元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする)   作:銀鈴

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ほぼ1ヶ月ぶりで申し訳ない。
みなさんも風邪とか事故とか病気とか怪我には気を付けてくださいね……ほんと……


31話 第1回イベント「まだかな…まだかな……」

 

[a.m.11:30(R(リアル))/a.m.10:30(G(ゲーム))]

[中央旗艦都市ケントルム・ギルドハウス]

 

「それではレイドバトル前に、現状判明している情報とボクらの状態を含めたミーティングと行きましょう!」

 

 地上戦闘がまだメインの時期に航空戦力×エリアサーチという、最強of最強の方法でクエスト発見報酬を独占した翌日。

 全員の噛み合うログイン時間的に、ようやく集まることが出来たこの時間。レイドバトルまであと少しというタイミングで、改めてクローニンが一席を設けることに相なった。

 

「まずは一番大切なボクら【クローニンと愉快な仲間たち】とけつ毛まで毟って殺す【面白き事もなきを面白く】の貢献度順位ですが……」

 

 クローニンとホワイトボードを中心に全員が座る中、ドラムロールと共に順位表が投影されていく。ワクワクどきどきの、蹂躙具合の結果発表は果たして──

 

 [54位:クローニンと愉快な仲間たち]

  ・

  ・

  ・

 [147位:面白き事もなきを面白く]

 

「……ヤブサメとみんなの活躍のおかげで、ダブルスコアぶっちぎっての分からせに成功しました! パチパチパチー!」

「ぃヨシッ!!」

「クポーポン!」

《やったぜ、投稿者(ryとマスターは仰っています》

 

 満面の笑みを浮かべたクローニンの言葉に、隣に座るアブっさんと拳を打ち合わせる。苦労した甲斐があったというものだ。

 目に見える成果がちゃんとあって、しかも圧倒的にこちらが勝っている。これほど気持ちの良いことはそうないだろう。いやぁ、ゲームと大義名分って素晴らしいなぁ!

 

「しかし残念ながら、レイドバトルのポイント設定如何によってはまだ逆転される可能性も0じゃありません」

はるほほ(なるほど)ふぉれへ(それで)?」

 

「ただ今より、昨日のクエスト周回で溜まりに溜まった経験値の精算タイムを始めようと思います!!!」

 

「「Foooooo!!」」

「ブッピガァン!!」

 

 クローニンの挙げた号令に、マンガ肉に食らいつくFluoriteさん以外で両手を挙げてハイタッチ。

 昨日の深夜まで奔走することになったクエスト探索。その副産物として、レベルの変動こそないがスキルの熟練度はかなり上がっている。当然、スキルの進化が出来るくらいに。

 

「それじゃあ足りない素材があれば、ボクらが溜め込んでる中から適当に引っ張り出すなりトレードなりしてくださいね!」

 

 ということで、以前の義眼に進化させた時と同様にウィンドウを操作。必要な部分を可視化させる。

 まず1つ目は3種カンストした自動回復スキルから。内容は──

 


 《HP自動回復》PS(パッジブスキル)

  戦闘中でもHPが自動回復する(1/1s)

 【進化が可能です】

 ・HP自動回復〈中〉(条件:達成済み)

 【特殊な進化が可能です】

 ・リジェネレーション(条件:HP・MP・SP自動回復X)

 ・?????(条件:上記+竜の心臓系アイテム)


 

 ──まあこんなものだ。

 表示されているのはまた既知の情報の範囲内。リジェネレーションも悪くはないのだが、あちらは回復の内容が進化前と同じ固定値スキル。HP・MP・SPの全てが毎秒1回復し続けるタイプになる。

 で、???表記で隠されているもう一方は回復が%計算になる。ただし回復が5秒に1%で、タイミングの遅さと総回復力がステータス次第で前者に劣る。が、その分ほかの能力が付く。

 

 しかし1つ大きな問題がある。

 

 それは、こんな序盤も序盤でドラゴン系の相手なんて倒せないことだ。

 いやまあ、頑張ればやれない事もないが……レア素材の心臓が出るまで周回するのはマジ無理ポ。物欲センサー強すぎてぴえん、である。よって正式サービス版でも生きている、PKのかつて温床となったクソ仕様を利用させてもらう。

 

「そういえば、Fluoriteさんは《竜の炉心》スキルゲットしました?」

ふぁい(はい)ほらほひゅーと(ドラゴニュート)はら(なら)むひょーへん(無条件)()ひんは(進化)へひまふ(出来ます)はら(から)

