元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
調べ物という抱え込んだタスクは多く、しかして今すぐにやりたい事が目の前に迫っている。しかも時間制限付き。
スキルの進化はやり直せないことも、現在進行形のピンチに拍車をかけている。
本来ならそんな詰みに近い状況だが……なんと、今回に限り……!! 割と正面から解決する方法が存在する。
「俺自身が進化させる先は、火力不足を散々感じてきたし《破城弓手》1択。とはいえ、他の2つを無視するのもよくないと思うんですよ」
「ボクも同意見です。金一封も出ますからね!」
うんうん、そこまではクローニンも同意見らしい。
「じゃあさ、クローニン。β時代の《警戒弓手》と《狩人》のデータ……出して?」
「わ、わかんないっピ……」
チッ、これじゃダメか。仕方がない。
変声スイッチをON! バイノーラル収録で鍛えた技を喰らうがいいわ!
「情報出ろ♡ 出〜せ♡」
「うぅ……《狩人》はともかく《警戒弓手》は完全に未知です。ので、《警戒射手》の方の情報を取り寄せますね」
「ナイスゥ!」
ガッツポーズを決めながら、メモ帳を起動。爆速で検証班本部宛に送る内容を叩き始める。
FEVにおけるスキルの進化は、内部ポイントの割り振りとは異なり不可逆の変化だ。故にこそ情報収集には時間がかかるし、有志のプレイヤー集団が存在する。
つまり(ほぼ)前人未到のスキルともなれば、比較するデータがなくそのままの情報を送るしかない。これからの皆の礎になる人柱一号というわけだ。だがここに……例外が存在する。
「へいヤブサメ、一丁お待ち!」
「せんきゅー大将!」
β時代、どうにかならないかと自分を含めた弓ユーザーが集め続けた職業スキル情報。これ以降にはもう使えない最終手段である。
これからの検証どーしましょうね、ではなくて。
「……あ、これ《警戒弓手》と《警戒射手》は名称変わっただけで同じスキルですね」
「他のスキルでも《硬盾騎士》が《重盾騎士》に変わってた、なんて報告も上がってるみたいですよ?」
「データ上げるの早いなぁ」
現状、判明しているスキルの派生は極めて多い。
弓スキルを例として挙げるなら
・《弓》第1段階
(レベル式。
・《剛弓》第2段階
(スキルツリー式。ツリーは基本2つあり、それぞれで技とPSを習得)
これがヤブサメボーゲン2035が辿ってきた流れな訳だが、第2段階には他にも《長弓》《大弓》《軽弩》《重弩》《魔法弓》や《精霊弓》に《鏑矢》《梓弓》なんて派生まで存在する。
加えて性質上個人差というものが極めて出やすいのは……まあ、今の《剛弓X》の内部ステータスを見る方が早いか。
| 剛弓マスタリー(10/10) | Lv1 | 《弓》スキル継承 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| Lv3 | 剛弓・烈火(3/3) | 剛弓・轟炎(5/5) | 剛弓・爆焔(10/10) | 剛弓・獄火(15/15) | 奥伝・不知火(炎属性強化0/50) | |
| 剛弓・旋風(3/3) | 剛弓・旋刃(5/5) | 剛弓・疾風(10/10) | 剛弓・鎌鼬(15/15) | 奥伝・颯一陣(風属性強化0/50) | ||
| 剛弓・時雨(3/3) | 剛弓・驟雨(5/5) | 剛弓・篠突(10/10) | 豪弓・滝落(15/15) | 奥伝・凪静雫(水属性強化0/50) | ||
| Lv5 | 剛弓・矢斬(10/10) | 剛弓・舞奉(15/15) | 奥伝・六花舞(氷属性強化) | |||
| Lv7 | 剛弓・影縫(10/10) | 剛弓・杭貫(15/15) | 奥伝・封縛雷(雷属性強化) | |||
| Lv★ | 大弓装備時、攻撃力+3%(パッシブ) | |||||
| スキルマスタリー(10/10) | Lv1 | 大弓装備時、ステータスの自然回復量を微増 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| Lv3 | 通常射程増加Ⅰ(5/5) | 通常射程増加Ⅱ(10/10) | 通常射程増加Ⅲ(15/15) | 通常射程増加Ⅳ(20/20) | 通常射程増加Ⅴ(25/25) | |
| 通常威力増加Ⅰ(5/5) | 通常威力増加Ⅱ(10/10) | 通常威力増加Ⅲ(15/15) | 通常威力増加Ⅳ(20/20) | 通常威力増加Ⅴ(25/25) | ||
