元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
そうだな──そう、まず結論から話そう。
弾バカが覚醒してパーリナイ☆↑↑した結果、相手にもならず全てが片付いた。
もう少し詳しく言うのであれば、うっかりユーちゃんが起動させてしまった防御陣地による弾幕形成。その一切が突如興奮した
超スピードだとか差し込みだとかそんなチャチなもんじゃない、もっと恐ろしいものの片鱗がコンニチハしていたぜ……
確かに
それで、だ。
ユーちゃんがダンジョン入り口でポンコツを発動こそさせたものの、さして苦労することもなく。俺たちは、未知のダンジョンに突入することに成功した。
してしまった。
してしまったのが、完全に罠だったと誰が気づこうか?
マップ名すら表示されないユニークダンジョン(仮称)を探索すること数分。まだ真新しいものが何もない、船内としか言いようのない通路を進んでいる時──ソレは、現れた。
音もなく空中を滑るように泳ぐソレは異形も異形。
胴体と思しき場所は、人の胴程もある太い三叉の棒。裏返した三脚のように、地面へ頂点を向けて骨組みだけの三角錐が形成されている。
頭と思しき場所は、その推の中心に固定される逆さにした金魚鉢の様な硬質の物体。内側は何かは悍ましい雰囲気の蒼に満ち、目の様な黄色い一対の光が深奥には揺らめいている。
そして三角錐の頂点を囲む様に回転しているのは、計6つの
次いで、表示された名前は【The Heavenly will‐o'‐the‐wisp】
あのゴブリンロードと同じ、ボス特有の英語表記の名前だった。
「オ、サッソク“サイジャクカク”トノエンカダナ。
サッサトタオシテ、サキススンジマオウゼ!」
この時の俺たちは、まだ知らなかったのだ。
ユーちゃんがポンコツとうっかりの性質を併せ持つことを。
そして俺たちは見誤っていたのだ。
未発見のユニーククエストというものの難易度を
「あ、あー、あー! ん゛ん………ではここで一曲。
オープンワールドあるある大学付属『適正レベルオーバー高校』校歌! 斉唱ォ!!」
「「うわぁぁぁ!!? クローニンが壊れたァァァ!!」」
「グポン」
《うわぁ、とマスターは仰っています》
──
元々建てていた予定の通り、ダンジョンに侵入しての初戦闘。
艦内システムを操るというユーちゃんの荒技により、隔壁を閉じ孤立させた最弱格の相手との1vs5。そこまでの有利を取っておきながら、既に俺たちはそれだけの時間とリソースを浪費させられていた。
「イヤァ、オマエラナライケルトオモッタンタガナァ」
「
Fluoriteさんの剛槍による連撃が敵を削り取り、
弾バカの一斉射撃が穿ち抜き、
アブっさんが大きくHPを削られつつも守りを固め、
隙を突いて最大火力で俺が狙い撃つ。
その指揮を取りながらクローニンが回復とバフを飛ばす、ゴブリンロードすら完封した基本戦術にして最強戦術。
それが目の前の敵には……【The Heavenly will‐o'‐the‐wisp】には通用していなかった。なんか長いし鬼火でいいや。
「朝日が昇る窓の外〜!
適正レベルは戦闘が成立するレベルだっ
鬼火の主な行動パターンは5つ。
・巨体を使っての突進
・身の毛もよだつ金切り声(デバフ付き)
・鬼火の投擲?発射?による射撃
・鬼火の補充兼のバリア展開
・鬼火を吸収することによる自己回復
たったそれだけだ。
取ってくる択は少ないし、なんなら予備動作も分かりやすい。なるほど、確かに最弱の敵と言えるだろう。
ステータス差があり過ぎるって点を除けばなァ!!!
こちらの攻撃は7割近くが最低保証ダメージで、
逆に攻撃を受ければ瀕死になり、
攻撃・防御・回復と隙がない鬼火は時間で補充される。
「若き
プレイヤースキルにだって限界はあるんだよ」
──そんな相手に40分。
戦闘を続けた結果、削れた鬼火のHPは7割弱。
こちらが削られたリソースは大体7割強。
うーん……参った。
ちょっと勝てない。
「電子の海へと今飛び込もう!
MMOなんだから無理があるだろ」
〜おぉ、我らが適正レベルオーバー高校〜
〜適正レベルオーバー高校〜
……なんか死ぬほど縁起悪い高校の名前だなこれ。
「ちょっと集中出来ないんで静かにしてくれませんかクローニン」
「!?」
そんなショックを受けた様な顔をしないで欲しい。
天然モノのFluoriteさんを除いて、割と真面目なシーンでは俺たちだって真面目なのだから。同調圧力先輩をするぞこの野郎、この女郎。Yeah。
「……っ! そうですね、ボクとしたことが。学生ではない身で高校の校歌なんて……」
ハッとした様子で首を横に振り、澄んだ目でクローニンが呟いた。
ヨシ、正気に戻ったな。現場猫もこれで安心だぜ!