「なら、この外界産の山菜セットあげるので、代わりに心臓くれません?」

 

 訪ねてながら、片手にアイテムを実体化、もう片手でPvPの申請を行う。

 そう、これこそが序盤に〈竜の心臓〉系アイテムを手に入れる最短ルート。レベルを上げたドラゴニュートのプレイヤーを、モツ抜きでPKすること。

 強力な種族ではあるがレベルが上げにくい事も災いして、β版ではドラゴニュートのプレイヤーは絶滅した。紛れもなくクソ仕様である。

 

ふぁあ(ああ)ふぁのふひる(あのスキル)へあへ(目当て)へふは(ですか)。どうぞ、抵抗しないのでササっと殺って下さい」

「ヨシッ」

「エッ、オマエラマジデイッテンノソレ……?」

 

 目を見開いて驚くユーちゃんを尻目に、トレードは問題なく成立。PvP専用のフィールドが展開される。決まり手は松茸と筍風のアイテムセット、総入手量1のアイテムは流石に強かった。

 

「んしょ……ちょっと待ってくださいね、装備脱ぐので」

 

 言いながら、Fluoriteさんが自らの装備を外していく。

 武器を近場に立て掛け、しゅる……と帯を解いて浴衣を非実体化。真っ白な素肌を惜しげもなく晒しながら、髪留めも外し長い髪がサラリと解ける。

 薄く、ほっそりとしながらも丸みを帯びた肩。僅かに浮き出た鎖骨に肋骨、今にも折れそうな細い首、そしてなだらかながら色気のある身体。このふるりと髪を払う姿すらどこか扇情的で、非常に目に悪い。

 

「どうぞ」

 

 最終的にインナーのみになった状態で、こちらを歓迎するように両手を広げられた。うーん、非常に精神的に良くない。本当に。鋼の意志よ仕事してくれ、本当に。本当に。ほんと……むん。

 

「じゃあいきまーす、技《抉撃》」

「マジデヤンノ!?」

 

 心頭滅却。さっさと終わらせようと、近づいて体術系の技を全力で打ち込む。顔や首を狙うのはなんか心情的に嫌なのと、下腹部は身長差で届かないので、必然的に胸をぶち抜く形になるのだが……

 

「……わざわざ胸狙いなんて、エッチですね」

「ェン゛ッ!!」

 

 耳元で変なこと囁かないでほしい、マジで。

 

「私の心臓、大切に使ってくださいね──へんたいふしんしゃさん」

「ミ゜ッ!?」

 

 当然、馬鹿みたいに上げたSTRは装備なしのFluoriteの防御を突破。狙った部位的なボーナスもあり、クリティカルでそのHPを消し飛ばした。

 You Winの表示が燦然と輝く中、変な動悸がする。やべータイプのASMRを直で浴びた気分、コワイ。

 

「ウヘー……ナンカスゲェコトヤッテンナァ」

「えっち星人ですよえっち星人。ユーちゃんも取って食われそうになったら言ってくださいね、弾幕を浴びせてやります」

「ぐぽーん」

《倒錯的な、何か熱いものを感じる……とマスターはおっしゃってます。……ヘンタイ》

「グポン!?」

 

 悲しいかな、健全な男子には針の筵になってしまったらしい。

 悲しみを背負いながらも、ゲットした[Fluoriteの心臓]というアイテムをセット。スキルの進化を実行する。

 


 《僭称・竜の炉心》PS

  竜種の系譜にない者が竜種の力を望み、

  果てに得た紛い物の竜の心臓。

  HP・MP・SPが戦闘中でも自然回復する(1%/5s)

  状態異常・魔法攻撃耐性微増

  ドラゴン系モンスターからのヘイト増


 

 そうして完成したのがこれ。

 ドラゴニュート以外が作ると必ず僭称(せんしょう)*1判定され、本来よりは微妙に弱いが強い不思議なスキル。

 なお僭称じゃない方はこんな感じ。

 


 《竜の炉心》PS

  竜種の系譜にある物が更なるを望み、

  果てに得た正真正銘の竜の心臓。その機構。

  HP・MP・SPが戦闘中でも自然回復する(1%/5s)

  状態異常・魔法攻撃耐性増

  竜魔法《ドラゴンハート》効果時間永続化


 

 竜魔法の方が1%/1sのリジェネ付与効果なので割と最強になれる。竜魔法系列は燃費が終わってるので、MP管理はそれでもカツカツらしいが。

 

