元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする)   作:銀鈴

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36話 生き残り達

 Q.極振りとはなにか?

 

 一般的なゲーマーにそう聞いたのなら、『何か特定の1ステータスのみに特化して作られたキャラ』という答えが返ってくるだろう。

 広義の意味でそれは間違っていないし、こちらの方が本来の正しい用法だ。

 

 だが、この時代にVRMMOなんてゲームを遊んでいるプレイヤーにとっては“極振り”の称号は全く異なる意味を持つ。

 

 其はVRゲーム黎明期に実在した伝説の9人

 このゲーム(FEV)にも7大兵装という形でその足跡を残す、理想郷を蹂躙し尽くした現代の異能。

 

 正の面でも負の面でも、彼ら彼女らは歴史にその存在を確と刻んでいる。

 

 

[a.m.12:06(R(リアル))/a.m.12:19(G(ゲーム))]

[南部前線都市アウステル・南区]

 

 

(分かっていた……)

 

 瓦礫が舞う。

 HPバーが減少する。

 MPとSPもすでに心許無く、集中だって途切れ始めて来た。

 

(分かっていた……!!)

 

 思わず頭目が内心で言葉を吐き捨てる。

 ほんの数瞬前まで保っていたはずの優位は既にない。

 

 頭目側の壁役(タンク)は、食い縛りスキルを貫通して即死した。

 攻撃手(ダメージディーラー)は急激に増加した防御力を貫けず削り負けた。

 回復役(ヒーラー)は意味不明な補正の掛かった即死射撃と、速すぎる相手に(なます)にされた。

 全て、先ほどの意趣返しのように。

 

(あの人たちに憧れを抱く時点で、マトモな手合いじゃないとは分かっていた!)

 

 概ね、極振りに憧れたと自称する人物の辿る道は3つ。

 

 1つは挫折。

 VR黎明期だからこそ実現した才能と現実が噛み合った奇跡を前に、大人しく現実を受け入れるパターン。

 

 1つは汚染。

 故意が偶発的かは問わずかの伝説に接触することで、極めて強くその影響を受けてしまうパターン。

 

 そして最後が──

 

「ひ、ひひッ、アッハハハハ!!! やっぱ最初からこうしてりゃよかったんだ!」

「良い訳あるか、このチーター風情がぁッ!!」

 

 ──チートに頼ること。

 本来想定されていない挙動をするだけのバグやグリッチとは違う、正真正銘の不正行為。

 かつての極振り達が、勇名轟かせたその名前を忌名として封じ姿を消す原因の一助にもなった最悪の手段。

 まあ約2名程Vtuber(個人)と食べ歩きブログ(世界)を現役でやってる奴らは隠れていないが、それでもだ。

 

(理解はしていたが、ここまでの──)

 

 頭目が内心で言葉を吐き捨てる。

 極振り達(彼ら)が潮時を感じる身を引いた事実から分かる通り、過去にも伝説に憧れてチートに手を出した事例は複数存在している。

 そしてその大半が、ロクでもない手合いの奴らでしかなかった。

 

「そらどうしたよ、さっきまでの威勢は!」

 

 イレヒラが振るう拳の火力は一撃必殺。対し頭目の振るう剣は防御を抜けず、最低保証で火力になってすらいない。

 リジェネ勝負でも当然イレヒラ側に分があり、目測になるが無敵戦車の回復量すら上回っているだろう。

 

「ッ、《シールドバッシュ》!」

「効かねぇなぁ!」

 

 加えてノックバックが通じないスーパーアーマーも確認できた。

 ここまで頭目達が生き残っているのは、一重にプレイヤースキルの隔絶という理由があるからにすぎない。

 加えて、武器の強化と買い替えによるサイクルを回すためにある耐久値システムにも何か手が入っているらしい。頭目達の武器防具の値は瞬く間に削れていくのに対し、イレヒラ側には武器破壊攻撃がそもそも効かなかった。

 

 トーマス化を始めとしたModくらいであれば、大っぴらに使わない限りここ(FEV)の開発は笑って目を瞑ってくれるが……

 

「GMコール! バグ許容値測定要求!」

 

 ……まぁ、それが減刑に影響することも一切ない。 

 チートなんてものは倫理的に許される筈もないのだ。

 加えて他のタイプのゲームと違い、フルダイブVRには特有の無視できない問題もある。

 控えめに言って、ちょっと万死に値する。

 

《要求を受諾しました。測定を開始します》

 

 響く無機質でシステマチックな合成音声。躊躇いなく引き抜かれた公権力という必罰の聖剣はしかし、

 

《──測定完了。規定範囲内におけるデータ改竄の痕跡は発見出来ませんでした》

 

「…………は?」

 

 効力を発揮することなく機能を停止した。

 

「ハッハ、マジで効かねぇ! 最高かよ!」

 

 ここまでチーター相手に持ち堪えていた頭目達も、これには堪えた。

 

「貰いもんにしては完成度が俺らのより高いと思ってたが、ここまでとはなぁ!」

 

