が眩しい。
「……ッ!」
こちらも対抗してサイドチェスト。
こちらヤブサメ。筋肉式コミュニケーション(???)で対話を試みる。
CQ CQ DE YBSM2035 AU K(全局呼び出し。こちらヤブサメ2035、アウステルより。どうぞ)
返答やいかに。
YBSM2835 GE UR PRTIN BK(こんばんはヤブサメ2035、そちらの信号はプロテインです。どうぞ)
BK GE UR PRTIN TU(感度良好。こんばんは、そちらの信号も同じです)
QSL UR MUS ARC MUS SP SA TU E E(了解、その偏った筋肉、弓兵とお見受けする。筋肉式の対話ができて満足、Thank you)
TU E E (Thank you)
ポージングによる無言の対話の終了後、ニカっと向こうが笑顔を見せた。仮面越しだが同じように笑顔を浮かべ、こちらの返答とする。そうしてそのまま無言で近寄って、ガッツリと握手を交わした。
いいよね、
パンがなければプロテイン。己を鍛えなさいと、かのマリー・アントワネットも言っているのだ。間違いない。
「なかなかなりますね、キメラのお方」
「そっちこそ、弓兵殿」
「うそでしょ……ポージングだけで会話が成立してる」
ツッコミ役の女性が絶望したような顔でこちらを見つめ、言葉を溢していた。確かに我ながらちょっとアレだとは思ったけど、読み解けてる時点で貴方も同類だと思うのだが。
「えー……あー……はい。改めて!」
この混沌とした場の収集は諦めたらしい。
「こちらからお願いしたいのは2つです。
・誤射をしないこと
・日和らず前進
それ以外は自由に、各々好き勝手して下さい。よろしくお願いしまーす!」
ツッコミ役の少女に対して、うぇーいとまばらに返事の声が上がる。そんな緩いバイトみたいな雰囲気で、集まった十数人がそれぞれにバフを掛けていく。
「ところで弓兵殿」
どうせなら俺もバフを撒いておくかと思ったところで、握手を交わしたままだった筋肉のキメラに話しかけられた。
しかし、改めて凄いなこの人。ライオンヘッド、爬虫類系の鱗付きボディに腕がゴリラで背中に羽、下半身は丸々4脚のチーターとは。今朝、上から見た時は分からなかったが尻尾も鰐か何かかこれ。なんてロマンだけを詰めたケンタウロスッ!
「なんですかキメラ筋の人」
「私はそんな足の筋肉に特化はしてないのだが……?」
何か微妙に話が噛み合ってない気がする。
「まあいい。弓兵、君は確か索敵が得意と聞いた。共に一番槍を駆け抜けないか?」
「いいでしょう、筋肉のよしみです。背中は空いてますか?」
「いいや、残念ながら指定席だ」
せっかく久しぶりに流鏑馬的に撃とうと思ったが、どうやら指定席だったらしい。視線の動きからして乗り手は、さっきツッコミ役だった魔法使い系の女性か。
件の女性に頭を下げられたが、手を振って断っておく。先頭の景色は譲って並走することにしよう。走りながらの射撃は慣れてるし。
「ところで、あー……名前はなんとお呼びすれば?」
改めて話そうと思い、見上げた先にあったのは[PN:その
「適当にキメラ筋でもなんでもいいさ」
「ならキメラ筋の人。索敵は出来ますが、向かう方向は?」
「敵の多い方に」
白い歯が眩しい笑顔で、ポージングを決めなからキメラの人が言う。ふっ……聞くのは野暮な内容だったらしい。筋肉がそう言っている。
「出撃までのカウントダウンを開始しまーす!」
ツッコミ少女がキメラ筋の人に騎乗し、いよいよ準備が整ったらしい。十数名のプレイヤーが、何も言わずとも一本の槍にも似た形で集結していく。
「領域魔法《
展開した領域から伝わってくるのは、ちょっと洒落にならないレベルの数で迫ってくる敵mobの反応。レベルが上がり200m半径になった探知範囲には、既に表示限界の50体を越えて表示されている。
[南142m ウルフ 危険度:中 戦闘中]
[南東59m ゴブリン 危険度:中 戦闘中]
[南南東88m 名称不明 危険度:中 戦闘中]
etc……
幸いにもレベルは多少向こうが上で済んでいるが、改めて確認しても馬鹿みたいな数をしている。その中で敵が密集しているのは──
