元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
[a.m.12:07(
[南部前線都市アウステル・南区ー大通り]
「くそっ! くそ!!! なんで、なんで死なないんだよオマエ!!!」
クローニンが全力で煽り始めた地点より少し南、レイドボスの戦場へと続く破壊され尽くした道の上。そこで少年のプレイヤーが叫んでいた。
「グポン、グポン……グポーポン、グポーポン、グポン」
《スロー、スロー……クイック、クイック、スロー……素敵だ、とマスターは仰っています》
相手にしているのは僅か2人。
様子のおかしい喋り方をしている4つ腕2枚大盾のプレイヤーと、その頭部で蛍光灯のように点滅しているプレイヤー。言わずもがなアブっさんと弾バカであり、何故かチーターに対し優勢を取れていた。
「くそ! クソ! 糞!!」
「ポッポー!」
無論、チーターの少年の火力は一撃必殺。いくら
が、それは尋常な双方がプレイヤーである場合の話。
力はあっても稚拙な攻めと、力は足りずとも巧みな防御の場合は異なってくる。
「右、左、フェイント、下、後退……ぬるいぬるい! 弾幕ゲーで鍛えた私の眼を舐めないでいただきましょうか!」
そもFEVのダメージ計算は、最終算出ダメージから防御を計算するタイプ。その中でも本職で
↓相手の最終合算ダメージ
↓割合減衰(スキル由来)
↓固定値カット(スキル由来)
↓ガード判定(
↓防御値計算(ステータス由来)
↓最終算出ダメージ(最低保証数%)
当然アブっさんもこの通りにダメージ計算は適用され、チーターから受ける最終算出ダメージは大凡1000まで減衰している。
ここまでギルドメンバーを支えていたこの絶対的な盾の硬さは、合体由来ではない自前のもの。移動速度こそ鈍ったが、アブっさん自身の硬さは何ひとつ衰えていない。
「グポーポン、グポーポン、グポーポン」
《ジャスガ、ジャスガ、ジャスガ、損傷は軽微とマスターは仰っています》
尤も500程度しかないアブっさんの体力では、未だ即死を免れないのもまた事実。本来のレイドボスのゲージすら1撃になり得る莫大な火力からすれば微々たるものだが、そこはチートの面目躍如と言える。
それでも生存が続くのは非凡な防御技術と、極まった目と、稚拙な攻めの合わせやすさが噛み合っているが故に。
「お前なんなんだよ!」
「グポーポン」
《矛らしき盾、とマスターは仰っています》
少年の魂からの叫びすらシャットして、ジャストガードが決まり続ける。
完璧なタイミングでガード判定を成功させることで、自身の防御ステータスを大凡5〜10倍程度まで跳ね上げる技術により…………悲しいかな、チーターの攻撃は最低保証の分しか通っていない。
「お前なんか相手にしてられるか!」
ならば当然逃げ出そうとするのが必然で。
「クックック、隙を見せましたねぇ! きえぇぇぇ!!」
それを阻むのが弾バカだった。
「ピカピカピカピカ、目障りなんだよお前も!」
「誉め言葉ぁぁぁぁぁ!」
完璧にビブラートを決めつつ、逃走しようとしたチーターに解き放たれたのは眩い弾の壁。
ダメージはチーターに通らない。
状態異常も通らない。
だが本人の足は止められるし、ヒット時の衝撃由来のディレイは通る。
「
1発でも弾が掠ればそれで最後。殺到する光によって目が眩む上に、ディレイに継ぐディレイにより強制的に足が止められる。
「
妨害しようにも、弾壁を放つ本人は突破できない壁の向こう。
憂さ晴らしにNPCをブチ殺すことも、こんな戦場に近づくバカは居ないために不可能。
ならばチーター側に引き込んでしまおうと思っても……
「ま、待て! 今ならこのチートのコードだって──」
「アップルパイ!」
「ポポン」
《シナモン嫌いなんだよなぁ、とマスターはおっしゃっています。かわいいですね》
ご覧のとおり
「くそぉ、くそぉ……!」
かと言って、泣き落としに掛かれば悲しいくらいに煽られるのは体験済み。
どうすれば、どうすればいい。自分は楽しく遊んで、好き勝手に遊びたかっただけなのに。チーターの脳裏にそんな言葉が過った刹那──
バツン。
何かひとつ言葉を言い残すことすら出来ず。
少年はVRの世界から弾き出された。
「あー……BANされましたかね、これ?」
「グポポポポン?」
《多分そうじゃない? とマスターは仰っています》
こうなると、不完全燃焼感が残るのがチーター“で”遊んでいた2人の側である。
処置としては正しいし、運営が仕事をしているのは喜ばしい。が、いい感じのタイミングでBANされた結果、どうにも不完全燃焼だった。
「このままは癪ですが……アブはどうします?」
「ポポン」
《みんなの邪魔するのもアレだし、レイドバトル戻らない? とマスターは仰っています》
「お、いいですね。一応連絡だけして、私たちはそっちに行きますか!」
ごーごーれっつごー、と馬鹿みたいに明るい声が響く。
望んで従うリーダーから解き離れた以上、協調性なんてものは何処かに投げ捨てられてしまっていた。
・
・
・
†絶対の楯戦車†:チーター垢BANされちゃった(´・ω・`)
)3^<<l+I!βд7!:暇になったので、レイドボス殴ってきますね
[a.m.12:07(
[南部前線都市アウステル・崩壊した通り]
クローニン達が到着した時点で残っていたチーターの数は、主犯格のイレヒラを含めて3人。
その内1人は垢BANが執行され、主犯格はクローニンと #極東式侮蔑スラング# やら #放送できない英語# やらゲーム内言語で口汚く罵り合ってる中。
残された1人──Fluoriteに(食料として)お持ち帰りされ、ユーちゃんが追いかけた哀れな子羊──はどうなっているか?
