元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
【Welcome to the Frontline!】
〈ようこそ未開拓領域へ!〉
〈あなたは[4人目]の外界探索者です〉
〈称号:肆番外征者 を取得しました〉
〈付随してスキル:サバイバル を取得しました〉
〈専用
〈現在はゲーム内時刻04:32です〉
「急にインターネット老人の炙り出ししてくるじゃん」
「デモ、“キリバン”ハネーノナ」
ユーちゃん、遂にそのレベルの深さまで知識の収集を……インターネットの深淵に迫ってる。怖い。
:あの日、あの時作ったHPの遠い記憶……
:うっ FEV検証班代理ちゃん
:黒歴史を掘り返すな
:過ちは繰り返させません!
:裏掲示板とか何それ気になる
:配信に映しちゃダメだよー Alice in Wandervogel
「ウッス。まあこの企画、ユーちゃんの散歩がメインですしね」
「エッ……アー、ソウイエバソウイウメイモクダッタワナ。スッカリワスレテタ」
とりあえず専用BBSは見知らぬ要素だし、先達からの意見に従っておくとする。
「で、新しく踏み入れたこの場所、マップ名[
確認をしようとマップを開いた瞬間、表示されたのは真っ新なマップと一部が歯抜けになったマップ名。空白部分はカタカナ制限で3文字しかないが、文字が入力出来るようになっている。
「見てくださいユーちゃん、早速アタリを引いたみたいですよ!」
「ンォ? ナンダナンダ」
ずい、とユーちゃんが覗き込んでくるのに合わせて、配信画面にも映るように手元のウィンドウを調整する。
「マップ名のここ、文字が入力出来るようになってるじゃないですか」
「ダナ」
「ここ、俺たちで命名できます」
「マジデ!?」
「マジですマジ」
:へぇ、残ってたんですねその機能 FEV検証班代理ちゃん
:そんなこと出来るの!?
:ゲームに自分の足跡を残せる……ってコト!?
:いいなぁ
検証班のリスナーが言ってる通り、これはβテスト時からある外界探索の目玉ポイントだ。
ゲーマーと成ったからには、誰でも一生のうち一度は夢見る「好きなゲームに自分の名前を残す」行為。
β版では荒らしが頻発した悲しい要素だったが、ちゃんと本運営でも残してくれたらしい。
「どうせだからユーちゃんが名付けていいですよ」
「イイノカ!?」
「俺はβ版では散々名付けしましたからねぇ」
マグマの代わりに氷の滝が噴火していたマップの[
:荒れそうな要素だなぁ
:因みに本名・アドレス・電話番号とかの個人情報を特定できそうな情報とか、あからさまな下ネタとかは弾かれるよ Alice in Wandervogel
:割と悔しいし名前つけたいな……
:βテスター1000人に聞いた最悪の地名は[ここは俺の土地m9(^Д^)お前ら敗者]です FEV検証班代理ちゃん
:草
言うまでもないが、その地名は後に運営に修正されている。
加えて1時間未設定のままでいると、運営側がランダムに生成した名前が当てはめられることになる。その方が世界観に沿ったいい感じになることも多い以上、放置する人も多かったとは聞くが──
「ヨシ、キメタ!」
──どうやら、その心配は要らなかったらしい。
「コノバショハ、『フカンセイケイリラティック・テル』ダ!」
満面の笑みで、楽しそうに文字を入力して確定。いつかの自分と重なるその姿はどこか綺麗で……これだから止められない。あと自分でも名前付けたくなってきた。譲ったはずなのに地味に悔しい。
〈同行者:ユー が地名を確定しました〉
〈命名:浮岩星景リラティック・テル〉
〈条件達成を確認〉
〈経験値を獲得しました〉
〈スキル熟練度を獲得しました〉
〈称号:はじめの一歩
命名者
浮岩星景 を獲得しました〉
〈アイテム:外征兵装の設計図 を入手しました〉
〈アイテム:肆番外装の欠片×5 を入手しました〉
〈システム:遠征 が解放されました〉
などと考えている間に、押し寄せてきた無数のお知らせの群れ。
ちょっと待って多い多い。あと特に最後の3つとか凄い気になる。
正直、今すぐ配信放り出してでも調べたい。ああいやでも折角ここまで来てるのに、探索とか何もせずに帰るのも嫌だし……
「名前付け、その心は!」
「フツウニ『アウステル』カラダガ?」
……とりあえず、後の楽しみとして取っておくことにしよう。
今は配信を続けてなんかいい感じに終わらせるのを優先!
