元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
常識では考えられない性能のゲームを作り出した存在、Crescent Moon有限会社
あと今年最後の更新です。良いお年を。
重苦しい空気が満ちる店内。
それぞれ向き合うのは、神妙な面持ちをした店主、仮面の下で笑いを堪える俺、聖母のような包容力を放つクローニン、おぎゃるユーちゃん。
これが、今から外征兵装というユニークアイテム兼エンドコンテンツを作ろうとするのに、相応しい……相応しいか? 相応しいな! そういうことにしておくメンツだ。やっぱり論外しかいないんじゃないか?
「ヤブサメボーゲン2035。管理個体名[ZiR-03]として、私が本来であれば伝えなければならない事項は多岐にわたる」
張り詰めた空気の中、店主の言葉が滔々と響く。
「この大地に定められた刻限、外征者の有する意味、外征兵装の行く末、宇宙へと至った道……これらは外征兵装の作成にあたり、君が知るべき真実であり、責務であり、権利であり、そして
だが、と小さく首を横に振って店主は続けた。
「これらの全てを、今の君へと伝えることは出来ない」
「……それってどういう?」
「そうだな、単刀直入に言おう」
首を傾げる俺に向けられたのは、ビックリするほど冷たい目。お前はなにをやっているんだという批難すら込められた視線に刺し貫かれる中、続いた言葉は──
「メインストーリーの進行度が、チュートリアル終了時点で止まっているプレイヤーに話せることはない」
──極めて真っ当な話だった。
「えっ!? ヤブサメあのあと一切触れてなかったんですか!!!? ナンデ!???」
後方から飛んできたヤジにも反論の余地がない。
いやもう、全くもって仰るとおりです。
「お外を散歩するのがね、楽しかったの」
くらえ必殺、コントラストの光景!
「お姉さんボイスで幼く言っても無駄ですわ!」
ヌゥッ、楽マス返し!?
「本当に申し訳ない。ではさらば、フルステルス」
「《ディスペル》!」
「メタルマン機能が!?」
なお、弊ギルド内でメインストーリーを進めているのはクローニンとFluoriteさんの2名だけである。
弾バカは山へ弾幕に、アブっさんは川に周回に、俺は外に探索へ。イベントがあったり、クローニンの召集がなければ基本的に誰も帰ってこないのだ。さもありなん。あとユーちゃんは例外枠だし。
「続けてもいいだろうか?」
「お願いします……」
いや、本当に申し訳ない。
茶々を入れてくるクローニンが悪いんだクローニンが。でも脊髄反射で反応している俺も俺か。
「因みにメインストーリーをどこまで進行させれば、ボクらはそのお話を聞くことが出来るんでしょうか?」
「PN:クローニン、貴君には本来この話を耳にする権利は存在しない」
「そんな……」
「だがそこの肆番外征者と共に足を運ぶのであれば別だ。当人が聞き、考えるよりも優秀なブレーンがいるならばその方がいい」
「ですよね」
いま遠回しにバカって言われなかった????
「しかし、得てしてそういった者の方がより強大な個我を持つ。我々が求める者もまた、賢しらな学者だけではないということだ」
ユーちゃんもそうだそうだと頷いている。
馬鹿な……そんなバナナ、知能が足りていない風に見られていたなんて。でもどうしてだろうか? 悔しいくらい原因に心当たりがあり過ぎるッッ!!
「さて、前置きはここまででいいだろう。
ヤブサメボーゲン2035、腕を前に」
「アッハイ」
空気を仕切り直し、改めて店主が語りを続ける。
「外征兵装とは意志の力。
かつての文明に於いて、彼らは人という物質体の限界値を観測した。それでも先を求めた人類が『次』の手段として描いた夢想の形こそ、人だけが色濃く放つ[感情]の光だった。
即ち外征兵装とは個々人が持つ願い、祈り、或いは渇望といったパーソナルデータの集積層、それらの具現化した姿に他ならない。故にこそ完全な同一性を持つ外征兵装は存在し得ず、
言葉に反応するように、勝手に開いた俺自身のアイテム欄から黄金色の輝きが飛び出していく。まるでそれらが光を吸い込むように部屋は暗く、飛び出したもの──肆番外征の欠片と思わしき結晶は輝きを増していく。
「新たな
それは、こちらに茶々を入れようとしていたクローニンやユーちゃんすら閉口するほど、神秘的でどこか恐ろしさすら感じる光景だった。
薄闇に沈んだ部屋の中、渦巻く銀河のような輝きが周囲に満ちている。否、中心にいるのは店主だけだ。
静かな光を湛えながら、奥底を見通せない澄んだ闇のような目をした視線だけ。真っ直ぐに、仮面などなんの意味もなさない様に。現実世界の自分自身すら見透しているように、こちらを刺し貫いてくる。
「俺は……」
思うことは色々あった。
効率、便利さ、楽しさ、現在及びこれからの構築におけるシナジー。ゲームとして考えて当然のことが最初によぎり、けれど視線の圧力に負けて自然と口が閉じる。
まるで下手なことを口走ったが最後、正気を失ってしまうような。
具体的には『あなたは大いなる存在を目撃してしまった、1d10/1d100のSANチェックです』が発生するような気配。
FEVの運営会社で稀に発生するという事象、まさか自分が遭遇することになるとは海のリハクの目を持ってしても云々かんぬん。
しかし、昔からこういう場合は己の心に従うのが正解と決まっている。
問題は──普段から本能と反射で遊んでいるせいで、そういった思いの言語化がとても難しいということだ。
「どうした、何もないとは言うまいな?」
「ちょっと今、頭を野生から人間に戻して言語化をですね」
ろくろを回すポーズをとりながら、急かす店主に待ったをかける。
うおお、うなれゴリラブレイン!!! 森の賢者としての答えを導き出して見せろ!!!!
