元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
「一旦地上に降りて休憩してから、全力で探索に行きましょうか」
「OK、OK、メイッパイアソボウゼ!」
探索開始1日目。
その出だしは上々だった。
「ケドヨォ……ヤッパリ、シンダラモッカイコナキャナンネェノ?」
けれど。
警戒しながら下降する中、ふとユーちゃんがそんなことを呟いた。
どうやら気がついてしまったらしい。超長距離探索、及びそこからの開拓が運営の割と望んでいる遊び方なのに、プレイヤー人口が少なく死ぬほど不人気である訳を。
「ですね。このままだと、死んだら街まで死に戻りです」
「ダッル」
そう、それこそが人気が皆無な理由だった。
ここまで到達するのに1時間以上。ファストトラベルは
ダンジョンは通常プレイ環境内に幾らでもあり、レベル上げもPvPも可能。綺麗な景色だって、ここまでファンタジー色が強い場所は少ないが、まあなくもない。
……と、ここまでの条件を背負ってだ。
完全に未知の場所の探索である以上、得るものがあるかは不明ときた。データ提供をしてくれれば検証班は買うだろうけど、リターンがそれだけじゃ苦労にまるで見合わない。
結論として。
現状(β版を含む)の長距離探索は、一部の物好きを除いて普通やろうとすら思えないクソコンテである。
「ので、流石に対策はしてきてました」
俺だってまたこの道のりを辿るのは勘弁願いたい。
というか、ここから先の地点を探索する以上、いちいち街まで帰って再出発なんてやってられるものか。
「ヘエ、ドンナンダ?」
「ててててってて〜、スキル《簡易拠点作成Ⅰ》!」
某国民的アニメ風に宣言しながら、手元のウィンドウを操作。この為だけに大枚を叩いて買ってきたスキルを表示させる。
《簡易拠点作成Ⅰ》
一定の資材を消費し、特定のアイテムを設置することで、一定時間の間だけ機能する簡易的な拠点を作成する。
※効果時間中にログアウトした場合、ログイン直後にスキル終了となります。
[拠点効果]
・内部でのログイン/ログアウト可能
・HP/MP/SPの自然回復
・展開時間(ゲーム内24:00:00)
・冷却時間(ゲーム内24:00:00)
[要求アイテム]
・任意のアイテム×10
・就寝可能なアイテム(Ex.テント)
・任意で追加可能
要はリスポン地点を1個増やすスキルである。
なお素の状態だと効果はそれと自然回復だけで、敵の侵入防止もログアウト時の安全確保も存在しない模様。
「ホー、ツマリ?」
「ここをキャンプ地とする!」
ゆっくりと下降し続ける中、足で目的地を指差した。
まだ森と草原の境目に近い場所。遮蔽があり安全性は高いが、多くの草が生い茂りテントを張るには適さない気配しかしない一角。
「イイネェ! ッパ、ノリガワカッテルノハキモチイイゼ!」
「そしてぇ!」
テンションがアガってきた!なユーちゃんに続くように、改めて尻尾を使い足で掴んだ弓に矢を番える。同時に《狙撃》を起動し、推進力目的ではなく
「
火力は
うおォン、俺はまるで人間芝刈り機だ。
「ナア、チョットイイカ?」
「はいはい?」
「コンナオモシレェエヅラ、オレダケミテンノハモッタイネェトオモウンダワ」
確かに我ながら変態機動している自覚はある。
「なるほど、つまり?」
「“ハイシン”ヲサセテモラオウカァ!」
「だから気に入った」
出来ることなら、ハイタッチからのピシガシグッグッとやりたいくらいだ。
明らかに俺たちの影響が濃い代わりに、インターネッツ因習の学習速度が早過ぎる。遠くないうちにユーちゃんもシンギュラるんじゃなかろうか。
#ユーです #作業配信
【FEV】イベント中だけどお散歩【外界】
世の中には生主、
このVR全盛の時代に於いて、それらは1つの職業として確立した。その中でも
つまるところ、だ。
「ヤッホー、オマエラ。ミエテッカ?」
ユーちゃんは場慣れしていた。この落ち着きよう、確実に配信の回数を着実に重ねているに違いない。
改めて考えてみるに。ユーちゃんの急激な人間性の獲得の原因、その1つは明らかにこの配信活動にあるのだろう。尤も、生主やVの者どころじゃない、AItuberという新ジャンルの存在になるけど。
絵や小説に続いて、配信文化もAIに破壊されてしまう……おのれディケイドぉ!
