元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
「──よし、慣れて来た!」
レイドボスを地上からの攻撃が届く距離に墜とし、未だにタゲを奪いながら走り続けること数分。口の端から力なく垂れる触手を噛みちぎり、鉢巻を巻いたクローニンが叫ぶ。
その姿はさながら華金のサラリーマン。飲屋街の道端で泥酔睡眠コンボを決めていそうだが、しかし判断力も情報処理能力もフルブースト。酒かはたまたカフェインか、ここに来てクローニンは最高にキマっていた。
「ボク達全員のリジェネ系スキルを合わせた回復量は平均6/1s! 本来であればただただ溢れてしまうそれを、光魔法系列で6人全員分接続することで運用するのがボクの役割!」
役割の開示、クローニンは本気か。
そう、たった今語られたことが、本来であれば破綻する無敵戦艦のシステム的根幹部分。
アブっさんの圧倒的防御も、弾バカの無尽蔵の弾幕も、尽きることないクローニンのバフも、おまけに俺の射撃もそれぞれHP・MP・SPを消費することで成り立っている。ついでに消費はバチクソ重い。
例として挙げれば、俺のSPはMAX224なのに対し二重
けれどそれはゲームシステム上、どうしようもない欠点で欠如だ。他のみんなにしたって、同様の弱点は存在している。
そんな継戦能力の無さをカバーするのが、リジェネガン積みの無敵戦艦。細かい部分は長くなるので省くとして、現状の俺たちはHP・MP・SPがそれぞれ毎秒6ほど回復する。
その数値をクローニンの変換スキルにより適宜変換。必要な数値を必要な人物に適宜分配することで、消耗を事実上無視した大暴れが可能となった。
このままでも十分に強いのは、レイドボスに単パーティで挑んでなお優位にある現状が示す通り。しかし本来の想定では──もう1段階、ギアを上げた状態が存在している。
「ヤブサメ、領域魔法の全開帳を許します!
タマ、同じくサイコフィールドの展開を許可!
ユーちゃんもマイナスイオンお願いします!
ボクはリジェネを展開します!
他のみんなは、回復より消費を上回らせて下さい!」
瞬間、弾バカを中心に半透明の力場が展開。MPに追加で1/2sのリジェネが追加。ユーちゃんのマイナスイオン噴霧により、SPにも追加で0.5/1sの回復効果。加えてクローニンのHPリジェネにより1/1sの回復が更に追加──この時点で毎秒回復量がMP・SPは3、HPが6増加する──そしてここからが、ギルドに1人は欲しいと言われる《領域魔法》の本領発揮!
「領域魔法《
まずは方形から。物理防御、状態異常耐性、魔法防御をそれぞれ10%プラスする。
円形の
「《
追加で三角。物理攻撃力、移動速度、魔法攻撃力をそれぞれ10%プラス!