| 通常命中率増加Ⅰ(5/5) | 通常命中率増加Ⅱ(10/10) | 通常命中率増加Ⅲ(15/15) | 通常命中増加Ⅳ(20/20) | 通常命中増加Ⅴ(25/25) | ||
| Lv5 | 技冷却時間短縮Ⅰ(10/10) | 技冷却時間短縮Ⅱ(15/15) | 技冷却時間短縮Ⅲ(20/20) | 技冷却時間短縮Ⅳ(0/25) | 技冷却時間短縮Ⅴ(0/30) | |
| 技威力増加Ⅰ(10/10) | 技威力増加Ⅱ(15/15) | 技威力増加Ⅲ(20/20) | 技威力増加Ⅳ(25/25) | 技威力増加Ⅴ(30/30) | ||
| 技命中増加Ⅰ(0/10) | 技命中増加Ⅱ(0/15) | 技命中増加Ⅲ(0/20) | 技命中増加Ⅳ(0/25) | 技命中増加Ⅴ(0/30) | ||
| Lv7 | 属性ツリー解放(2/10) | |||||
| Lv★ | 大弓技のSP消費-1(パッシブ) | |||||
| 属性ツリー | |
|---|---|
| 炎属性強化 | 0% |
| 水属性強化 | 0% |
| 風属性強化 | 0% |
| 雷属性強化 | 条件:炎・風50%以上 |
| 氷属性強化 | 条件:水・風50%以上 |
| 沸属性強化 | 条件:炎・水50%以上 |
俺の場合は基本的に、手数と継戦能力を重視している成長傾向になる。3つ目の属性スキルツリーは解放せず、結果消費がクソバカ重々グラビティな必殺技には手を出していない。
その結果、発生した有望な進化先が《破壊弓》《降霊弓》《野生弓》(職業スキルなどは除く)な訳だが──当然、スキルポイントの割り振り如何で進化先は変わる。
例えば属性ツリーに手を出せば、《魔導弓》などの魔法系に寄ったスキルが出てくる。
例えばマスタリーをコンプリートすれば、《精密弓》などの技術系に寄ったスキルが。
奥伝まで技を習得すれば、《焔弓》などの属性付きかつ何某かに特化した極振り系スキルへ。
しかも、まだまだFEVの進化システムの複雑さはとめどがない。
この進化先、プレイヤーのステータスによってはまた変わってくる。
当然のようにプレイヤーの所持スキルによっても変化する。
当たり前の権利の如く、進行中のクエストフラグや、スキルの進化経路によって変なものも生える。
領域魔法のスキルがそうであったように、特定のアイテムの所持如何でも追加される。
その他にも他にも他にも他にも、恐らくプレイヤーの活動データが全て影響している。
ほんっとうに
クソシステム(ゲームとしては)で
#極東的侮蔑スラング#(検証班的に)な
最高のシステム(データ厨的に)だ。
第3段階で最終進化となる(なっていた)のも、納得するしかない情報量と言えよう。
「よっし、これでレポート終了ぉ!」
そんなこんなを考えている間に、《狩人》と《警戒弓手》に関しては殆どの情報をまとめ終わった。あとは実際のスクショを添付して検証班本部宛に送信すれば、最低限の検証は終わりである。
「うっわぁ……ヤブサメその気持ち悪い動きどうやってるんです? 左右別々のキーボードで別々の文章書くとか」
「ふっふっふ、良くぞ聞いてくれましたクローニン。これぞかの伝説に倣った、領域魔法《
「頭おかしいんじゃないですか? このセルフマゾ」
「くっ……ナイス罵倒」
クローニンは途轍もなく冷たい目をしていた。
いやでも仕方ないじゃん。領域魔法で超広範囲マッピング探索なんてことしてる都合上、いつかはぶち当たる壁なんだから。効いたよね、早めのPuls Ultra!
「さて。これ以上店主とユーちゃんを待たせるのもアレですし、パッと進化させちゃいます。クローニンも見ておきます?」
「ここまで来て見ないとかあります?」
いえーいと意味もなくハイタッチしながら、可視設定を弄ってクローニンにもステータスの閲覧を許可。スキル画面まで持っていって……
「因みに《狩人》と《警戒弓手》に進化させようとすると、
※【警告】※
《破城弓手》は派生確率の低いスキルです
それでも選択しますか?
なんて警告メッセージがでます。なんかレアらしいですよ?」
「でしょうね。ボクらヒーラーが目指すべき推定《聖女》辺りのスキルも、多分そこら辺に該当すると思いますが」
「あぁ〜、ゲームの神秘性が解体される音〜」
軽口を挟みながら、特に躊躇いもなく《剛弓》を《破城弓手》に進化させる。
第1段階はレベル式、第2段階はツリー式と変化してきていた。ならば第3段階になったとき、スキルの成長方法はどうなるのか?
