元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
ユニーククエスト
それはVRMMOというジャンルのゲームにおいて、ゲームがゲームとして成立する以前から存在している問題児だ。
万人がプレイするゲームの中で何故か1度しか発生せず、クリアした存在に莫大な利益を呼び込むバランスブレイカー。本来ならば存在なんてしないほうが良く、しかしてVRMMOというジャンルに於いては必須の存在。
多くの大衆プレイヤーはそういったお手軽俺TUEEEEEを求めてユニーククエストを探し、強過ぎればナーフを叫び、苦労に見合わぬ弱さならアプデを要求する。
その癖そもそもユニーククエが実装されていなければそのゲームに『駄作』の烙印を押し、調整が下手であればSNSは大炎上。
そんな最悪のコンテンツが『夢のユニーククエスト』の正体となる。
よって昨今のゲーム業界では、バランスを取るために天井まで周回することで初回クリアマンと同性能の報酬“は”手に入る形がスタンダードとなっている。
無論、我らがFEVも例外ではない。
街中で受けられる迷子探しや手紙配達に始まり、今俺たちが直面している高難度の探索もそう。
全てがユニーククエスト扱いとなっており、報酬にある『特殊任務賞金』が所謂天井アイテムに相当する。
尤もフルダイブ型の周回作業ほど地獄なものはないので、よっぽどのアイテムでもなければ回る人は少ないが。
閑話休題
色々と裏に背景があるとはいえ、未だにVRMMO系のゲームに於いて『初発見のユニーククエスト=ハイリスクハイリターン』の法則は生きている。
つまり今、我々がやるべきことは──
「これより第[F-n=(-1)n+1Fn]回、正式サービス後ギルド会議を行います!!」
取り敢えず全員の意思の統一と現状確認に他ならな……なんて???
「nの指定がないと答えが出ないじゃないですか! 教えはどうなってるんです教えは!」
「nの数値は……-3!」
「
弾バカの言葉にノリノリでクローニンが答え、即座にFluoriteさんが答えを導き出していた。我らが参謀にも大分テンションがキマってきたらしい。これもエボンの賜物だな。
「ところで何の話してたか分かりますかアブっさん?」
「ぐぽん」
《さあ? とマスターは仰っています》
何語かと思う羅列だったから多分数式の類だろうが、文系寄りなこともあってか何も分からない。そもそも正しい式なのかどうかも。酔っ払いの話してることなんて間に受けちゃいけないのだ。
「アー、イマノヤツナ。タシカ“フィボナッチスウレツ”ッテヤツダ」
「お、やっと解放されたんですねユーちゃん」
「ユーチャンイウナ」
そんな中我らがギルマスを中心とした円に、ヌッと割り込んでくる謎の幽霊少女が1人。ぬらりと唾液で光る首元と、ガッツリ付いた歯型が生々しい。
ふふ、これでもう俺たちは食糧にされた仲間。何も遠慮することはなかろうて。数年来一緒に過ごしてる感覚までしてくる馴染み具合だし。
「ならポチ、その──」
「ユーチャンデイイワ」
良いらしい。
「しっかしフィボナッチフィボナッチ……ダメだ、ヴォイニッチしか出てきません」
「グポン」
《なんか龍素記号シリーズにそんなのいた気がする、とマスターは仰っています》
そういうところ、遊戯王よりデュエマの方が細かいよなぁと思う。だって遊戯王なんて化合獣くらいしかそういうテーマないし……三沢? 知らないキャラだ。
「そこの学生コンビ+ユーちゃん、始めますよー!」
「へーい」
「グポン」
《了解、とマスターは仰っています》
「ウソダロ……コノイッシュンデ、テイチャクシヤガッタ……!?」
などと考え事をしていたら呼ばれてしまった。なら真面目に参加するしかあるまいて。
というか、数年来の付き合いなのに未だに『弾バカ』呼びの弾バカがいるのだ。ユーちゃんは今後ずっとユーちゃん確定だ。早めに諦めた方が気が楽だと思う。
「今回の議題は『遭遇できた未知のユニーククエストを攻略するか否か』!」
そうしてお出しされた議題は想定通り。
やるかやらないか、まずはそこから決めようという内容だった。
「
意図はわかるけど【クローニンと愉快な仲間たち】の構成人数は、ユーちゃん含めてもたったの6人。1人2つは拘束してる計算である。
「是は、弾幕の導きなき戦いではない──承認‼︎」
クローニンの無茶振りに、先陣を切って答えたのは弾バカ。1発目から濃いなぁオイ。
「是は、未知なるマップの踏破である──承認!」
でも乗っかろう。なぜならその方が楽しいから!
