元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
[p.m.22:00(
[中央旗艦都市ケントルム・ギルドハウス]
「第1回──チキチキ!ASMR売り上げバトル〜!!!」
カランコランと鳴り響く鐘の音、諸行無常の響きあり。弾バカの宣誓によって始まったのは仁義なき戦い。俺とクローニンが、互いの尊厳を賭けて挑む一大勝負の幕が切って落とされる。
「ふ、ふふふ、よくもやってくれましたねヤブサメ。今日という今日は、ボクだって怒るんですからね!」
「それはこっちの台詞だクローニン! よくも、よくもあんな真似を……」
撃っていいのは撃たれる覚悟があるやつだけというが、それはそれでこれはこれ。
バレた結果、負けた方が追加ボイスの収録を確約することになった光と闇のEndless battle。膝をつくわけにはいかないのだ。
「グポーポン」
《ポテチうめ〜!と、マスターは仰っております》
「
カスみたいな観衆に煽られるのも確定してるわけだし。
「セツメイシヨウ! チキチキ(ryトハ、メソメソナイテタメメシイクローニント、オモッタヨリヤサシクテイイコエシテタヤブサメノ2メイガ、ソレゾレオタガイノボイスヲカッテニロクオン・ヘンシュウシテハンバイシタケッカ、オタガイニバレテショウハイヲツケルコトニナッタタメ、ハッセイシタクソショウモネェバトルダゼ!」
なお売れ行き自体は勝負になるくらいは好調である(集計:Fluoriteさん)。バカがよ。クローニンのは兎も角、どうして俺(ボイチェン)のも売れてるんですか? おかしいと思いませんか、アナタ?
そんなユーちゃんの優しい説明の中、示し合わせたように俺とクローニーンが片腕を掲げるポーズへと変わっていく。
そう、これは闇のゲーム。ならば必然、始める合図はアレと相場が決まっている。
うわっ、なんか変なの出た。VRAINSが広がってないか……???
「先攻はボクが貰った!」
「なんだと!?」
「カン☆コーン!」
アブっさんがよく知る知らない効果音を出していた。どっから見つけて来たんだそれ……
「ボクは《疲れ切った現代人》をヤブサメの場に特殊召喚!」
「イェーイ……」
困惑している間に、死んだ目をしたユーちゃんが俺の目の前に生えて来た。なぁにこれ。
「その効果によりヤブサメの場に、ボクのデッキから《密閉型ヘッドホン》を配置!」
「クッ、ヤベェゾヤブサメ。ヤツノエースガクル!」
「そうなの!?」
振り返ると手に汗を握る表示でユーちゃんがこちらを見ていた。えっ、じゃあ俺の目の前にいる疲れ切ったユーちゃん is なに!?
「そしてボクは魔法カード《融合》を発動!
素材にするのは『あまあまお姉さんボイス』+『慰めシチュエーション』+『素人っぽい声のお陰で感じる親近感』!!
融合召喚!『ASMRハードオンドラゴン』!!
死ねぇヤブサメ! 2.4万ダウンロードによるダメージで!」
「イワァァァァクッ!?」
LP4000→1600
なんとなくノリで後ろへ向けて吹き飛ばされておく。ピロロロロ、ピンと聞こえないはずの
「グポーポン?」
《ハードオンってどういう意味?とマスターは仰っています》
「何も知らない方が幸せですよ、アブ」
「ポン?」
《中古ショップ……?とマスターは疑問に思っています。そのままの純粋さを守ってくださいね》
危なかった、なんてコンボだ。男子は幾つになっても唐突な下ネタに弱いのだ。長男じゃなかったら耐えられなかった。別に長男じゃないけど。
「くっ、耐えましたか。ボクはこれでターンエンド!」
「ならば俺のターン! キングのデュエルは、常にエンターテイメントとかなんとか! 喰らえ禁じ手《バトルVIPパス》!」
「ポケカじゃないですか!!!」
化け物には化け物をぶつけるんだよ!
「効果によりデッキから《距離感
「サア、コッチモエースノショウカンダゼ!」
ユーちゃんの立場どこぉ! どこなのぉ!?
「くっくっくっ、疲れ切った現代人を残したのは失策だったなクローニン!」
「なんだとぉ……」
「俺は《TS娘》《よわりめ》《疲れ切った現代人》の3体でオーバーレイ!
現れよ現代人の怠惰の象徴!《ASMR親友TSドラゴン》!
俺の勝ちだ、4.3万ダウンロードのダメージを喰らえぇ!」
趣味が合って、適当なファミレスとかでくだらない話で盛り上がれて、気楽に遊べるそんな親友。性別が違うならもうパーフェクトお得ってどっかの有名人が言ってた。本質で真理だと思う。
えっ、クローニンをそういう目で?
いやー、キツイでしょ。
「それはどうかな?」
「!?」
「ボクは己自身のナマモノ同人誌すら買った男、その程度でダメージなんか受けない!」
クローニン LP4000→100
「チメイショウジャネーカ!」
「きついものはきつい!」
「ならばここで仕留める! 俺は手札から《
そう、俺が勝手に販売したクローニンのASMRは単品火力も高いがそれだけじゃない。うちのグループの謎コンテンツとしての歴史とシナジーがある!
「えー、ここでレビューから引用しますね。
『☆5 えー、非常に質です。これ単品でも十分イイんですが、ふふ……下品、なんですが……以前VR系の大御所同人作家の出してた本とシチュが一致してましてね。慰め「わー!!」のシーンと声を合わせて「ぎゃー!!」使って「アウトー!」すると、めちゃめちゃに気持ちええんじゃ』とのことです。
ランクアップ、セクシーズチェンジ!」
「最低なんだ
弾バカが叫ぶ。知るか、勝てばよかろうなのだ!
