元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
木々の間を駆け抜ける。
細太大小様々な枝を、腕を使い、脚で踏み込み、時には尾っぽの鉤すら活用して縦横無尽に。緑の匂いをかき分けて、川の流れに耳を澄ませ、風を切って突き進む。
速度は依然最高潮、乗馬で走り出した馬より早く車より遅い程度。ああだからこそ、追い縋る連中を振り切れない。
「ファッキン大自然!」
〈識別に失敗しました〉
〈スキルアップ!《識別Ⅳ》→《識別Ⅴ》〉
強行偵察の開始から僅か2時間後。笑顔で手招きしていた不条理にぶち当たり、思わず俺はそう叫ぶ。その原因は背後から無限に追跡してくる黄色と黒の警戒色を見せつける大集団……即ち、蜂の群れだった。
[北4m 名称不明 危険度:極大 戦闘中]
[北西5m 名称不明 危険度:極大 戦闘中]
[北北東8m 名称不明 危険度:極大 戦闘中]
・
・
・
魔法が表示する色は赤や赤黒を通り越して黒。
即ち、戦闘がそもそも成立し得ないほどレベルが隔絶していることを示していた。
「ブブブブブブ」
「ブブブブッコロス」
「×××××××」
「何か今とんでもない発言とスラングが聞こえた気がするんですけどぉ!」
叫ぶ。こだまでしょうか、いいえ誰も。
魔法は何も教えてくれない……
「くっそ、琥珀色の森に惹かれたのが運の尽きィ!」
ことの発端は大体1時間ほど前。
南進を続ける中、森の奥深くに見つけてしまった琥珀色の森。そこから漂う甘い香りに誘われ心躍るままに吶喊。粘つくはちみつに包まれた甘ったるい甘味の森へと突入した。
手当たり次第にアイテムを回収しながら《隠密》で辿り着いたその中心──そこには、蜂蜜に包まれたワッフルっぽい巨大な巣があった。
そんなものを見てしまった我々
「『ハチミツください』って言ったのが……いや、やっぱりぶち壊したから、だ、よなぁ!」
巣に矢を1発ぶち込んで、ワッフルの外壁と蜂蜜をいい感じに強奪した。
巣はハチミツを放出!
森林全域ハチミツ塗れ!
大パニック!
巣機能が麻痺!
未曾有の事態!
結果、ブチ切れた巣の主が追手を差し向けて来て今に至る。
脆そうな翅に最大火力叩き込んでもHPバーが変動しなかった時点で、今回の遠征における生存は諦めた。そもそも逃げ続けていられるのも、枝が入り組んだ森という環境のお陰だし。
「だ と し て も、1匹くらいは!」
マシンガンのように発射される毒弾の嵐を、尾を枝に引っ掛け急速旋回することで回避。遠心力に振り回される気持ち悪い感覚の中、身体の動きはピタリと止めて弓を引く。
「領域変更、《
戦闘機で言うオーバーシュートよろしく追い抜いて行く、名称不明の蜂の集団。そのうち、ここまで射撃を続けてきた1体に狙いを定める。
その際に展開していた領域魔法を円形の索敵から、対空攻撃にボーナスが入る星形の撃墜へ。僅かでもダメージを伸ばしにいく。
「《狙撃》《アーマーピアス》」
《狙撃》のレティクルは、急所である胸部と腹部の間に照準合わせ。呼吸を止め、心は沈め、静かに矢を離し、先ずは緩手の一撃。
「ギッ!?」
「《パワーショット》」
間髪入れず、鋭く二撃目を放ち未来を撃つ。
《??????? Lv??》
放った防御貫通と強撃の矢は、殆ど同じタイミングで、殆ど誤差のない場所に着弾。1本の最大火力では減らせなかったHPを、そこそこの値減少させた。
「Fooooo!!」
何発目か忘れた人力ロビンフッド*1。VR空間だからこそ出来る秘技だが、何回やっても気持ち良すぎる。
「《隠密》緊急離脱──!」
などと笑っていられないのもまた現実。
現にほら、一瞬ターゲッティングが切れた瞬間を狙って《隠密》した筈なのに、もう再ターゲットされている。
〈レベルアップ! Lv17→18〉
〈スキル獲得! 《軽業Ⅰ》〉
〈スキルアップ! 《隠密Ⅲ》→《隠密Ⅳ》〉
〈ステータスポイントを割り振ってください〉
何か色々と表示されたが全部無視。
最後の初心者用SP回復薬を使いきり、再び全力での逃走を再開する。着地した地面から大樹の幹へ、幹から枝へ、葉の生い茂った飛びにくい空間に逃げ込み、煙幕玉を投擲して白煙を拡散。枝から枝へ飛び移るように走り出した。
「領域変更、《
即座に領域を星形から円形に戻し、心許無くなってきたMPを最後の初心者用MP回復薬で補充。半分を割った矢をメニュー画面を操作して矢筒へ補充しつつ、毒弾への回避行動をとって──
