元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする)   作:銀鈴

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すっごい遅れました。申し訳ない。
季節の変わり目の服って、ほんとどうすりゃいいんですかね(風邪)


26話 第1回イベント「開催中……です」

 

[a.m.01:07(R(リアル))/a.m.03:21(G(ゲーム))]

[南部前線都市アウステル・対イベント陣地〈奥〉]

 

「ア、チョットマッテ。ヤッパコワ──」

「Go!」

 

 バツンと断ち切られる投石機を固定していた太い綱。

 解放されたエネルギーは力となり、機構を迅速にかつ強力に走らせていく。

 腹の底から持ち上げられるような奇妙な感覚と、強烈すぎる風を切る轟音。

 ──プレイヤーメイドの投石機は完璧に動作して、石の代わりに俺たちを空へ撃ち出した。

 

「──イィィィィィィィッ!?」

 

 ユーちゃんの悲鳴の尾を引きながら、風を切り裂いて空を駆ける。

 暗い。暗い、何も見えない闇の色。現代とは違って人の営みが空を照らす程ではないこの世界で、夜の空は未だ人の手にないことは明らかだ。

 

 だが。

 

 これから赴く場所も、そういう未開拓領域そのものなのだ。こんな程度で怯んでいられるだろうか? いいや、否だ。

 

 だってそもそも暗視あるし。

 

「イヤッッホォォォオオォオウ!!」

 

 ぶち上がったテンションで叫びながら、弾道が頂点に達した辺りで買いたてホヤホヤの滑空翼を展開。両腕の自由と引き換えに、オープンワールドゲームに綿々と伝わる滑空飛行に移行した。

 

 移動速度Agl換算100ちょっと

 飛行高度大体50m

 旋回性能良し

 減速率はデータ通り

 β時からの仕様確認出来ズ

 システムオールグリーン

 

「……ああ」

 

 …………ああ。

 

 現代ではあり得ないほど綺麗な満天の星空を目に映し、思わず深く息を吐く。

 やっと、やっとだ。

 楽しい冒険に、理不尽な自然に挑む時が来た。

 

「モ、モウダイジョウブカ? メェアケテモナニモネェヨナ?」

 

 だけどその前に。少しだけ、自分が感動しているこの光景をユーちゃんにも共有したかった。

 

「大丈夫ですよ。それどころか、結構綺麗なものが見えてます」

 

 明らかにテンションが落ち着いた俺の声に、恐る恐るユーちゃんが目を開ける。そして同時に、ふっと息を呑む音が聞こえた。

 

 眼下に広がるのは、薄く篝火に照らされた前線拠点。その後方にはアウステルの全周を囲う城壁が存在し、その奥に見えるのは静まり返った静かな町。

 けれどそこにある人の灯火までは消えていない。

 眠そうな目を擦りながら、ランタンを持ち警邏中の衛兵。

 こんな時間だというのに活気の収まらないプレイヤーのショップ周辺。

 点々と存在する白い明かりのついた民家に、絶えず道を照らすオレンジの街灯。

 

 10万$の夜景なんて例えられる現代と比較すれば、この光景はきっと10$程度の夜景にしか満たないのだろう。

 だがそれでも、ゲームの世界に自分が居る。生きている。

 そう実感するには十分すぎる程、人の世界が感じられる光景がそこには在った。

 

「ワァ……」

 

 思わずと言った様子で声を上げるユーちゃんに、少しは楽しさの共有は出来ただろうか。出来ていればいいのだが。

 

「空も現代と違ってかなり綺麗ですよ」

 

 折角なのでそう促すと、微かに背中で動く気配。

 そして再び、細いため息が溢れた。

 

 現実世界でも上昇すればするほど空気は澄み、空の星々の輝きは増していく。その法則は、FEVの世界でも代わりない。

 確か区切りは50m刻み。境を越えるごとに、空は鮮やかさを増していく。

 