自然が好き、これは間違いない。特にファンタジー未知未知な大自然。そこが自分がこのゲームをやってる目的の中でも1番大きい理由だ……最近はあまり外界まで行けてないけど。
しかし、そういう完全な未知が好きか──と問われると、なにかが違う。真性の未知狂いが
ただ開拓作業が好き、というのも微妙にピントがズレている気がする。見て、経験したいのは事実だけど後続に続くような何かを残す為にやっている訳ではないワケで。
実際、キャラクターの構築のように自分の手札と既知の知識を組み合わせて、最適解や妥協案を生み出すようなパズルも嫌いじゃない。むしろ余裕がある時は楽しめるタチだ。
なんだったら、現実でも勉強や技術を磨くのは好きだけど、態々それらを活用する場を求めている訳ではないからして。
「──あれ、もしかして俺の行動原理って『未知の蒐集と消費』?」
ポロッと口をついてこぼれ出た、現代消費文明の権化みたいなカス of カス理念。言語化の際に大切なものを色々と取りこぼしたような気がしないでもないが……悲しいかな、時すでに遅し。
店主は納得したような顔で頷いていた。
頷いてしまっていた。
「言語化という作業は、その過程において多くの情報が欠落することを我々は1つの事実として認識していなければならない。
無形の[心]を有形の[言葉]に変換すること、それは即ち無を有に変換するに等しい行為だが、同時にその変換は「実行者本人が知覚可能な範囲に存在するもの」を「本人が保有・活用可能な語彙の範囲内」において形成してしまう。故に、一般に出力された答えは正確な事象である可能性は極めて低いことを憂慮すべきだろう」
滔々と、詠唱のように響く言葉。
普段ならば確実に耳から抜けていくその言葉は、不思議と頭に染み込んでくる。
「無論、今の君の言葉においても例外はない。
装飾を剥ぎ取り、見栄を削り、言葉を煎じ、意味を撚り合わせ単純化する。そうして無数の本質と根幹を取り溢し、元来の君が持つ[想い]は異なる形へ置き換わった」
あっやば、これミスった?
「だが同時に、有形の[言葉]が無形の[想い]が拡散する事例も無数に存在している。読書における認知の広がりはその最たるものであり、これより君と共に歩む翼にはある種、相応しい答えである事は否定しない」
小さく笑みを浮かべた店主が、その手を空へと掲げ──
「賛喜せよ。ここに、新たな
光が、爆発した。
少なくともそうとしか思えない程の輝きに包まれて……発動したままの探知越しに、
「────ひゅっ」
刹那。ばつん、と意識が暗転し…………
……た、気がしたのだがそんなことはなかったらしい。
視界の端に映る時刻表示は数秒しか経過していないし、周りに変わった様子も特に見当たらない。
唯一の変化といえば、店主が背負っていた銀河のような輝きが消えたこと。そして自分の目の前に、見慣れぬモノが浮かんでいることくらいだった。
「これが……」
ソレ、はなんと表現すれば良いのだろうか?
