元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする)   作:銀鈴

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04話 ひゃっほう大自然

 

 微妙に掲示板をざわつかせながら、矢が尽きるまでレベル上げをする事数分。

 名残惜しくも別れを告げて、戻ってきたのは街の中。差し当たって、現状やるべきことは装備の更新であった。

 

「らっしゃい」

 

 中途半端にやる気のなさそうな声に出迎えられて、入ったのは()()()。そう、大通りにある防具屋ではなく裏通りにある古物屋。

 

 大通りの店と違い耐久値が減っていたり大掛かりな物が無く、販売しているアイテムをウィンドウから探すことも出来ない。ある種システムサポートから外れたお店だ。

 

 このゲームにもアイテムや装備などの生産職は存在するが、生憎とそういう手合いとの伝手はなし。故にこういう、掘り出し物や面白そうな物体が鎮座している場所が──

 

「よし、あったあった」

 

 ──序盤はやはり、最高であった。

 

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【多機能ベルト】

 アイテムを3つまで保持できる、アタッチメント付きの頑丈なベルト。メニュー欄を介さないワンアクションの速さが魅力。

 Vit +1

 耐久値:87/100

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【鉤縄】

 先端に鉤のついた縄(50m)

 耐久値:140/150

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【ピッケル】

 採掘などに使える道具。殺傷力は高い。

 耐久値:71/100

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【煙玉セット】

 使うと30秒間白煙を発生させる。

 逃げるもよし、不意を撃つもよし。

 残数:12/12

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【対異常の護符】

 青い宝石のタリスマン。

 全ての状態異常に極僅かながら耐性を得る。

 Min +3

 耐久値:75/100

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 アイテムを複数吊り下げつつ微妙に防御力が増えるベルト。

 探索で役に立つ鉤縄2本。

 アイテム採取用兼補助武器のピッケル。

 逃走用の使い捨て煙玉(12個セット)

 大敵「状態異常」に少し耐性をくれる護符。

 

「合わせてどれくらいですか?」

「……3000G、端数はまけてやる」

 

 表の大通りでも売ってる品だが、設定的に中古であるため数%だけ安く……なってるはずである。微妙に既知の情報より値上がりしているが。

 

「どうも」

「まいど」

 

 Gを支払いその場で買ったアイテムを装備。

 ベルトの左側にはピッケルが吊られ、右側には付属のポーチに込められた形で煙玉が。鉤縄はベルトの後ろに縄の輪が、尻尾の先端に鉤が来るように固定した。最後に、首から青い宝石飾りが下げられた──相変わらず半裸の男がそこにいた。アウト。

 

「あと、これはちょっとした質問なんですけれど」

「なんだ」

「もしかして物価、ちょっとずつ上がってます?」

 

 少し気になったので、世間話と洒落込んでみる。単純に価格設定が変わっているだけならそれでよし、だがもしそれ以外の理由なら──それはイベントの予兆だ。見逃す手はない。

 

「……否定はせん。まだ数週間は先の話だろうが、この街が最前線になるとのお達しだ」

「最前線と言いますが、一体なにとの?」

「魔物、それ以外ある訳ないだろう戯け。もし参加したくないのなら、中央にでも引っ込むんだな」

 

 つまり数週間後にイベントがあり、参加したくないプレイヤーは最初のボスを突破して中央に居ればいい……ということか。値上がりの理由は資源が軍備に回されていて物価が上がっているという話。

 

「貴重なお話ありがとうございます」

「今はあんたら“渡り人”の来訪に沸いてるが、それが過ぎれば誰でも気づく。大した話じゃない」

「それでもですよ」

 

 相手はNPCとはいえ、高度に発達したAIは殆ど人と変わりなし。故に対等、常識的に。そんな心情を胸に、頭を下げてお店を後にする。

 

「あとは……」

 

 道すがら適当なスキルショップに立ち寄り、ゴブリンからのドロップ品を売却しつつ《暗視Ⅰ》《望遠Ⅰ》のスキルを購入。

 これら2つは《識別》《狙撃》といった、任意のタイミングで発動できるスキル……いわゆるAS(アクティブスキル)とは違い常在発動型。通称PS(パッシブスキル)に分類される。

 効果は名前の通り。ある程度の暗闇を見通せたり、望遠機能を解放したり。劇的でないものの、何かと便利なアレだ。

 


 PN:ヤブサメボーゲン2035

 称号:大物喰らい

 種族:獣人(猿)

 Lv:15 所持金:80 G

【ステータス】

 HP:135

 MP:65

 SP:137

 Str:52   Dex:27(29)

 Vit:5(8)  Agl:31(33)

 Int:5    Luk:15

 Min:5(8)

