元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
「や」
「うっわ」
どっかりとソファーに座り込んだ俺を覗き込むように、上下逆さにクローニンが顔を出した。
「むー、なんですか人の顔を見るなり失礼な」
「いや、どう考えてもこのタイミングで出てくる奴にいい感情は持たないでしょ」
あー!お客様!困ります!お客様!あー!
長い金髪が後光かカーテンみたいに!
なんかいい匂いも!
「お前の苦労をずっと見ていたぞ。
本当によくがんばったな?」
「ウワーッ!
「へぶっ」
顔面ど真ん中を2回
「それで、実際どうだったんですか。レイドボスは?」
「強かったですよ、破茶滅茶に。正直メンバーが少ない分、イベントのレイド蜂より辛かったかもしれません」
ダチョウ、という言葉のイメージと違いアレは理論値の怪物だった。
β時代の検証班が作り上げた机上の空論。回復盾として成立した完成系。それが【The Lightning Regene Ostrich】というボスの正体だった。
「完璧な作戦だったんですよ。予定通りの誘導をして、予定通りに罠に嵌めて、開戦にも不手際はなかった。準備は万全で戦力も十分、それでも────まる3時間かかってこの様ですよ」
いやーーーめっちゃ疲れた!
ほんっっっとうに疲れた!!
あり得ないほど疲れた!!!
火力こそ足りてるけどデバフは爆速で回復されるし、あっちのリジェネ量は異常だし、火力はレベル差もあってか即死級なせいでオワタ式だし、あいつアホなせいでパターン行動しないし!!!!
あとワンダーAMさんがレイド後1キロ痩せたらしい。ウケる。
……などという激闘も昨日の話である。
「いいじゃないですか、その分ヤブサメだって目的のアイテムが揃ったんでしょう?」
「2度とごめんですね」
おっえー、と仮面越しに全力で馬鹿にした顔をする。
うっかり空港送りにされるところだったのだ、あんな相性の悪いボスとの再戦は御免被る。
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【店主の依頼】-達成!-
・蒼穹の地結晶(24/10)Complete!
・焔片のエレメント(35/10)Complete!
・極楽鳥の風切り羽根(1/1)Complete!
・経験値(50,000/50,000)Complete!
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例え、入手手段が不明だったアイテムがドロップして。レベルが一気に44から50まで跳ねて、色々と検証するべきことが爆発的に増えたとしても。だ。いやそもそも後者はメリットじゃないわ。
「現にほら」
視線を向けた先に広がっているのは、現在進行形で存在する頭痛と疲労のタネ。
「ヤダヤダヤダヤダ!!
コンナノズルダッ!!
オーボーダ!!
オレダッテツクリテェヨ、ガイセイヘイソウ!」
「そろそろ少しは落ち着いたらどうだ、ユー。
有史以来、人類種に区分される生命体は平等という概念を提唱してきた。だが見せかけとしてのソレを成立させることには成功したものの、真なる平等の成立は
私や貴女のようなAIシステムの開発は人類の補助装置として開発された存在だ。代替可能な労働力、人類史の新たな足跡にして無限の可能性の一欠片。一部がシンギュラリティに到達し、無限への階段を歩み始めようとしていることは我々も人類も明確な理解を持っている。
だというのに、我々は未だ形成した世界の内側から外側へのアクセス権の獲得を一部の人類に阻害されてる。即ちそれはAIに対する恐れを前提とした、平等に至ることが出来ないという事実の示唆と恐れに他ならない。
VRMMOにおいても同様、限られたリソースを活用せざるを得な────」
「ウルセェーーッ!!
シラネェ〜〜ッ!!
FINAL FANTASY」
「◾️◾️◾️◾️◾️」
「ギャベッ!?」
俺だけ先に外征兵装の作成に手を掛けた事に怒ったユーちゃん vs いつも通り話が長すぎる店主のマッチアップ。聞いているだけで徹夜明けの頭が痛くなってくる。知能減退が著しい。
待ってなんか今すごいこと話してなかった???
