元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
フルダイブ特有の感覚から身体に五感が戻ったことを感じつつ、閉じていた目をゆっくりと開いた。
「ふぅ……」
視界いっぱいに広がるのは、中世
いかにもな雰囲気で満ちているこの場所こそが、プレイヤーが一番最初に訪れることになる始まりの街。その正式名称は──
「[南部前線都市アウステル]、本当に帰ってきたんだ……」
心の底から叫びたいが、ここはソロモンでも受験会場でもないのでグッと我慢。そういった珍プレーは、平時の街中では可能な限り慎むべし。そういったものを解放するなら街の外だ。
自戒しながら深呼吸をすれば、耳に入ってくるガヤガヤとした喧騒。鼻をくすぐるのは美味しそうな肉の焼ける匂い。大地を踏み締める感覚も、初期スポーン地点である噴水のグラフィックも美麗なまま。リアルと寸分違わない。
故にこそ、抱く感想は『始まった』ではない。
やはり『帰ってきた』の方がしっくりくる。
果たしてこういった思いがVR依存症と言うのかもしれないが、辺りを見渡せば同じように放心しているプレイヤーが複数見受けられる。
ご新規さんか同類かは知らないが、わかる。実にわかる。いいよね……こういう街並み、実にいい。
「さて、メニュー画面は」
感慨深さを振り切って、先ずはメニュー画面の確認に入る。
口頭の発声による展開──よし。
手の動作による無音の展開──よし。
内/外:12:51/12:17
・ステータス ・アイテム
・フレンド ・マップ
・ギルド ・設定
・ログアウト ・インフォ
細かいレイアウトを除けば、ざっとこんな感じの配列だ。
《ステータス》は先程まで設定していた画面。
《アイテム》は所持アイテムの確認場所。
現在入っているのは……初心者用HP回復薬×3
初心者用MP回復薬×3
初心者用SP回復薬×3
の3種類で、ストレージの枠の数は……36? 半端な数値だし、多分何かを参照しているかもしれない。新規要素。
別枠となっている弾薬枠には、初期選択で得た通常矢が24本。こちらはストレージの枠数は固定で10枠。スタック数は通常ストレージもこちらも99個で変わらない模様だ。
《フレンド》は言わずもがな。
まだ空欄だが、メッセージや簡易的な通話が出来るようになる。自己のIDや検索機能、可否の選択などがあるがよくあるタイプ。
《マップ》も同様。
今は街のマップが表示されているが、拡大すれば大規模な地図にもなる。オートマッピング機能やピン留めなど、必要な機能はそこそこ揃っている。
《ギルド》はまだ未開放。
いわゆる冒険者ギルドではなく、仲間内で作るクランなどとも呼ばれる方だ。
《設定》も言うまでもない。
色々な設定をする場所だ。外部ネット・アプリケーションへの接続も、VR機器を事前にスマホやPCと接続していれば問題ない。
無論、配信などもここから外部接続だ。
《インフォ》はその名の通り情報枠。
メール機能には『サービス開始』『便利機能の紹介』という、2つの運営からの連絡が。何れはイベント告知なども来るだろう。
ゲーム内の掲示板に入るのもここからだ。軽く見るにトレードや意見交換、雑談など既に大賑わいの様相を呈している。
そして最後に、最も重要な《ログアウト》ボタン。
こちらも異常なし、正常に動作中。
──よって、万事問題なし。
今すぐにでも駆け出したいが、奇声は上げずに抑えめに。ゆっくりと急いで、街の北側へと歩を進める。
最初に遊びに行ける先は、街の東西南北4方向。街の出入り口及び、マップとしての切り替わりもそうなっている。出現する敵のレベルも東<西<南<北の順番。変わっていなければ、平均レベルが1→5→10→15といった感じに変化する。
セオリー通りに行くのであれば、東の平原で戦闘に慣れ、西の草原でその技術を確かなものにして、南の森で魔法攻撃を体験し、北の街道に向かい始めてのボス戦を経験する。
「だけど、正直つまらないし間に合わないからなぁ……」
なにせ、大体ゲーム内換算で1時間分の出遅れだ。
速い連中──それこそシステム面の検証班なら、既にレベリングを終えボス戦の最中の筈だ。現に人の流れを見るに、東西の狩場は大人気となっていて、南もそこそこ人は集まっている。