星形はバフの入る対象が自分とユーちゃんだけなので却下。
「《
最後に開くのは、花形の領域魔法にして領域魔法使いの華型。
発動MPコスト5、維持コスト5秒毎に1という低燃費で半径50m内の
しかも前者からそれぞれHP、MP、SPに全対応。スキルツリーの伸ばし方次第で、範囲も人数も上がり維持コストも減る。回復量は据え置きだが。
「無敵戦艦、変形!」
勇ましいクローニンの叫びに、全員の消費を無視したスキルと
HP回復量、毎秒17
MP回復量、毎秒15
SP回復量、毎秒13
ダメージカット率70%(上限)
属性ダメージカット30%(上記と合わせて擬似上限)
etcetc……
リジェネ盛り盛り森鴎外。
チリも積もれば上限叩く。
「バカチン・ド・フール、戦闘形態!」
それはβ版のラスト。
「グレイス・オーダー!」
単身でレイドボスを鏖殺した、偉大な先駆者兄貴達のPT名であった。
[a.m.12:01(
[南部前線都市アウステル・南門前]
クローニン達が行った開幕レイドボス爆撃。
それは
「は……?」
誰かが思わず呟いた。
「はぁ?」
分からない。
どうして事前予測と違う位置に、違うモンスター構成でレイドボスが現れたのか。
どうしてアイツらは空を飛んで、出現位置に先回り出来たのか。
どうしてアイツらは1パーティで、あんな馬鹿みたいな火力を出せたのか。
分からない、分からない、分からない。
しかしそれでも、確かなことは2つある。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
そしてその下手人が、攻略組を名乗る自分たちを差し置いて最初のボスを討伐した
「テメエら全員気合い入れろォ! じゃねぇと、またアイツらに全部掻っ攫われることになる!」
前者はまだいい、ゲームとはそういうものだから。
だが後者の問題は駄目だ。到底許されるべきではない。
「殺せ殺せぇ!」
「周回の時間だオラァ!」
「総員、着☆剣せよ!」
「バンザァァァイ!!」
既にメンツは1度潰された。だというのに、2度目を許しても良いだろうか? いいや、ない。
「アレだけの火力の投射だ、どうせ長くは保たない!」
攻略組を名乗る1人が吼える。
その視線の先にあるのは、墜落しつつある女王蜂とそれに肉薄し続ける
撒き散らされる大量の光弾と、ばら撒かれる無数の矢弾。風を切り裂いて振るわれる鉄塊に、時折起こる爆発と謎の効果音。それは明らかにSPやMPの消費を度外視した、全開も全開なフルスロットル。
「アイツらが蜂を落とした時から俺たちの舞台だ!」
──故に、普通ならそう考える。
このゲームにおいてMPとSPは有限だ。Lv40〜50付近の攻略組をして、人間を基準とした場合双方の最大値の平均は200付近。そのくせ強力な魔法や技は平気で20以上の消費を要求してくる。
詰まるところ、常識的に考えれば
「……いいや、アイツらは落ちないぜ」
墜ちる女王蜂に向けて走る中、鎖を手にした彷徨う鎧がリーダー格の言葉を否定する。
「7大兵装。まさかこの時点でアレを、一部とはいえ完成させてるとはな」
「知っているのかワンダーAM?」
「ウム……」
β版7つの超兵器──それは正式サービスに於いても、その要求値の高さから現時点では修正されずに残るβプレイヤー達の遺産。
それぞれかつてネットに存在した伝説をなぞり『裁断』『爆裂』『城砦』『翡翠』『神速』『宗匠』『溢幸』と名付けられ、酷いものではサーバーを落とす程の破壊力を有していたという。
「同じ元βテスターだからこそ分かる。あの末期戦を終結させた最終兵器は、劣化版であってもまだ上がある」
だからこそ、とワンダーAMは鎖を振り上げた。
「魔法攻撃隊、アイツらごと全力で焼き尽くせぇ! どうせレイド中は
色々な思惑や策略が巡っているが、それはそれとしてゲームはゲーム。限られたリソースと名誉、成果の奪い合いに情けも容赦も存在しない。
from:ヤブサメボーゲン2035
for:ワンダーAM
【件名】ただ今の誤射前提の攻撃について
【本文】映え写真ありがとうございます!
折角綺麗に撮れたのでお裾分けしますね!