「やることが……やることが多い‼︎」
頭を全開で働かせながら、身体をミスせずに動かし、手先の動きも忘れてはいけない。自由度が跳ね上がった代わりに、古いゲームではボタン1つで出来ていたことまで全てが手動。
悲しいかな、これがフルダイブ型VRMMOにおける単独行動の現実であった。パーティを組みたい、切実に。
「あっ」
ずる、と足が滑った感覚がした時にはもう遅かった。着地してしまった苔むした枝、そこから真っ逆さまに落ちていく。欲を出し過ぎた罰とでも言わんばかりに蜂共も迫ってきて。
「逃さん。貴様の命も、一緒に連れて行く!」
どうせ終わりならと、これまで削り続けてきた先頭を引き寄せ羽交締めにする。そのまま尻尾で体勢を整え頭を真下に、減り続けるHPにヒヤヒヤしながら墜落し──
「大正義地面様!」
即席の飯綱落としと言うべきか、或いはドラゴンスープレックスか。十数メートルの高さから叩きつけた。
〈レベルアップ! Lv18→24〉
〈スキルアップ! 《体術Ⅰ》→《体術Ⅲ》〉
〈ステータスポイントを割り振ってください〉
〈死亡しました〉
〈最後に使用したログイン地点で復活します〉
・
・
・
確かな手応えの後、一瞬の暗転。
そんな表示を見てから数秒後。気がつけば俺は、最初にログインした地点……つまりは街の中央にある噴水前に戻ってきていた。
「いやぁ、死んだ死んだ」
張り詰めていた感覚を解くように、大きく伸びをしてコリをほぐす。
初期装備で初めての遠征にしては、まあ悪くない結果だったんじゃなかろうか。最後の蜂はレベルアップの表示的に撃破できたみたいだし。
そして何より、琥珀色の森なんて面白い場所を見つけることが出来た。長居は出来なかったがそこはマッピング済み、レベルを上げてまた今度挑むことに──と。
・1025G ・通常矢×2
・未鑑定の原石×2 ・ヌメリゴケ×1
・未鑑定の野草×2 ・琥珀蜂の鋭顎×1
・未鑑定の毒草×1 ・強靭な木の枝×1
・内部:01:30:00
・外部:00:30:00
マップを確認するためにメニュー画面を開いた瞬間、そんな表示が画面に踊った。
適当に道中で拾った石と草と枝についてはいいとして、最後に倒した蜂の素材らしき顎がドロップしたのはちょっと辛い。アイテムの枠が108あるから、確定枠のGを除いて確かドロップは10個の筈。7種類も落としたのは幸先が悪い。
が、ザッとアイテム欄を流し見した限り、目当てのアイテムは落としていないからヨシとしておこう。
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【琥珀蜂の蜂蜜】
琥珀色に透き通った蜂蜜。舐めると甘い。
刃や鏃に塗布した場合30秒間、状態異常〈魅了Ⅰ〉を付与する状態になる。(状態異常の継続時間は相手による)
耐久値:300/300
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【ワッフルネスト】
琥珀蜂の巣として使われていた建材の一部。
サクサク、ふわふわ、そのまま食べても美味しい珍味。蜂蜜や粉砂糖を添えてどうぞ。
効果:使用後30秒間HP・MPを回復(1%/1s)
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【琥珀蜂の毒液】
その名の通り毒液。
ただし、きちんと加熱調理すればカラメルのように変化する。
刃や鏃に塗布した場合30秒間、状態異常〈毒Ⅰ〉を付与する状態になる(状態異常の継続時間は相手による)
耐久値:300/300
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毒液以外は結構な量があるしFluoriteさんとかにあげるか。フレーバーテキスト的に美味しいらしいが、市場じゃなくて身内に放出でいいだろう。取ってこいとか言われたくないし。
「あれ、フレンド?」
一通りの確認を終えて、メニューを初期画面に戻したとき。フレンドの欄には小さく2という数字が点灯していた。
フレンド申請が来ています
・†絶対の楯戦車† Lv17 Y/N
・)3^<<l+I!βд7! Lv19 Y/N
上の名前は
「こわ……拒否しよ。そもそもなんて読むんだこれ」
「ハーッハッハッ! 『バッチバチ』と読むんですよ、ヤブサメぇ!」
