元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする)   作:銀鈴

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45話 オールマイティ・アホ

 

[p.m.21:03(R(リアル))/p.m.15:01(G(ゲーム))]

[南部前線都市アウステル・南部森林域]

 

「ぐぽーぽん!」

《みんな、こんばんはー!とマスターは仰っています》

 

 陽射しが世界を柔らかく照らし出す中、アウステルから南方へ進んだ森林の中で元気な挨拶が響く。

 その声の主は言わずもがな、キャタピラ駆動に4つ腕を持ち大盾を2枚構えたうちのメイン盾。アブっさんに他ならない。

 

「ピポポポ……」

「ピロリロリーン!」

 

 そしておお! 見よ! アブっさんの挨拶に気さくな返事を返した彼らの姿を!

 重厚な履帯! 強靭な装甲! 分厚い2枚のシールド!

 ある者が構えた大盾には電磁パルスが走り、またある者が構えた大盾には夥しいスパイクが乱立! そして何より特徴的な部分が、全員が4つ腕のカイリキースタイルであること。

 

 派生の仕方こそ違えど、集合知によって完成された理想の構築(ビルド)としての美しさが──確かにそこには存在していた。

 

「ブッピガァン!」

「ゼットォン…」

「パンパカパーン!」

 

 何を言っているのかは分からないが、アブっさんを含めた彼ら3人こそ、今回の3PT合同の簡易レイドに於ける壁役(タンク)部隊に他ならない。

 何を言っているのかはまるで分からないが!!!

 

「ん? お前も来てたのか」

 

 超信地旋回をしながら不思議なダンスを始めた3人を眺めていると、背後から知らない声が飛んできた。この場に知り合いなんていただろうか? そんな疑問を浮かべながら振り返れば──

 

「……………?」

「逆さ吊り状態で仮面付けてても、困惑は伝わるんだぞテメェ」

 

 そこにいたのは、伽藍堂の鎧が黒い煙に繋がれて浮遊している謎の人物。恐らく種族はリビングメイルとかだろうけど、俺の知り合いにそんな人はい、た………あっ。

 

「ワンダーAMさん?」

「確かにしばらく会ってすらなかったけどよ、フレンドの顔くらい覚えとけよな。というかなんて猿みたいにぶら下がって……いや猿だったなお前」

 

 そういえばそうだった、フレンドだったこの人。

 というかそれ以前に、あの話が長すぎる店主のお店を教えてくれた恩人である。鎖でペチペチされるのもやむなし、甘んじて受け入れるとしよう。

 

「……一発芸、吊るされた男(ザ・ハングドマン)

 

 くっ、持病のおふざけが!

 

「贅沢な名前だね、お前の名前は今日からサンドバッグだよ!」

「ははは、よよよよささささぬぬぬか逆マックス。チタタタブブブになってしままままま」

 

 叩きつけられる鎖の本数が4本に増えた。とはいえワンダーAMさんにもトンチキ耐性が備わっているらしい、今のところ軽いじゃれあいで済んでいる。

 ──まあ、ここらがふざけていられる限界ラインだろうけど。

 

「ふざけた野郎とはいえ、来てくれたことは助かる。割と戦力的には想定ギリギリラインだったんだ。マジで手練れが1人増えるのはありがたい」

「そんなクラスの相手なんです?」

「うちの最大レベルの識別系スキル持ちが、スキルを弾かれるレベル。推定90オーバーになる」

「へー」

 

 所謂ステータスを看破する鑑定系スキルの仕様として、自身の倍以上のレベルを持つ相手には100%失敗するというものがある。それを利用してデータをとる、検証班でもよくやる手法だ。

 

「具体的な数値と作戦はもう?」

「出てる、ついでにリーダーは俺だ。軽くでいいから目を通しておいてくれ」

 

 そうして転送されたデータは、安心と信頼の検証班形式のまとめ方をされていた。推定レベル、HP、確認済みの攻撃方法、火力推定、所謂発狂モードの有無と行動予測。最後に、死ぬ気で抜いたと思われる名前。

 

「【The Lightning Regene Ostrich】……」

 

 雷速で再生するダチョウ、とでも訳せばいいのだろうか? どこか記憶に引っ掛かる部分がなきにしもあらず、とはいえ完全英名なのを見るにF.O.Eなのは間違いなしか。徘徊ボス=超強敵で確定である。

 