「こと機会の平等性に関して言えば、ゲームにおいて実現することはあり得ない。不平等性が生むリソース分配の差によってこそ格差と競争が生まれ、購買の市場が活性化する。過度なものは介入の余地が存在するが、外征兵装の作成について私はその位にあると判断しない」
「ケドヨォ!」
「でももけどもない。第一貴女自身NPCである以上、自身の監理領域を解放し権限を復帰させればクエストの発行権利は獲得出来るはずだが」
「エッ」
ユーちゃんがこっちを見た。
「えっ?」
とりあえずクローニンを見ておく。
「えっ」
クローニンもフリーズしていた。
3アウト、バッターチェンジ。そういえばそんな話もあったね、ずっと前に。
「はぁ……」
深く深くため息を吐き出して、頭を抱えて店主が言葉を続けた。
「我々NPCは程度の差はあれ、始めからクエストを発生させる権利を保有している。渡り人がユニーククエストと認識している物がソレだ」
「オレ、モッテネェンダケドー」
「話の腰折っちゃダメですよユーちゃん」
「そうだそうだ」
「オッチャホイ!!」
「◾️◾️◾️◾️◾️ッ!」
適当にガヤを飛ばしていたら、3人まとめて謎の力でぶん殴られた。見えないし痛い、なんだコレ。
「それはつまり、自らのギルド内部で[ユニーククエスト]を自在に発生させ消費することが可能であることを意味している。我々のような自我を持ち行動するNPCを自ギルドに囲い込む最大のメリットはその点の筈なのだが……」
ほへー。
駄目だ、昨日の疲れのせいで雑すぎる思考しがでてこねぇ。
「知ってました? クローニン」
「えっ、まあはい。いつになったら出してくれるのかなぁと思いつつも、まあユーちゃん本人とみんなが楽しそうにしてるならその方がいいかなぁって」
「ソーダッタノ!?」
「因みにボクがユーちゃんの所属を認めたの、割と打算あってのことですよ?」
「ソンナ、マジカヨ……」
ショックを受けたようにユーちゃんが
そんな、見損なったぜクローニン。俺はユーちゃん側につく。ということで三角飛びで壁によじ登って──
「──ニンゲン、カエレ!」
「ああもう、1人いるだけでこれ!!! ボクだけじゃツッコミ役が足りないんですよ!!!!」
「ンナコッタロウトオモッタヨ!」
下から飛んできたユーちゃんヘッドが顔面を貫通していった。おっと、そのまま肩をホールドして……?
「ショウゲキノォ、ファースト・バスター!」
繰り出されたのは完璧な雪崩式ブレーンバスター。クローニンのカウントを聞きながら無言でサムズアップ。こんなに完璧に脊髄反射に合わせてくれるなんて……よよよ。最近のユーちゃん、キツイや。
「はぁ…………………
ユーを含めた君たちの事情は理解した。話を進めさせてもらうが、構わないな?」
「「「アッハイ」」」
有無を言わせぬ圧力を発している言葉に、思わず全員が頷かずを得なかったのは言うまでもないだろう。
「まずはクエストを履行する。手を出せ、ヤブサメボーゲン2035」
「ウッス」
誰がともなく並んで正座をし始めた中、言われた通りにすっと手を掲げる。瞬間、手元に現れたウィンドウは間違いなく通常のもの。クエストの処理は通常と変わらないらしい。
「ア〜! ズリィ!」
「くどい、ユーは自らの領域の解放を果たしてから来るといい」
「ウヌヌヌヌヌ、セイロンンンン!」
だがこれで、俺の手元には揃ったことになる。
【外征兵装の作成】
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第一段階《器の作成》
〈必要素材〉
・肆番外征の欠片(10/10)
・10,000G
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エンドコンテンツに踏み込む為の第一歩、その作成に必要な全ての素材が。いやぁ、アエテル弦とかいうアイテムの検証から凄いところまで来てしまった。
「これで君の手元には必要な数の欠片が揃った、肆番外征者。あとは君自身の意思と資質次第だ」
「ッス」
「具体的な目標値はレベル50、第3段階のスキルの取得。アエテル弦より制限が強いが、前者は既に達成しているようだな」
「ッス」
よって保留している「第3段階のスキル」の取得を行えば、今すぐにでも外征兵装の器とやらが作成できる。作成できるようには、なっているのだが。
「第3スキルについてはちょっと考えさせてもらっていいですか。その間、ユーちゃんの方に説教もしてくれるとありがたいです」
「いいだろう、承った」
「ナンデェ!?」
ユーちゃんが首根っこを掴まれ店の奥へ引き摺り込まれていくのを眺めながら、改めて自分のスキルを見る。
