元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
[a.m.11:59(
[南部前線都市アウステル・南門前]
「よーし、レイド前に最後の確認だ!」
レイドイベントの開始直前、多くのプレイヤーが待機する中でそんな声があがる。
どこの誰とも知れぬ、けれど間違いなくゲームを楽しむ為にこの場にいる大勢のうちの1人。大きなギルドに所属していないものの十分すぎる戦力である、この場で最も多いタイプのプレイヤー。
「基本的な注意点は3つ!
・ヘイトを奪いすぎない
・大縄跳び*1が来たらそっち優先
・楽しく仲良く遊びましょう!
OK?」
「「「「OK!!」」」」
彼らは待っている。
第1回イベントの華々しい終幕を。楽しく美味しいフィナーレを。
[a.m.11:59(
[南部前線都市アウステル・市街区]
「ここに改めて、β版でトラウマを負った我が同類達に問う!
我々が今回、最も優先するべきことはなんだ⁉︎」
「「「「防衛戦の崩壊、並びにNPCの虐殺防止なり!」」」」
ほぼ同刻。
多くのプレイヤーが集まる南門前ではなく、普段と比べて静けさが満ちる街中の一角。そこにも異様な熱を滾らせる集団があった。
「我々と同じトラウマをご新規様に負わせないため、俺たちがやるべきことはなんだ⁉︎」
「「「「弓道警察暴走事件の再発防止!!!」」」」
集まっている人数は僅か20と余名。本サービスのプレイ人口とは比較するに及ばず、βテストの総プレイヤー数からしても極めて少ない。
──だがその分、彼らはトラウマを抱えただけの存在ではない。
「ポイントは集めたか──!⁉︎」
「「「「応!!!!」」」」
現実と遜色がないVR空間に於いて親しくしていたNPCが目の前で、或いはその手の中で命を失う。そんな経験をしてもなお、折れずにゲームにログインし続けている猛者。
「殺意は高めたか──!⁉︎」
「「「「応!!!!」」」」
──心に傷を負った敗残兵、なれど少数精鋭の最精鋭。
彼らは求めている。
今度こそ地獄へと変わらないイベントを。楽しくゲームが続けられる未来を。
「
グンと手を突き上げて、音頭をとっていた人物が……いつかヤブサメと弾バカにアホみたいな盾を見せつけていた人物が叫ぶ。
「【面白き事もなきを面白く】を……Yrehcra潰すぞォッ!!!」
一方その頃、争いの発端になったバカどもは……何故かアウステル近郊の空にいた。
[a.m.11:59(
[南部前線都市アウステル・近郊・上空]
ヒュゴウ、ヒュゴウと寒い風が耳元を通り抜けていく。
ギチギチと、全身に結んだワイヤーが悲鳴をあげている。
拝啓、お互いにレイドで活躍しようと誓った鎖使いの方。
……ごめん、レイドバトルには行けません。
俺は今、アウステル近くの空に居ます。
アバターが悲鳴を上げながら、悲鳴を上げながらギルメンを運搬しています。
大事なことなので2回言いました。
本当はあの頃が恋しいけど────
「──で、イベント開始1分前なのにボクらがアウステルに到着出来ていない件についてなのですが」
下方、頭痛を堪えるようにクローニンが呟いた。
「ぐぽーぽん」
《クローニンも盛り上がってたし同罪では? とマスターは仰っています》
「イヤァ、マサカアソコマデ“スキル”ケンショーガモリアガルナンテナ」
納得がいかないとアブっさんが言い返し、ケラケラと笑いながらユーちゃんがそれに追従する。
「
「ごめんなさい……」
「あぁっ♡ 念願のSTGの自機視点♡ ねぇクローニン♡ダメですか魅せ弾幕したいんですけどダメですかやっていいですかいいですよねやっちゃいま──」
「ただでさえアレなのにトリップするなおばか!!!」
弾バカは何かヤバい領域に突っ込み初めて、胃がありそうな位置を押さえたクローニンがそれを抑えにかかる。そう、つまり──
「ヤブサメ、ヤブサメぇ! これ以上はボク、ストレスでおかしくなっちゃいそうなんですけどぉ! 後どれくらいで着きそうですかねぇ!?」