「あ、そうだヤブサメ。ちょっと光属性の鳥系モンスターのアイテム持ってません? ボクからは猿系のレア素材出せますが」

「確かユーちゃんと一緒に撃ち落としたのに、そんな感じのがいた気が……ああ、ありました」

 

 ちょっとした感慨に浸っていると、クローニンからトレード申請が来た。人間・性別:女性・ヒーラーという、このゲームにおける黄金の組み合わせ。その本領を発揮させる時が来たらしい。

 

「この【聖鳥眷属の翼】でアイテムの格足ります?」

「んー……大丈夫そうです。ヤブサメの方は【霊長類の誇り】と【森林の剛腕】のどっちが欲しいですか?」

 

 どちらのアイテムも、種族が獣人(猿)である身としては欲しい。片や種族専用のスキル進化に必須アイテム、片やその中でもパワー系への進化に必須のアイテム。

 悩ましいところだけど、今はパワー系のスキルは特に育ててないし……

 

「【霊長類の誇り】の方で」

「よし、トレード成立ですね!」

 

 笑顔のクローニンと共に、早速アイテムを消費してスキルを進化。こちらは猿系種族+《疾走》+《軽業》+アイテムでこう。

 


 《パタス・ストライド》AS/PS

  軽業師のような動きと疾走を両立した

  霊長類の誇りを目指す高速のストライド

  軽業判定と疾走判定に大幅補正

  疾走中1度、囮を1つ作成可能。

  消費SP:10 持続時間:10秒

  冷却時間:10秒


 

 パッシブで走行能力と軽業的な踏破能力に補正がかかり、走ってる間の任意のタイミングで囮を生成可能な便利スキルだ。スキル枠の圧縮も出来るし、多分時速55kmくらいで走り抜けられると思う。

 

 対しクローニン側は、人間+女性+ヒーラー判定+《被ダメージ範囲軽減》+《状態異常耐性範囲強化》+専用アイテムという、そこそこ重めの条件設定でこう。

 


 《修道女の祈り》AS

  敬虔な祈りを捧げる女性に降りる加護

  自身がパーティを組んでいるメンバーを

  ・被ダメージ10%カット

  ・状態異常耐性10%強化

  ・被回復性能10%強化

  効果時間:60秒 冷却時間:30秒


 

 正直《パタス・ストライド》もかなり強い方の進化ではあるのだが、《修道女の祈り》はそんなのを超えるバチクソやばいスペックを誇っている。

 

 バフの総量も必要コストも進化前から変わらない。性能としては、実質的な回復性能アップが付いただけ。

 だが、それでも長くこういうタイプのゲームをやってる人なら理解できるだろう。

 問答無用で壊れスキルである。

 FEVにおいてヒーラー職が人間、女性一択になるのもやむなしな性能だ。β版からずっと。他種族でも妖精系辺りは適性がないわけではないが、人間の安定性があまりに段違いで……

 

 

「ソウダ、アブッサン」

「ぐぽん?」

「アトスウカイ[クリティカル]ダセバ、スキルシンカデキルッポインダケドヨ。チョットツキアッテクンネ?」

「グポン!」

《いいよ、とマスターは仰っています。こっちもジャスガ練習させてね、とも》

「オウ、イイゼェ。ヘッヘッヘ、クリティカルパワーヲクラエー!」

 

 そうこうしている間に、ユーちゃんとアブっさんが。

 

はま(タマ)へーは(データ)ひょーひょう(容量)はふひょー(拡張)ひっほ(キット)はまっへまへん(余ってません)?」

「使わないゴミなので余ってますが、はて。Fluoriteが使うことってありました?」

はりまふ(あります)ひふふろ(胃袋)へんりはほへ(便利なので)

「ヤブサメー! 短縮キッツイです、へーるぷ!」

 

 弾バカとFluoriteさんが、それぞれ好きなように動き始めていた。

 

「ハァァァァ!? ナンデ3カイテンクリッテンノニノーダメナンダヨ!?」

「グポポポポ」

《ガチタンに対してクリアタッカーは無力也、とマスターは驕り高ぶっています》

「キィー! ワンピノテキミテェナワライカタシヤガッテ!」

 

 

「ヤブサメー! へーるぷ!」

 

「ふふふ……やっぱりこの、ボク自身の性能を上げてる時が一番ゲームを楽しんでる実感があります」

 

「……!!! ふぉのふぁへのふぉ(この筍)ふぉいひい(美味しい)ふぇふ(です)!」

 

 ……よしわかった。ツッコミに回ったら負けだなこの空間。

 