 検証班の面々曰く『地球上のどこにも存在しない星空』

 まるで異世界から映し取ったような未知のプラネタリウム。

 鑑賞するための前提条件は割と重いが、一見の価値はある星空がそこには在る。スクショスクショ。

 

「スゲェナ……ヒトリデミアゲテタトキトクラベテ、マジデベツモンダワ……」

 

 耳元で聞こえる言葉は、きっと偽りのない本音なのだろう。顔が見えずとも、楽しそうな気配がヒシヒシと伝わってきた。

 

「デ、コウイウノヲミニイクッテコトデイインダヨナ?」

「ええまあ。どこまで行けるか、どこまで辿り着けるか。その間にどんなものが観れるか。それがオープンワールドの醍醐味の1つですから」

 

 それもβ時点で探索しきれない広さなのだから尚更だ。

 まあ大体、途中でなんかよく分からない高レベルにエンカウントしてGame Overするが。それはそれで楽しいから良しとする。

 

「イイジャネエカ。デ、オレラガムカウノハドッチヨ」

「丁度街の反対側。あっちの方向ですね」

 

 展開翼の制御に使っている腕に変わって、行儀は悪いが足で方向を指し示す。

 

「ヒカリ、ナクネェ?」

「森ですからねぇ」

 

 おっと、探知に反応あり。

 

[右前下方47m  名称不明 危険度:極大 アクティブ 被照準中]

 

 あっこれだめなやつだ。

 全力で旋回して航路を変更。攻撃の予測で真っ赤に染まったラインから、なんとか移動経路を逸らして──

 

「ナンカ、ケモノノウナリゴエキコエルキガスンダガ?」

「森ですからねぇ」

 

 ──直後、地上から発射された雷が真横を突き抜けた。

 バリバリという空気の壁を破る放電音。直撃していないのに3割近く持って行かれたHP。幾ら俺の防御面が貧弱といえど、こんな街の近くで出されるはずが無い超火力。

 

「ヒュッ」

 

 うーんこれは徘徊ボスの類です、ありがとうございました。

 ユーちゃんもよく息を呑んでおる。

 

「シヌンダガ!?」

「森ですからねぇ」

「Aボタンレンダスンナバカ!」

 

 適当な返事をしていたら全力で頭を叩かれた。

 しかしここは空のど真ん中。自力飛行でもない滑空してるだけのプレイヤーが取れる選択肢なんて、ほとんど存在していないのだ。

 

「も、mmmも森でデデデdすカらららららら」

「ギャーッ!? コワレタァ!?」

「まあ流石に冗談ですが」

「ジョウダンナノカヨ! イッポントラレタヨ!」

 

 スパァンと、夜空に響く小気味良い炸裂音。

 ああ、たった数日でこんなにも人間らしくなって……俗世に染まって……ホロリ。

 

「ワ、ワリィ。ソンナ、ナクホドツヨクタタクツモリワァァァァァァ!?!?」

 

 若干の申し訳なさを感じたのか、こちらを慰めてくれようとした瞬間。2度目の雷撃が真横を通り抜ける。

 

「雷撃の冷却時間(クールタイム)は大体30秒と。最低限のデータは取れましたし、さっさと離脱しますよ」

「レイセイダナァ!?」

「そういうユーちゃんは、随分と賑やかになりましたね」

「シニタクネェンダワ!!」

 

 なるほどごもっとも。

 

「でも生き返れるんだわ!?」

「ゴビヲマネシネェデホシインダワ!?」

 

 などとギャーギャー話している間に27秒。段々と下がり始めた高度のお陰か、バチバチと鳴り響く雷撃のチャージ音が届き始めていて──

 

「「ダワァァァァァァァ!?」」

 

 再び真横を走り抜けた極太の雷撃。

 1発目2発目よりは上手く避けられたが、それでももうHPは5割強しか残っていない。ちょっとこれはユーちゃんで遊んでる場合じゃなくなってきた。

 

