元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
季節の変わり目の服って、ほんとどうすりゃいいんですかね(風邪)
[a.m.01:07(
[南部前線都市アウステル・対イベント陣地〈奥〉]
「ア、チョットマッテ。ヤッパコワ──」
「Go!」
バツンと断ち切られる投石機を固定していた太い綱。
解放されたエネルギーは力となり、機構を迅速にかつ強力に走らせていく。
腹の底から持ち上げられるような奇妙な感覚と、強烈すぎる風を切る轟音。
──プレイヤーメイドの投石機は完璧に動作して、石の代わりに俺たちを空へ撃ち出した。
「──イィィィィィィィッ!?」
ユーちゃんの悲鳴の尾を引きながら、風を切り裂いて空を駆ける。
暗い。暗い、何も見えない闇の色。現代とは違って人の営みが空を照らす程ではないこの世界で、夜の空は未だ人の手にないことは明らかだ。
だが。
これから赴く場所も、そういう未開拓領域そのものなのだ。こんな程度で怯んでいられるだろうか? いいや、否だ。
だってそもそも暗視あるし。
「イヤッッホォォォオオォオウ!!」
ぶち上がったテンションで叫びながら、弾道が頂点に達した辺りで買いたてホヤホヤの滑空翼を展開。両腕の自由と引き換えに、オープンワールドゲームに綿々と伝わる滑空飛行に移行した。
移動速度Agl換算100ちょっと
飛行高度大体50m
旋回性能良し
減速率はデータ通り
β時からの仕様確認出来ズ
システムオールグリーン
「……ああ」
…………ああ。
現代ではあり得ないほど綺麗な満天の星空を目に映し、思わず深く息を吐く。
やっと、やっとだ。
楽しい冒険に、理不尽な自然に挑む時が来た。
「モ、モウダイジョウブカ? メェアケテモナニモネェヨナ?」
だけどその前に。少しだけ、自分が感動しているこの光景をユーちゃんにも共有したかった。
「大丈夫ですよ。それどころか、結構綺麗なものが見えてます」
明らかにテンションが落ち着いた俺の声に、恐る恐るユーちゃんが目を開ける。そして同時に、ふっと息を呑む音が聞こえた。
眼下に広がるのは、薄く篝火に照らされた前線拠点。その後方にはアウステルの全周を囲う城壁が存在し、その奥に見えるのは静まり返った静かな町。
けれどそこにある人の灯火までは消えていない。
眠そうな目を擦りながら、ランタンを持ち警邏中の衛兵。
こんな時間だというのに活気の収まらないプレイヤーのショップ周辺。
点々と存在する白い明かりのついた民家に、絶えず道を照らすオレンジの街灯。
10万$の夜景なんて例えられる現代と比較すれば、この光景はきっと10$程度の夜景にしか満たないのだろう。
だがそれでも、ゲームの世界に自分が居る。生きている。
そう実感するには十分すぎる程、人の世界が感じられる光景がそこには在った。
「ワァ……」
思わずと言った様子で声を上げるユーちゃんに、少しは楽しさの共有は出来ただろうか。出来ていればいいのだが。
「空も現代と違ってかなり綺麗ですよ」
折角なのでそう促すと、微かに背中で動く気配。
そして再び、細いため息が溢れた。
現実世界でも上昇すればするほど空気は澄み、空の星々の輝きは増していく。その法則は、FEVの世界でも代わりない。
確か区切りは50m刻み。境を越えるごとに、空は鮮やかさを増していく。
検証班の面々曰く『地球上のどこにも存在しない星空』
まるで異世界から映し取ったような未知のプラネタリウム。
鑑賞するための前提条件は割と重いが、一見の価値はある星空がそこには在る。スクショスクショ。
「スゲェナ……ヒトリデミアゲテタトキトクラベテ、マジデベツモンダワ……」
耳元で聞こえる言葉は、きっと偽りのない本音なのだろう。顔が見えずとも、楽しそうな気配がヒシヒシと伝わってきた。
「デ、コウイウノヲミニイクッテコトデイインダヨナ?」
「ええまあ。どこまで行けるか、どこまで辿り着けるか。その間にどんなものが観れるか。それがオープンワールドの醍醐味の1つですから」
それもβ時点で探索しきれない広さなのだから尚更だ。
まあ大体、途中でなんかよく分からない高レベルにエンカウントしてGame Overするが。それはそれで楽しいから良しとする。