:wikiに追記しました FEV検証班代理ちゃん
:はやい
:結構単純な理由だった
:・ユーとかでも良さそうだったのに
「オマエラ、ジッサイデキルトナッタラ、ジブンノナマエツケラレンノカヨ?」
配信は沈黙した。
言えない、ネタ切れしてヤブサメとかボーゲンとか付けた地名が結構あったなんて。
「さて、気を取り直してお散歩と行きましょうか」
パンと手を叩き、余計な情報を掘り起こされる前に話の流れを変えにいく。
「ソレモソーダナ。ナニカヤブサメノ“オススメ”ッテアルカ?」
「生身のプレイヤーの場合は、視界に増えた情報量と鋭敏化した感覚になれる必要はありますが……」
AIとしてのユーちゃんの場合、そこのところ如何なのだろうか。
普段の
そして明らかに五感が鋭くなっている謎の仕様。
これも慣れれば如何ってことはなく寧ろプラスに作用するのだが、最初のうちは微妙なズレとなってゲームの邪魔をしてくる。
「オ、オ、ォォォ? イワレテミレバ、タシカニ?」
言葉を聞いて数秒、ユーちゃんにもその変化は感じ取れたらしい。ふわふわと浮かびながら謎の動きを繰り返し、変わった何かを確認しようとしていた。
:謎の動きで草
:ふしぎなおどり
:壊れた盆踊りマシーンで草
:壊れた盆踊りマシーン!?
:草
:禁じられた機械を平気で(ry
なるほどなるほど、ならばこちらも答えねば無作法というもの。
ユーちゃんの背後について、動きを人体ができる限りでトレースしつつ……
「あの子よい子さVR娘、心パチパチ電子回路さ」
適当に知ってる民謡の替え歌を歌いながら、本来の予定をガン無視して盆踊りを敢行した。
「清き御霊は人と変わらず、あの子良い子さVR娘〜」
:キャァァァァァ‼︎ ダブル盆踊りマシーンブロークンだぁぁぁ!!!
:上手くもなく下手でもなくて何も生えない
:俺たちは……何を、見せられてるんだ……?
:いいだろ、深夜配信だぜ
:割と立ち位置ハッキリしてんなこの歌
「ナニヤッテンダヨイキナリ」
「ユーちゃんの真似ですが」
「オレソンナキミョウナオドリシテタカ!?」
「してましたしてました」
コメント欄だってそう言ってる。
でもダブル盆踊りマシーンとはこれ如何に。汚い裏声の高音の叫び声らしき文面がセットだし。
「さて。あんまりダラダラしてても、勝てない相手に襲われるだけですし」
割とショックを受けてるユーちゃんだったり、困惑しながらも楽しそうなコメント欄は一先ず置いておいて。
「本格的に散歩と洒落込みましょう」
未開拓領域の探索に移っていくことにしよう。
「《領域魔法》起動、《
まだ回復アイテムなしでは常時展開出来ないが、ここは既に未知の世界。収集できる情報は全て収集しておくに越したことはない。
クローニンの言葉じゃないが、知識と情報は何にも変え難い宝なのだ。
:《サバイバル》スキルセットした? Alice in Wandervogel
「あっ」
「ア?」
……なんて意気込んだ直後、流れてきたコメントに足を止める。
そうだった。なんか楽しくなっていたせいで忘れてたけど、このまま探索を進めたら不用意な事故死に遭うところだった。
「ユーちゃん、さっき《サバイバル》ってスキル取得しました?」
「シタケド、ナンカベンリナノカ? コレ」
「そうですね。外界探索には必須級の便利スキルです。うっかり忘れてましたけど」
:そんな便利なら忘れるな
:何それ気になる。
:探索してみたいから詳しく
:ちょっと特集ページ組みますね FEV検証班代理ちゃん
「グタイテキニハドンナンダヨ?」
「そうですね……体感、死ぬ確率が7割減ります」
「………ナンデソンナノワスレテンダヨ」
「………てへっ」
女性ボイスじゃなきゃ許されない台詞で誤魔化しながら、手元のウィンドウを操作。ユーちゃんと配信画面双方に見えるように、スキルの説明を映し出す。
《サバイバル》
釣り・採取・登攀・水泳・簡易クラフトの5種類を、出力を調整しながら発揮する。
〈現在の効果量〉(分配可能:50%)
・釣り(0%)・採取(0%)
・登攀(0%)・水泳(0%)
・簡易クラフト(0%)
「要は5つ分のスキル枠を開けつつ使用できる代わりに、効果量がバチクソしょぼい感じです」
「フム、ソレデ?」
「水泳・登攀は10%でいいのでONにしてると、突然溺れ死んだり落下死したりしなくなって、採取をONにしてるとご飯に困らなくなります」
「クソジュウヨウジャネエカ!」
スパン、と小気味よく振り抜かれたユーちゃんの拳。Noダメージ。
10%で1段階目のスキルの〈Ⅰ〉相当の効果量しかないが、0と1は天と地ほどの差があるってそれ一番言われてるから……
:神スキルでは?