冗談はさておき。
一体いつの間にアクセス権を貰ったのかはわからないけれど、楽しそうなことに違いはないからヨシとする。固定ファンも付いてるっぽいし。
:見えてるよー!
:眠れない学生に優しい時間
:野外?
「マアイイ、スワレヨ。オマエラモツカレテンダロ? ユックリシテイッテネ」
はえー、すっごい闇鍋語録。
こちらも対抗せざるを得な──いや、やっぱやめておこう。うん。
:座れよと言われても
:それどころじゃないのが画面にいて草
:空飛ぶレユニオン仮面の半裸荒ぶる鷹のポーズ男性羽根付き(足で弓撃ち中)とは
:該当者1人しかいねぇじゃねぇか!
「チナミニ、キョウハタイトルドオリ“サンポカイ”ダ。
ツレテキテクレタノハ、オサッシノトオリ“ウチノギルド”ノ“ヤブサメ”ダゼ」
「どうも」
:黙れ
:男が喋るな
:折角のプレゼント使ってくれないんですか……?
……どうしよう、普段のコメントより辛辣な当たりで泣きそう。
折角話題を振ってくれたユーちゃんも唖然としている。
まあ、
「全く、これでいいですか?」
:ええんやで(ニッコリ)
:何゛も゛……な゛か゛っ た゛!
:有効活用してくれて嬉しいです!
ということで、仮面の変声機能をON。
古の時代にあったコメント欄とのプロレスが成立したのは嬉しいけど、トラブルの芽は未然に摘んでおくに限る。
「エェ……イイノカヨ、コレ」
「いいんですよ」
困惑しっぱなしのユーちゃんを他所に、まだ続きそうな拠点の整地を続行。
「ン゛ン゛、アー。アラタメテ、キョウノサンポサキナンダケドナ」
必死に流れを変えようと話をしながら、背中越しに肩を叩かれる。言ってもいいのか、じゃないな。多分発音の問題で、俺が言った方がいいのか。面倒な漢字が多い地名だし。
「VRの車窓から。今回の旅先は[人類生存圏外縁・帰れずの森]です」
「スッゲェトオカッタワ」
でもいい景色だよな、と配信のカメラが背後を向いた。
映し出されるのは浮遊岩群が作り出す、未知なる自然の幻想的な光景。独り占めならぬ2人占めは乙なものだけど、見せびらかすのも別ベクトルで気持ちいいゾイ!
:は??????、?
:待って?
:のほほんしに来たら最前線飛び越えてで草
:検証班ー!! 視聴者の中に検証班の方はおられませんかー!?
:配信に映ってる弓の方はそもこっち寄りの方ですよ FEV検証班代理ちゃん
:はっや
:発言から3分経ってないのに視聴者くっそ増えてて笑う
そうして、行き先を告げた瞬間。あっという間にコメントが爆速と化した。や、深夜なのに人多いな。
「ということで」
「トイウコトデ?」
「スキルの発動条件を満たすための整地も終わったので、ちゃちゃっと拠点を作りますね」
まあ人が増えたところでそれはそれ。配信用にちょっとキャラ作ったり注意こそすれ、やることに変わりはない。
着陸して、ユーちゃんを背中から降ろす。ああ、1時間ちょっと振りの地上だ……
:あれ整地だったんだ
:怪しげな呪術の儀式かと思ってた
:奇行種
:GIFにしました
黙れ。
あと最後のやつは許さん。
「サッキイッテタ、“カンイキョテンサクセイ”ッテヤツダナ!」
「ですね〜。起動《簡易拠点作成Ⅰ》」
楽しそうなユーちゃんを横目にスキルを起動。
すると、手元に発生するのは所謂エディット画面。使用するアイテムの選択と、完成した際の図と拠点の能力値が表示される。
「必須素材の[任意の素材×10]は、こんもり積み上がった草の山。テントは適当に買ってきた店売りの安物です」
見た目は少々見窄らしいが、ちゃんと雨風は凌いでくれるから問題はない。加えて現実と違って、スペースさえあれば完全に展開された状態でも出せる便利機能もデフォで不足している。
「ウヘェ、ネゴコチワルソウ」
「安心してください、最悪です」
「エ゛」
:そうなのか……
:ワカル
:あれは雨風が凌げるだけの物体ですFEV検証班代理ちゃん
:高いのがオススメだよ!Alice in Wandervogel
:くそ、画面の変態が気になって情報が入ってこねぇ
:はじめてか? まあ力抜けよ……
まあ、実際に寝る予定はないから問題はあんまりない。重要なのはあくまでリスポン地点の追加であって──待って、Alice in Wandervogel? 本職の同業者来てくれてるじゃん!?
