元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする)   作:銀鈴

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35話 対岸の火事と大惨事

 

[a.m.12:06(R(リアル))/a.m.12:18(G(ゲーム))]

[南部前線都市アウステル・レイドボス戦闘区域]

 

《【R・B】Machinery Queen Bee Lv??》

                         

                         

                         

                         

                         

 

「アブっさん、主砲展開!」

「くぽーぽん!」

 

 戦闘開始からおよそ10分。プレイヤーの足並みは当初こそ、複数のイレギュラーが重なり揃わなかったがそれも昔。数分もすればプレイヤー側も適応し、そこからはレイドらしく多勢に無勢。瞬く間にレイドボスのHPは削り取られ始めた。

 

《弾種:APFSDSを装填、とマスターは仰っています》

「ヨシきた!」

 

 結果展開されたのは文字通り血で血を洗うEndless Battle。

 そんな中でも俺たちがダメージレースのトップを突っ走っていられるのは、初動の有利もあるが……それ以上に。やはり圧倒的なリソース差という、絶対的なアドバンテージのお陰であった。

 

(アーツ)《矢斬》《舞奉》」

 

 蜂を見据えて矢を一閃、弓を大きく振りかぶりながら身体自体を1回転。打撃にもなる技を空振りで透かしながら、それぞれのバフ効果だけを起動。

 

「剣状矢装填、スキル【デュアルアーツ】【精密狙撃】起動!」

「グポン!」

《照準、レイドボス右羽根付け根とマスターは仰っています》

 

 ノリノリのアブっさんが、砲塔に見立ててピンと伸ばしたメカメカしい太い腕。その圧倒的な防御力に守られながら矢をつがえる。

 高速で走行中が故の振動を身体で抑え、ブレる照準は凍てつかせ、浅く呼吸を整えて揺らぎを消す。狙うはボスの攻撃パターンの内1つ、攻撃後に僅かな硬直が起きるものの予備動作。

 

「発射!」

(アーツ)《剛弓・獄火+旋刃》ッ!」

 

 クローニンの号令で引き絞った弦を離す。

 ここまでの消費SPは大凡1割弱+2割強、出力されるのは防御3割貫通の最大火力。通常プレイであれば大技中の大技、リジェネスキル持ちでもそうは撃てないバ火力の一撃は風を切り裂き──寸分違わず、狙い通りに直撃した。

 

『──ッ!?』

「スタン確認! 手前ら最大火力ぶち込めオラァ!」

 

 ヘイトが向いていたタンク隊に撃った大技の隙を潰し、短いながらも確実なスタンを獲得。攻撃部隊の本隊に、ヘイトを頂いた代わりにチャンスをプレゼントした。

 

『──!!!!!』

 

 爆音、衝撃、HPバーの確実な減少。

 何度も繰り返した最適解のムーブに、しかしまだAIは明確な対策を見つけ出せていないらしい。何度も繰り返してきたこれまでと同じように、再び俺たちにターゲットが集中。

 

「ブッピガァン!」

《スモーク散布、とマスターは仰っています!》

「アイヨォ! ノコリ10カイハイケルゼェ!」

 

 反撃として放たれたエグい誘導が付いたニードルガンの掃射*1を、ユーちゃんのスモーク散布で誘導切り。アブっさん自慢の機動力ゴリ押しで回避。

 

「第二波!」

「ピシューン!」

《総員、シートベルトを着装下さい》

 

 アブっさんの発言に合わせて尻尾のワイヤーを発射。クローニンとユーちゃんに巻き付けて、簡易的に身体を固定。弾バカは()()()の中心になる頭にいるし、Fluoriteさんは吹き飛ばないが2人はマズいのだ。

 

「グポーン!」

(アーツ)《チャージ》を起動》

 

 右の履帯を前方に向けて高速回転!

 左の履帯を後方に向けて高速回転!

 スキルによって加速した2つの回転の間に生じた超信地旋回は、第二波の攻撃として放たれた毒液の弾幕*2の誘導効果を破壊する!