「Heyユーちゃん、今流してるその涙ちょうだい! スキルの素材に〈支援AI〉のスキルかAIの涙ってアイテムが必要で……」

「ギャー! ヘンタイ!」

「よしきた、覚悟して下さいヤブサメぇ!」

「弾バカぁ!」

 

 ゲーム内でもイベントまでは、残りたった1時間半。本当はこんな遊んでる場合じゃないんだろうが……偶には、こういうのもいい気がしてきた。

 

 いつもこう? …………知らない話ですね。

 

 

「……やはりダメです、ギルマス。アウステルでも、ケントルムでも、もううちと取引するって店舗は残ってませんでした!」

「チッ、クソが!」

 

 同刻、ギルド【面白き事もなきを面白く】内にて。

 ギルドマスターであるYrehcraは、残った多くはないギルドメンバーからの報告に歯噛みしていた。

 

 クローニンが打った手は悪辣だった。

 

 本来MMOにおける大型イベントに参加するには、ゲームなりにそれ相応の準備が要る。

 長期戦のための回復アイテムの収集

 消耗した装備の耐久値の回復

 他ギルドとの揉め事に時間を取られないようにする交渉

 etcetc……

 

 その全てを行う権利をクローニンは、全てが始まる前にギルド【面白き事もなきを面白く】からたった1手で剥奪していた。

 

「ケントルム・アウステルのNPCは『貴様らみたいな犯罪者に売るものはない』の一点張り、プレイヤー店舗も『お前らみたいなのと付き合って評判が落ちたら困る』と拒否。頼みの綱であった地下の盗賊ギルドも……」

「足元を見られてこの程度か、クソ機械風情が足元見やがって!」

 

 クローニンに手を出す前の【面白き事もなきを面白く】は、回復アイテムの転売で高い利益率を誇るギルドであった。

 当時のギルドメンバーは30余名、蛇蝎の如く嫌われながらも一定の力と勢力を誇っていた……筈だった。真面目にイベントを頑張っているプレイヤーを滅茶苦茶にするために、β版と同じイベント失敗を引き起こす計画もあった。

 

 けれど、それはもう全て過去形でしかない。

 

 急激なカルマ値の悪化によりNPCの信用は暴落。

 まともにゲームプレイができなくなる状況にメンバーは離散。

 既に10名しかギルドには属しておらず、その内2人は運営からの警告でログイン停止。

 ポーションの転売事業は、β版の経験から事態を重く見た検証班が在庫を放出した事で相場が崩壊。ここまでは裏で当然ながらクローニンの暗躍がある。

 そしてトドメに、β版プレイヤー達の警戒が厳になったことでイベントの転覆計画も頓挫。

 

「たかだか情報屋1人脅した程度で、どうしてこんな目に遭うんだ!?」

 

 端的に言って、彼らはもう詰んでいた。

 

「どうせもう、マトモに遊べやしねぇなら……イベントを滅茶苦茶にしてやる」

 

 そして追い詰められた鼠が厄介であるのは、いつの時代どの場所でも変わらない。

 

 悪意と対策がぶつかり合い、それとは全く関係ないバカ共が笑うレイドがいま──始まる、かもしれない。

*1
身分を越えて勝手に称号をとなえること。また、その称号。




感想とか評価、お気に入り等いつもありがとうございます!

【ヤブサメ】レベル41
 実はチャンネル配信の金額分配が凄いことになっている。
 まだ扶養の中にいたいから保留で……

【弾バカ】レベル45
 最近、本業の収入にチャンネル配信のスパチャが迫って来て冷や汗をかいている。来年の確定申告が怖い。
 
【ユー】レベル38
 チャンネル配信の収入における稼ぎ高2番手。
 現実のお金なんて使う機会がないのが最近の悩み。

【アブっさん】レベル40
 ヤブサメと同じで給料は保留組。
 1回だけ1万円を引き出したが、自分のお年玉よりも遥かに多い金額に卒倒した。

【Fluorite】レベル35
 宵越しの銭は持たないタイプ

【クローニン】レベル42
 最近、本業の収入をスーパーチャットの額が超えた。
 ASMR配信をメンバーシップ限定で開設してみた結果、支部やSNSにNSFWな絵が大量出現して頭を抱えている。
 でもこのボク、絶対にボクがしない顔なのに、すごいエッチな感じでいいな……

【ナナナナナナナ】
 ↑の絵を描いた同人作家。
 既に【クローニンと愉快な仲間たち】で1冊書いた(依頼)
 筆が勢い余った2冊目は夏コミまでに脱稿予定。
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