「現れろ、《ASMR親友TSドラゴン─R18フェイズ─》!」
──性癖が、クローニンに急接近する。
凄まじい濃度。
クローニンは咄嗟に反応できない。
「ボクはリストバンドから《意志の力》*1を唱える! 打ち消し!」
なんだと!?
「フラッシュタイミング、マジック《バタフライジャマー》*2!」
「させない! アーツ《カウンター・アクセント》*3」
「《悪意の波》*4!」
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
とんでもない打ち消しの空中戦を制したのは──誰?俺!などとふざけている間に、今度はクローニンが吹き飛んでいった。
勝った! 第3部、完!
廻星歴308年 ○月X日 夜
クローニン 死亡
仁義なきテロップも流れた、やったか!?
「ポーポン」
《アレだけエクストリームカードバトルしてたのに、デュエマのカードなかったね……とマスターは落ち込んでいます》
「
「ナニイッテルノカゼンゼンワカラネェ!」
しょんぼりしているアブっさんの隣で、どこか黄昏たような顔でFluoriteさんが笑い、ユーちゃんはフリーズしていた。ふっ、これは勝ったな。間違いない。
「デモヨォ、オレニモワカルコトガ1ツアルゼ」
「グポーポン?」
「ヤブサメノASMRツクッタクローニンガマケテ、クローニンノASMRツクッタヤブサメガカッタ。ツマリコレ、ジッシツヤブサメノマケジャネ?」
………反論、なし!
「勝者! ユーちゃん!」
「ブッピガァン!! ブッピガァン!!」
倒れ伏した俺とクローニンを踏みながら、アブっさんに抱っこされたユーちゃんが強そうなポーズを決める。背後で弾バカが花火っぽい弾幕を作ってるのもあって、完全に勝利演出が完成していた。
「ふっ、ユーの勝ちデース」
廻星歴308年 ○月X日 夜
ヤブサメボーゲン2035 死亡
「
「エッ、ジャアオレアレダワ。“アマアマシロウトオネエサン”ト“ゲンキTSムスメ”ノ、ダブルASMRトカキボウシテェ」
「「──がふっ」」
「ああ、クローニンとヤブサメが死んだ! この人でなし!」
「ケッケッケッ、キカネェナァ。ダッテオレ、AIダゼェ?」
おっと。
弾バカの流れからして大丈夫だとは思うけど、これは笑って流して良い部分かシンキングタイム。
「グポーポン」
《これがほんとの? とマスターは──》
「“ヒトデナシ”ッテナ!」
心配して割って入ってらしきアブっさんの言葉に、ギャハハと楽しそうに笑いながらユーちゃんがハイタッチ。言葉にも態度にも、不穏な雰囲気や影はない。シンキングタイム終了。
緊張状態も解けて良かったよかった、いやよくない(追加収録内容)
「グポン、ポーポン」
《ところで、ちょっと相談したいことあるんだけどいい? とマスターは仰っています》
そうやってなんのために集まったのかも忘れた頃、思い出したようにアブっさんが手を挙げた。声も上げた。どっちが正解──いやいいか、肯定のサインとしてサムズアップを掲げておく。
しかしアブっさんがそういう話題を持ってくるとは珍しい。
大抵こういう流れは動画のネタが尽きたクローニンか、ゲームに誘う弾バカか、お食事か、ユーちゃんのお願い辺りだというのに。……俺も探索の誘い出してるからアブっさんだけだったわ、好き放題やってないの。
「ぐーぽん、ぽぼん。ブッピガァン!」
《3日後に徘徊ボスの3PT合同討伐に行ってくるんだけど、まだヒーラーか遠距離攻撃役が余ってるんだ。折角だし行く? とマスターは仰っています》
「ほむ。その条件なら、ボクかタマかヤブサメかの3択ですね」
360°アブっさん=ヘッドを回転させながらの言葉に、むくりと起き上がったクローニンが答える。
ユーちゃんは基本的に近接かアイテムでのサポート。Fluoriteさんは遠距離もやれるが基本はゴリゴリの近接系だ。そもそも外部への出張は俺たち向きである。
「魅力的なお誘いですが、3PT合同では満足な弾幕が撃てないのは明白。目標が弾幕ロボット系でもない限り私は──」
「ぴしゅーん……」
《ごめん、普通に生物系。ダチョウみたいなやつ》
「ふぅん、奇跡のアホに用はありません。ヤブサメかクローニンに譲りましょう」
が、そうそうに弾バカの興味は失せてしまったらしい。聞く限り肉弾戦メインだろうボスだしさもありなん。今度いい感じに手数系の相手を見つけたら教えよう。
「となると、ボクとヤブサメどちらが多く報酬を貰えるかがキモですね。折角の出張なんです、情報漏洩に見合ったリターンは欲しいところ」
「ふぉー、
「しっけいな! ボクだって結構考えてるんですからね!」
クローニンが手綱を握ってくれるから好き放題アバレアバレ出来る部分、あると思います。
「ポン、ポポーポン」
《報酬に関しては、検証班方式だって。ダメージ、回復、索敵、補助とか、一番やりやすい基準だから。とマスターは仰っています》
ほーん。
えっ? あっ(察し)
「ヤブサメ、Go!」
「イエスマム!」
「ボクは男だ!」
「デモオンナノコトシテアツカエバ……?」
「ボクは女の子だった???」
そんな条件を出された以上、火力がそこそこ出せて、補助能力が特盛の、回復もやれないことはなく、索敵(探索)が本職の俺が出ないという択があるはずもなく。
「文字通りのターキーシュートです、掻っ払ってきちゃって下さい!」
「良識の範囲内でね……」
そういうことになった。