「ジョウショウ! ライズ! ピッチアップ! ハリー! ハリー! ハリー!」

「ええい、急かさないで下さいよ!」

 

 ペシペシとユーちゃんに頭を叩かれながら、どうにかこうにかメニュー画面→アイテム欄と操作して[初心者の大弓]を実体化。脚で掴んで準備を整えていく。

 

「エート……ホラ、アイツノサクテキハンイ50mシカネェカラ!」

「へー、あのボス格ってそれくらいの性能なんですね」

「モトカンリAIノケンゲンフルパワー!」

 

 凍結中の権限で得ていた情報の利用に加えて、もう一個グレーゾーンを重ねるのは少し心苦しい部分があるが……緊急事態ゆえ致し方なし!

 尻尾で引き抜いた矢を番え……番え……やっばユーちゃんが邪魔で矢が引き抜けねぇ。

 

「ユーちゃん、弓矢の矢! 尻尾に!」

「ハイヨォ!」

 

 サンキュー自動給弾。

 割と焦りながらも動作は慎重に。受け取った矢を大弓に番えながら、ピンと足を後方に伸ばす。鳥人間コンテストスタイルでの滑空に体勢を整え──

 

「準備完了! かっ飛びます、捕まってて下さいね!」

「オウヨォ!」

「ピッチアップ仰角3度、《狙撃》起動!」

 

 番える弓は足での固定だから不安定。引き手は尻尾で代用していることからブレブレかつパワー不足。矢の品質も粗悪品で最悪に近い。正確な照準は必要ない。

 これにて条件は揃った。

 あとは火力をどれだけ出せるかの勝負になる。

 

「推力点火、緊急脱出(ベイルアウト)

 (アーツ)《剛弓・獄火》!」

 

 そのまま無理な体勢で、己が持つ最大火力のアーツを解き放った──瞬間。

 

「Fooooo!!」

 

 凄まじい音を立てて、足元が爆発を起こす。

 残り1割弱にまで急降下するHPを代償に、爆風に乗って滑空は大加速。上向いた翼で風を掴み、瞬く間に10m近く急上昇を果たした。

 

「テンションおかしくないです?」

「セイシノセトギワダッタンダヨ!」

「だわ語尾はやめたんですか……」

「コノッ! コノ! コノ! コノ!!」

 

 静かな1人遠征もいいが、これくらい騒がしいのもやっぱり良い。些か騒がしすぎる気がしないでもないが。

 

「ッテカ、イマノバグッポイキョドウナンダ?」

「検証班の正式名称は『[特定条件下における(アーツ)の任意暴発によるノックバック及び体勢固定状態を利用した、空中落下時の大乱闘式復帰行動]を応用した武器系技自爆式の飛行距離延長法』ですね」

「ナゲェ、3ギョウデ」

「略称:剣」

「ソレハ“3ギョウ”ジャナクテ“3モジ”ナンヨ」

 

 因みにHP・MP・SPの自動回復系のスキルをセットしておけば、基本的に幾らでも使用可能かつ同スキルのレベル上げも出来る。

 

「水中版の[略称:槍]、地中掘削版の[天を突くドリル]もありますよ」

「ナンデ、ナンデサイゴノダケ“リャクショウ”ジャ、ネェンダヨ……!!」

 

 

 

 

 

 などと、適当なお喋りをしながら飛び続けること1時間ほど。

 

 〈スキルアップ!〉

 〈《HP自動回復Ⅳ→Ⅴ》

  《MP自動回復Ⅳ→Ⅴ》

  《SP自動回復Ⅷ→Ⅸ》〉

 

 密林の中を歩くのとは比較にならない速度の飛翔は、あっという間に50kmの距離を踏破。遂に、この外征の第一目的地が目視できる位置へと俺たちは到達した。

 

[a.m.01:27(R(リアル))/a.m.04:21(G(ゲーム))]

[人類生存圏外縁・帰れずの森]

 

 ここまで続いてきた、深い深い森の終わり。

 

「オ、オォ〜!! スッゲェナ、コレ!」

 