「飛行時間は11時間を予定しております」
「ぐぽーぽん」
《鳥は飛び立ちました、とマスターは仰ってます。どういう意味ですかこれ》
「ツレヲオコサナイデクレ、シヌホドツカレテルッテカ?」
「
イベント開始時間に間に合わない程の時間を使い、クローニンが獲得した秘策中の秘策であるレアスキル。その恩恵を全開で受けて、合体戦車と化したいつものメンバーを運搬中であった。
「コ゜ッ!」
【速報】クローニン自壊(10分ぶりn回目)
「まじめに答えるなら、あと数分もあればどうにか出現ポイントは射程に入るかと」
適当にマップデータを共有しながら、指折りざっと計算して答える。
ああ、うっかり飛翔能力を手に入れてしまったばっかりに。完全にメンバーの脚として役割が完全に決まってしまった。
地上担当のアブっさん、空担当の俺、後は海担当がいればパーフェクトである。水中、弓がカスになるから好きじゃないんだよなぁ。
「ふむ、座標はこの辺りと。ならもう少し加速させれば間に合いそうですね!」
笑顔でクローニンが言った瞬間、ゾワリと嫌な気配が背中を刺した。今の笑顔は不味い。普段の笑みでも、フレーバーアイテムに埋もれている時のだらしない顔でもない。偶にある休日出勤クレーム対処明けの、半ば壊れたスマイル──!!!
「紋章魔法:
「総員、対ショック体勢──ッ!」
「ぐぽぽぼぽ!?」
刹那、俺たちは流星と化した。
[p.m.12:00(
[南部前線都市アウステル・南方]
そうして、水面下で無数のプレイヤーが動く中。
遂に、その時は訪れた。
ゴーンゴーンと空から鐘の音が鳴り響く。
本来それはシステムアナウンスを知らせる音。しかし今回は一向にアナウンスが発せられることはなく停止……代わりに1つ、耳障りな羽音が静寂を貫いた。
「お、おい! アレッ!」
集まっていたプレイヤーの1人が、空を指差し叫んだ瞬間──街の一角ごと無数の人々を巨大な影が呑み込んだ。加えて同時に、石を打ち合わせるような騒々しい音が鳴り響く。
数少ないβ版からのプレイヤー達は覚悟の決まった笑顔を浮かべ、新規で始めたプレイヤー達は現れた
レイドバトル。
よくあるゲームならばそれは、強大な敵をプレイヤーが主体として袋叩きにして周回するイベントだ。
しかし今回のイベントはあくまで防衛戦。
天空から舞い降りるように現れたのは、機械と生命体の融合した異形の怪物だった。
羽ばたく羽根は光の軌跡、形を持った黄色の光が重力を無視してその巨体を飛翔させている。
煌めく複眼は有機的で、けれど打ち鳴らす大顎は鋼の色。
虫らしく6つあるはずの脚は半ばから銃へと挿げ替えられ、警戒色の胴は対象的に生物の色を濃く残していた。
従えるのは無数の昆虫型の敵性mob達。空一面を覆い尽くす、蝗害にも似た群れの王。
「蜂だぁァァァァッ!!!」
──女王蜂の姿をしていた。
《【R・B】Machinery Queen Bee Lv??》
HPバー、貫禄の5段。
レイドビーイングの冠を頂き、機械文明を取り込んだ蜂の女王が襲来した。
反応できた遠距離攻撃持ちの……正確には対空が可能な遠距離攻撃持ちは、僅か片手で数えられるほど。十分なバフや必要なデバフすら存在しない咄嗟の反撃では、レイドボスのHPは小揺るぎもしない。
『──』
甲高い、機械音にも似た声を上げて蜂が笑う。
これから始まる一方的な蹂躙を夢想して。
これまで自らの同胞がやられて来た事と同じ仕打ちを、自らの土俵で戦うことが出来ない渡り人へやり返すと想像して。
『Pi──』
己が手足に備え付けた小口径のニードルガン。その照準を城壁に群がるプレイヤーへと向けて……………向け、て? 蜂の頭脳に
『──?』
上方、敵性生命体、急速接近。
そんな馬鹿な、と蜂はその警告を一笑に付す。かつて千切れた己の触角であれば、そのような誤認はしなかったと。
しかし万が一の可能性はあると、愚かな渡り人を見据えていた顔を上げ──蜂は見た
ソレは、古い時代に人類が乗り回していた地を這う鉄の竜によく似ていた。