「あとこのままだと原生生物に壊されたり、他プレイヤーに壊されたりするので……これを使います」
「サイリウムカ?」
「見た目は」
アイテムとして実体化させたのは、紫色に淡く発光するペンライトのような物体。いつかの野外キャンプでも使っていた、野営するのには必須のアイテム。
「配置すると徘徊ボスと許可を出した相手以外、拠点に侵入出来なくなるアイテムです。名前はピンポイント・ピース・クラフター……通称:パパ棒ですね」
「……マジ?」
「検証班wiki内の公式略称ですよ」
:オヤオヤオヤオヤ
:ど下ネタじゃねぇか!
:サイリウムは不評でして……FEV検証班代理ちゃん
:レユニオン仮面じゃなくてゾアホリ仮面じゃったか
「取り敢えずこれを地面におったててですね」
「ヤメロォ!」
「ナイスゥ! そしてスキル起動!」
飛びかかってきたユーちゃんを躱し、全力でサイリウム状の物体を地面に投擲。紫の棒が天に向けて突き立ったところでスキルを起動させた。
途端、
まるで何かの生き物であるかのように、テントとパパ棒を取り囲み形を成していく。
「イヤ、キモクネェ?」
「雪とか砂だと綺麗なんですけどね」
:蛇の群れっぽい動き
:簡易拠点作成スキル、動いてるのはじめて見たわ
:普通にステ補正も技も追加されないスキルは要らん
:わー……草でやるとこんな風になるんですねAlice in Wandervogel
適当にコメント欄を見ながら待つこと数秒。
完成したのは、草でできたかまくらに似た物体。森と草原の境目に存在するお陰で、某ポケットなモンスターの秘密基地にも似た拠点がそこには出現していた。
「ウォー! ナンカ、“ヒミツキチ”ミタイデイイナ! キモカッタケド!」
スキルを使っただけなので面映い思いの方が強いが、ここまで喜んでくれるなら嬉しいものである。
「挙動に問題はなし。ログアウトも無事に出来そうですね」
手元のウィンドウが拠点の状態を指し示すものに切り替わった。スキルの動作は正常に完了、ログアウトボタンも灰色の状態から復活している。
「リスポーン地点をこっちで登録して……ユーちゃんの方も大丈夫そうです?」
「ン? オォ、トクニモンダイハナサソウダゼ!」
メニュー画面で何かを確認したあと、ユーちゃんもサムズアップを返してくれた。現時点での想定外はなし。概ね大成功と言っていいだろう。
「なら、いざ挑むとしましょうか。幻想に溢れた未知のロマンに!」
「オウサァ!」
パチン、とハイタッチを交わし拠点に背を向ける。
ここまで長くなってしまったが、漸くだ。多分そう長くない時間で死に戻ることになるだろうけど、やっと本懐を果たす時が来た。
【警告】
この先は人類の生存圏の圏外となります
以降、一部のシステムサポートが停止します
(▼詳しく見る)
探索を始めますか? Yes/No
そうして、草原へ向けて一歩踏み出した瞬間。正式サービス後は初めて見る、見慣れた懐かしいウィンドウがポップした。
:生存圏なんて概念あるのか
:ほーん、こんなの出るんだ
:ストーリーやるとわかりますよFEV検証班代理ちゃん
:早く先が見たいわ! 赤裸々に見せてちょうだい!
「ナー、コレカクニンシトイタホウガイイカ?」
「そうですね。一応、自分も知ってる物と差異がないか確認しておきましょうか」
【停止するシステムサポートについて】
・ギルドチャット、メール、ゲーム内からの掲示板アクセス等の連絡システム
・自然環境による影響の顕在化
・満腹度システムの顕在化
・脱水度システムの顕在化
・疲労度システムの顕在化
・以上に伴う状態異常の実装
つまり、ちゃんと飲み食いして休まなきゃ死ぬぞという警告だ。
Minが低いプレイヤー……つまり俺などが長時間雨風に打たれたりすると、風邪をひいたりもする。逆にVitが低いプレイヤー……つまり俺などがHP減少を放置しておくと、怪我として状態異常が発生したりもする。
うーん知ってたクソ環境!
「けど」
「アコガレハ、トメラレネェンダ!」
だけど、ここまで来てその程度。
止まる理由になりはしないと、遅れてノってきたユーちゃんと共に──Yesのボタンを叩き込んだ。
【Welcome to the Frontline!】