 その先に続く広大な自然が、白み始めた空から差し込む曙光の色に照らされて。夜の闇の奥底から、じわりじわりと浮かび上がってくる。

 

「まあ、なんだかんだありましたが。ここまでのは全て前座──ここからが、探索の本番です。気合い入れていきますよ」

 

 それは、異様な光景だった。

 

 これまで通り過ぎてきた森は、探索をしたダンジョンは、モンスターという異質な要素はありながらも想像の範疇。即ち、現実の世界の延長戦上にあるだろうものだった。

 

 だが、いま目の前に広がる光景は違う。

 

 島が浮いていた。

 

 地上に影が降りていた。

 

 1つ、2つでは済まない無数の、大小さまざまな浮かぶ島々。

 

 ある島には樹々が生い茂り、ある島は流れる川が地上へと流れ落ち、ある島は衛星のように小さな島を己に侍らせ、ある島は霧にその身を包んでいる。

 

 そんな、森を抜け草原(くさはら)に変わり始めた地上の空を占有する、宇宙(そら)に浮かぶ星々にも似た大地群。

 

 そんな幻想的(ファンタジー)な風景がそこには広がっていた。

 

「タンサクタンサクイッテッカラ、ドンナモンガマッテルノカシンパイダッタンダガ……イイバショシッテンジャネエカ!」

「HAHAHA」

 

 自分と同じようにかは分からないけれど、ユーちゃんもきっと興奮しているのだろう。抑えきれないと言った様子で、バシバシと背中を叩いてくる。

 

「ナンダヨ、ミズクセェ。サイショカライッテクレリャア、オレダッテモウチョットキノリシテタゼ?」

 

 ああ、本当に2人で来て良かった。なにせ──

 

「いや、なに此処ぜんぜん知らん……こわ……」

 

 ──何も知らない場所に到着してしまった。

 

「シラネェノカヨ!?!?」

「ユーちゃんの攻撃。ユーちゃんの攻撃。0ダメージ」

「シャァァァァ‼︎」

 

 煽った結果頭に齧り付かれながら、薄々気づいて……いや随分前から確信していた現実に向き直る。

 

 本来俺が目指していたのは、もうちょっとファンタジーが薄めの場所だった。

 目指していた場所を例えるならば、水の通ったグランドキャニオンだろうか。

 どこまでも続く大地の裂け目に荒れ狂う水が流れ、空にすら水の道が通る自然界に出来た水の都。断じて今いるような、風の都と言うべき雰囲気の場所ではない。

 

「ただ」

「タダ、ドウシタヨ?」

 

 透過して頭に突っ込まれながら喋られると、脳内から声が響くのか……何これすごい気持ちわる。じゃなくてだ。

 

「こういう、意味不明な未知の自然を求めてたんです。本望ですよ!」

「タシカニ、スンゲェカオシテルモンナ」

「マジです?」

「ウッヒョー、ッテカンジノカオダワ」

 

 つまりはオタク丸出しフェイスと……自重せねb──いや待って。なんで仮面越しなのに見えて? あっ、内側からかぁ(超速理解)

 

「……ふぅ」

「ケンジャタイムカ?」

「だまらっしゃい」

 

 当初の予定からは大きくズレたが、これはこれでアリよりのアリだ。このまま興奮のままに突っ込んでリスポーン、そんな容易に想像できる流れにするのはあまりにも勿体ない。

 

「一旦地上に降りて休憩してから、全力で探索に行きましょうか」

「OK、OK、メイッパイアソボウゼ!」

 

 探索開始1日目。

 その出だしは上々だった。




感想とか評価、お気に入り等いつもありがとうございます!

【ヤブサメ】
 アギャッス(気さくな挨拶)

【ユー】
 外のネットに進出済み。馬鹿どもによる光の部分だけじゃなく、掲示板(人間の悪性の掃き溜め)も触れた結果、急激に人っぽく俗っぽくなってきている。
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