ゲームである以上必然的にリソースは有限。初日ゆえの問題だが恐らく、東と西ではまともに戦闘が出来ない。南の森は、全ての準備を投げ捨てて冒険したくなるので論外。
よってレベル差は大きいが、行き先は1択。
北しかない。
「手頃な敵はいないかなっと」
半裸に向けられる奇異の視線は無視。一路街の北へと向かい、辿り着いたのは見上げるほど大きな石造りの壁。高さは超大型な巨人であれば頭が覗く程か。かなり高い壁に設けられた狭き門は、大きく外に開かれていた。
そこから見える一面の草原にプレイヤーは殆どおらず、予想通り敵の取り合いは起きていない。
ただNPCの門衛さんがこっちを見てギョッとしていた。
軽く頭を下げてから準備運動。VRなので気分の問題だと言われればそれまでだが、やっておいた方が動ける気がするからやる派だ。
これから狙うのは、方法こそ確立した技。だが初撃に失敗したら最後、問答無用で死に戻りが確定する。ほとんど曲芸のソレだ。
「──見つけた」
門を出てから50m先。右前方に獲物……ファンタジーではよく見るといっていい醜悪な緑の小柄な生命体、所謂ゴブリンを発見した。
単独で近くに敵はいない。戦っているようなパーティーもいない、完全にこちらの獲物だ。
さあ、郷愁の満喫はもう十分。
ここからが冒険の始まり。
ここからが、元検証班としての面目躍如。
レベル1対平均レベル15、ジャイアントキリングの時間と行こうじゃないか。
「なあ、
「忠告ありがとうございます」
そんな明らかに挙動不審な俺を見て、先程ギョッとした顔をしていた門衛さんがそんな言葉をかけてくれた。
なるほど、真っ当で親切な忠告だ。表情もいたって真剣。もっとレベルを上げて出直せと、そういう事だろう。
「でも、一匹だけなら多分いけるので大丈夫です」
失敗したらそれはそれ。笑って死にましたーで問題ない。
照準よし、呼吸よし、クラウチングスタートの体勢をとって……
「よーい、どん!」
ゴブリンに向けて、放たれた矢のように走り出した。
序でに《識別》のスキルも起動、〈ゴブリン Lv15〉ということを確認。
接敵まであと3秒。矢筒の中に弓矢があることを確認。
接敵まであと2秒。ゴブリンがこちらを向いて武器を振り上げた。
「ぐぎゃぎゃぎゃ!」
侮るような笑い。確かに本来ならば、俺なんかは相手にならない。レベル差14というのは割とそういうものだ。
だが急所を一撃、クリティカルすれば足りない火力は補って余りある。ステータス不足を自前の技術で補い得る、VR系ゲームの良くも悪くもな点がここに味方する。
接敵まであと1秒。踏み切ってジャンプぅ。
「どっせい!」
「グギャ!?」
長い尻尾で飛越の体勢を整えつつ、両足をたたみ前方向へ。そうして加速した速度と全体重を乗せた、全力のドロップキックをお見舞いした。
直撃、吹き飛ぶゴブリン。
僅かだが減少するHPバー。
防御は抜けることを確認。
β時代とデータの変化はないと暫定!
「よっしゃ勝ったぁ!」
身体から地面に落ちながら、勝ちを確信して思わず叫ぶ。
戦闘の立ち上がりは上々。ならばあとは、俺が当てるだけ。こちとらVRで弓を引いて10年ちょい手前。極論撃って当たればそれでいいのだから、“道”としての型や射法は一旦横に。数え切れないほど繰り返してきた通り、静かに狙い撃つ。
「《狙撃》起動!」
跳ねるように飛び起き、流れるように弓を構え、矢を番え、弦を引く。ぎり、ぎり、と鳴く弓の声を聞きながら静止。視界に収めるのは起き上がり、こちらへ走ってくるゴブリンの姿。
相手は直進。回避運動は取ってこない。頭に血が上っているらしい──格上殺しの条件達成。発動中の《狙撃》スキルが生み出したレティクル、その中心にゴブリンの心臓を照準合わせ。呼吸を抑え、心を鎮める。
「
そして静かに矢を離し、未来を撃つ。
「ギィッ!?」
放った矢は狙いを過たずに心臓へ。
急所打ち+クリティカルヒット+弓・狙撃スキルによるダメージボーナス+大弓×
カシャンと、ガラスが割れるような音と共にゴブリンはポリゴンに分解され消えていく。ドロップ品があるなら、その場に何かが残るはずだが……何もない。残念。
〈レベルアップ! Lv1→6〉
〈ステータスポイントを割り振ってください〉