「敵が密集しているのは南東方向ですね」
「了解した。チーターの脚が作る加速についてこれるかな、弓兵殿?」
「当然」
馬鹿でかい剣を両手に構えたキメラ筋の人と並ぶケモケモしい人、結晶が透き通った鉱石生命体の背後。続く形で大弓を構え、いつでも攻撃可能な体勢を整える。
「カウントダウン5!」
イベント始まって以来初めての地上戦だ。いつもの面子でなく行きずりの筋肉達と、という点はマイナスだが心が躍らない訳がない。
「4!」
防御陣地としか呼べそうにない簡易的な要塞の中央。貨物の運搬用であろう通路から人が捌けていく。
「3!」
開かれた道を助走路に、大地を蹴って加速していく。
「2!」
適当に集まっただけの集団である筈なのに、俺たちは一丸となって放たれた矢のように加速する。
「1!」
陣地がもうすぐ途切れる。
それは即ち、適応されていたイベント専用の特殊バフが切れることを意味する。特殊な攻撃力や防御力の上昇が途切れればどうなるか。そんなこと、眼前を埋め尽くす敵の群れを見れば想像に難くない。
「総員、突撃ぃぃぃぃッ!!」
だが──昔、偉い人は言った。
『攻撃は最大の防御である』と。
その言葉を証明するような光景が、突撃の開始と共に広がることになった。
「
俺自身が放った矢の雨を含め、殺到する無数の
「さあさあ! 稼ぎどきです、出し惜しみなんてするものじゃありませんよ!」
その殲滅力はさながらマップ兵器のよう。
死に戻り前提という狂った死生観のバカ達によって、戦場が一筆書きのように削り飛ばされていく。これぞ数の暴力と言わんばかりの破壊力だが、当然のように代償は存在する。
「グワーッ!」
「ナムアミダブツ!」
「筋肉死すとも、マッスル死せず──!!」
鏃となっている筋肉3人と俺を含めた5人も含め、当たり前のように連続する被弾。まだ回復と防御バフで耐えることは出来る範囲だが、後方に行くにつれ被害は顕著だ。
足の遅い者から脱落し、敵の群れの中に取り残され、奮戦も虚しくリスポーンさせられていく。今朝も散々見た文字通りの玉砕。もう少し悲壮感があるものかと思ったが、なんか楽しそうなんだよなぁ。
「「「スキル起動、《狂戦士の魂》!!」」」
「いィッ!?」
人数が減るにつれ、必然的にこちらの殲滅力も減少する。ひいては被弾率が上がり、被ダメージが伸び、進行速度まで急速に萎んでいく。
そんなありふれた特攻の末路に向かう最中。前方で暴れる筋肉三人衆が突然、全く同じタイミングでスキルを起動した。
《狂戦士の魂》
それは記憶が確かなら、区分は大凡自爆スキル。
起動したが最後、装備中の防具と遠距離武器のすべてが弾け飛び、被ダメも与ダメも2倍になる決戦スキル。あと30秒後or死亡時に、スキル起動後に与えた分+受けた分のダメージを伴って自爆する。
つまり、眼前の3人がインナーのみの変態の編隊になるのは必然で。
「うわぁァァ変た──あれ?」
思わず叫び声を上げかけたが、不思議なことに。本来飛び散る筈の防具や遠距離武器がない。つまりマッスル三人衆は、そんなもの最初から装備していなかった……???
「やっぱり変態じゃないですか!!」
「サラダバー!」
復活した叫び声に呼応するように、結晶生命体の筋肉3号が爆発した。
改めて考えると、結晶生命体に筋肉ってあるのだろうか。わからん……ぜんぜんわからん……
「ぅルルル……ワン!」
「喋れなかったんですか!?」
次に限界が訪れたのはケモケモしい筋肉2号。
何の躊躇いもなく、近場の群れに突っ込んで爆発した。えぇ……じゃあ最初のマッスルフラッシュの時に聞こえた3人目の声はいったい誰ぇ?
「では、またな弓兵殿」
「Good Luck!」
最後に、大剣二刀をブンブン振り回していたキメラ筋の人も爆散した。当然その背に乗っていた少女も、一緒に空へ向けて打ち上がり──あ、爆発した。
昔のVRMMOだと1プレイヤーの手でビルが花火として打ち上がってたらしいけど、最近は人が花火になる原点回帰が流行っているのかもしれない……? いや、ないか。
「あっ」
などと、意味不明な光景に思考を止めてしまったのが運の尽き。弾バカでもなければ避けられないだろう、火力の壁が目の前に出来上がっていて。