「イイジャネエカ。デ、オレラガムカウノハドッチヨ」
「丁度街の反対側。あっちの方向ですね」
展開翼の制御に使っている腕に変わって、行儀は悪いが足で方向を指し示す。
「ヒカリ、ナクネェ?」
「森ですからねぇ」
おっと、探知に反応あり。
[右前下方47m 名称不明 危険度:極大 アクティブ 被照準中]
あっこれだめなやつだ。
全力で旋回して航路を変更。攻撃の予測で真っ赤に染まったラインから、なんとか移動経路を逸らして──
「ナンカ、ケモノノウナリゴエキコエルキガスンダガ?」
「森ですからねぇ」
──直後、地上から発射された雷が真横を突き抜けた。
バリバリという空気の壁を破る放電音。直撃していないのに3割近く持って行かれたHP。幾ら俺の防御面が貧弱といえど、こんな街の近くで出されるはずが無い超火力。
「ヒュッ」
うーんこれは徘徊ボスの類です、ありがとうございました。
ユーちゃんもよく息を呑んでおる。
「シヌンダガ!?」
「森ですからねぇ」
「Aボタンレンダスンナバカ!」
適当な返事をしていたら全力で頭を叩かれた。
しかしここは空のど真ん中。自力飛行でもない滑空してるだけのプレイヤーが取れる選択肢なんて、ほとんど存在していないのだ。
「も、mmmも森でデデデdすカらららららら」
「ギャーッ!? コワレタァ!?」
「まあ流石に冗談ですが」
「ジョウダンナノカヨ! イッポントラレタヨ!」
スパァンと、夜空に響く小気味良い炸裂音。
ああ、たった数日でこんなにも人間らしくなって……俗世に染まって……ホロリ。
「ワ、ワリィ。ソンナ、ナクホドツヨクタタクツモリワァァァァァァ!?!?」
若干の申し訳なさを感じたのか、こちらを慰めてくれようとした瞬間。2度目の雷撃が真横を通り抜ける。
「雷撃の
「レイセイダナァ!?」
「そういうユーちゃんは、随分と賑やかになりましたね」
「シニタクネェンダワ!!」
なるほどごもっとも。
「でも生き返れるんだわ!?」
「ゴビヲマネシネェデホシインダワ!?」
などとギャーギャー話している間に27秒。段々と下がり始めた高度のお陰か、バチバチと鳴り響く雷撃のチャージ音が届き始めていて──
「「ダワァァァァァァァ!?」」
再び真横を走り抜けた極太の雷撃。
1発目2発目よりは上手く避けられたが、それでももうHPは5割強しか残っていない。ちょっとこれはユーちゃんで遊んでる場合じゃなくなってきた。
「ジョウショウ! ライズ! ピッチアップ! ハリー! ハリー! ハリー!」
「ええい、急かさないで下さいよ!」
ペシペシとユーちゃんに頭を叩かれながら、どうにかこうにかメニュー画面→アイテム欄と操作して[初心者の大弓]を実体化。脚で掴んで準備を整えていく。
「エート……ホラ、アイツノサクテキハンイ50mシカネェカラ!」
「へー、あのボス格ってそれくらいの性能なんですね」
「モトカンリAIノケンゲンフルパワー!」
凍結中の権限で得ていた情報の利用に加えて、もう一個グレーゾーンを重ねるのは少し心苦しい部分があるが……緊急事態ゆえ致し方なし!
尻尾で引き抜いた矢を番え……番え……やっばユーちゃんが邪魔で矢が引き抜けねぇ。
「ユーちゃん、弓矢の矢! 尻尾に!」
「ハイヨォ!」
サンキュー自動給弾。
割と焦りながらも動作は慎重に。受け取った矢を大弓に番えながら、ピンと足を後方に伸ばす。鳥人間コンテストスタイルでの滑空に体勢を整え──
「準備完了! かっ飛びます、捕まってて下さいね!」
「オウヨォ!」
「ピッチアップ仰角3度、《狙撃》起動!」
番える弓は足での固定だから不安定。引き手は尻尾で代用していることからブレブレかつパワー不足。矢の品質も粗悪品で最悪に近い。正確な照準は必要ない。
これにて条件は揃った。
あとは火力をどれだけ出せるかの勝負になる。
「推力点火、
そのまま無理な体勢で、己が持つ最大火力のアーツを解き放った──瞬間。
「Fooooo!!」
凄まじい音を立てて、足元が爆発を起こす。
残り1割弱にまで急降下するHPを代償に、爆風に乗って滑空は大加速。上向いた翼で風を掴み、瞬く間に10m近く急上昇を果たした。
「テンションおかしくないです?」
「セイシノセトギワダッタンダヨ!」