 何せあり得ないほどのステータスの増強を対峙して感じ、本人がチートを使っていると明言しているのに、運営が目の前のそれはチートではないと断言したのだ。

 

「ホォら、これで終いだッ!」

「ッ、【リミテッド・シールド】!」

 

 あり得てはいけない事実に動揺は免れず、必然的に戦場の天秤は大きく傾くことになる。

 無敵スキルによる防御が間に合ったのは頭目だけ。片手で数えられる程度だが残っていた頭目側のプレイヤーは、あり得てはいけない火力で消し飛ばされた。

 

「力! ただ力! コレさえあれば何してもいいって、テメェも言ってたよなぁ!」

「身勝手な解釈を……! それに気付いてないみたいだが、そのチートも“無法”そのものではないらしい」

「あ゛……?」

 

 頭目の言葉の直後だった。イレヒラに続いてチートを使っていた4名の内、2名が黒いエフェクトに包まれて消滅する。

 

「なんて事はない、ただの『みちづれ』スキルだよ。

 元々の狙いとは違うが、お粗末なPS(プレイヤースキル)のチーターにはよく効くらしい」

 

 もう勝ち目はないと判断して、煽りを入れながら時間稼ぎに移行する。

 構えた盾の裏でウィンドウを操作。再度GMコールを要求しつつ、ここまでの戦闘ログをAI頼りに文面化。同時並行で対戦した所感を打ち込んでいく。

 

「ま、どうせあの9人の名前すら言えないタチじゃ仕方ないか」

 

 文面化完了まで残り20秒。

 

「あ゛ぁッ!? そもそも極振りは7人じゃ──」

「お粗末ここに極まれりだな。極振り云々はそういっとけば多少納得されるから言ってるだけの、とってつけただけのアレだろ?」

 

 残り10秒。

 

「巫山戯っ、俺たちは極振りの──!!」

「なら顔真っ赤にしてないで、誰か1人でも名前を言ってみろよ。称号だけじゃない、今は消えたあの名前を」

「──ッ!!」

 

 残り5秒。

 半笑いで煽る頭目の言葉に、当たり前のようにイレヒラ達は答えられない。何せ図星だ、一言一句頭目の指摘通りでイレヒラ達に意味のある中身なんてない。身勝手な欲望のためだけに、好き勝手やる理由付けでしかないのだから。

 

《度重なる報告により、測定深度を強化。調査を完了しました》

 

 加えて追い打ちをかけるように、システムアナウンスが連続する。

 

《データ改竄の痕跡はありませんでしたが、異常なデータの推移及び計測したアバターデータの異常を検知しました》

 

 残り0秒。

 文面化の完了したメッセージを、頭目は自分の持てる人脈全てに一斉送信した。攻略組、検証班に限らず、メッセージ受け取り可能なNPC、運営にまで節操なしに。

 

《よってPN(プレイヤーネーム):Yrehcra(イレヒラ)を始めとした、同様の異常を検知したプレイヤーのアカウントを一時凍結します》

 

「はぁっ!?」

「ふざけんなよ! バレないって聞いたから俺たちは!」

 

 よって必然、アカウントのBANがここに確定する。

 FEVは複数のキャラクター運用こそ出来るゲームだが、大元となる個人データはあくまで1つ。BANが実施されれば、そこのアクセスを同社のゲーム全てから拒否される。

 

「時間稼ぎに付き合ってくれてどうもありがとう。

 じゃあな。ゲームですらまともに努力出来ず、チートに頼っても俺1人倒せなかった、凡夫」

 

 しかもフルダイブVRの仕様上、当然ながら個人データの誤魔化しは不可能。このゲームの開発元であるCrescent Moon社がそこそこ大手である以上、BANの確定はゲーマーとして致命傷であった。

 

「ッ、死ねぇ!」

 

 イレヒラの拳が頭目に迫る。

 動きは稚拙、正直この程度なら幾らでも躱せる。

 が、もう既に役割は十分に果たしたと言えよう。チートは暴いた、BANの道筋は整えた、そして盛大に煽れて満足もした。

 

 

「転生トラックのお出ましでぇぇす! やっほー、テスタ! 死んでませんかぁぁぁぁぁ!!!」

 

「カパッ!?」

 

「グッポッポーッ!」

《煩せぇ! とマスターは仰っております》

「まだ的当てターゲットは残ってますかぁぁ!」

「ウッキー!! 今年は申年ィ!」

「ごはん!!!!!!!!」

「ウワァ、スゴイコトニナッチャッタゾ……」

 

 そうして、頭目(テスタ)が目を瞑ろうとした瞬間。

 素でバグみたいにテンションがおかしい連中が、チーターを轢きながらやってきた。

 いや、この、ほんと、何? この、おもしろ騎馬合体みたいな連中。見慣れた金髪の少女はデカい声出しるけど。

 

 

 

 

[a.m.12:06(R(リアル))/a.m.12:19(G(ゲーム))]

[南部前線都市アウステル・レイドボス戦闘区域]

 