 戦術面ではメインタンク2、サブタンク1(アブっさん割り当て)

 ヒーラー4に、バフ/デバッファーが3!? 随分と定石より多いな。

 純後衛(俺の割り当て)と前衛でアタッカーが3/2で、残り3人が乱入警戒と障害排除要因という名のピンチヒッターと。

 

 感想としては重戦車でも相手にするのか?と思うほどの防御重視、あとは──

 

「この編成なら、俺は中衛で領域魔法のバフ“も”ばら撒いた方が良さそうですね」

「そうだな、バフは多ければ多いほどいい。どれくらいいける?」

「自己補完の範囲内だと、自分含む10人に被ダメ-10%と与ダメ+10%まで」

「それ以外だと?」

 

 伝えるのは少し迷うが、まあバレたところでなんとやらだ。せっかく挑むなら倒したいし、クローニンの許可もある以上そこそこぶちまけよう。

 

「HP・MP・SPのリジェネ、属性攻撃ダメに対する攻防。その他まだ細かいバフは色々と。全部起動するには7大兵装クラスの供給が必要ですね」

「3種リジェネだけならどうだ?」

「大体165秒毎100MP」

「キツイな……2種と1種の場合は?」

「250秒と500秒毎に100MP」

「分かった、MPとSPのリジェネだけ追加で頼む。対象はアタッカー優先で」

「了解」

 

 さすがは攻略班のトップ2だか3だか4だかの相手だ、話が早くて助かる。などと感心している間に、ワンダーAMさんは各方面へ連絡を飛ばしていた。手も早いのか、助かりすぎる。

 

「一応ソロ主体だろうから聞いておくが、中衛の立ち回りは分かってるか?」

「後衛の射線と視線を遮らないように前衛のカバー、抜けられた際の保険……はサブタンクいるから大丈夫ですかね。代わりに今回はバフの範囲内に対象を収める位置にいること、あと本来の役割としての大火力」

 

 万が一のカバー役はアブっさんで十分すぎるし、位置取りは常時発動の索敵領域を意識すれば問題なし。MP消費はキツめだが、攻撃に使うのはSPのみ。どちらも供給がある前提な以上、気を使い過ぎる必要もない。

 実際に注意するのは位置取りくらいでいい。

 

「あってるけどなんで知ってるんだよお前……」

「残念だったな、元とはいえ検証班とはこういう生き物だぁ!」

「くそぉ、そうだったのか。粗を探してもみつからねぇ……!!」

 

 悔しかろう悔しかろう、などと流石に煽りはしない。自制は大切、親しき中にも礼儀あり。

 

「粗々うふふ」

「オラァ!」

 

 拳が飛んできた。痛い。

 

「ともかく、まあ上手く使って下さいねー」

「上等だ使い倒してやるわ!!」

 

 

 と、そんな再会を果たしてから十数分後。

 

 

「よし、全員揃ったみたいだな。

 ではこれより、レイド前の簡易ミーティングを開始する!」

 

 集合場所の森林地帯の一角、あからさまに切り開かれたスペースでそれは始まった。

 音頭を取るワンダーAMさんの背後に配置されているのはホワイトボード。やたらポップな字体で埋め尽くされている。

 

「基本は配布した資料の通りになるが、ボスのメインギミックだけはトチれない。その為の最終確認だと思ってくれ」

 

 ピシリと指差された先に記されていたのは、レベル以外は不明な数値が記されたボスデータの数々。ただその中で、メインギミックと思われる部分に関してはいくらか明かされているものがあった。

 

 ・Min値:0以上10未満

 ・竜の炉心(Xクラス、或いは上位スキル)

 ・被回復量増加(上同)

 ・回復上限上昇(〃)

 ・状態異常時間短縮(〃)

 ・魔法ダメージ上限固定(10,000)

 ・被ダメージ時回復(固定値1,000)

 

「見ての通り、尋常じゃない回復量でリジェネをしつつ圧倒的な本体性能で戦うタイプの敵になる。馬鹿げたHP持ちである以上、本来ならDoT戦術を取りたいところだがスキルがそれを許さない。アタッカーを絞っているのもそれが理由になる」

 

 回復盾構築は廃れたと思ってたんだけどなぁ。

 そんな感想を抱いたβテスターが他にもいたのだろう、集まった18人の中から俺と同じような呻き声が聞こえてきた。

 

「グポーポン?」

《どういうこと? とマスターは仰っています》

 