それはもう、言わずもがな。
「サァ、ハジマリマシタ! チーター“タイキュウ”、インセインダービー!」
「ん゛〜ッ!! ん゛ん゛ん゛!! むん゛ん゛ん゛ん゛!!!」
「
それはそれは酷いことになっていた。
大体のNPCが避難を終え、プレイヤーも殆どがレイドボス戦に出払った壊れた大通り。
飢えた竜人に捕まった哀れな子羊が、燃える廃墟の炎に照らされ震えていた。まるであゆの塩焼きのように。
「
おお、見よ。爛々と輝くFluoriteの目を。
人を人とも思わぬ残虐な……いや、完全に美味しいご飯としか認識していない欲望に染まった双眸を!
ある種、一視同仁の眼差しである。
限りなく人に近く、されど人ではない、文明的な獣の輝き。
そう評すのが相応しい、獣性の発露であった。
スゴクコワイ!
「ノリノリデイッチマッタテマエアレダケドヨ、イイノカコレ?」
「ふぇ?」
「ウオッ、クモリナキマナザシッ」
まんまるのきらきらお目目に見つめられ、あまりの眩しさに手を翳しながらユーちゃんが顔を背ける。
これが『汚れつちまつた悲しみに』……などと見当違いな思考をユーが巡らせていた時。涙ぐましい努力が身を結び、ついに大暴れしていたチーターの猿轡が消滅した。
設定されていた耐久値の限界である。
「や、やだ! やだぁ! 確かに私チート使いました! ごめんなさい! ごめんなさい! だから許して! こんなこと嫌! いやぁ!」
そして当然のように、彼女はもう限界だった。
当たり前である。
繰り返されるが基本的に、人間は人間から食欲を向けられることはない。故にその状況に晒される心理ストレスは計り知れず、当たり前にこうなるのだ。
「………?」
「そんな不思議そうな顔しないでよ! 私、やっちゃいけないことやったけど人間だもん! 人だもん! やだよ、食べられたくないよ!!」
涙も鼻水も流しながらの懇願に、キョトンとした顔でFluoriteは首を傾げる。可愛らしいムーブとは裏腹に、Fluoriteの両手に握られた調味料が離れることはなかった。
「
「ぁぁぁぁん! ふぐぇぇ、ぐず、ひぐ、ぁぁぁあ゛!!」
──痛ましいまでの号泣だった。
「た゛れ゛て゛も゛い゛い゛か゛ら゛だずげでぇぇぇ!! そこのNPCでもいいからぁぁぁ!」
「ンア、オレカ?」
そして必然、助かることがないと悟れば違う方向へ手を伸ばすのが人間というもの。哀れな少女が助けを求めたのは、『部位番7:右眼:単勝1.7倍/複勝1.2〜1.9倍:1番人気』と記していたユーちゃん。
「そ゛う゛よ゛!! だずげなざいよ゛!!」
「ヤダネ、オレニハチャント……チャントシテルカ? イヤ、ケイイガナァ、ウーン……チャントシテルカ、ウン。
オレニハ、“ユー”ッテナマエガアンダ。NPCガナマエジャネェ」
「じゃあ゛ユー、助けてよ!! 人間なの! 私まだ人でいたいの!! そうしたら、なんでもやってあげるから!!」
縛りつけられた場所から動けないなりの、必死の懇願。べちょべちょに崩れた表情の悲痛な声を、しかしトコトン冷めた目でユーは見つめ。
「ンー……ヤッパヤダネ。ヤリタカネェワ」
義理として悩むフリだけをして、躊躇いなく切り捨てた。
「なんでよ!!」
「ダッテオマエ、オレノコトミル“メ”ガ、ニンゲンヲミルメジャネェモン」
理由は単純。
ユーがこれまで関わってきたプレイヤーの大半は、ヤブサメやアブっさんを含めNPCを同じ人間として接する人物ばかり。その考えを受け入れづらい世代であるクローニン達ですら、特段の区別なく同じ人として接している。
だからこそ。
お前は自分と同じ人間ではない。そう宣言するプレイヤー相手に、ユーが靡くことはなかった。バカどもを優しいというのは、ちょっと、いや少し、かなり憚られるが。
「だってそうでしょう! ママ言ってたもん! 私たちとNPCは違うって! 相手は人間じゃないから何してもいいんだって!」
「ソッカソッカ、ママガソウイッテタノカ。ジャア、シカタネェナ」
必死の弁明に、冷徹な表情を崩してユーが微笑む。
よかった、きっと助けてくれる。そう信じきって少女は笑顔を浮かべ。
「Fluorite、オレモウジャマシネェワー」
「
「なんでよ!!!」
一気に顔を真っ青にして絶叫した。
理解できない、どうしてこうなるのか。そんな言葉に、至極当然と言った様子で言葉を返す。
「ダッテオマエ、イマオレノコト『ニンゲンジャナイ』ッテイッタロ? ジャアオレモ、オマエノコト『ショクザイ』トシテアツカウ。カンタンナハナシジャネェカ」
