元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
[p.m.23:04(
[南部前線都市アウステル・南門・郊外]
「ひとつ疑問なのですが」
「なんです、タマ?」
「クローニンが今回のイベント、まともに動画を投げてないのはなぜです?」
ギルド全員でのイベント攻略が決定されてから1時間とちょっと。連日筋肉達との突貫をしていたイベント陣地奥。そこに俺は、いつものメンバーと共に居た。
「ああ、それですか。ぶっちゃけた話、撮れ高が殆どないんですよね」
「グポン?」
《どういうこと? とマスターは仰っています》
「この防衛戦イベントって余計な横槍さえ入らなければ、古いソシャゲでいう古戦場や危機契約、若しくはディフェンド・オーダーの類なんですよ」
つまり遊んでいるプレイヤーからすれば楽しいが、側から見ている限りでは特に楽しい点がないと。フルダイブのVRゲームという都合上、雑談とかもなかなか出来ないだろうしなぁ。
「それでも一本くらいは出したいから、今回の企画を提案したんですよ? ボク」
「はえ〜、苦労してるんですね」
「お、
「やめて下さいよ。本気で喧嘩したら、クローニンが私に勝てる訳ないじゃないですか」
どこかで見たような喧嘩の内容だが、割と真実なので反応に困る。戦域が限定されるPvPに於いて、極まった弾幕魔法は割と最強に近いのだ。アブっさんみたいにダメージが通らない相手を除けば。
「しかしまた、なんというか。名は体を表すというか」
「
「してない」
クローニンを茶化そうとした次の瞬間には、思わずFluoriteさんにツッコミを入れる。一体どこからそんな発想が出てくるのだ。胃か。胃かな? 少なくとも消化器官だろうなぁ……やっぱ胃っスね(確信)。
「誰が苦労人のクローニンだって!?」
「グポーン」
《間違ってないのでは? とマスターは仰っています》
「ピーーーーッ‼︎」
「沸いたかな?」
「#言葉では表せないようなTS少女の叫び#!!」
人間性をどこかに捧げ、仮にも女の子がしてはいけない表情をしているクローニンは置いておくとして。
ここまで、詰まっていた前が空いた。時間ゆえか思ったより人が多く渋滞していたが、どうやらやっと順番が回って来たらしい。
「くっ……よくもみんなして、ボクを弄んでくれましたね!?」
なんてことだ。身体を抱くようにして叫んだクローニンにコメント欄は止まらない……加速するッ!
「でももうちょっと、顔を赤らめた方がいいんじゃないですかね? 70点」
「グポン」
《しなを作ろう! とマスターは仰っています》
「"覚悟"が足りてませんねクローニン。もっと魅せに行きましょうよ! 72点!」
「
「み、みんながマトモな点を付けてくれてる……!!」
思ったことを素直に口にしたら、両目に涙をいっぱいに溜めてクローニンが崩れ落ちた。ククク……ひどい言われようだ。まあ事実だからしょうがないけど。
「──ハッ! この流れは不味い!
みんな、“
もうちょっと遊んでいたかったが、我らがリーダーがそう言うのであれば。運営よ、我らが一丸となる力を思い知るがいい。
「とうっ!!」
全員が特に意味もなくジャンプし、道中の10分くらいで練習したポジションにドッキングしていく。
本体! アブっさん!
前方! 槍を構えたFluoriteさん!
後方! 盾の影に俺とクローニン!
頭上! しがみつく弾バカ!
これぞ伝統の、乗っただけ融合ならぬ乗っただけ合体!
「完成!」
「アーマード・タンク
「重火力人型戦車!」
「パーフェクトソルジャー!」
アブっさんを除くそれぞれで、適当に思い思いの言葉を叫びながらカッコよさげなポーズで見栄を切る。効果音が足りないからちょっと物足りなさはあるが、スクショの音は聞こえるし勝っ──
「ブッピガァン!!」
《未来の法皇 ガチタンデ
──モノアイ起動音じゃない音がアブっさんの口から発生していた。
「「「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!! 」」」
よく見て見たら、アブっさんの称号が普段の〈大物喰らい〉や〈守護者〉ではなく〈ブッピガァン〉に変わっていた。どこで拾って来たんだろうか、そんな称号。
「グポーン」
《システム、スキャンモード》
そんなこちらの驚愕をよそに、1人だけいい空気を吸い始めたアブっさんがエンジン(推定)を空吹かしさせる。腹の底に響く重低音が唸りを上げ、キャタピラの軋む音が聞こえてくる。
「「マヤノ」ブッピガン!」
《出撃!》
「誰です今の!?」
「──ふっ、勝ちました」
大地を抉り合体戦車が発進する寸前。先ほど叫んでいなかったFluoriteさんが、見事に言葉の揚げ足を取るスナイピングをしていた。見事だ。が、しかし!