【スキル】

《弓Ⅱ》《体術Ⅰ》《領域魔法Ⅰ》

《隠密Ⅰ》《狙撃Ⅱ》《識別Ⅰ》

《暗視Ⅰ》《望遠Ⅰ》

【装備】

 頭:

 胴:

 右手:初心者の大弓

 左手:初心者の弓籠手(Vit+1 Dex+2)

 腰:多機能ベルト(Vit+1)

 足:初心者の脚衣(Vit+1 Agl+2)

 アクセサリー(2/10)

 ・矢筒

 ・対異常の護符(Min+3)


 

 紙のようにぺらっぺらな防御の代わりに、火力と正確さと足がある。清々しいまでの遠距離戦と探索特化。武器の更新こそ叶わないが悪くはない。後は矢を補充して──と、不本意ながら大通りの武器屋へ足を向けた時だった。

 

()ひゃ()やふはへはん(ヤブサメさん)ほんはほほろ(こんなところ)()()ふう()へふ(です)()

 

 耳慣れた知り合いの、けれど明らかに口に何か詰まっている声を聞いた。心当たりに振り向けば、そこに居たのはあまりにも中世風の街並みから外れた存在だった。

 

 翡翠色のウェーブショートに蛍石のような瞳、端的にスレンダーな美少女と言っていい女性だろう。こめかみより僅かに高い場所から後ろに伸びる片角と翡翠色の鱗を持つ尾からして、恐らく課金種族の竜人(ドラコニュート)

 表示されている名前は[Fluorite]、日本語訳すれば蛍石。確定だ。広い前線都市の中での、思わぬ遭遇だった。

 

ほうひまひは(どうしました)?」

「早速満喫してるなぁ、と」

 

 ただその格好は……なんと言えばいいのか。

 既に服装は初期装備でなく、装甲化された浴衣としか言いようがない花柄の青と緑の和服と帯。頭に被ったデフォルメされたドラゴンのお面と、足元の鉄草履とでも言うべきそれは調和が取れている。

 

やふはへはん(ヤブサメさん)?」

 

 極め付けはどこで買ってきたのか両手一杯に持った料理群。

 左手にリンゴ飴、綿飴、チョコバナナ。

 右手に焼き鳥、イカ焼き、肉の塊。

 帯には数本のラムネを挟んで確保している。

 ──それは完全に、夏祭りのソレであった。

 まだリアルは春なのに。ゲームもサービス開始したばかりなのに。背負った鋼の長槍が水ヨーヨーを掛けられ泣いていた。

 

「……! あげません!」

「いらないんだよなぁ」

 

 なるほどそういうことかと言わんばかりに、懐かしいネタを迫真の勢いで繰り出された。が、そういうことじゃないのだ、そういうことじゃ。

 

「そうですか……美味しいのですけど、チョコミント醤油味のイカ焼き」

「地獄の間違いでは???」

「地獄……地獄焼き。天国焼きってありましたっけ。どこでしょう?」

「ああ、文章が圧縮された……」

 

 文章越しでは分からない、久しく感じていなかった感覚に膝をつく。この人こそ、うちのパーティにおけるメインアタッカー。蛍石さんことFluoriteさん。時折会話が圧縮される、未知の味を探求し続けた結果味音痴に至ってしまった人。

 

「はぁ……取り敢えず、フレンド登録だけしておきましょうか。いちいち外経由も面倒ですし」

いいれ(いいで)ひょ(しょ)()ほはのひほほ(他の人と)()()()ほひ()()()()()()にほ(にも)まは()しへ(して)ほひまふね(おきますね)

 

 即ち、俺こと『自然大好き半裸アクロバット弓マン』に続く『浴衣健啖家ランサー電波ドラゴン娘』であった。既に濃いが、慣れれば気の良い友人でもある。

 

ほほろへ(ところで)やふはへはん(ヤブサメさん)()ほへはら(これから)ほほに(何処に)?」

「最低限レベルは上げたので、矢を補充したら南の方面へ強行偵察に行こうかと」

はは(ああ)はのひはふほっほー(あの自爆特攻)へふは(ですか)

 

 自爆特攻だなんてとんでもない。最後は9割9分力尽きてリスポンするだけで、マップと素材はちゃんと持って帰ってくる。

 因みにFEV(このゲーム)にも当然だがデスペナルティは存在している。具体的には所持金半減と装備中以外のアイテムがランダムドロップ、あと一定時間のステータス減少。ゾンビアタック*1を警戒しておられる!

