元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
インスタンスマップというものがある。
古くからVRMMOで使われている概念で、複数のプレイヤーが同じタイミングで挑んでもバッティングしないようにする工夫……とでも言えばいいか。
オープンワールドのダンジョンで主に使われているシステムで、パーティ毎だったり個人毎だったりで生成される。インスタントマップや、インスタンスダンジョンなんて呼ばれたりもするアレだ。
今回、俺たちが目的地としている【スライムの桃源郷】も、そういったマップの一種にあたる。
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【秘境】
広大なオープンワールドの中、突如現れる異空間への入り口。その先に続く場所。主に貴重な何かが存在している。
それは洞窟の中や草葉の陰、或いは街中の一角にあるかもしれない。貴方はそこへ進んでもよいし、踵を返してもいい。
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FEVに於いてはそう定義されるインスタンスダンジョンには、当然ながらわざわざ入る為の
例えば難易度に対して経験値効率が近隣よりも良かったり、宝箱のようなアイテムが多く設置されていたり。或いは、
[p.m.23:09(
[中央旗艦都市ケントルム・15番路地・裏]
とっぷりと日が暮れた街の中を、踊るようなステップでクローニンが進む。
何故かその姿はレイド蜂戦の時と違い街ブラ用のお洒落重視な軽装で、摩天楼の影から差し込む月光で煌めく金髪も相まって──最早、完全に街中に潜むタイプの怪異のソレだった。
連れ込まれて行く先が、あからさまに先が見えない裏路地の先なのも実際コワイ。そこはかとないインモラル・アトモスフィアを感じる。
「……これ、何処まで連れて行かれるんです?」
「もうちょっとですね。あ、ヤブサメここは道の真ん中は通らないで下さい。端の大型パイプと壁の隙間を通り抜けないと」
「えぇ……」
つばの大きな帽子を押さえながら、ズンズンとクローニンは先に進んでいく。ただ先程から通って行くのはパイプの間やなぜか空いたままの割れた窓など、あからさまな意図を感じる変なルートばかり。
間違いない。
グリッチだこれ──ッ!?!?
「こーらっ、街の人を起こしたらどうするんですか」
「ハラスメントパンチ!!!!」
思わず叫びかけたこちらに対し、逃げ上手の受け君構図を仕掛けてきた我らがギルマスに渾身のアッパーカット。
多分街中じゃなければ文字通りのワンパンをかました一撃はクリーンヒット、綺麗な放物線を描いてクローニンを吹き飛ばし────その身体がT字に重なる路地に入った瞬間、視界が暗転した。
「!?」
微かに感じる浮遊感は、間違いなくマップの強制移動時に感じるそれのもの。
くそっ、負けた! 何にかは知らないが。
「ぐふっ………よう
ボクらが資源採掘最前線、【スライムの桃源郷】へ……かふっ」
「クローニーーンッ!!!」
ジワジワとマップの表記が切り替わり、開けた滝の奥地のような場所へ辿り着いた瞬間。何故か腕の中でぐったりしていたクローニンに、思わず変な寸劇を繰り出してしまった。
くくく、これが敗者の受ける罰よ……いやまって、今なんかクローニンバグってなかった???
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ユニーククエスト《裏路地の殺人鬼 part1》を
クリアしました。報酬を受け取りますか?
Y/N
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混乱する俺の前に突如、現れた受けた記憶のないユニーククエストの達成画面────
「なん……なに、?」
「あ、それクリア扱いにしないでくださいね。ここに来る最短ルートですし。イイネ?」
「アッハイ」
くたっとしていたクローニンが再起動したので、取り敢えず言われた通りNoを選択する。みんなもなろう、Noを選べる日本人。
しかしこうして話している間に、何も考えない脊髄反射の会話の熱は冷めてしまった。そうなれば必然、周りも見えてくるというもので……
「誰あれ?」「俺たちの姫をお姫様抱っこ?」「脳が破壊されそう」「お前、アレを見てしまったんか!」「ぽーぽっぽっぽっ」「俺たちは因習村の10人だった……?」「怒れる住人の男たち」「因習村(SNS)だ、間違いねぇ!!」「サメだー!サメが出たぞぉぉぉ!!」
ヨシっ、誰も正気を保ってる奴はいないな!!!
