元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
背景、我らがギルド長であるクローニン様
現実世界では桜花の候、如何お過ごしでしょうか?
私はいま──アウステルから南に約50km地点。深い深い森の終わりに居ます。
「オ、オォ〜!! スッゲェナ、コレ!」
……思ったよりノリノリで付いて来たユーちゃんと一緒に。
◇
ことの始まりは1日(リアル時間)前。
思っていたよりヌルッと、シームレスに我らがギルドへユーちゃんが加入してから数日(ゲーム時間)が経った頃の話だった。
「やっと、やっと全部の準備が整ったぁぁぁぁ!!」
「ウオッ、イキナリサケンデドーシタヨ!?」
その日、戦闘が幾らでも可能なイベントの恩恵をふんだんに受け。ようやく俺のキャラクタービルドは最低限の完成へと到達した。
すっかり弊ギルドの看板娘として定着したユーちゃんがビビっているけど、力説してもいいのだろうか? だろう。しよう!
「これまでずっと我慢してきた事がね、ようやく解禁されるんですよ。ようやく!」
「オウ、チョットオチツコウゼ」
これまでの我慢がようやく実ったのだ。
これが落ち着いてなんていられるか。
「確かにそうですね。ところでこれが、今の俺のステータスなワケですが」
「ハナシキコウゼ、オイ」
PN:ヤブサメボーゲン2035
称号:ジャイアント・キリング
種族:獣人(猿)
Lv:40 所持金:1054 G
【ステータス】
HP:200
MP:96
SP:221
Str:95(125)Dex:57(77)
Vit:5(18) Agl:57(77)
Int:5 Luk:20
Min:26(29)
【スキル】
《剛弓Ⅳ》《操体術Ⅱ》《領域魔法Ⅶ》
《狙撃Ⅸ》《識別Ⅷ》《軽業Ⅹ》《看破Ⅵ》
《試式測距定義眼Ⅳ》《隠蔽Ⅱ》《SP自動回復Ⅵ》
ー控えー
《支援AI --》《疾走Ⅳ》《簡易拠点作成Ⅰ》
《MP自動回復Ⅰ》《HP自動回復Ⅰ》
《デスペナルティ軽減-アイテムⅠ》
《デスペナルティ軽減-ギルⅠ》
【装備】
頭:正体隠しの仮面+Ⅰ(Vit+1)
胴:弾薬ベルト改(Dex+5 Agl+5)
with滑空用マント+Ⅲ
右手:GB-16+Ⅰ(Str+30 Dex+10 Agl+10)
左手:鋼鉄の弓籠手+Ⅰ(Vit+5 Dex+5)
腰:多機能ベルト(Vit+1+1+2)
with 射出装置付きワイヤーフック
with 高性能ウインチ
with 簡易ポーチ(3スロット)
足:ハードキッカー+Ⅰ(Vit+3 Agl+5)
アクセサリー(4/10)
・GB-16M(矢筒)
・対異常の護符(Min+3)
・ナックルナイフ(Str+5)
・天揺の鬼火
ステータス関連についてはレベル分の順当な成長。
スキルに関しては〈体術〉が〈操体術〉に。〈隠密〉が〈隠蔽〉に1段階進んだ程度。控えには便利スキルを積んである。
故に今回の主題は装備品にある。
まず胴装備を、ずっと欲しかった滑空マントに変更。
高所からの落下時に、翼を広げて滑空する事ができるようになるアイテムだ。用はオープンワールド系ゲームでよく見る動きが出来るようになる。
次に腰の更新した装備である、射出装置付きワイヤーフックと高性能ウインチ。
こっちも要は立体機動装置の真似事が出来るようになる感じだ。あそこまで機敏ではないけれど。
簡易ポーチは相変わらず煙玉しか入ってないから割愛する。
最後にアクセサリーの更新。
ナックルナイフはそのまんま。ナックルダスターから装備更新をしただけで、多分チョット便利になる程度の意味しかない。
そして天揺の鬼火は名前の通り、戦艦で出た鬼火の素材を使い例のお店で作ってもらったアイテムだ。その効果は、こう。
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【天揺の鬼火】
The Heavenly will‐o'‐the‐wispの素材で作成されたタリスマン。結晶の中には6つの鬼火が揺らめいている。
自身の落下速度を減少させる
HP・MP・SP自動回復(0.1/s)
耐久値:1000/1000
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本来欲しかったのは落下速度減少のアイテムだったのだが、作れるという事なので作って貰った。
自動回復系のスキルに回復量は及ばないが、便利な自然回復効果もオマケでついて来たのはラッキーだった。話が長い以外、あの店主は完璧だと思う。
──長々と高尺を垂れてきたが、つまりだ。
「やっっっっと、長距離の探索に出掛けられる!!!」
兼ねてよりの目的を、俺がこのゲームをプレイする理由に向き合う時が来た。
「ウルセェ! イマナンジダトオモッテンダヨ!」
Ohユーちゃん、しかめ面でこちらをWatch カワイイ カワイイネ
ふざけてないで、シャー、と吠える言葉の圧に仕方なくマップを確認する。
[a.m.01:03(
[中央旗艦都市ケントルム・ギルドハウス]
うん、目論見通りの時間だ。
「深夜の3時、草木も眠るウシミツ・アワー……」
「ワカッテンナラシズカニシヨウゼ?