 時は少し遡る。

 それはクローニン達の主砲であるFluoriteが女王蜂を焼き、レイドバトルが最終局面に入った直後の話。

 

「緊急入電!」

「ナニッ!?」

 

 いざや最終決戦と意気込んだその時だった。

 アブっさんが走り出そうとした瞬間、焦りが多分に混ざったクローニンの声が響く。

 

「ぐぽーん?」

《なになに、何があったの? とマスターは仰っています》

「説明するので攻撃中止で回避運動! ヤブサメは全員分に《共有》下さい!」

「はいはいっと」

 

 クローニンの語調にまずい雰囲気を感じたのか、誰も異を唱えることなく指示を実行。一旦戦線から離れた俺たちの手元に、領域魔法の効果で1通のメッセージ画面が共有された。

 

「簡単に説明します。街中にチーターが出現してアウステルの中心部が壊滅状態になってます! なんだったら、本人達の証言からしてレイドボスの出現位置が違ったのもチーターのハックが原因の模様!」

 

 細かい戦闘データは飛ばして読んだ限り、おおよそ説明通りの事が起きているらしい。メッセージの送信元はテスタというプレイヤー……誰だろうか。まあこうも信用するって事は取引相手とかだろう。知らんけど。

 

「ふむ、それで私たちに何をしろと? こんな楽しい鴨撃ち(ターキーシュート)をやめてまで」

ふぉうはんへふへ(同感ですね)ほーひょの(当初の)ほふへひ(目的)はら(から)ふれへ(ブレて)はへん(ません)?」

「確かにこの状況で本来なら、ボクだってこんな連絡無視します」

 

 2人の疑問を肯定しながら、しかしとクローニンは言葉を続ける。

 

「これは由々しき事態です」

 

「件のチーターはギルド【面白きこともなきを面白く】がメイン構成メンバー……つまり!」

 

「このままだと、僕らが煽る暇なく彼らは垢BANになります」

 

「「「「「ッ!!!」」」」」

 

 一同に衝撃が走った。

 そんな……そんなことが、そんな馬鹿なことがあっちゃいけない。

 俺たちの当初の目的は、けつの毛まで毟る勢いでかのギルドを蹂躙すること。イベントのポイント勝負で“わからせ”、イベント後に徹底的に叩き潰し、最後にm9(^Д^)と煽り尽くす。そんなフルコンボの予定だった。

 

 割とそのために頑張ってきたのに、そんなことを許せる筈もない。

 

「つまりこのまま私たちが、レイドボスに撃ちまくっていたら……?」

「断言しましょう、逃げられます」

 

「ぐぽーぽん?」

《ということは、クローニンの仕返しができないってこと?》

「でしょうね。でもボクはあんまり気にしてないので、気負わないでいいですよ?」

 

「ギルドバトルで地図データ掻っ払ったりも……?」

「もう無理でしょうね」

 

「ツマリ、アンナオドシヤットイテ、コクガイツイホウダケッテコトカ?」

「ええまあ、平和にはなるんで悪いことではないですけど」

 

「食べ放題、無しですか」

「無しです」

 

 愕然とした。呆然とした。そして、全員の目標が切り替わった。

 幸いにも現行犯の場所は目と鼻の先。レイドボスの発狂モードが見られないのは残念だが、攻略班達だけで倒せそうな状況に追い込めてはいる?

 ──ならばどうする?

 考えるまでもない。

 想いは1つ。

 答えも1つ。

 

「進路反転! 多分勝てませんが、煽り散らかしに行きますよ! 勝ち逃げなんてさせてたまるかぁぁぁ!!!」

 

 屈伸煽りにシャゲダンに、煽りの準備は既に万端。

 恐れるものなど何もない。

 

「さあヤブサメ、出発の号れ「コトシハナニドシダァ?」」

 

 今絶対なんか聞こえたよね(確信)

 

「ウッキー! 

 ..今年は申年ィ!!」

 

 インターセプトされたが号令は号令。

 キャタピラを逆回転させてアブっさんが急加速……はっ!?

 

 早いゾォ!




感想とか評価、お気に入り等いつもありがとうございます!

【テスタ(頭目)】
 かつて極振りが跋扈したVRゲームの生き残り。
 即死火力、削り無効、再生、スーパーアーマーetc……のチーター相手に5vs3して5分は持ち堪えた変態。
 最近の悩みはクレーム対応。主にそっち方面からクローニンと仲が良い。

【どこかの食べ歩きブログ】
 読むと精神汚染されるともっぱらの噂。
 ただし日本の路地裏グルメから、海外の屋台、超高級ディナーや高級料亭、野生の虫、毒キノコ、ゲテモノまで大体なんでも載っている。画面に映る翡翠色のアクセサリーが目印。

【どこかの現役TS美少女Vtuber】
 そろそろ活動年数がベテランの域。
 雑談しながら人力TASじみた動きをする超人。アバターはとあるゲームの内部で使っていたものだが、公式から権利ごとプレゼントされたらしい。現代日本なのに何故か嫁が2人いる。
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