元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
正直、レイドボスを嬲るのを辞めて引き返した時点で嫌な予感はしていた。
振り返った先、アウステルの街から立ち昇る黒煙と炎。街中の空を舞う無数の敵mob。探知範囲内から次々と消えていくNPC達の反応。
などということはなく
「転生トラックのお出ましでぇぇす! やっほー、テスタ! 死んでませんかぁぁぁぁぁ!!!」
「カパッ!?」
「グッポッポーッ!」
《煩せぇ! とマスターは仰っております》
「まだ的当てターゲットは残ってますかぁぁ!」
「ウッキー!! 今年は申年ィ!」
「ごはん!!!!!!!!」
「ウワァ、スゴイコトニナッチャッタゾ……」
カス野郎どものエントリーだ!!!!
いやまあね? なんかちょっとは悪いなーとか、流石に薄情かなぁとか思ったりしない訳じゃないのよ?
でもここまで来る道中、行きつけのお店(武器屋)は店主含めて無事だったのを確認したし、高々数人でどうにか出来る規模の戦闘でもないし……なんか、もう別にいいかなって!(配点:クズ)
「──ッ」
ギャリギャリギャリと路面を削り静止した俺たちを原因に、この場にいる全員に静かな緊張が走る。
連絡をくれたらしきクローニンの知り合いは、割と困惑が強めの感じで。轢いたチーターは、ダメージこそ通ってないが意識の外から攻撃を受けて。残り2人のチーターは……多分これドン引きしてるだけだな。うん。
「ひい、ふう、みい。テスタ、あれでチーターは全員ですか?」
「あ、あぁ。少なくとも俺は、あれ以上を見かけてない」
クローニンが状況把握をしている間に、ドン引きしてるチーターを屈伸で煽っておく。へいへい、チータービビってるぅ!
「いやぁ! 人型って素晴らしいなぁ!」
「あっ、狡いですよヤブサメ! 私なんかミラーボールみたいに発光するくらいしか出来ないのに!」
「ボッポー!」
アブっさんの言う通り、一般的な倫理規範に照らし合わせると俺たちはクズとか煽りカスに分類される。平然とグリッチも使うから、割と迷惑なプレイヤーだと言うことは理解している。
故に、俺はチーター共の所業は許そう……だが
「
咥えた虫の翅をパリパリと噛み砕きながら、ぷるぷると震えてFluoriteさんが呟く。これはまさしく怒り心頭、怒髪天に達するというやつだ。あーあ、勝ったな(ゲンドウポーズ)
「カッタナ、ガハハ!」
「“
「Fluoriteの怒りを買うなんて、大変ですねチーター達も」
「
って、ヤンキー漫画みたいな驚き方をしている場合じゃない。逆に考えるんだ、乗るしかない。このBig Waveに!
「殺されそうになってるのは
誰?
俺!?
俺俺俺俺!! Ahh〜↑↑↑」
「危なぁぁぃ!!」
ノリきる直前、横合いから拳が飛んできた。
ひどいやクローニン、父さんにも打たれたことないのに! 母さんには腫れ上がるまで叩かれたことあるけど!