 

「ポッポーッ!」

《モード神砂嵐、とマスターは仰っています》

 

 それはさながら、格ゲーに登場した戦車のような。或いはもう直球にベイブレードのような狂った走法になる。大回転、そこに痺れる憧れるゥ! 因みに頭も死ぬほど回る。なお火力はなく、あってもクソ雑魚パンチ並みな模様。

 

(アーツ)《カバームーブ》を起動》

 

 でも、これはただの狂ムーブじゃない。

 移動先を推定する誘導補正システムと、移動スキルの指定先を散乱する挙動が噛み合った結果発生するド級のグリッチ。ドロリッチだ!(命名:β時代検証班)

 

《スキル【トランブルⅡ】を起動》

 

 誘導切りの回転、移動防御スキルによる強制移動、そして再びのスキルによる大回転。発熱する足回りから虹のような揺らぎを溢し、アブっさんが加速していく。

 そう……このグリッチは、SP及び技と足周りの冷却が間に合う限り連続するのだ。

 

(アーツ)《カバーダッシュ》を起動》

 

 しかしまあ、幾ら誘導が切れるとはいえ範囲攻撃には意味がない。

 第三波、本命の攻撃として放たれた極太の毒ビーム薙ぎ払い*3が迫って来て────

 

《スキル【食いしばり】【リミテッドシールド】

 (アーツ)《かばう》《ヴェンジェンス》《カウンター》起動します》

 

『ッッッ!!???!???』

 

                         

                         

 

 ──当たり前のようにジャストガードとカウンターが炸裂する。

 加えて微かに減ったこちらのHPも、大きく削れたSPも、圧倒的なリジェネによって瞬く間に回復が完了した。さすが事実上レイド専用のコンビネーション、馬力が違うぜ。

 

「「「(アーツ)《挑発》!」」」

 

 そしてこのタイミングで、攻略組のタンク隊がヘイトを強奪。遊撃役であった俺たちがボスからフリーになり、代わりに無限湧きの雑魚が動き始めた。が、しかし。

 

「……今回もパターン変化なし、最終段に入ったら発狂モードですかね。タマ! ヤブサメ! 雑魚削りは続行です!」

「「了解!!」」

 

 リジェネ数値の割り振りとマップ確認以外、完全フリーとなった頭脳(クローニン)がこちらにはいる。しかもフレンドチャットで攻略組側との通信も確立済みというおまけ付きだ。負ける要素がどこにも見当たらない。

 

「ヤブサメ、二層式洗葬機やりましょう! いいですか? いいですよね、やりますよオラァ!」

「そっちこそもっと火力上げろやオラァ!」

「グポーン」

《超信地旋回、開始します》

 

 アブっさんの腕砲塔から脱出し、頭部に弾バカと背中合わせになるよう着地。回転を始めたアブっさんに身体を固定し、拡散矢を番え精神統一。2種の(アーツ)強化(バフ)盛りスキルバフ乗せを起動。

 

「【弾幕魔法】合成弾──連射+拡散!」

(アーツ)《剛弓・滝落+烈火》!」

 

 奇しくも選んだ射撃の強化構成は同じ。

 魔法の仕様/矢の選択で弾数を確保し、MP消費のプラス/技で火力を増加。滝落(連射)で弾(MP/矢筒内)を撃ちきるようにカスタム。

 

「ハッハァ! 弾幕サイコー!」

「大量消費バンザァァァイ!!」

 

 重すぎるMP/SP消費を完全に無視して、叫びながら撃って撃って撃ちまくる。本家本元の弾幕には劣るが、赤い弾幕魔法の光と青い剛弓アーツの光が回転により二重の螺旋を描いて飛翔する。

 

「グポーン……」

《煩いし削れてなくない? とマスターは呆れています》

 

 ダメージ量に関しては黙秘権を行使する。

 2人がかりで4割しか削れてないとか、結構命中率が悪いとかは知らないのだ。

 

「削りよし、ユーちゃん! アブ! 爆発スタンバイ!」

 

 それに、集まって来た雑魚を刈り取るのはユーちゃんの役割だ。

 

「クラエ、ヒッサツ“キンカイテン”!」

「ブッピカァン!」

《カウンター準備はできてるよ、とマスターは仰っています》

 

「イクゼェ! スキル起動【キュウショネライ(急所狙い)

カクヘン(確変)タイム】【ヒッサツコウゲキ(必殺攻撃)

ジュウリョウソウサ(重量操作)】に【カジョウショウヒ(過剰消費)】!」

 

 瞬間、ギュインギュインと暴力的なまでに煩い音楽がユーちゃんから噴出。アブっさんに向けて構えた細剣の先端から手元にかけて、数字の書かれた3つのドラムが出現する。

 

「“クリティカル”チュウセン、カイシ!」

 

 もうお分かりだろう。

 ユーちゃんがどハマりしてしまったメダルゲームの中には──当然、スロットも含まれていた。

 

「──で、ユーちゃんに悪いこと教えた気分はどうです? 弾バカ」

「実際のお金掛かってないからいいんじゃないです?」

「いやぁ……うーん……」

 