思わず呟いた言葉に、自信満々といった様子で答える中性的な声。こちらの名前を知るそんな声の持ち主なんて1人しかいない。
「その声は──弾バカ!」
「ええそうです弾バカです。バッチバチと名乗ったじゃないですかこの野郎!」
いつもと変わらない調子に振り返れば、そこに居たのは普段からかけ離れた友人の姿。テニスボールサイズの光る弾を中心に、衛星のように重なり回り続ける3つの光帯。
頭上にプレイヤーネームを表示させて、そんな人型を完全に放棄したアバターがそこにいた。無造作に浮いているハーモニカが更にその異様さをプラスしている。
「ちょ、ちょっと。何を泣いてるんですかヤブサメ!?」
「だってよ……‼︎ 弾バカ……‼︎ 頭が‼︎」
「ッ!! 安いもんだ、頭の1つくらい……弾幕サイコー」
我ながら、背景にドンッ!!と迫真の効果音が出そうな名演技だ。そして突然のこのノリに着いてこれる辺り、間違いなく知り合いの弾バカだ。
「──いやちょっと待て“頭"ってそっちの意味かコラ」
「遂にアルファベットすらそうなるくらい、頭が弾幕に侵食されたのかと」
「Leet表記の適当な組み合わせですぅぅぅ!!」
「うるせぇ!」
腹パンをしたかったが、何処が腹だか分からなかったので取り敢えず弓パンチ。静かになってくれた。
「で、弾バカはどうしてここに?」
「バッチバチです。北のボスと弾幕ごっこしてたら削り切れず死にました。ヤブサメは?」
「南に全力で突っ走ったら蜂の集団に襲われて死んだ。蜂蜜あるけど食べます?」
「:ハチミツください」
揃って大バカだった。
だが打てば響くようなこのテンポ、嫌いじゃない。そんなことを思いながら、適当なベンチに腰を下ろす。揃ってデスペナ中、少し話すのも悪くな──えぇ、そんなクリオネみたいな食べ方するの?
「それで、北のボスって何か変わってました?」
「所感ではなにも。ただ発狂モード*2以降は死んだのでわかりません」
「そっかー」
「他に何か、もっと反応ないんですか!?」
「ないです」
なにせ北のボスはβ時代に飽きるほど連戦している。所感で変わったところがないというのなら、本当に聞くことが何もない。面倒くさいんだよなぁ、あのロボット。
《PiPiPiPi……システム、通常モードで起動》
「グポーン」
などと話していたせいだろうか。
初期リスポーンのポイントである噴水、そこに今度は2m近い異形の存在が転送されてきた。全身を包むのは分厚いクリーム色の装甲。頭部には ∴ と並ぶ点だけがあり、足元は戦車のような履帯。6本ある腕のうち4本は左右それぞれで巨大な盾を持ち背負い、残る左右1つずつの腕はフリーとなっている。
表示されているPNは†絶対の楯戦車†、悲しいことに知り合いだった。
「ぐぽーん」
《久し振り、とマスターは仰っています》
気さくに上がった片手とは反して、支援AIらしき合成音声がそう話しかけてきた。キュラキュラと響く履帯の音が心地よ……心地よくもないか。
「因みにその名前、なんで読むのが正解なんです?」
「ぐぽぽーん」
《アブソリュート・シールド・ガチタン、とマスターは仰っています》
斯くして一堂に会した
・自然大好き半裸アクロバット弓マン
・デュエリストを隠してないガチタン
・弾(たま)
…………面子が、濃い!!
何処かで、我らがブレーンが胃を痛める音を聞いた気がした。
【技《アーツ》】
・アーマーピアス(消費SP7)
Ⅱ解放技。射程:通常 威力:若干低
ダメージ10%貫通の射撃。
ゴリラでもシステムには頼る。
・ダブルショット(消費SP6)
Ⅱ解放技。射程:若干短 威力:若干低
2本の矢を1〜2体に放つ射撃。
ヤブサメ君はゴリラなので3本まではいける(アーツの方が火力も射程も高い)
【領域魔法】
《星形──迎撃》(起動1・継続消費1/5s)
PCを中心に半径50m星内の味方に、飛んでいる相手に対する少量のダメージボーナスを付与する(最大付与人数10)実は地面から両足が数秒離れていると「飛んでいる」判定になる。
【アイテム】
一部の鉱石や草などは取得しても
[謎の草][謎の石]などと表示される。
《識別》スキルを取得している場合
[未鑑定の野草/薬草/毒草]
[未鑑定の原石/鉱石]などに変化
《鑑定》スキルを取得している場合
[固有名称]まで判明する。
逆説的にこの表示が出るアイテムは、そこそこの割合でいい物である。