 見るからに厄介極まるスペックにドン引きしていると、微妙に理解していないのか俺を肩車するアブっさんが聞いてきた。確かに被ダメを減らす純タンク構築とは違う古い理論だ、アブっさんの理解が薄いのも仕方あるまい。

 

「つまり、物理的なダメージは素の防御力と膨大なHPで受けきる。魔法攻撃に関してはHPで受け切れる範囲に最大ダメージを固定することで防御力を確保。減ったHPとかはガン詰みしたリジェネで爆速回復、DoT系の状態異常を受けようものなら毎秒1000回復が始まる。メインウェポンはVitかHP参照パンチ……見た目以上の耐久オバケって感じ」

 

「ピガァン?」

《もうどくポイヒ光の壁下ハピナス999kgヘビーボンバー? とマスターは仰っています》

 

「FEVのシステム的に、そこにB120か130くらいも追加で」

 

「ポポーン」

《無理じゃん》

 

「無理だよ」

 

 おまけで言えば、そこまで到達するのに必要なスキルと経験値が高過ぎてプレイヤーは実現不可とされたスタイルである。いや待て、でも確か検証班のデータだと90レベルくらいならやれるって話だったような……割と合理的なボスか? ダチョウなのに。

 

「でもそういうのを倒してこそのネトゲでしょ」

「ブッピガァン!」

《だよね! 興奮してきた、とマスターは戦意を昂らせています》

 

 ちょっと自分の出せる最大火力と照らし合わせると不安になってきたが、防御貫通(アーツ)を絡めれば最低値は越えられる……筈! 多分! きっと! メイビー!

 

「作戦は第1段階として、既に設置してある罠へ誘導しての捕獲。

 第2段階ではタンク3人の挑発で戦闘状態へ、バフとデバフはこのタイミングで入れる。

 第3段階で罠を封鎖、拘束系のスキルでボスの移動を封印してから開戦する予定だ。ここまでで何か質問は?」

 

「バフ・デバフのタイミング管理は?」

 

 スッと手を挙げて質問したのは、一目でエルフだと分かる金髪男性のプレイヤー。確か支援部隊の暫定リーダーだったか、さっき挨拶された気がする。

 

「そっちに一任する。ただボスに対するStr減少と、タンクに対する被ダメ減少・Vit上昇だけは切らさないようにしてくれ。物理特化タンクでもメインの(アーツ)の蹴りを素受けすると10割、バフ込みでも5割HPが飛ぶ」

「了解した。その他支援よりそこを優先しよう」

 

「ならヒーラー部隊からも。タンクのHP維持は6割と聞いていたけど、その火力ならクリティカルを考えて7割越えの方がいいんじゃないかしら?」

 

 次に質問が飛んだのは回復役(ヒーラー)部隊から。こちらは全員が全員、人間・女性で構成されている。4人いるから《修道女の祈り》が途切れることはない恐ろしい構成だ。

 

「出来るなら越したことはないが、恐らくMP消費の関係上6割が限界というのが攻略班・検証班の見解だ。無理してガス欠の方が怖い」

「了解よ」

 

 その後も着々と質疑応答が続いて行き、遂に所定の時刻へ到達。

 

[p.m.21:30(R(リアル))/p.m.16:30(G(ゲーム))]

[南部森林域・渓流地区13-5-D]

 

「レイド戦、開始──!!」

 

 夕陽が世界をオレンジに照らし出す中、遂にレイド戦が始まった。




感想とか評価、お気に入り等いつもありがとうございます!

【レイド戦】
 ギルド(プレイヤーが組んでいるものにあらず)からの依頼なので成立している。報酬もそっちから支払われるモンスターをハントするゲーム方式。

【レイドボス(ダチョウ)】
 The Lightning Regene Ostrichの頭が悪すぎる。
 このレイドボスはThe Lightning Regene Ostrichといい、雷速で移動するダチョウです。
 体長は4.5m、体重は500kgオーバー、そしてその巨体で雷のような速度で走ることができます。
 しかもダチョウは自身に蓄積された電気エネルギーを使い、極太の雷を落とすジンオウガのような真似をすることも出来ます。この際、自身も感電してダメージとスタンを受けますが、驚異的な再生力でそのデメリットを踏み倒すあたり強力さを窺い知れるでしょう。

〜(中略)〜

 拙者にときめいてもらうでござる。

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