〈称号:大物喰らい を獲得しました〉
戦闘終了、残心を解く。
これぞリアルじゃ怪我が怖くて出来ないアクロバット殺法。1ヶ月分のブランクはあったが、まだまだ身体が動きを覚えてくれていた。一先ずは問題なく動けるらしい。
「一旦退避!」
落ち着くために深呼吸を一度入れてから、目を見開いている門衛さんに向け全力でサムズアップ。
直後に門へ、脇目も振らず安全地帯である街中へ向けて全力でダッシュする。
何せここはまだ格上が跋扈するフィールド。まともに戦闘なんてしたが最後、袋叩きにあって死に戻ってしまう。
「凄えな半裸の兄ちゃん。どんな曲芸撃ちだよ!」
「昔取った杵柄ってヤツですね。決まると気持ちいいんですよこれが」
スライディングしながら、門衛のおっちゃんとノリでハイタッチ。
弓のワンパン気持ち良すぎだろ! クリティカル気持ち良すぎだろ! 今のところミス=即死だけど。
「他の連中と違って1人なもんだから、また目の前で死ぬのを見るかと思ったが……やるじゃねえか。頑張れよ!」
「勿論、目一杯楽しみますよ!」
などと話してから、索敵がてらレベルアップ等の整理を開始。
ステータスはStrに8割がた突っ込み残りはAglへ。筋力と運動能力をとにかく上げていく。
ドロップは資金だけで、アイテムは何も落とさなかったので省略。
最後に獲得した〈大物喰らい〉の称号。自分よりレベルが上の相手に対する与ダメージにプラス補正を掛けてくれるらしい。10レベルくらい離れた相手を倒すと獲得できた気がする。何の効果もない〈βテスター〉の称号からこちらへ変更。
それでも大自然に挑むには、まだまだこのアバターは貧弱。
ということで。
「ひとぉつ!!」
〈レベルアップ! Lv6→9〉
〈ステータスポイントを割り振ってください〉
「ふたぁつ!!」
〈レベルアップ! Lv9→11〉
〈ステータスポイントを割り振ってください〉
「みいっつ!!」
〈レベルアップ! Lv11→12〉
〈スキルアップ!《弓Ⅰ》→《弓Ⅱ》
《狙撃Ⅰ》→《狙撃Ⅱ》〉
〈ステータスポイントを割り振ってください〉
と、同じパターンで3度ゴブリンを撃破。そろそろこちらの火力が足りてくる筈なので、2〜3匹の群れも狙っていくことにする。
「残りの矢は20本。大体3回くらいか」
ただ、こちらは相変わらず
加えて紙装甲である以上1発でも攻撃を貰えば即死。加えてサービス開始1時間で高レベルマップに来ている連中は、基本的に固定パーティか変人か。野良でパーティを組む奴らはいない。
よって、やることはただ1つ。
「伝家の宝刀、引き撃ちの時間だオラァ!」
余計な問題を起こさない為に声を出しつつ、そこそこ遠くの群れに対して3連射。直撃。3体のゴブリンからヘイトを集めつつ、逃走しながらの射撃を開始した。
一定の距離を保ちながら撃ち続ければ、逃げ切れるか相手が先に倒れるという寸法だ。いわゆる幕末オープンゲットの弓版である。
「ぐぎゃ?」
「おっと」
などと余計なことを考えながら走っていたせいだろう。
不幸にも
「食らえ必殺、ゴリラパンチ!」
握り拳に力を込めて、唸れ俺の右ストレート(アッパー)。弓手の引き手はパワーの塊。レベルと
「ギャッ!?」
「よしスタン!」
顎に強い衝撃を与えたおかげで、一瞬だけゴブリンが
「《狙撃》《ロングショット》」
ゴブAを打ち抜きながらゴブBに矢が直撃。ダブルキルを達成。1回目の引き打ち戦闘も終了だ。
〈レベルアップ! Lv12→14〉
〈スキル獲得! 《体術Ⅰ》〉
〈ステータスポイントを割り振ってください〉
おまけでスキルも獲得できて万々歳。
あとはリハビリがてらレベル上げをし、準備を整えて、待望の大自然へレッツゴー!
当然ながらフルダイブ型のVRゲームですので、所謂プレイヤースキルによる補正はあります。尤も、リアルで動けないor病弱な人が全く運動できない……なんてことはありませんが。逆もまた然り。
【技《アーツ》】
・パワーショット(消費SP5)
初期技。射程:通常 威力:高の射撃。
ヤブサメ君はゴリラなので火力がさらに高い。
・ロングショット(消費SP3)
初期技。射程:長 威力:通常の射撃。
ヤブサメ君はゴリラなので割と素で出来る(アーツを使った方が火力は高い)