 国民的マンガにもパチカスが出る時代、割とあり寄りの……なしでしょやっぱり。ギャンブル感強めな点に目を瞑って、性能だけ見ればピカイチだけど。

 

「ムゥ、チュウアタリ。デモクリティカル15カイテン、チョウダメージヲクラエー!」

「ポポン」

《はい、ジャストカウンター。とマスターは仰っています》

 

 どうしたものかと頭を捻っている間に、15回転クリティカル──数値だけ見れば4400ダメージくらいか。俺の最大ダメージが1000足らずなことを考えると、防御による減衰があるにしろとんでもない超火力だ。

 

「ヤダァァァァァ!? ノーダメージ!」

 

 当然のように無敵&ジャスガで防がれているが。

 

「全滅、ヨシ! 射撃停止、警戒体制!」

 

 更にオマケ(主目的)として、カウンターダメージのばらまきで雑魚mobも無事に殲滅完了。余計な妨害を受けることなく、レイドボスへの射線が開けた。

 

「リジェネレーション割り振り停止、Fluorite!」

ひょーはい(了解)へふ(です)。んぐ……龍魔法《ドラゴンブレス》、エネルギーチャージ開始」

 

 そんな、ガラ空きとなったフィールドでFluoriteさんが槍を掲げる。切先に映すのは、今も攻略組と熾烈な争いを繰り広げるレイドボス。

 

ひゅっはー(10%)はんひゅっはー(30%)ほふひゅっはー(60%)……」

「グポーン」

《脚部固定、対ショック耐性完了》

 

 槍の切先を中心として、顕現するのは半透明な龍の顎。

 大きく広げたその口腔に眩い光が収束を始め、反動に備えてアブっさんが移動を停止。2枚の大盾を地面に打ち付けて、完全に体を固定する。

 

ひゅーひゅっはー(90%)ひゃふにひゅっはー(120%)

「領域魔法《円形(サークル)──共有(シェア)、照準はFluoriteさんに!」

 

 チャージが100%を超えた辺りからブレ始めた照準を、領域魔法のデータを共有することで修正。

 

ひひゃふはー(200%)、チャージ完了です」

「対閃光防御!」

 

 最後に、ノリノリな弾バカが前方に力場魔法を展開。目が痛いほどの光を放っていた切先が薄膜の向こうに消え、砲撃の体勢が完了。

 

「主砲、放て!」

はいふ(タイプ):ひゅーほふ(収束)、発射」

 

 ──光が、世界を灼いた。

 

                         

                         

 

 

[a.m.12:05(R(リアル))/a.m.12:15(G(ゲーム))]

[南部前線都市アウステル・南区]

 

 街の外、レイドバトルが佳境に入るその少し前。

 アウステル内部で勃発した、イレヒラ率いるギルド『面白きこともなきを面白く』と旧βテスター達の戦闘にも区切りが付こうとしていた。

 

「既に倒した連中は通報済み、運営の沙汰によっては垢BANも免れないだろう」

 

 MMOやソシャゲといったタイプのゲームにおいて、強く在る為には一体何が必要か? 身も蓋もない話だが、その答えは時間と熱量に他ならない。

 なればこそ、この世界(ゲーム)に戻って来れたことをエンジョイしていたβテスター達と、不満を晴らす為に動いていたイレヒラ達。その実力の差は、誰がどう見ても歴然としていた。

 

 戦闘開始2分、イレヒラ側のタンク隊が落ちた。

 原因は、防御貫通性能付きの攻撃に対する対策の欠如。他プレイヤーとの交流があるなら……否、それ以前に攻略班wikiにも記載がある基本情報を、知り得なかったこと。それだけが原因で、本来受け切れる攻撃のキャパシティをオーバーして蒸発した。

 

 戦闘開始4分、イレヒラ側の後衛部隊が落ちた。

 理由は言わずもがな、タンク隊の蒸発。身を守る盾がなくなった後衛ビルドのプレイヤーほど、攻撃特化型が刈りやすい存在はない。

 

 戦闘開始5分、イレヒラ側の戦線が崩壊する。

 中核となっていたイレヒラを含むPTを除き、一方的に狩られることに耐えられなくなったPTが無策のまま突撃。蒸発。

 

 戦闘開始7分、残敵の大半が掃討された。

 マトモな削りすら満足に行えず、逃亡すらさせて貰えず、無慈悲に刈り取られ通報された。この時点でPvP以外の状態で故意にプレイヤーに襲いかかった為、高確率でペナルティが課されることが確定している。

 

 そして戦闘開始から、僅か9分。

 