「そ、それは言葉のあやで」
「コーイウノハ、『ウケテノオモイ』ガゼンブナンダロ? カシコイカシコイ、ニンゲンサマヨ」
ケケケ、とユーちゃんが悪辣な笑みを浮かべて言った。
「ひっ」
「ソレニ、フルダイブVRノセカイジャNPCモPLモカワンネェダロ。ドッチモオナジ、タダノデンキシンゴウダ。01デアラワセル。ナノニオカシナハナシダゼ」
んべぇ、と小馬鹿にするように舌を出す。そんなユー自身、区別と差別の考えがあることは認知している。
そういった考えに至ることも、現実世界から見た正しさも理解している。だがそれとこれとは話が別だ。
「ソンナニトモダチジャナクテ、ドレイガホシイノカネェ? ニンゲンサマハ」
「
「オウヨ、シッテル。トモダチダ」
いつになく真剣なFluoriteの言葉にニカっと笑う快活なその笑みは、輝く光のようで。
その影で、ひっそりとチーターの少女は強制ログアウトを喰らっていた。リトライが許されない、心が弱ぇ敵だった。
[a.m.12:07(
[南部前線都市アウステル・元噴水前広場]
・
・
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†絶対の楯戦車†:チーター垢BANされちゃった(´・ω・`)
)3^<<l+I!βд7!:暇になったので、レイドボス殴ってきますね
Fluorite:ビュッフェ中、何かあれば
ユー:お話ししてる間に消えちまったぜ
「ちょうどみんな終わったみたいです。見ます? ご友人」
「お、おう」
生き生きと煽り煽られを続けるクローニン越しを横目に、ついさっきダブルラリアットで魂を震わせた友人に画面を見せる。
文面から見る限り、弾バカとアブっさんは満足するまでバトって。Fluoriteさんはメンタル過負荷で強制ログアウトといったところか。どちらにせよ、チーターの退去は完了したっぽい。
「あと、俺のことはテスタでいい。クローニンの友人なんだろ? 話は聞いている」
「え、ほんとですか? クローニンは俺たちのことなんて?」
「馬鹿、阿呆、問題児、手のつけられない暴れ馬。御さないと爆破する地雷。
多い多いオイオイオイ、死んだわ俺たち(の名声)
「それと、割とかけがえない友人だと」
「じーんと来ました、グリフィンドールに+30点」
「こういうところなんだろうなぁ」
信じられないものを見る目で見られたが、やめてほしい。自覚はあるのだ、照れる。
そんなことを話している最中のこと。
ゴーンゴーンと空から鐘の音が鳴り響いた。
《Fines Explorator Viae第1回イベントをプレイされている、全ユーザー様にお知らせ致します》
レイドボス襲来時にも鳴り渡った重い響きは、今度こそ運営からのアナウンス。
《【R・B】Machinery Queen Bee の討伐が現在時刻を以って確認されました。
現在貢献度の計算・集計・ランキングを実施中です、報酬・ポイントの配布は確定までお待ちください》
繰り返します、と続いたアナウンスはレイドボスの討伐を知らせるもの。チーターを煽りに来た結果、案の定ラストゲージの戦闘は逃してしまったらしい。
まあ全体の0.5〜1割くらいは俺たちで削ったし、結構いい感じの報酬は出るはずだ。願わくば青箱確定ライン*1に届いてることを祈るばかりである。トレハン系のスキルはないので、金箱タイプは勘弁して欲しい。
「ふ、ふふ、これでボク達の完全勝利! いょしっ!! ヨシっ! ヨッシッ!!!! なんで負けたか明日まで考えてきてください! Foooooooooo↑↑↑↑↑」
運営アナウンスの鐘の音。諸行無常の響きあり。
だが盛者必衰にはまだ早い。全身で喜びを表しているクローニンの姿からも分かる通り、これで俺たちの目的は完全達成。残りの時間はもうロスタイムになるのだ。
イベントのロスタイム……それは即ち、みんなの遊び場。ひっくり返された玩具箱。故に。
「ぶっちゃけ貴方が何したいのか、誰なのかも知らないですけど」
くねくねしているクローニンに向け、超速で突進してきたチーターの前に誰よりも速くインターセプト。
「目障りなので邪魔しますね」
当たれば即死の拳をそのまま右手で、ダメージ判定が生まれない程度に掴み流れを変更。受け流すと同時に動きを誘導しながら、左手で構え尻尾で引いた弓矢を撃ち込んだ。
……露天で売られている、吸盤付きのジョークアイテムを。