キャタピラ駆動の脚、大きな盾2枚で守られた心臓部、突き出た巨大な砲塔。その後ろで仁王立ちする半裸の変態。半裸の変態? えっ。
「今だ喰らえ! アブっさんハゲフラッシュ!」
「ブッピガァン!!」
《禿げてねぇって! とマスターは仰っています》
「弾幕バースト!」
刹那、閃光が蜂の複眼を焼いた。
戦車、ハゲフラッシュ、モノアイとアーマー、視界の不良、半裸の変態、ハゲフラッシュにしては綺麗な弾。何の脈絡もない無数の要素が絡み合い、一瞬だが蜂の電脳がフリーズする。
「パターンB! プランA!」
「グポーン!」
《スキル【食いしばり】【リミテッドシールド】
技《かばう》《ヴェンジェンス》《カウンター》《カウンターカウンター》、起動します》
直後、流星が爆発した。
クローニンが考えた作戦は単純明快だった。
〈パターンA〉
これはここの開発がよくやる、大型レイドボスの中身が運営の人間である場合。この場合、俺たちの最大火力は確実に避けようとする。運営なら知らない筈がないバ火力の一撃だからだ。
故に取れる手段は2つ。
・プランA
弾バカと俺で弾幕を貼りつつ、一番槍はいただき近距離で火力を叩き込む。
・プランB
それでも無理矢理に最大火力を当てに行く
〈パターンB〉
こちらは普通のゲーム会社がよくやるように、大型レイドボスの中身もAIであると確信がとれた場合。この場合、俺たちが撹乱して最大火力を直撃させる前提になる。
直撃後、想定する動きは2つ。
・プランA
最大火力を継続、そのまま可能な限り削り続ける。
・プランB
ねぇよそんなもん(行き当たりばったり)
「パターンB! プランA!」
クローニンの号令はこの通り。
よって今回は、最大火力をぶち当てて最大火力をぶち当てるということになる。朧げに浮かんできたんです……バカという言葉が。
「グポーン!」
《スキル【食いしばり】【リミテッドシールド】
技《かばう》《カウンター》《カウンターカウンター》、起動します》
俺たちの最大火力、これも計算こそ難しいが理屈は脳筋でも分かる単純なもの。端的に言えば、ユーちゃんと出会った時のアブっさん墜落の強化版になる。
俺たちの人数は6人。
実際には10倍を超えるダメージになるだろうが、落下ダメージを100とする。
以前はクローニン単独でカウンターをする事で、倍率1.3で130の反射ダメージが全方位に放射された。
が、今回は数が6倍かつ《かばう》によりダメージをアブっさんが引き受ける。
いかなバフ盛りアブっさんと言えど、流石に直撃すれば即死するので【リミテッドシールド】という回数制(1回)のバリアでダメージを肩代わり。カウンターの仕様はダメージ計算後ではなく、ダメージ計算直前のダメージ値を参照する*2ので問題ない。
イコール、この時点でダメージは100×6×1.3=780
が、カウンターが放射状にダメージを発生させるため、ここで俺たち5人も780ダメージを受けて消し飛ぶ。おまけにそれを引き受けたアブっさんも爆散する。
ので、【食いしばり】で耐えつつ《カウンターカウンター》という反射技のダメージを反射する技で対象を1体に絞り倍率をさらに強化。
(780×5×2)+780=8580
ジャストガードなどを含めればもう少し伸びるだろうが、驚愕の倍率85.8倍の即死撃がここに炸裂する……
《グポン》
《技《ヴェンジェンス》、起動します》
……のに加えて、更に技を重ねがけ。
以前アブっさんが言っていた、カウンターのダメージを相手の防御値を無視する確定ダメージ化する。
これこそが【クローニンと愉快な仲間たち】総出で完成する必殺技。
通称:人型使い捨て爆発反応装甲作戦であった。
「颯爽登場!」
「無敵戦艦!」
「バカチン・ト・フール!」
「戦艦モード!」
「ピシューン!」
ばかな、SEED系の効果音だと!?
「テカ、2カイモバカッテセンゲンシテネ?」
「
ともかく、だ。
《【R・B】Machinery Queen Bee Lv??》
一番槍としてド派手な戦果を挙げつつ、レイドバトルの戦端は開かれたのだった。