 

「一緒に行きます?」

「んん……遠慮します。レベリング、してませんし」

 

 それなら残念だが仕方ない。

 

「そういえば、ヤブサメさんはまたやるんです? 検証班」

「活動が再開していれば、ですかね。好きに遊んだデータが遊ぶ資金になってくれますし」

「あー……」

 

 検証班──それはプレイヤーの視点から、ゲームの情報を収集分析する集団。

 SNSで集まっているいつもの面子は、β版において全員がそこに所属していた。例えば俺はマップデータを、Fluoriteさんは食品データを集め、SNSで5963と名乗っていた人にぶん投げて報酬を得ていた。

 気持ちよく遊んでいるだけでこちらは資金が尽きず、あちらはデータが集まる。そんなWin-Winの関係をまた築きたいものである。

 

「なら私もそうしましょうかねー」

「ストレスは減らすべきですしねぇ」

 

 などと暫く談笑してから、食べ歩きに戻るFluoriteさんを見送る。

 残る弾バカと決闘者、5963との遭遇を期待しながら、適当な露店で矢を1スタック分購入。街北と比べてごった返している人混みを抜けて、北門と同様に高く堅牢な南門から脱出した。

 

「さてっと」

 

 街北は何処までも続くような、爽やかな風が吹き抜ける草原だった。

 だが街南はその真逆と言ってもいいだろう。日本の山林ほど陰鬱としていないが、視界一面に広がるのは街のすぐ側にまで迫る大森林。

 伐採などで切り開かれたであろう範囲を越えれば、鬱蒼とした西洋風の森がどこまでも何処までも続いてる。

 深呼吸をすれば、感じるのは濃密な緑と土の香り。はー……いいじゃないか、こういうのでいいんだよ。こういうので。

 

「ヒャッホウ大自然!」

 

 思わず叫びながら、無数のパーティーの視線を集めながら全力ダッシュ。

 一歩、二歩、三歩と加速しながらメニュー欄からマップをオープン。伸ばしたAglのステータスに任せて、一直線に緑の内へ飛び込んだ。

 

「《領域魔法》起動!《円形(サークル)──索敵(サーチ)》!」

 

 そして、これまで使ってこなかった《領域魔法Ⅰ》も解禁する。

 MP消費は1/5s、つまり5秒に1。自分を中心とした半径50m円の空間が感知範囲内。活性(アクティブ)化状態でも非活性(ノンアクティブ)化状態でも、敵mobが範囲内に侵入した瞬間、危険度と位置をマーカーで教えてくれる。

 

 [南南西48m 名称不明 危険度:大 活性]

 [南東32m  名称不明 危険度:中 非活性]

 [南10m   名称不明 危険度:並 非活性]

 [北09m   名称不明 危険度:小 戦闘中]

 

 丁度こういった形で。

 察するに南南西の反応は徘徊ボスの類。南東は自分のレベルを基準にそこそこ強めの相手。南は同様に適性レベルのモンスター。(うしろ)の反応はここら辺の適性レベルで、既に誰かが戦闘中といったところか。

 

「どうせなら、南東の奴を仕留めたいけ、ど!」

 

 地面を蹴って跳び、三角跳びの要領で樹上の太い枝へ。鉤縄付きになった尻尾を使い身体を固定し、大きく剛弓を引く。

 

「《望遠》、しながら《識別》」

 

 マップ上、近づいてくる光点と地面を何かが駆ける音。落ち着いてスキルで確認すれば、表示された名前は〈ウルフリーダー Lv14〉。そこまで面倒な相手でなし、狙い撃つのに──

 

「《狙撃》《パワーショット》」

「ギャンッ!?」

 

 ──問題は一切ない。

 1発、綺麗にヘッドショット。レベル差が14あったゴブリンですら一撃で屠った黄金コンボに、不意打ちボーナスで更にプラス。同レベル帯の相手が耐えられる火力ではなかった。

 

「さーて《隠密》《隠密》」

 

 仕留めきったことを確認し《隠密》スキルを起動。

 まだSPを3秒ごとに1消費する悪辣な燃費のスキルだが、少しでも生存時間を伸ばすためなので必要経費。

 

「目指せプレデター」

 

 ……今はこう言うと、シューティング系のゲームのランク帯の名称になるんだったか。そんな繰り言を弄びながら、深い森の果てに向けて特攻した。さて、何処まで深く潜り込めるやら!

*1
デスペナのないゲームにありがちな行為。リスポン直後に特攻してボスを倒したり時間稼ぎしたりする





【領域魔法】
 指定した領域内部に様々な効果を起こす魔法。
 デフォルトの形は
 円形(索敵寄り) 方形(防御強化)
 角形(攻撃強化) 星形(対空強化)など

《円形──索敵》(起動1・継続消費1/5s)
 PCを中心に半径50m円内の敵mob情報を視界に表示する(最大表示数10)遭遇済みの相手は名前も表示される。

【アイテム】
・通常矢:12本セット10Gのお安い価格

【備考】
・ストレージ容量(枠数)
 Str+Vit+Dex=の数値 or
 Int+Min+Dex=の数値 の高い方
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