その答えが、控えめなファンファーレと共に目の前に現出した。
《破城弓手》
破壊的な威力を誇る剛弓を手繰る者、その証。
ステータス補正:Str+50
弓系
所持ポイント:11(スキルマップへ)
「ふむ、職業スキルとはいえ区分は第3段階。スキルマップ式なのは変わりませんか」
「みたいですね。初期ポイントが1じゃなくて11なのは、旧第3段階とは違いますが」
スキルマップ、レベルやツリー式より例の少ないせいで微妙に知名度の低い悲しきシステムである。
始点となる部分のみが初期設定されている中、ポイントを消費して
「総
「とりあえず初期ノードの《剛弓》スキルの継承だけは開くとして。どーしよこれ」
画面を覗き込みながら、指折り数えるクローニンに答える。
◯
◯
◯ ◯
◯ ● ◯
◯ ◯ ◯
ノードの配置は大凡こんな形。
円の1つに10個の
円と円の間には接続ノードが1〜3個あり、中心の菱形がそれぞれ辺と対角線状に接続。菱形の頂点から上下左右へノードは伸びている。
黒丸の部分は始点となる部分が含まれている円であり、例外として中心部分が初期解放
その他もろもろ、ゲーマーとしては一刻も早く捏ねくり回したい設定の大トロも大トロな部分──なのだが!!!
「「……」」
クローニンと顔を見合わせ、静かに頷く。
先ほどからずっと聞こえないフリをし続けていた、絞められた鶏のようなユーちゃんの悲鳴。これ以上それを無視するのは、こう、流石になんか申し訳なさが勝る。
「行きましょうか」
「怒られの発生は覚悟してます」
「その時はボクの身代わりになってもらいますよ?」
「みがわり!?」
聞き捨てならない話を聞き捨てながら、遂に悲鳴が止まった扉の前で立ち止まる。もしやユーちゃんが力尽きてしまったのか、あるいは店主が愛想を尽かしてしまったのか。どちらか……ええい、ままよ!
「おまたせユーちゃん! スキル進化終わらせてきたよ!」
「そうか。では最後におさらいだ、ユー。
我々AIが持つユニーククエストの発生権利を行使する方法は?」
「アッ、[██シキ]二ヨルホウホウガ、アッ、モットモイッパンテキデアッ、アッ、アッ」
扉を開けた先には、虚な目をしたユーちゃんが店主の膝枕でビクンビクンと痙攣していた。ッスゥー……これは、アレっすね。
「お邪魔しました」
「イヤタスケロヨォ! ハクジョウモノォッ!」
ユーちゃんの飛びつき式右ストレート。ノーダメージ。
「という事でお待たせしました。第3段階に進化も終えて、作成する気も満々です」
「……【破城弓手】か、珍しいが良い選択だ。意志レベルも規定値を突破済み、器の作成素材も確認した。管理個体名[ZiR-03]はプレイヤーネーム[ヤブサメボーゲン2035]の外征兵装作成を承認する」
真剣な表情の店主の言葉に、ズンと店内の空気が1段階重苦しいものに変化した気がした。なにかが起こる、そんな予感がヒシヒシと伝わってくる。
「ナァ、オレガオカシイノカ?
ナンデクソテンシュモヤブサメモ、ヤブサメノガンメン二オレノテガササッテルノニ、ヘイゼントシリアスデキテンダヨ?
モウコエェヨォ!」
「ほら、ユーちゃん。こっち来てください。怖かったですよね、抱っこしてあげます」
「ママァ……」
俺の身体をすり抜けて、ユーちゃんがクローニンに対してバブみを感じておぎゃリ始めた。心なしか店主の顔にも、色々と入り混じった感情が浮かんでは消えしているように思える。
し、締まらねぇ。
感想とか評価、お気に入り等いつもありがとうございます!
【第3スキル】
スキルマップ方式には、その昔アンチェインブレイズというゲームがあってじゃな……アレです。具体的にはレクスの方。
【ヤブサメ】
職業スキル到達者としては第10番台くらいの位置。
外征兵装解放者としては3番手。肆番外征者なのに。
【店主(SiR-03)】
極めて真面目なシーンではあり怒っている部分もあるが、AIと人との融和した関係性を見て喜んでいる部分もあり、自らがてずから教えたAIがバブみを感じておぎゃっているのを後悔しつつ恥ずかしくも思っている。
哀しみはない、割と未来が見えているゆえに。
【ユーちゃん】
これが、バブみ……?(正解)
【クローニン】
これが、母性……?(不正解)