イベントダッテ、コノジカンハキュウシチュウナンダ」
加えてユーちゃんが諭してくれたように、現実時間で深夜1時を超えた今イベントは一時休止中。敵mobの異常襲来は停止し、通常通りのゲーム進行が行われている。
流石に深夜3時ともなれば魔物もお休みの時間というわけだ。どこぞの古戦場かな???
「だからこそ、だからこそなんですよユーちゃん」
「……イマイッテタ、チョウキョリタンサクッテヤツカ」
無言で首を縦に振る。
元々の目的であった長距離探索に出発出来るのは、この深夜のタイミングにおいて他にないのだ。
「ここ数日ギルドで過ごしてみて、ぶっちゃけ思ってないですか? なんか俺だけ他の4人に比べてキャラ薄いなって」
決行予定の時間までには余裕があるし、落ち着いて話そうと、再び席につきユーちゃんに問いかける。
クローニンの正気度を保つ役割こそ果たしていたが、きっと薄々思っていた筈だ。
「ソリャア、アレヤコレヤヲミテリャア、ナ?」
若干目を逸らしがちな呟きの最中、ユーちゃんが視線を向けた先には静かな寝息を立てるクローニンの姿がある。
この前のユニークダンジョンで拾ってきた資料に突っ伏して、涎を垂らし幸せそうに眠る姿はスクショ必至。一番正気に近いクローニンでこれなのだ、今までの俺は薄味にも程がある。
自覚はあった。
だが、だがしかしだ。
しばし遅れを取りをしたものの、今や巻き返しの時である。
「クローニンも慣れて幸せそうですし、準備が整った以上自重はやめます」
「フビンナ……」
眠っているクローニンの笑顔が少し歪み始めた。
何か悪夢でも見ているのだろう、知らんけど。
「ケド、ワルカネェナ」
そして今までの乗り気じゃない雰囲気から一転。悪友のような笑みを浮かべて、ケラケラとユーちゃんが話し始める。
「ソノ“チョウキョリタンサク”、ドウセナラオレニモイチマイカマセロヨ」
「あれ、ユーちゃんも外の世界に興味が?」
「インヤ、ベツニソッチハソウデモネェ」
興味はないのか……そっか……
やはりわざわざメインコンテンツから外れてまで、未知の世界を探索したいという輩は少ないらしい。
「ケドナ、キノウキョウト“スイーツメグリ”ニ“ダンマクゴッコ”デアソンダカラナ。
フトルマエニ、イッチョウウンドウシヨウッテワケヨ」
「幽霊なのに太るんですね」
「ラシイゼ。オレモビビッタワ、ホレ」
瞬間、脈絡もなく大きくたくし上げられるユーちゃんの白ワンピ。
露出する真っ白な足!
あって良かったインナー!
ほっそりとしたボディ!
へそ!
そしてちょっとたゆっとした雰囲気のイカっ腹!
「うおっ、眩し!」
直後に謎の白い光先輩のインターセプト。
見てはいけないものを見てしまった事実を残し、完全ガードで全ては白く染め上げられた。
「ケケッ、オレノツルペタボディ↑ニ、ミホレチマッタッテカ?」
「そんな通販番組みたいなイントネーションで……あと見惚れるも何も、システム的に見えませんね」
BD版とか有料版だったら晴れるのだろうか、謎の白い光パイセンは。
「シャアッ、システム・フラッシュ!」
「日常会話で語録を使うのはルールで禁止スよね」
「ヘヘッ、ゲームジャルールムヨウダロ」
と、そのままユーちゃんとハイタッチ。
謎の幽霊少女だった者の姿か? これが……
俗世に浸かりすぎている気しかしない。クローニンが魘され始めたワケだ。
「デ、ケッキョクドコマデイクンダ? チョウキョリッテコトハ、ダレモシラネェバショマデイクンダロ?」
「ですね。東西南北のうち、東西北は先駆者がいるので南に。ずっと南に進もうと思っています」
そう、あくまでこの世界はオープンワールド。
俺たちがユーちゃん(本体)が最下層にあるらしいユニークダンジョンにレベル不足でも挑戦出来たように、行動の自由は限りなく保障されている。
例えば中央旗艦都市から東西南北の街へ向かう間にはボスが存在するが、チュートリアル枠である南のボス以外は倒さなくても先に進める……などといったように。
「イマ、ハジメテノイベントチュウナンダヨナ? スイキョウナヤツッテノハ、ドコニデモイルモンダナ」
「俺と違って全員ソロですけどねぇ」
東にはβ版であと少しのところまで迫った海を求めて、
北は神々の霊峰とか山嶺系の何かを求めてPN『Alice in Wandervogel』さんが今朝の更新で確認した限りだと麓辺りに到着。
西は未知なるカダス(概念)を求めてPN『くたびれランドルフおじさん』が、移動力特化ビルドでショートワープしながら探索中。
「ホーン……デ、ミナミニハナニガアンダヨ?」