「ウマネタで来られたら、こっちも負けるわけにはいきませんねぇ!《領域魔法》起動!」
俺とてなんか名前が競走馬の産駒っぽい雰囲気をしているプレイヤー。ならばこちらも、本気を出さねば無作法というもの。
本来ならもっと味方の支援性能に割り振れるスペックを、完全に探知形にのみ注ぎ込んだ特化型の領域魔法。その本領、とくとご覧じろ!
「《
本来の『名前・位置・自分と比較した強さ』が分かる性能が強化されて『簡易的なHP・MP・SP』が表示されるようになり利便性は2倍!
更に視界に補助用のミニマップが展開できるようになり、探知能力は更に2倍!
加えてある程度の攻撃に対して予測能力が付与されて3倍!
「そして《
最後にそれをパーティメンバー全員に共有することで、これで汎用性を上回る1200万探知パワーだーっ!!
「グポン!?」
《うわ、何これ便利! とマスターは仰っています》
「邪魔です」
「ヤブサメぇ! 一家に一台欲しいですよこれ!」
反応は様々だが、Fluoriteさん以外からは概ね好印象らしい。地面をキャタピラが抉り駆け抜ける戦線の中なのだ。これほど便利に使える能力はあるまい。
本来の攻・防・探が揃った万全の領域魔法なら、もっと効率的に支援できる?
それは……まあ、はい。
こんなの見えている情報量が多すぎ?
それも……そう。
こんなバカみたいな探知情報を全て処理できるのは、それこそNPCを始めたAIや専用の機械だけだろう。あるいは、フルダイブVR黎明期にいたという伝説の極振り集団なら別かもしれないが。
「あのヤブサメ。1つ、聞きたいことがあるんですが」
豪雨の如く降り注ぐ攻撃を弾く盾の下、妙に神妙な面持ちをしたクローニンが話しかけて来た。
「領域1個なら何分くらい持ちます?」
「……大体、400秒だね」
「なら今は?」
「5秒に2消費だから……200秒かな?」
無論、適当なガバガバ計算である。MPが80で5秒毎2消費だから──まあ、ぼちぼちそんなところだろう。頭が回らん。
「本来の作戦計画、どこ行きました……?」
「クローニンみたいな勘のいい素面は嫌いだよ」
まあ、手持ちの回復アイテム(自腹)でリカバリーしきれる範囲の消費だし。自前でどうにかするので許して欲しい。
「バカ! このおばか! 猿!」
「ウッキー!」
「そういえば猿人だった!?」
いい感じに体育座りに体勢を変えて……
「私はサルです」
ついでにそのまま脚で大弓を押さえながら、遠方で魔法の準備をしていた相手にパワーショット。ふぁいあふぁいあ。
「クローニンしつてるか、さるはりんごしかたべない」
「嘘じゃないですか!?」
などとワチャワチャ遊んでいる間に、遂に現在位置は敵陣のど真ん中へ。
本来であれば駆け抜けるか避けるべき、1Waveとでも呼ぶべき敵の大集団が目前にまで迫って来ていた。
「〜〜ッ! ああもう!