「著作権パンチ!」
「例の組織に見つかるだろうが猿ゥ!」
「ポポポポポ」
《コンディションレッド発令! とマスターは仰っています》
直後、それどころじゃない全方位からの袋叩きに合った。
まだ合体中だから一切ダメージはないけど解せぬ。
「ザッケンナコラー! スッゾコラー!」
「ヤベェ、コイツイチイチハツゲンガラインコエテルゼ!」
「処す? 処す?」
「タマ、Go!!」
あっ、痛い。弾幕で目が痛い。こんなことしてる場合じゃないって、俺たち救援に来たんじゃなかったっけ。ほら、味方っぽい人も、轢いたチーターも、なんか全員ポカンとしてるって。
「ゔああああああぁぁぁぁぁ!!!」
「急に絶叫するビーバーみたいな声出してんじゃねぇよ!!」
そんなどんちゃん騒ぎを断ち切るように、苛立ちに塗れた叫び声が響いた。
声を上げたのは、さっきまでシリアスだったであろうチーター側のリーダー。……ここでツッコミしてくれるとか、案外ノリいいなコイツ。チーターのくせに。
しからばこんな据え膳、こちらも喰わねば不作法というもの。仕掛けて来たのはそちらだ、ついて来れるか──必殺、仮面着装! ボイス変更! そして限界まで喉を絞って……
「ピュイィィィィィィィ!!!」
「マーモットの声にすればいいって訳でもねぇよ!!!」
ぜぇはぁと肩で息をしながら、チーターのリーダー……なんだっけ。イレヒラだっけ? が全力でツッコミを入れてくれた。
思ってた形とは違うけど、全力で煽ってるこちらに全力でノってくれるのは気持ちがいい。出会い方と遊び方さえ違かったなら、よき好敵手くらいにはなってくれたろうに。
「なんで俺はツッコミなんかしてんだよ!!」
それは明らかに魂の絶叫だった。
残り少ないチートの時間をすり減らし、突然現れた俺たちへのツッコミに使わされる。気持ち良すぎる体験だ。
対して可哀想なイレヒラ、ひとえにテメェが真面目なせいだが。
「ふー……煽れてスッキリしました。後はクローニン達メインでいいですよ!」
「よぉし私の出番ですね!? やりますよやりますよやりますよぉ!」
「ソォカ、ヤルノカ」
「グポポポ、ボッポン」
《やるならやらねば、とマスターは仰っています》
冷静になって俯瞰してみれば、これ俺たち誰も頭で考えて話してないな??? 脊髄反射でしか話してない。悪いインターネッツそのものみたいだ。
「巫山戯るなテメェら!!
『み』面目にやりやがれ! あぁ゛!?」
などと、こちらが一瞬静まり返ったのを好機とみたのだろう。場の空気感を取り戻すべく、イレヒラが叫んだ言葉だったのだが……敢えなく、喋りを読んでいたクローニンによりインターセプト。
哀れ、恫喝めいた言葉はインターネットミームへと書き換えられてしまった。哀れ……ほんとうに哀れ。アーカワイソ。
「尻尾切ってあげましょうか〜? 役目ですもんねー!」
そしてこんな隙を晒して、煽り体勢に入った俺たちが何もしないという筈もなく。口火を切った弾バカの発言もあるし、全力で煽るしかない。俺は一歩引くけど。
「今日は改造クエストに行かな──あっ、存在自体が改造みたいなものでしたね。今のあなた」
次弾クローニン、弾着確認!
「ポッポーン」
《ヤブサメ、蜂蜜持ってる? とマスターは仰っています》
「持ってますよ。3個で充分です?」
「ポポン」
OKっぽいので即座にトレード。アブっさんがフリーになっている腕に、瓶詰めのはちみつを握り込んだ。そしてキャップを開けて……ちょっとFluoriteさんに強奪されながらも投球ポーズ。
「ピッチャー、アブッサン。フリカブッテェ、ナゲタ!」
《はちみつあげるよwwwと、マスターは仰っています》
放物線を描いて蓋の開いた蜂蜜は、未だに馬鹿馬鹿しくも動きを止めている3人のチーターにそれぞれ着弾。
頭からベッタリと、ふんだんにその中身を塗される形になった。
「……ぅっ、ふ、ひぐっ」
あーあ、チーター1人泣いちゃった。
などと思っていた刹那、バフが盛り盛りになったFluoriteさんが心の折れたチーターに肉薄。チロリと出した舌で蜂蜜と混じり合った涙を舐めとった。
