元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
[p.m.22:21(
[南部前線都市アウステル・商業区画]
『形式だけは整えた。あとは君次第だ、励むがいい』
馴染みの店主からそう言って渡された、所謂
それ自体は別にいいのだ。クローニンのように街中で遊ぶことを優先しているプレイヤーならば、少なく見積もっても週に1回くらいは遭遇する出来事だから。
故に問題なのは報酬の方。
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ー報酬ー
・肆番外征の欠片 ×5
・特殊任務賞金 ×30
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《○番外征の欠片》
ここに至るまで誰も、外征者の称号とセットで取得する以外は入手方法が不明だったアイテム。それが存在することが、問題も問題な大問題だった。
「どうすっかなぁ……」
適当に街ブラをしながら開いたウィンドウに表示されているのは、見るからにエンドコンテンツである外征兵装の設計図。
言葉を憚らずに言えば、わざわざ周回とかしたく無さすぎて放置していた真のユニークアイテムの作成手順なのだが……
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第一段階《器の作成》
〈必要素材〉
・肆番外征の欠片 ×10
・10,000G
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現状、手持ちの欠片は初期入手の5個。
そこにユニーククエストの報酬を加えれば個数が足りる。資金は幾らでも用立てる方法がある以上……そう。作れてしまうのだ。
プレイヤー個人のオリジナルでオンリーワン。
完全なるユニークアイテムが。
「目立つよなぁ……」
エンドコンテンツ1歩目な以上、多分完成するのは大したものではないだろうが。それでも。
「ママー! あの半裸のお兄ちゃん変なこと言ってる!」
「しっ! 見ちゃいけません!」
まず間違いなく悪目立ちする。
「でも、変な仮面してるし上は裸だもん! 渡り人のお兄ちゃんおかしいよ言ってること!」
「指も差しちゃいけませんッ!!!」
………
「
「……どんな顔ですか。いやまあ、通りすがりのょぅι゛ょパイセンの一撃が、クリティカルにボディーブロー喰らったみたいにジワジワと効いてて」
「
全くもって興味のかけらも持っていなさそうなFluoriteさんだった。というか、どっから現れたんだこの好きな食材発表ドラゴン。両手どころか尻尾まで使って食べ物抱え込んでるし。
「
そんなこちらの疑問に答えるように、左手に握られた焼きとうもろこしがスッと天へ聳り立つ。
「──『ごはんはみんなで食べた方が美味しい』と」
口いっぱいに頬張っていた何かを飲み込み、キリリとした表情でFluoriteさんが言う。……なるほど、そういうことか。そのお母さんもいいことを言う。
「つまり、迷ってるくらいなら相談しろと」
「
そう言うが早いか、竜魔法の翼を羽ばたかせFluoriteさんは空へと消えていってしまった。残されたのは、完全にやべーものを見る目のNPCと、手元にあるホカホカのイカ焼きだけ。
「……うまっ」
とりあえず、なんだ。
美味しかったし、いいか!!!
◇
[p.m.22:45(
[中央旗艦都市ケントルム・ギルドハウス]
「ということでクローニン。
いい報告からにします? 悪い報告からにします?
それとも美味しい焼 き と う も ろ こ し ?」
「タレを資料に溢したら殺す」
「ひぇっ」
ギルドハウスの2階スペース。大量の資料と素材、そして謎の器具によって足の踏み場もなくなった
その様はまさに、リアルマイ大学の
「とりあえずとうもろこしと、予想はついてますが悪い報告から頼みます」
「はいはい」
恐る恐る資料の山を掻き分け、雛鳥か何かのように口を開けて待つクローニンの口元へとうもろこしをシュート。……あの。芯ごと噛み砕いて食べ始めたのは、ちょっと、その、美少女ボディでも擁護のしようが。
「じゃあ悪い報告を。弦の張り替えですけど、なんだかんだでダメでした。レベルと弓のスキル段階をまだ上げる必要があるみたいですね」
「……もご、もごご?」
「報告書は面倒なんでクローニン書いてください」
あの店主のお陰で判明したエーテライト素材の要求性能は以下の通り。大弓という特殊例で1例のみな以上、断言こそ出来ないが──
要求レベル:45以上
要求スキル:第3段階(大弓→剛弓→???)
素のPS :恐らくだが確実に必須
──最低でも最前線を張ることが可能なプレイヤーでもない限り、まともに使うことが出来ない。そんな癖の塊みたいな性質をアエテル弦もとい【A36ファイバー】が持っていることが判明した。
とはいえ、既に判明している情報と照らし合わせる程度だろう。他でも検証が進んでいるのは聞いた通りだし、まさか楽器と弓の弦に使った場合だけ性能が著しく変化するなんてこともあるまいて。
「……ん、了解しました。
んー、やっぱり弦状加工が最も振れ幅が大きいですね。剣を基準に弦が+5と3段階、盾類の塊使用の場合は-10と2段階、服装・防具が-5で1段階。やはり面積か質量のいずれか、あるいは」
そんなまさかはあったらしい。
流石は
「しかしヤブサメでも駄目となると、本格的にレベリングと強化を念頭に入れないと不味いですね。本格的な実践運用はまだ先かぁ……」
トントンと羽ペンを叩き、続けて凄まじい勢いで文字が記されていく。草。すっごい絵になる、盗撮してメンバーシップの方にアップしよ。
「それで良い報告は?」
「俺自身の剛弓スキルはあと1段階で進化可能、レベルも実は1レベルで足ります。その為のクエストもなんか貰ってこれたし……」
ユニークのことは言うべきか、言わぬべきか。
いいや、巻き込んで胃痛を共有してもらおうかぁ! ボイスチェンジャーON!