タマ! ヤブサメ! 一点だけで構いません。ここまでふざけた分、活路くらい開いて下さいよ!」
「「当然!」」
ようやく吹っ切れてくれたらしいクローニンの言葉に、若干ゃアルコールが回り始めた頭で言葉を返す。
ラッセル車*1の排雪板並みに敵を吹き飛ばしているFluoriteさん、動力源のアブっさんと違い、俺たちの役割はここだ。現時点で5Waveまで確認出来ている波の突破。なあに、理論上可能ならそれは可能なのだ。
「クローニン! 私のMPは何処まで使っていいですか」
「……3割で止めて下さい。それ以上はボクの供給が追いつきません! ヤブサメのSPも同レベルが限界維持ラインです!」
「了解」
言いながら、盾の影に隠れるのを止めアブっさんの身体を一息に駆け上がる。
そうしてたどり着いた頭上で尾を絡ませ、両脚も使い身体をロック。弾バカと背中合わせになる形で、それぞれが180度ずつを射程に呑み込んだ。
「さて弾バカ」
「なんです弓バカ」
「現状、俺達の撃破スコアはラッセる(動詞)Fluoriteさんに負けているわけですが」
言いながら、本来の形ではあり得ない形で弓を構える。
完全に弓を横に倒し、引き手に持つのは矢を3本。これより行うのは、元は古いアニメに影響され、刀を6爪流とか言って遊んでいた奴が見つけたシステムの穴を突いたテクニックの一種。
弾バカと違い全体火力に劣るこちらが取れる、同一
「競争しません?」
「いいですね、ノりました。じゃあ負けた方が格下ってことで」
「やってやろうじゃありませんか!!」
はっはっは。煽られたからには
「《弾幕魔法》!」
「《剛弓》スキル」
今回の射撃に精度は不要。出来る限り大きく、広く、雑に弾幕をばら撒けるように。上向きに3つの矢を大弓に番え、まともな狙いを付けずに大きく引き絞る。
「──死 ぬ が よ い !」
「3倍拡大
そうして、示し合わせたようなタイミングで火力が解き放たれた。
弾バカが解き放ったのは、後光のようなレーザービームの合間に魚鱗のような光弾が紛れた弾の壁。
こちらが撃ち放ったのは、空中で数十に分裂し降り注ぐ矢の雨が3つ重なった爆弾矢のゲリラ豪雨。
「──んぐ、ゴチになります」
「グポン」
《負けてられないね、とマスターは仰っています》
双方共にWave全体の耐久力を大幅に削り、所々倒した敵mob集団も少なくない。だがそれでも、レベル不足ゆえの火力不足で取りこぼしが出てしまうのは事実で。
「──
《──
だからこそ、当然それを刈り取る追撃が放たれた。
それはまるで、どこぞの預言者か何かの御技のように。
5割は削れたモンスターの海が、槍の一撃と盾の突進で消し飛ばされる。撃破スコアは……多く見積もって1〜2割か。領域魔法での探知上でも分かるほど、津波のような集団は両断されていた。
「さあ、打ち抜きましたよクローニン!」
「どうも! ボクの準備も完了です」
弾バカの声を背にいそいそと盾の影に戻る中、視線を向けた先にそれはあった。
細いスペースロケットを束ねたような物々しい装備を背負い、全身でアブっさんのボディにしがみつくクローニンの姿が。
「ガチガチの攻略組でも3Waveまでしか突破出来ない以上、ボク達が取れる有効手段はWaveを無視して突貫すること!」
そして既に、背負った巨大なブースターそのものにしか見えないアイテムは点火していた。
「タマとヤブサメは吹き飛ばされないように!
1回こっきり片道切符、点火完了発射オーライ!」
「グポン!?」
《自前の限界速度を越え、え、ちょ、浮いてない!? とマスターは仰っています》
耳をつんざく轟音を響かせ、炎の軌跡を夜に刻み、爆発的な推力か発生していく。自然、キャタピラは地面から離れ、アブっさんを核にした無敵要塞は浮遊を始めて。
「レッツゴー月の彼方まで! オーバーブースト発し──ぐえ」
クローニンの背負うアイテムが完全に起動したと思わしき瞬間。背負った当人に潰れたカエルのような声を漏らさせつつ、殺人的な加速が俺たちを襲った。
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【全盛期の極振り伝説】
・攻撃がマップ兵器は当たり前、フルパワーではサーバーダウンも
・ゲーム内レコード更新は日常茶飯事
・全プレイヤーvs9人で8人はろくなダメージを受けず勝利した
・街に訪れるだけでNPCもPCも泣いて謝った。心臓発作を起こす者も。
・あまりに強すぎるのでイベントに出禁
・攻撃を受け止めようとしたタンク職、タンク職を受け止めようとしたアタッカー、後衛、後方にいたボスNPCともどもワンパンした
・視聴者の[ゲーム内独自言語]を使ったヤジに、流暢な[ゲーム内独自言語]で反論しながらマップを火の海に
・降って来た大陸を受け止めてノーダメージ(足は埋まった)
・スカイフィッシュの正体
・「翡翠」という言葉に全プレイヤーが泣いた
・実はNPCをシンギュせてサービスを終了させた
etc……
一体どこの誰なんだ…