「あーあァッ! いいよなァβテスターサマは! 俺たち一般プレイヤーには都合の良い情報は隠して、自分たちだけ美味しい汁啜っててよぉ!」

 

「攻略班wikiがあるだろう? アレは有志のサイトだが、それでも十分すぎる程の公開情報が存在している。美味しい情報など、特集ページもあっただろうに」

 

 煽りに乗らず、確実に守り、堅実に攻め、必要に応じて回復する。そんな基本的な戦術だからこそ、地力が及ばなければ跳ね返される。

 

「クソ、が……」

 

 βテスター側の脱落者0に対し、イレヒラ側は残り5人。

 とくに語るような物語もなく、圧倒的に淡々と。基本性能と連携の強さ、そして情報アドバンテージの差によってイレヒラ側の敗北が確定する。引き起こした惨劇に対して、あまりにも呆気ない終幕だった。

 

「何なんだよ、テメェらは!」

「貴様らにとっての何か、など聞かれても本当に知らんが……」

 

 始めこそ怒りに呑まれていた頭目旗下のβテスター達も、ここまで相手が弱いと最早怒りより困惑が先に来る。

 

「何も調べずにゲームをプレイする、まあそれは自由だろう。遊び方の一つとして、否定されるべき物じゃない」

 

 同様に所謂PK(プレイヤーキラー)などの遊び方も、個人的な心象はともかく許されるべきだと頭目は考える。

 自分たちのように“ソレ”と相容れないプレイヤーと敵対こそすれ、そういう部分まで含めてこの世界は自由なのだから。その点に於いて、彼らの語ったチートや俺TUEEEのような目的は理解できる。

 

 だが、だからこそ──頭目達は分からない。

 

「だが結局、お前達は一体……何がしたかったんだ?」

 

 重度のVRプレイヤーで、“大人”である彼らは理解できない。

 

「ゲームに用意された導線を無視し、己のルールで遊び、手助けを拒み、それでいて思い通りにならないと不平不満ばかりを垂れ流す」

 

 重度のVRプレイヤーになる熱量がなく、子供のままでしかいられなかった存在が何を主張したいのかを。

 

「挙げ句の果てに多くのプレイヤーに、運営にまで迷惑をかけて。ここまでして、お前達は何も得ていない。本当に……何が目的だったんだ……?」

 

 ただ『好き放題にやりたい』

 そんな大人になるにつれて、自然と弁えてしまう我儘を思いつきもしない。それを邪魔されることが、どれだけ苛立つことなのかも。

 

「教えてくれ、次からは相談してくれれば答えられるようにしたいんだ。β版からこの世界(ゲーム)が好きな者として」

 

 だからこそ、大人のように優しく振るまって。 

 だからこそ、容易く地雷を踏み抜くことになる。

 

「じゃあ、教えてくれよ」

 

 リスポンで逃げられないよう手加減されて痛めつけられたイレヒラが、何かを押さえつけるように声を溢した。

 

「どうやったら、俺たちは好き勝手暴れられんだよ! 壊して、殺して、奪って!」

「それは、ゲームを変えれば──」

「ちげぇよカス!」

 

 常識的で無理解な“大人”に対して、憎しみすら籠った瞳でイレヒラが吠える。

 

「俺たちは!!

 このゲームで!!

 あの極振りみたいに、滅茶苦茶してぇっツってんだよ!!」

 

「それは……」

 

 瞬間、頭目の脳裏を今なおネットで語り継がれる数々の伝説が過ぎる。目の前の子供が目指す先が、アレだというなら……

 

「無理……だろうな。アレはVRの黎明期、色々と規制や制限が甘かったからこその伝説だ。

 確かにアレだけ理不尽に強ければ、相応の振る舞いも許されそうなものだが……」

 

「そうだよなァ?」

 

 違和感。

 何か、絶対に入れてはいけないスイッチを入れてしまったような。

 

「強けりゃ、何してもいいんだよなァッ!」

 

 違和感。

 頭目の、ゲーマーとしての感覚が警鐘を鳴らしている。

 

「全員、最大火力を今すぐに──」

 

 このまま、コイツに何かをさせては駄目だと。判断は一瞬、逡巡ののち僅かなタイムラグもなく指令を下して──

 

「遅え! テメェら【バグ】キめろォォォ!」

 

 ──僅かに遅く、ゲーム(FEV)史に残る災禍が解き放たれた。

 

*1
2ゲージ目から使用

*2
3ゲージ目から使用

*3
4ゲージ目から使用。毒ビーム自体は3ゲージ目から




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バカ共 vs たちの悪いフォロワー
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