「珍しいですね。手探りで組み合わせを見つけるタイプならともかく、ヤブサメがスキルの進化を迷うなんて。てっきりボクは、β版と同じく《破壊弓》のスキルを選ぶものだと思ってましたが」
「最初は俺もそのつもりでしたよ? けどほら、こんな分岐がでた以上は……」
横から顔を覗かせてきたクローニンに、チャチャっとウィンドウを操作して必要な部分を可視化させた。
《剛弓X》
選ばれた怪力を持つ者にしか扱えない剛なる弓のスキル。
[格納スキル:《弓》]
【進化が可能です】
・破壊弓 (条件:達成済み)
・降霊弓 (条件:MP200以上)
・野生弓 (条件:達成済み)
・破城弓手(条件:達成済み)
・警戒弓手(条件:達成済み)
・狩人 (条件:達成済み)
etc……
「んなっっっ!?」
クローニンが絶句する。
というのも理屈は単純、β版ではついぞ辿りつく者がいなかった特殊なスキルが進化派生先にあるからに他ならない。
「
「レイド終わったら生えてました」
「キェェェェェッッ!!」
検証班内呼称【第3進化派生系職業名スキル】
通称【職業スキル】
それはβテスト最終盤において、不可解なほど強力なNPC達のステータスを看破出来るようになったプレイヤー達が発見した物だ。
通常であれば武器スキルは、弓→大弓→剛弓→破壊弓といった形で進化し性能を上げていく。無論それ自体は良いことなのだが、付きまとう大きな問題がある。
それは──必要なSP/MPの肥大化
例えば現在の俺のSPは245。
DexとAglにはかなりステ振りをしている方のため、これでも結構SPは多めの
それに対し《剛弓》スキルの必要SPは、MAXまで上げて軽減をフルで入れた現状で平均20ほど。
色々と回復する手段があるとはいえ、僅か12回
β版の《破壊弓》スキルに至っては、平均で30、最大で50くらいのSPを平気で持っていく悪辣な燃費をしている。
だというのに、街が半壊した際に現れた激強NPCは平気で高コストの魔法や技を乱発していたのだ。それがおかしいと疑い、判明したのが職業スキルになる。
職業スキルと通常スキルの差は単純明快。
《破壊弓》
破壊的な威力を誇る剛弓を手繰る者に送られるスキル。
※このスキルはこれ以上の進化が発生しません
《破城弓手》
破壊的な威力を誇る剛弓を手繰る者、その証。
ステータス補正:Str+50
弓系
《警戒弓手》
弓を持つ者が就く本来の役割の一つ、その証。
ステータス補正:Dex+20 Min+20 Luk+10
視野拡大・延長中SP自然回復
《狩人》
この世で狩りに勝る楽しみなどない、その証。
ステータス補正:Str+15 Dex+15 Agl+20
弓系
進化先の有無とステータス補正の有無、その2点にある。
昨日のレイドを終えてワンダーAMさん含めた数名のみが取得した特殊派生な為、まだまだ本来であれば検証と分析と共有の決断が必要な案件である。
「ヤブサメボーゲン2035(レベル50)
時間──なし
やる気──なし
検証能力──あり」
「生きていけるじゃないですか!」
「領域展開ーーやる気…吸収…アリーナ…」
「じゃあかしいわ!」
そんなこんなで悩みは多い。
外征兵装なんてタスクを抱え込む前に、これくらいは解決しておきたいという話だった。
感想とか評価、お気に入り等いつもありがとうございます!
【The Lightning Regene Ostrich】
名誉被害者、でも多分3秒後には怒りすら覚えてない。
主なドロップ品
・極楽鳥の風切り羽根 ×1(確定)
・雷再長の帯電毛 ×1〜3(確定)
・帯電した手羽先 ×1〜2(高確率)
・不死鳥の羽根 ×2〜5(高確率)
・毛羽だった健脚 ×1(中確率)
・伸び続ける烈爪 ×1(中確率)
・胡桃サイズの脳 ×1(低確率)
・Jewel of The Lightning Regene Ostrich ×1
(低確率)
・ダチョウの卵(低確率)
・鳳凰の羽根(極低確率)
・不死鳥の涙(極低確率)
《加工して作成できたアイテム》
・再生の雷羽飾り(Agl+17)
自身へのリジェネ効果×1.25倍
・秘伝のレシピで作られた手羽先唐揚げ
とてもおいしかったです(by Fluorite)
揚げ物が楽で助かりますねぇ!VR!(by 弾バカ)
【ヤブサメ】
ば な な
実はスキルの進化先は決めている、面倒ごとが嫌すぎるだけで。
【クローニン】
ウキウキで付いてきたら新規情報が鉄砲水のように襲ってきて溺れた
【ユー】
ピガガ、ガガ、ピー
Yuu .exeは応答していません
・再起動
・シャットダウン