「グポン」
《是は、新たなレアドロのための戦いである──承認》
最近収集癖に目覚め始めたらしいアブっさんも乗っかってきた。周回作業地獄なのによくやれるなぁ。
「是は、美味しいご飯に繋がる事である──承認」
ノーコメントで。
「是は、歴史に触れる旅路である──承認!」
そして言い出した発端であるクローニンも、言い出しっぺということ抜きで賛成らしい。実際、未踏破のユニーククエストのダンジョンなんて、フレーバーテキスト要素の塊みたいなもんだろうし。
《ナンノネタカハワカラネェガ、
オレハ、ソモソモイライシャガワダ──ショウニン!》
「賛成6、反対0──可決!
終わり! 閉廷! 以上!」
だが、みんな解散とは続かない。
何故ならば、戦闘の爪痕が未だ色濃く残る森の中、木々に飲み込まれながらも朽ち果てぬ威容がそこにあるから。
これから俺たちが挑むことになる
「──まあカッコつけて宣言はしてみましたが、事実ボク達は手負いです。消耗度合いも、ここまでの飛行と安全確保で無視出来ない程度にはあるでしょう」
再び湧き上がってきた興奮に待ったを掛けるように、クローニンが1つ手を叩き言う。
このまま参戦することは確定事項だが、こちらが消耗しているのもまた事実。明らかに格上、挑むべきではないクエストに挑戦するのには力不足にも程がある。
「レベルも足りてませんしね」
現状、俺たちのレベルは
・俺(ヤブサメ) Lv 36
・弾バカ Lv 32
・アブっさん Lv 34
・Fluoriteさん Lv 31
・クローニン Lv 29
・ユーちゃん 不明
といった程度。
飛行中の諸々のお陰でクローニン以外が30の大台に乗っているが、推奨レベルにはまるで足りていない。ユーちゃんも未知数であり、フルメンバーながらも微妙に心許ないと言えよう。
「タマの言う通り、ボク達は推奨レベルの6割くらいのレベルしかありません。ですので、一度強く当たって勝ち目が見えなければ撤退して──」
「ア、テッタイスルトシッパイハンテイニナルゼ」
「──改め! ヤブサメの探知頼りで最深部を目指します!」
そういう方針なら、MPの消費は抑えて戦った方がいいか。貼りっぱなしの探知を切るつもりはないから、今回は純アーチャーかぁ。
「しつもーん!」
「はい、ヤブサメ君!」
方針は決まり、戦法も決まり、目的も確定した。
だがそれは別に、現状多分、俺しか気付いていない問題がある。
「いやクローニンにじゃなくて。
ユーちゃんが目的地って言ったあの廃宇宙戦艦、マップデータ的には侵入不可エリア判定っぽいんですが」
これから突入するダンジョンである廃戦艦。そこは肉眼で見る限りなんの異常もないが、マップデータ上ではその全てが黒塗りのままになっている。
クエスト受注という明らかなフラグを満たしているのに、探知の範囲圏内にある全てがNo dataのままなのだ。つまり考え得る答えは『入れない場所である』か『騙して悪いが』案件だと思う……の、だが?
「……エ、マジデ? クエストウケテルノニ、イッサイタンチデキテネェノ?」
あっこれ違うやつだわ。
ユーちゃん冷や汗かきながら本気で焦った顔してる。
「マジですよマジ。ほら、みてくださいよこのマップ画面」
「ア、アー……マジジャネェカ。アルェ?
チャントクエストカイシノキーワードモイッタシ、ジュチュウモセイコウシテルノニ……ナンデェ?」
「さぁ……?」
考えられる原因があるとしたら、本来あるべきイベント(推測)を全スキップしてFluoriteさんが捕獲してきたことか。
「マ、マア、ダイジョーブダ。イマノオレハ、イチオウアノ"センカン"ノ"セイタイユニット"。"システム"ヘノ"カイニュウケン"ハ、チャントモッテルカラナ!」
「やってみせろよ、ユーちゃん!」
「ナントデモナルハズダァ!」
(こっちのノリに)堕ちたか……?