「森ですね、ジャングルって言ってもいいと思います。人手が一切入ってない未開拓の原生林ですね」
現在プレイヤーが活動できる圏内はそうでもないが、琥珀蜂の住処を越えたもっと深い森の奥。そっちの方になると話は変わってくる。
蒸し暑く、虫は多く、緑と生物の色が極端に濃いジャングルが。そう在ったという年月が具現化したような巨木や地形、そんな現実ではもはや見れない原初の一端が広がっている……筈だ。
「ナルホドナァ、イイゼ。オモシロソウダシ、アラタメテオレモツレテッテクレヤ」
それは、ちょっと素直には頷きかねる。元々単独で遊ぶつもりだった、死に戻り前提の大遠征なのだ。ユーちゃん1人追加してなんとかなる物資は……まあ、なくもないが。
「えー……あー……」
「ンダヨ、ヤッパダメカ?」
賑やかさと、あの場所から連れ出した以上一緒に遊びたいのと、デメリットを天秤に乗せて。楽しい方がいいが、1つだけどうしようもない問題がある。
「寧ろ大歓迎なんですけど、帰還方法が死に戻りですよ?」
「イッカイクライハ、オレモシニモドリタメシテオキタイカライイゼ!」
「あと一番最初の移動手段が1人乗りの予定で」
「アチャー……」
多分
「──あれ、ユーちゃんって浮いてられる時間に制限ってありました?」
「イヤ、トクニネェナ」
第一関門突破!
「浮かんでる時のの重さってどうなってます?」
「クローニンガイウニハ、カンゼンニ0ラシイゼ」
第二関門突破!
「高速移動してても付いてこられます?」
「ナントビックリ、アルテイドナラ“ザヒョウ”モコテイサセラレルゼ!」
「いぇーい!」
最終関門突破!
ばっちりサムズアップしてくれたことで、1人用の移動装置という大問題もめでたく解決。ユーちゃんが同行しない理由は特に無くなった。
「なら決まりです。早く行きましょうすぐ行きましょう今行きましょう!!!!」
「オゥ、イェー!!」
ということで。
現実時間換算で2日とちょっと、ゲーム内時間換算で1週間程度の大遠征が、
終始クローニンの表情は歪んでいた事は言うまでもない。
[a.m.01:07(
[南部前線都市アウステル・対イベント陣地〈奥〉]
して。
「ナ……ナァ。ネンノタメキクガ、コレイガイノイドウシュダンッテノハネェノ?」
誰もが寝静まった陣地の奥。理解出来ない存在を見る目でNPCの衛兵さんに見られながら、俺たちは『そこ』に居た。
「何言ってるんですか。『コレ』が一番効率もいいし、気持ちいいんじゃないですか!」
「ヒトガノルモノジャネェト、ソレデモユーチャンハオモウンダワ」
おんぶされたまま震えるユーちゃんを諭すように、ゆっくりと首を横に振る。
そもそも壊れづらい矢筒に座ってもらう形で、万が一にも
「なぁに、世にはしならせた椰子の木をカタパルトにして敵城に乗り込んだ人間も居るんです。いけるいける!」
「イヤ『コレ』ハサスガニイケネェッテ!」
耳元で響く声と俺たちが座る場所に向け突き出された指。それらが示すモノはたった1つ。
「『トウセキキ』ニハッシャサレテ“ソラヲトブ”ナンテ、ゼッテェショウキジャネェッテ!」
プレイヤーメイドの投石機。その本来であれば石が乗せられる部分であった。
理屈は簡単。発射される→滑空翼を開く、単純にして完璧な作戦だ。時間制限がある以上、短縮できる移動は短縮するに越したことはないし。
「盾を翼にしてジェットエンジンで離陸よりは、幾分か現実的だと思うんですけど」
「……イワレテミリャソウダナ!?」
「それにですよ、考えてもみてください」
弾幕を見つけた弾バカ。
おいしいごはんを見つけ出したFluoriteさん。
フレーバーテキスト盛り盛りのアイテムを見つけたクローニン。
最近ではレア泥が存在するのが確定した敵を見つけたアブっさん…………1人として、正気だと思う奴がいるだろうか。
「改めて言いますが、俺だって同類です」
「セットクリョクゥ……クソォ、クソォ! イイゼ、ヤッテヤロウジャネェカ!」
覚悟を決めたらしいユーちゃんの言葉に、ずっとスタンバってくれていた衛兵の方もサムズアップをしてくれた。待たせてしまって申し訳ない。
「Are you ready!?」
「うん!」
あいきゃんふらい。
ゆーきゃんふらい。
いぇあ。
「ア、チョットマッテ。ヤッパコワ──」
「Go!」
バツンと断ち切られる投石機を固定していた太い綱。
解放されたエネルギーは力となり、機構を迅速にかつ強力に走らせていく。
腹の底から持ち上げられるような奇妙な感覚と、強烈すぎる風を切る轟音。
──プレイヤーメイドの投石機は完璧に動作して、石の代わりに俺たちを空へ撃ち出した。