「では改めて、オッぺラスッチョンコーポレーション社歌を──」
どうして大丈夫って言ったんですか(AA略)
チクショウ、こうなったら仕方ない。唸れ俺の右手、
「精神分析パンチ!」
ダメージ量は低くなるよう加減した。だがノックバックはどうしようもなく、力に押されてクローニンは弾バカの方へ。幾ら楽しいフィーバータイムといえど、無論ヤツがそんな隙を見逃すはずもなく……
「ナイスちんちん!!」
「弱酸性!?」
スパーンと小気味よく、急所を捉えて振り抜かれた弾幕のキューブ。
その日、人類(の半分くらい)は思い出した。大体小学校低学年辺りで一度は経験する、あの絶望的な痛みの感覚を。
……あ、ふらつきながら戻ってきた。
今は違うが元々同性。せめてもの情けだ、優しく受け止めてあげよう。矢も心許なくなってきたし。
「ぁ……ヤブサメ」
蚊の鳴くような声で、そのまま静かにクローニンが身を寄せてくる。
えっ、ちいさ、やわ……いい匂い……元の人物知ってるのに、アッアッちょっとヤバ。
「
「コワイナー、トジマリシトコ」
謂われない誹謗中傷は流石にやめて欲しいんだが?
「ふふ……聞いてくださいよ。“ない”筈なのに“ある”痛みがするんです……いたい……鈍痛が……」
「グポン」
《薔薇で作った百合の造花、実在したんだ……とマスターは仰っています》
サンキュー親愛なる煽りカス共。
美少女の涙目上目遣い+弱々しく身を寄せるかいうリーサルコンボは、確かに健全な男子学生の理性に10割入れていた。TSモノが流行るワケだ、破壊力が高すぎるっピ。
「まあそんなことはどうでもいいとして」
「フンッ!!」
……ッ! ぁ……!!
ォ──ふ、ぐ、ぉ……!?
システムが貴方に対し、性的なハラスメント行為が行われたことを確認しました。確認してください。
〈行為内容〉
場所:ユニーククエスト特殊ダンジョン内部
日時:××月××日××時××分(タップで開示)
04秒前
対象:加害──PN:クローニン
心当たりがない場合、このメッセージは消去して構いません。
通報しますか? Yes/No
「ナア、ナンデコンナキョクメンニナッテンノニ、アイツラハ“スンゲキ”シテンダ?」
「そりゃあ、弾幕の導きがあるからですよ」
「
「グポーン!」
《そう言う集まりだからね、とマスターは仰っています》
腹の底に響く鈍痛に耐えながら、震える手でNoを選択。システムウィンドウ自体を閉じる。
「ワカンネェ、ニンゲンガゼンゼンワカンネェッ!!」
「
「オメェガイチバンリカイフノウナンダヨ!!?」
可哀想なユーちゃん。ひとえにてめェが酔った日本人に助けを求めたせいだが……
「ふー、ヤブサメ殴ってスッキリしました」
まるで憑き物が落ちたような顔でクローニンが呟く。お陰で凝り固まった思考も解れましたと言ってる辺り、犠牲は無駄じゃなかったのだ。多分。
『ゴヴォ……』
「グポン!!」
《叫びが来るよ、とマスターは仰っています!》
などと後衛組が遊んでいる間にも、当然だが戦局は進み続けている。
パーティが受けるヘイトを一身に背負い、最前線で壁となっているアブっさんから飛んできた警告。粘性が高い液体が泡立つようなその音は、金切り声の前兆動作。
「方針転換です。コレを防いだら、ヤブサメは剣状矢を解禁! 弾バカはMP使用制限解除、Fluoriteも最大火力のブレス解放を許可! 一気呵成に打ち倒して、プランBに切り替えます!」
「「了解(ひょうはい)!」」
「グポン!」
初めのうちは驚異だった全体攻撃デバフ付きも、40分戦い続ければ対処は慣れたもの。
アブっさんが大盾二刀流を生かし、〈大盾〉系列の「味方のダメージを軽減する」
併せてクローニンが〈光魔法〉系列の「状態異常無効化(1回)」を付与する魔法と「単体回復」魔法の準備をして対策は完了。
アタッカーである弾バカ、俺は動きの止まった相手に狙いを定め、Fluoriteさんは被ダメを無視して突撃を敢行する。
戦闘開始10分程度で分析を完了し、確立させた反撃のルーティン。
これまでは消耗抑制の為に半端な反撃しかできなかったが──
「
「理論値火力出すには、そうしないといけないので、ね!」
これまで
──既に作戦は[いのちだいじに]ではなく
[がんがんいこうぜ]
押せ押せゴーゴーの精神でいざ参らん!