……と、指示した方にお見せ下さい。顔真っ赤にしてくれると嬉しいです。
【画像】
尤もそれはヤブサメ側にとしても、百も承知な事実ではあるが。
「f×××!!」
そして同時に、身内同士ですらカスみたいな煽り合いと沼の引き摺り込みをしている連中に悪意をぶつければどうなるか。その結果が善意で交換したフレンドコードから、メッセージとしてワンダーAMに帰ってきていた。
「#極東式侮蔑スラング#!」
「ザッケンナコラーッ!」
「スッゾオラーッ!」
飛び交う放送できない暴言。飛来するGN灰皿……改め攻撃魔法。反撃で放たれる、誤射かもしれない範囲射撃。足の引っ張り合いなどしている場合でないのに、続く足の引っ張り合い。
何年経とうが変わらない、治安悪めのゲーセンやネトゲの現場がここにも顕現していた。
[a.m.12:02(
[南部前線都市アウステル・南区]
ほぼ同刻、街外でも想定外の事態か起こっていた。
イベントを発生させたる運営としても、その筋書き通りに動いてきたプレイヤーとしても、加えてこの電子の世界で生きるNPC達としても。あくまでモンスターとは、地上を疾り来るモノだった。
故にこそ城壁という第一の防衛線が築かれ、その高さと厚さにより足止めの役割を果たす筈だった。それは壁上に設置された
外から内へ攻めてくるモノを狙う為に在るそれらは、既に内へ侵入したナニカを狙える様に作られていない。
プレイヤーもレイドボスを求めて、ごく僅かな人数しか街中には残っていない。
よって必然──街中にモンスターが入り込んだが最後。
「ゲギャギャギャギャ」
「い、いや、待って、まだ死にたくな──」
派手な赤いダメージエフェクトが発生し、無念の声を上げながらNPCが消えていく。
血飛沫は上がらない、何せここはゲームだから。しかしそれでも確実に、着実に南部前線都市アウステルに生きたNPCが消えていく。
街中へ侵入したモンスターの数は大凡120匹程度。
その強さはほとんどが有象無象。プレイヤーならばLv20程度で十分に対処できるだろう。
NPCであっても兵士ならまだいい。抗う力がその手にある。
職人もこの程度なら問題ない。工房の扉を閉めれば、簡易ながら安全地帯に他ならない。
だが一般のNPCは、そうはいかない。
「誰か助けt──」
「██████ッ!」
潰れる、裂かれる、千切られる。
ゲームの中であるという事が幸いし、持ち帰られることこそないが悲惨さは言うまでもない。
そんな混乱と惨劇の最中で、落ち着いているプレイヤーはごく僅か。
即ち、クローニンに嵌められたギルドこと主犯である『面白きこともなきを面白く』の面々。そして心にトラウマを抱えた旧β版プレイヤー達。あらゆる意味で2極化している者たちだけだった。
「ククク、もう少し派手な結果を期待していたが……その様子を見るに効果は上々といったところか」
戦火に巻き込まれてアウステルの噴水広場にて、数十名のプレイヤーが対峙する。一触即発の空気に包まれた中、煽り立てるように大仰な言葉で主犯側のプレイヤー……
「こんなβ版の地獄を再現して、何がしたいんだお前たちは!」
己の得物を突きつけ、感情を剥き出しに吼えるのはもう一方。イベント前に惨劇の再演を阻止せんと誓っていたプレイヤー達の頭目。
強烈にトラウマを刺激される渦中にあっても、心が折れないのはある種の矜持か。怯えと震えが満ちる彼の目の中にはしかし、強い意志が宿っていた。
「何がしたい? 馬鹿かお前ら、こんなクソつまんねぇゲームなんだから目的なんざ決まってるだろ」
心底理解できない存在を見るように頭目を眺め、下品な笑顔を浮かべながらイレヒラが笑う。
「チートだよチート。一騎当千、無双、好き放題にやり放題。こちとらもう後がないんだ、止まってなんてやるもんか!!」
「だからと言って、こんなこと許される訳──」
「だ、か、ら、馬鹿だろお前ら。ここはゲームの中なんだ、何現実と混同してんだよ気持ち悪い。データぶっ壊して何が悪い?」
行って振り回された武器の先、
「殺してやる……殺してやるぞクローニン……!!!」
「……えっ、誰?」
悲しいかな、頭目とバカ共に繋がりはなかった。
「えっ」
「えっ、マジでアイツの手先じゃないの?」
「違うが……」
「えぇ……」
これがのちに、アウステルの惨劇と呼ばれることをまだ……誰も知らない。