「獲ったどぉぉぉ!!」
「「「「「うぉぉおぉぉぉぉ!!!」」」」」
──フロアが熱狂した。
心なしかそこら辺に大量発生している色とりどりのスライム(notカワイイTYPE)もブルブルと震えて嬉しそうに……これ声量と振動で震えてるだけだわ。
「待って! 待ってヤブサメ! 今のボクワンピ! 薄手のワンピースだから! 見える、見えちゃうって!?」
「暴れ馬よ、暴れ馬よ……」
「流行らせこら!」
お姫様抱っこから獲ったどーポーズへ移行後、釣り上げたマグロのように暴れ始めたクローニンをパワーでヤーっ!と押さえつけて格闘する。
「ふぅ……TS美少女はいいものだ、いいものみた」「これは流行る(*´ω`*)」「TSはもっと流行れ」「それはそうとその顔文字は絶対流行らない」「どうやって発音してんのそれ、キモっ」「やせいのキモリか?」「──見えた! 白!」「はいハラスメント警告」
……
「………ところで俺、なんでこんなことしてるんでしょう?」
「流行ら──うわぁ!急に正気に戻らないでくださいよ!?」
もう少し何も考えないでいようかとも思ったが、流石に多勢に無勢。ちょっとだけ正気に戻ることにした。
「きゃっ!?」
右手でピザ生地のように回していたクローニンをいい感じにキャッチ。すっかりTS娘ムーブが染み付いてしまった我らがリーダーをキャッチしつつ、優しく地面へリリース。
ふらふら頭の上にひよこが舞っているクローニンの隣、しっかりと姿勢を整えて50度に腰を曲げて最敬礼。
「はじめまして! ギルド【クローニンと愉快な仲間たち】の愉快な仲間Yです! 主な役職は戦車のサブ主砲とマッピングです、コンゴトモヨロシク」
「よろしくー!」「本当に愉快な仲間で草」「何故笑うんだい、彼女の仲間はとても……」「言い淀むなァーッ!」「これが噂の猿かぁ」「今年は何としダァ?」
「ウッキー! 今年は申年ィ!」
「嘘でしょ、馬鹿しかいない……」
ここに集まってるのは天下の検証班なのに……と絶望顔をしているクローニンを盗撮しながら、一斉に飛んできたフレンド申請を受諾。
「いつも馬鹿でかいマップデータありがとうなー!」
「毎度〜! エレメント取りに来たんですけど、採取制限とかありますかー!」
「マップボスを倒さないのとFF*1だけ気をつけてくれー!」
「りょーかーいでーす!」
比較的話の通じそうな人と適当に話し情報を取得。
まあよっぽどマナーの悪いことをしない限り、即座に追い出されたりすることは無さそうだ。ここに来る前にクローニンが話してくれた条件からすると、俺のビルドじゃドロップ条件を達成できない事は難点だが……
「よし、許可貰ったんで行きますかクローニン」
「ヤブサメが、ヤブサメがまとまな交渉をしている……!?」
「お? お? 我リアル大学生ゾ?????」
未開の地の猿ぅ!でもあるまいし。身内向けだったりふざけていい相手以外に、こう、頑張って取り繕うくらいのことはできる。現実では優等生で通っているのだ、少なくとも成績上は。
「キェーッ!」
荒ぶる太陽礼賛ポーズ!
「
意外! それは冷静な着火!
「比叡山延暦寺!!」
真っ赤な炎のエフェクトに包まれて、近寄ってきたスライムに右ストレート。火力は足りていたらしくスライムは爆散した。この条件ならドロップは焔片のエレメント、の筈だ。
「ヤブサメ、右!」
「日比谷焼き討ち事件ッ!」
次いでこちらへ飛んで来ていたスライムへ、体術スキルを載せた全力キック。素手より火力が出ることは知っていたが、こちらもこちらで問題なし。ちゃんと焔片のエレメントもドロップしているな、ヨシヨシ。
「北側30度、10m、2連続!」
「
「なんで!?」
最後のウェーブだけは素直に射撃で仕留め、同じようにドロップを確認。クローニンに言われずとも見えてたけど……なんか、連携してるみたいでかっこいいしこのままいこう。そうしよう。
「やだ……ボク、このノリに合わせられる自分がやだ……!」
「いやよいやよも……?」
「イヤイヤよ!」
「へい!」
探知でクローニンへ向かっているのは見えていた1匹の攻撃を、ワンピースの裾をはためかせながら華麗にクローニンが回避。それを蹴り上げて汚い花火に変える。
うーん、魅せプ!
楽しいけど!
「ですが……なんと、今回に限り……?」
「ボクだってやってやろうじゃないかよぉ! ええ!」
「ヒューッ!」
第3ROUND、ファイッ!!
クローニンがノリの良い性格で助かった。そろそろこっちはハイテンションが切れる頃合いだし。
「クソみたいな掛け合いしながら嘘みたいな連携してる……こわ」「チュートリアルボス最速突破勢なだけはある」「脳が、脳が震える」「これが祝福……?」「止まるんじゃねえぞ」「犬のように駆け巡るんだよ!」「周回周回愚かな醜態……」
あっちは頭空っぽそうでいいなぁ。などと考えている間に、エレメントの必要数は十分に確保できてしまった。この半ばモンスターハウスの中、充分過ぎる火力があればさもありなん。
「カマホモジャパニーズ、敗戦国を代表するオスの姿、女にも勝てない」「あ?」「あ?」「あ?」「ア アラララァ ア アァ……」「さっきからラッパーいない?」「うーんクソ深夜!」
集め終わったとはいえ、今後要求されることもあるだろう。その頃には検証班の方でも流通が始まってると思うが……今のうちにもう少し稼いでおこう。
「あ、そうだヤブサメ。そこら辺に採掘ポイントあった筈なので、余裕があると回収しとくと得ですよ」
「へいへい」
「あともう少し先に行ったところにマッピング済んでないエリアがあるので、いい感じに埋め尽くして売りつけましょう」
「へいへい」
「お姫様抱っこして下さい」
「へいへ……んん??」
「喰らえ情けない同僚ども! NTRと純愛の神砂嵐!!!!」
片やお姫様抱っこおねだり+優しい笑顔+頬に手を当てる甘々な雰囲気で純愛回路が大回転!
片やこれまで自分達に向けられていたソレらがぽっと出の俺に向かうNTRの波動が逆回転!
そのふたつの性癖の間に生じる圧倒的脳破壊空間は、まさに歯車的砂嵐の小宇宙!
「「「「「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」
p.m.21:48──検証班、全滅確認。
探知範囲の7割くらいのプレイヤーが倒れたことで、この悲しい戦いの決着はついたのだった。ばにたすばにたす。
「……さて! もう50個くらい確保したら帰りましょうか、ボクは明日お休みだし頑張るぞー!」
「俺は明日1限入ってるから寝るぞー!」
「え?」
「え?」
「「えっ……?」」
結果として、このあと1時間くらいしっとりメソメソし始めたクローニンに付き合う羽目になったのだった。