堕ちたな。
「ブッピガァン!」
《ガンダムだと!? とマスターは仰っています》
「ボク達より若い分、学生組は馴染み方が早いですねー」
「
反省を促すダンスを踊る俺とアブっさん。後ろで市街戦風の弾幕を放つ弾バカ。一歩引いてるクローニンと、口寂しくなったのかそこら辺の草を食べ始めたFluoriteさん。あと何かコンソールっぽいサムシングを操作しているユーちゃん。
一瞬隙を晒しただけでしっちゃかめっちゃかになってしまった、そんな時だった。
「アッ、ヤッベ」
必死にコンソールを操作していたユーちゃんがそう呟き──次瞬、静けさに満ちていた森をつん裂く特大の警報音が鳴り響いた。
【警告! 警告!】
【不明なユニットが接続されました】
【システムに深刻な障害の発生が予見されます】
【直ちに接続を解除してください】
聞こえてくるアナウンスは、VR機器が発する日本語ではなくゲーム内言語そのもの。だから一安心ではあるが、いややっぱダメだわこれ。
「ユーちゃん!? いまヤッベって言いましたよね!? ヤッベって!」
「イ、イヤァ、キノセイナンジャネエ? クロウニンノギルマスサンヨ」
決して視線を合わせず口笛を吹くユーちゃんに、恐らく立ててあったであろう予定をぶち壊されたクローニンが掴みかかっていた。おいたわしや……
「じゃあアレはどうやって説明するんですか!」
そうしている内にも、システムが融通を効かしてくれることはなく状況は進行。朽ち果てていた巨大廃戦艦に灯がともり、地響きと共に目覚めていく。
「グ、グポン……」
《システム、戦闘モード。甲板と思しき地表から迫り上がる砲塔を確認。主砲と思しき3連装砲を2つ、副砲と思しき砲塔を無数に確認。対空用と思しき機銃は観測数がなおも増大中》
引いているアブっさんのいう通り、瞬く間に静かな森の光景は一変した。
土や緑を無数に被り、あるいは侵食すらされながらも、堂々と出現する鋼の要塞。
迫り上がってきた丘の用に巨大な主砲、
電波塔並みのサイズを誇る副砲群、
針鼠のように地面から生えた、プレイヤーサイズの対空兵装。
ギギ、ギ、と金属の軋む音を鳴らしながら。その内俯角の足りない主砲を除く全てが、たった5人のプレイヤーと半透明のNPCへ向けられていた。
「ハッハッハッ、ケイネンレッカッテノハ、コワイナ!」
嘘つけこれ絶対迎撃措置だゾ。
「総員散開! 回避行動ーッ!!」
刹那、合唱のように重なり合う激音と共に無数の砲塔が火を噴いた。
一呼吸も待たずして、圧倒的な物量を以って押し寄せる弾、弾、弾。
実体弾どころかレーザーらしき非実体、果てには魔法らしきものまで混ざった弾の壁。
未だプレイヤーの手に銃がないこのゲームにおいて、オーバーテクノロジーな破壊の力。
ただ、だとしても。
どんな言葉で飾り立てようと、目の前に迫るゲームオーバーは結局──“弾幕”という名前をしている。
ならばもう、勝ちは決まって……
「キェェェェェェアァァァァァァダンマクギミックダァァァァァァァ!!! 」
……決まって、いる、はず、だ。多分。うん。
半角カタカナとしか言いようのない奇声と共に、興奮メーターが振り切れた弾バカが覚醒していた。
「ヤブサメ! マップデータ!」
「はいはい!」
致命的になりそうな弾道の攻撃には撃ち返しを当て消滅させ、それ以外は細かく体を動かして、或いは大胆に移動しながら完全回避。こちらのマップデータを得てからはそれが更に加速した。
「ヌルい弾幕ですねぇ! この程度!」
ワァ……これが弾幕ごっこですか。
さすが元日本一を取っていただけのことはある……
「総員再集結から単縦陣! タマの後に続いて、ダンジョンへ突っ込みます!」
斯くしてぐったぐだな流れで、フルメンバーでのダンジョンアタックは始まったのだった。