「たし?」
「実は前からガチ目のユニークアイテム作成フラグ持ってたんですけど、おまけでそっちの追加フラグも拾っちゃいました。てへっ」
「………………なんて??」
「ユーちゃんと遊んでる時に拾ったガチユニークアイテム作成フラグが進んで、エンドコンテンツの第一段階に進めるようになっちゃった♡」
「……ふっ、ふふ! ふふはははは!!!」
打ち明けた爆弾に、ガタガタと震えながら壊れたようにクローニンが笑い始めた。──おいたわしや苦労人。ガチのユニークとかいう作るのも情報の扱いも、あまりにも面倒すぎる案件に震えるがい……もう震えてたわ。
「因みにその他にも色々やれること増えてますけど、諸先輩方から口止めされてるので秘密です。ただその代わり、クローニンはNPCの歴史が濃密に関わる情報を独り占め……そう、独占できます。」
「ッ!!」
ヤバい目をしているクローニンの耳元で、ASMRマイクで遊びながら鍛えた囁きボイスを発揮。籠絡にかかったが……もしかしなくても、あとひと推しでこれ普通に堕とせるな?
「そしてこれが、クエスト受領時に聞いた旧時代のNPC達がエーテライトをどう利用していたかの話で──」
「──そういえば、なんで僕こんなに詰められてるんです?」
「チッ、正気に戻ったか」
「ナンデ!?」
「面白いから」
クローニンがぐるぐるお目目から正気の目つきに戻ってしまったので、仕方なくお遊びは中断。とりあえずの誠意として、ぶら下げた人参こと店主との会話データを送りつけておく。
うおっ、目ぇキラッキラ。眩しすぎ。
「因みに本題ですが」
「ここまでの僕との会話本題じゃなかったんです!??」
愕然とするクローニンに対し静かに頷く。
だって仕方ないじゃんか。あんなに面白いノリで反応されたら、こちらも遊ばねば無作法というもの。
「例のユニークフラグ兼弦の張り替えの為に出された納品クエストなんですが、幾つか攻略wikiにも名前がない素材がありまして。オフレコで何か知りません?」
「どれどれ……?」
グッとクローニンが覗き込んできた手元のウィンドウ、そこに表示されているのは例のクエストの詳細だ。
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ー依頼内容ー
・指定された素材の納品(詳細を表示▼)
・一定量の経験値取得
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矢印をタップして表示される素材は以下の通り。
・蒼穹の地結晶×10
・焔片のエレメント×10
・極楽鳥の風切り羽根
地結晶に関してはいい。β版でも見たことがあるし、攻略wikiにも情報が十分にある。俺が行ける範囲なら、リラティック・テルで炭鉱夫をすればいずれ手に入るだろう。
よって問題なのは、未だ見たことのないエレメントなるアイテムと、明らかにモンスタードロップの雰囲気を感じる極楽鳥の風切り羽根の2つ。攻略班との伝手もあるクローニンなら、何か知っているんじゃないかと淡い期待があるのだが……
「ふむ、察するにこの『焔片のエレメント』と『風切り羽根』でしょうか。残念ながら、僕も風切り羽根については何も情報は入ってきてないですね」
「ですかー」
「わかるのは、名前の命名法則からして間違いなくモンスタードロップであること。極めて高確率でボスドロップであること。レアドロップアイテムではないことくらいですか」
「嘘でしょ……十分すぎる」
あとは鳥系で、極楽鳥とか言うくらいだから派手な見た目なのだろう。それだけ絞り込めれば割と候補は限られる。正直ソロで挑む羽目になる予感しかしないが、何も手掛かりがないよりは遥かにマシである。
「次の『焔片のエレメント』に関してですが……ふむ、そうですね。割と検証班でもホットな話題ですし、
「──は」
さらりと答えられた言葉に、思わずボイスチェンジャーが外れた状態の声が漏れた。初めて外征兵装の設計図を見てから、ユーちゃんと云々唸っていた謎のアイテム。それが1発で。
「持つべきは、情報通の友人だった……!!」
「まだ検証班本隊の方で調べ尽くしたいので、半分独占している狩場ですからね。ヤブサメが知らないのも無理はありません」
言いながら、エナドリらしき物体を飲み干しテキパキとクローニンが装備を整えていく。草臥れた楽そうな服から戦闘用の装束へ、背中には大きな薬箱を背負い、いつの間に増やしたのか立派な短剣が腰に。
「○片のエレメント──現時点で判明しているその入手方法は、属性付与が為された攻撃でスライム系モンスターを撃破することです」
「ゲッ」
「ゲッとは何ですかゲッとは。
入手確率は一撃で破壊した場合は100%、2撃以上の場合は80%、そこからは1撃で40、20と半減して、10発以上当てた場合のドロップ率は0%となります。言うまでもなくレアドロップで、泥率アップ系の効果は有効。判明しているのは6種類、現在検証班が1つ500Gで買取中……」
つらつらと述べられていくアイテムの詳細。よくもそんなに覚えていられるなあと感心するが、それ以上に嫌な言葉が耳に残っている。
スライム
よく色々なゲームで雑魚敵として出現するそのモンスターは、このゲームにおいても雑魚として出現するモンスターの一種に過ぎない。
だが、だがだ。
乱獲が可能な程スライムが出現するマップなんて場所、俺は一箇所しか知らない。あの地獄のハラスメント警告が出現する場所しか!
「では行きましょうヤブサメ──女性プレイヤーに発見されたが最後、消し飛ばされる最高最悪のマップ。【スライムの桃源郷】へ」