「チートのせいでしょうか、ひどい味。蜂蜜と混ざってもダメダメです。でもいい、お持ち帰ります」
「ヒィッ!?」
その様はさながら、ハイエナに捕まった我らが霊長類の誇りのよう。イキってた割に小柄なプレイヤーだったからなぁ……気に入っちゃったんだろうなぁ……子羊料理的な意味で。
「ッ! まずい、ユーちゃんGo! ボクらの代わりにストッパー!」
「滑空マントです、使って下さい!」
「アイヨォ!」
コンドルが獲物を連れ去るようにチーターを拉致するFluoriteに向け、アブっさんの人力カタパルトを利用してユーちゃんが射出。直伝の滑空を利用して追いかけていった。
へへっ、ユーちゃんが滑空飛行を使いこなしてて鼻が高いよ。
「……ッッッッ!!!」
などとおちょくって遊んでいる間に、俯いたイレヒラが肩をプルプルと震わせているのが見えた。決壊寸前だ。
ボーナスタイムはこれで終了、そろそろ取っていたイニシアチブも奪い返される頃合いか。Fluoriteさんとユーちゃんが抜けた以上、合体を維持している旨みも薄い。
「メイン方針は?」
「時間稼ぎ、ただボクも煽りたいです」
「了解」
ならばどうする? とクローニンに視線を向ければ、ハンドサインでピースが2回。了解、分断して各個撃破と。この場合の配分は……弾バカを砲台にアブっさん、俺とクローニンにするのが一番バランスがいいか。
「テメェら全員、ぶちこr」
「散!」
固唾を飲んでタイミングを伺うこと数秒、イレヒラの怒りが決壊するタイミングに被せてクローニンが号令。
また出足を潰されてキレ始めているイレヒラを尻目に、一気に戦局が動き始めた。
「グポーポン! ブッピガァン!」
《さあ楽しみましょう、新しいご友人! とマスターは仰っています。素敵だぁ……》
「ハーハッハッハ!! なら私は変異波形として遊びましょうかぁ!」
「うわぁぁぁぁぁ!!??!?」
石畳を削り飛ばしながら、弾バカを肩に装備したアブっさんが発進。情けない悲鳴を上げて逃げ出したチーターの追跡を開始。
「
「光輝魔法【ライトバインドⅡ】
飛び上がった俺はイレヒラに対し高速の移動妨害技を発射、また同時にクローニンが地上から拘束魔法を発動。
「しゃらくせぇ!」
それらを如何なる原理か、イレヒラは手に持った剣で粉砕。
「技《殺し撃ち》」
そうして生まれた隙を突き、クローニンの知り合いである味方が強烈なシールドバッシュ。イレヒラのタイミングが大きく崩され、たたらを踏む。
……へぇ。スーパーアーマー持ちとは言っても、プレイヤー側が崩されちゃ意味ないのか。
「弾バカ、足場!」
去り行く弾バカの置き土産を貰い、尻尾で反動を制御して地面に向くよう体勢を調整。力場を全力で蹴り飛ばし、地面に向けて彗星の如く墜落した。
「せい!」
「カパッ!?」
そのまま特に(ダメージ的には)意味のないエルボーで強襲。
しかしVRと言えどフルダイブである以上、直接頭を揺さぶられる攻撃は人体的に有効。酷いと酔って強制ログアウトになるのは、この身を以て実証済み!
「見せてあげましょう、対人ゲーム殺法!」
回転着地を決めながら、尻尾で抜け目なく足払い。大弓を上空に放り投げ、千鳥足になっていたイレヒラがここで堪えきれず転倒する。尻餅を着いたのを確認し、グリップの回復した脚で低空を全力跳躍。
こちらの意図を読んでくれたらしいご友人が向かってくるのに合わせて、イレヒラの後頭部を支えるように腕を持ち上げていき──
「喰らえ必殺!」
「
前と後ろ、イレヒラの頭部を筋肉で打撃する。
伝わる手応えからして、ご友人も大分ステータスをStrに振っている様子。案の定ダメージは通っていないが、
「く、ぎ……」
たかが数発、されど数発。
筋力もりもりの打撃を執拗に喰らったイレヒラの膝が落ちる。
「これって──」
「ああ、俺たちの勝利です」
落ちて来た大弓をキャッチして、クローニンの隣まで後退。前衛をご友人が固め、一般的なパーティでの戦闘体勢を整える。
「ねえどんな気持ち? ずっと下に見てたボク達に好き放題されてどんな気持ち!?」
カスとしての戦績、ここに刻む!
……あ、これじゃ負けフラグじゃん。