「だわ語尾はやめたんですか……」
「コノッ! コノ! コノ! コノ!!」
静かな1人遠征もいいが、これくらい騒がしいのもやっぱり良い。些か騒がしすぎる気がしないでもないが。
「ッテカ、イマノバグッポイキョドウナンダ?」
「検証班の正式名称は『[特定条件下における
「ナゲェ、3ギョウデ」
「略称:剣」
「ソレハ“3ギョウ”ジャナクテ“3モジ”ナンヨ」
因みにHP・MP・SPの自動回復系のスキルをセットしておけば、基本的に幾らでも使用可能かつ同スキルのレベル上げも出来る。
「水中版の[略称:槍]、地中掘削版の[天を突くドリル]もありますよ」
「ナンデ、ナンデサイゴノダケ“リャクショウ”ジャ、ネェンダヨ……!!」
などと、適当なお喋りをしながら飛び続けること1時間ほど。
〈スキルアップ!〉
〈《HP自動回復Ⅳ→Ⅴ》
《MP自動回復Ⅳ→Ⅴ》
《SP自動回復Ⅷ→Ⅸ》〉
密林の中を歩くのとは比較にならない速度の飛翔は、あっという間に50kmの距離を踏破。遂に、この外征の第一目的地が目視できる位置へと俺たちは到達した。
[a.m.01:27(
[人類生存圏外縁・帰れずの森]
ここまで続いてきた、深い深い森の終わり。
「オ、オォ〜!! スッゲェナ、コレ!」
その先に続く広大な自然が、白み始めた空から差し込む曙光の色に照らされて。夜の闇の奥底から、じわりじわりと浮かび上がってくる。
「まあ、なんだかんだありましたが。ここまでのは全て前座──ここからが、探索の本番です。気合い入れていきますよ」
それは、異様な光景だった。
これまで通り過ぎてきた森は、探索をしたダンジョンは、モンスターという異質な要素はありながらも想像の範疇。即ち、現実の世界の延長戦上にあるだろうものだった。
だが、いま目の前に広がる光景は違う。
島が浮いていた。
地上に影が降りていた。
1つ、2つでは済まない無数の、大小さまざまな浮かぶ島々。
ある島には樹々が生い茂り、ある島は流れる川が地上へと流れ落ち、ある島は衛星のように小さな島を己に侍らせ、ある島は霧にその身を包んでいる。
そんな、森を抜け
そんな
「タンサクタンサクイッテッカラ、ドンナモンガマッテルノカシンパイダッタンダガ……イイバショシッテンジャネエカ!」
「HAHAHA」
自分と同じようにかは分からないけれど、ユーちゃんもきっと興奮しているのだろう。抑えきれないと言った様子で、バシバシと背中を叩いてくる。
「ナンダヨ、ミズクセェ。サイショカライッテクレリャア、オレダッテモウチョットキノリシテタゼ?」
ああ、本当に2人で来て良かった。なにせ──
「いや、なに此処ぜんぜん知らん……こわ……」
──何も知らない場所に到着してしまった。
「シラネェノカヨ!?!?」
「ユーちゃんの攻撃。ユーちゃんの攻撃。0ダメージ」
「シャァァァァ‼︎」
煽った結果頭に齧り付かれながら、薄々気づいて……いや随分前から確信していた現実に向き直る。
本来俺が目指していたのは、もうちょっとファンタジーが薄めの場所だった。
目指していた場所を例えるならば、水の通ったグランドキャニオンだろうか。
どこまでも続く大地の裂け目に荒れ狂う水が流れ、空にすら水の道が通る自然界に出来た水の都。断じて今いるような、風の都と言うべき雰囲気の場所ではない。
「ただ」
「タダ、ドウシタヨ?」
透過して頭に突っ込まれながら喋られると、脳内から声が響くのか……何これすごい気持ちわる。じゃなくてだ。
「こういう、意味不明な未知の自然を求めてたんです。本望ですよ!」
「タシカニ、スンゲェカオシテルモンナ」
「マジです?」
「ウッヒョー、ッテカンジノカオダワ」
つまりはオタク丸出しフェイスと……自重せねb──いや待って。なんで仮面越しなのに見えて? あっ、内側からかぁ(超速理解)
「……ふぅ」
「ケンジャタイムカ?」
「だまらっしゃい」
当初の予定からは大きくズレたが、これはこれでアリよりのアリだ。このまま興奮のままに突っ込んでリスポーン、そんな容易に想像できる流れにするのはあまりにも勿体ない。
「一旦地上に降りて休憩してから、全力で探索に行きましょうか」
「OK、OK、メイッパイアソボウゼ!」
探索開始1日目。
その出だしは上々だった。