:超欲しいんだけど
:因みに元スキルにあるステ補正は0だよ Alice in Wandervogel
:解散
:作成には元スキルを全部Ⅹまで上げる必要もありますFEV検証班代理ちゃん
:終わり!閉廷!解散!!!
あとは確か、一個前のソフトから継続して登場してるスキルなんだったか。全体的に性能はかなりナーフを食らったと専らの噂である。
「スキルよし! 拠点よし! 警戒よし! 今度こそ何の不備もなし!」
「ッテコトハ!」
「探索スタートです! どんどんぱふぱふ〜!!」
「Yeah!」
いえーいと、勢いよくハイタッチ──なんか今、一瞬だけすっごい流暢だった気がするんだけど。
「ジャア! オレ、アソコイッテミテェ!」
言って、ユーちゃんが指差した先にあるのは浮遊岩の1つ。その中でも一際水属性感が強いと言うか、表面の7割くらいが水で覆われた数百mはくだらない大きさの場所。
「りょーかいです。下に水が落ちて来てますし、滝登りでもしていきましょうか!」
地面に向けて滝のように水が墜落して来ている感じ、泳ぐか船に乗るかすればなんとか……いや、他の小さい岩を足場に上がっていく方が効率的か?
:濡れスケが見れると聞いて
:黒髪ロング半透明白ワンピ少女の濡れすけ!?
:●REC
:水着回!? FEV検証班代理ちゃん
:祭りだ祭りだ
「オレ、オヨイダコトネーンダケド」
「最悪のまた背中に乗っててくれればバタフライで──」
などと、大喜びするコメントと共に足を踏み出した瞬間だった。
ズ、と静かに重なる黒い影。
頭上を一際大きな浮遊岩……便宜上「星」と呼ぶことにする……が通り過ぎ、とても奇妙な感覚が俺たちを襲った。
「──ん?」
「イ……?」
言うなれば、ある筈だと思って降りた階段の最後の1段が無かった時のような。
或いは、水溜りだと思って足を踏み入れた場所が凍りついていた時のような。
地面を、地面として踏みしめられない感覚。
視覚と感覚の違和に脳がバグったような気味の悪い感触。
やられた、と思った時にはもう
いや、正確にはこう言うべきか。
空へ浮かぶ星に向かって、俺たちは
「ノ、ォ、ワァァァァァァッ!?」
「HAHAHA! このザ・初見殺し感、懐かしいですねぇ!」
ぐんぐんと地上を離れ、空へ向かって堕ちていく。
運営の関与しないランダム生成ゆえに、当然のように発生する初見殺しに詰みに正解なんてそもないルート。
不条理のオンパレードだが、これでこそ自然感があって嫌いじゃない。
「ハ、ハネ! アノハネダシテトベネェノカ!?」
「ハッ、その手がありました!」
背中の定位置を確保したユーちゃんに言われ、死ぬ前に少しは足掻いてみるかと翼を展開。
「アッ」
「風の強い日の傘かな?」
翼は裏返って千切れ飛んだ。
:草
:これが重力的眩暈ちゃんですか
:つまりコレってどういう……?
:死ですね FEV検証班代理ちゃん
:ヤブサメボーゲンこれはもう無理!
:南無 Alice in Wandervogel
:おーおー、好き勝手言いなさる
「アァァァ! ハネェェェ!」
「ふふ……死ぬ時は一緒ですよ」
「ウレシクナイワボケェ!」
などと言ってる間に、星の大地はすぐそこに。
あっ、ちょっと死ぬ。