「オイ、“コウエイ”アタッカーガ“ゼンセン”ニハシッテッタンダガ!?」
「ほう、流石はヤブサメ。アレこそはボクらの検証成果」
「知っているのですか雷で……クローニン!」
「ふふ……左様!」
一方、後ろではお約束が始まっていた。
解せぬ。いや楽しそうだけどさ。
「《剛弓》スキルを用いた理論値火力は、スキルと
マスタリーLv7で取得可能な技《剛弓・矢斬》による火力と命中バフを、攻撃を直撃させることにより1.2倍の効果で起動。
続けて技《剛弓・舞奉》で打撃して、1.3倍の効果でクリティカルバフを起動。
そのあと完全静止《狙撃》でバフを盛るペコした後、《剛弓・獄火》による防御最大30%貫通射撃になります。
FEV検証班有志Wiki『各武器系スキル・アーツの理論値火力組み合わせ参考例』より!」
「説明どうも!」
クローニンの完全詠唱構文を背に受けながら、ぽこじゃか飛来する鬼火を壁も足場に回避。肉薄した勢いのまま、抜き放ったままの剣状矢に
「ひとぉつ!」
硬い手応え。ドット単位でしか減らない鬼火のHP。
けれど確かに必要な火力と命中バフは、自分のステータスに点灯している。
「ふたぁつ!」
そのまま足を切り返し、現実ではできない弓本体で相手を殴りつける仮面ライダークラッシュを敢行。僅かにノックバックさせ攻撃動作を中断させながら、自分にクリティカルバフを付与。
「3!」
そしてその場で完全静止。
大弓を鬼火の中心へ突きつけ、剣そのもの……鋼の塊である剣状矢を大弓に番え、長く大きく弦を引き絞る。
ぎち、ぎち、と弓から聴こえるのはこれまでとはレベルの違う悲鳴。
「この距離ならバリアは張れないな!」
本来なら揺れ動く《狙撃》スキルのレティクルは、当然のように完全静止。呼吸を抑え。心を鎮め。荒れ狂う“暴”を解き放つ。
「技《剛弓・獄火》」
刹那、マズルフラッシュの如く噴き上げる焔のエフェクト。噴き上げる火の粉の中、咲き誇るは紅に燃える華。その中心を撃ち抜き、赤熱した剣状の矢が飛翔する。
これで物理属性しかないってマ?
『──ッ!!』
ボパン、と弓らしからぬ音で発射された剣状矢は、鬼火のHPを1割吹き飛ばしながら胴体を貫通。鬼火があげた悲鳴を聞きながら、ダンジョンの壁に直撃して爆散した。
財布には非常に痛いが、やるべきことはこれで十分。
「フグ刺しは無理ですが、洗濯機なら今のリソースでも!」
洗濯機のように渦を巻く弾幕が鬼火を弾けさせ、
「
馬鹿でかいFluoriteさんの戟がホームランスイングで振り抜かれた。
残り2割も残っていた鬼火のHPは、アワレにも爆発四散。戦闘終了と相なったのだった。……あれ、ドラゴンブレスは?
HPが12/192
MPが5/80
SPが23/215
……まあ勝ちは勝ち!
大体みんな同じ被害で死にかけているけど。
なんで負けたか明日まで考えといてください。
〈レベルアップ! Lv36→38〉
〈5件の称号を獲得しました〉
〈スキルアップ! 8件〉
〈レベルアップしたスキルを確認してください〉
〈ステータスポイントを割り振ってください〉
感想とか評価、お気に入り等いつもありがとうございます!
【フルダイブ版CoC】
CERO:Z 基本プレイ無料 ソフト内課金あり
名前の通りフルダイブでCoCが遊べるソフト。
オリジナルのシナリオ制作の難易度は上がった(舞台を作る手間)が、コアなファンが極めて多い。
野良でセッションを募集すると、APP18の美男美女が紛れ込んできたり、NPCの邪神がプログラムにない動きをする(シナリオを逸脱はしない)という都市伝説がある。
【ヤブサメ】
一度だけこの世の者じゃないほど綺麗な女性と遭遇している。褐色奇乳は趣味じゃないので難を逃れた。
クトゥルフ神話技能を5%持っている。
【クローニン】
昔GMをしたセッションでNPCのニャルが勝手に動き出した。その時のセッションメンバーの半分と連絡が取れない。
クトゥルフ神話技能を10%持っている。
【アブっさん】
いつか普段つるんでるみんなと遊びたいなぁと思っている。
未経験。
【弾バカ】
TRPGより弾幕派。ネットの底に潜むリアルな陰陽の蜂と遭遇、知り合いのSeilというシューターと共に撃退したことがある。
新たな形になっていない。
【Fluorite】
発狂表で食人癖を引いてしまったので、隣のプレイヤー(APP18)を泣きながら調理してセッション終了した。タコみたいな味がしたらしい。
クトゥルフ神話技能を所持していない。