ピンポン玉サイズの、1番似ているのはブラックホールの想像図というか。φというべきか、そんな何かが宙に浮いている。
「そう、それが君の外征兵装、その器だ。肆番外征者」
語る店主に促されるまま、なんとなくソレに手を伸ばす。瞬間、表示されたのは他のアイテムと変わらないステータス画面。ここまでの仰々しさとは打って変わって、いっそ簡素とも言えるゲームらしさが帰還していた。
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【肆番外征の器】
種別:特殊・アクセサリー/ユニーク/譲渡不可
耐久値:∞ 消費スロット:1
ステータス補正:なし
能力:蒐集・消費(▼詳細)
〈Tips〉
星落暦より廻星歴に移って以来3番目に確認された外征兵装、その器。込められた神秘の形は未知の蒐集と消費、人々がかつて宙にあった時代を彷彿とさせる願いである。
管理個体[ZiR-03]によりヤブサメボーゲン2035の願いを骨子として製造された。その力が解放されるにはまだ多くの時間と経験を要するようだ。
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少し前のアプデで大分見やすくなったアイテムの状態だが、Tipsに書いてあることの意味がまるで分からない。これは、その、元とはいえ流石に検証班的に見過ごせる事案ではない気がしてきた。
「能力は……どういうことですかね、コレ?」
書いてあることは分かる。
だけどどうして未知の蒐集と消費に繋がるのか、コレが分からない。
「なんか面倒な条件でもあるんですか?」
「や、逆に単純ですね」
開けたままのアクセサリー欄に【肆番外征の器】を装備。変化がないことを確認してから、開いてる画面を覗き込むクローニンにも見えるよう調整する。だが、ここに書いてあるのは短い内容でしかない。
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ー未知の蒐集・否定ー
・自身のみを対象とする重力遮断(5s)
・落下方向指定(重力遮断中:1回)
・冷却時間:30秒
・発動方式:思考トリガー/任意トリガー
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「つまりこうやって──」
思考をトリガーにして重力をカット。某国民的漫画の猫型ロボット宜しく、数ミリ足元から身体が浮き上がる。慣れてない人はバランスすら取れないだろうな、と感想を抱きつつ、視線を向ける先は店の天井。
「 ──空に向かって落ちれる訳ですが」
こうすればいい、と本能的にわかる使い方のまま能力を行使。
「マゴウコトナキ”ヘンタイ”!」
復活したユーちゃんのヤジはスルーしながら、くるりと1回転して天井に着地する。これで自分の感覚としては、普通に立っている時となんら変わらないのだから不思議な感じがする。
「これのどこが、蒐集と消費になるのやら」
感心している間に遮断効果が切れた為、もう1度身体を回し今度は地面に着地する。極めてテクニカルな能力だし、便利であるのはひしひしと実感しているのだが……
「ンー、アレジャネエカ?
ミタカンジ、マダ“ソレ”ウマレタバカリッポイシヨ。『ミチ』を『カンソク』シタクテモ、『ヤブサメ』クライシカ『ニンシキ』デキテネェンダトオモウワ」
そんな疑問に答えをくれたのは、予想外にもユーちゃんの言葉だった。
なるほどつまり? ユーちゃんから見た外征兵装はある種のAIでもあって、Tipsと照らし合わせるとプレイヤーと一緒に成長していくと。
……あれ、シンギュラリティとか言ってなかった?
「なるほど。つまりボクらの事は見えていない代わりに、ヤブサメが受けている『未知』である重力を蒐集して、任意の方向への『墜落』という形で消費していると。ヤブサメ、HPとかの消費は?」
「特にないですね、クールタイムは30秒ですが」
「となると、完全にボクの知るFEVのアイテム効果とは別枠。まさにユニークと言ったところでしょうか?」
胸の内に浮かんだ疑念を押し流すように、AI視点を持つユーちゃんと現役検証班のクローニンによってユニークの神秘が解体されていく。
あの、あの。これ、俺のユニーク装備……胃がぁぁぁ!
「ホーン。テコトハ、オレガイツカツクルヤツモ、ホウソクノガレニナルンカネ?」
「可能性は高いでしょう。一刻も早く調べたいですが……職業スキル然りヤブサメのユニーク然り、調べたいことが多すぎます。まだ先になると思いますがいいですか?」
「オウ、イイゼ。オレモクエストハッチュウノホウ、ヤラネェトオコラレソウダシヨ」
次の予定まで決まってしまった。
先ほどまでとは一転、会話から弾き出された俺の肩に優しく手が置かれた。
「優秀なブレインと友好的なAI、共に得難い縁そのものだ。大切にするといい」
「泣きそう」
おお、店主よ。お前もか。
感想とか評価、お気に入り等いつもありがとうございます!
【Fines Explorator Viae】
本ゲームのタイトル。実は利用規約の最後の方の折り込みされたページの奥の方を最後までスクロールするとこんなことが書いている。
●REC
本ゲームは[文字化けした見るだけで怖気の走る文字]達、及び運営によって監視・管理・運営されています。
【謎の存在たち】
超ハイスペックVRMMOを作った存在たち。Crescent Moon社(運営会社の名前)の社長とかCEOとかをやっている。
人間が好き。面白いともっと好き。
法律には勝てないが、自分たちは人ではないので労働基準法が適用されていない。なんで。
まだ休んじゃダメですよ。なんで。
【運営】
大多数の会社員(なにも知らない一般人)
極一部の逸般人(知ってるけど無害だし、恩もあるし……)
訓練された人たち(#未知の言語による労働を詰るスラング#)
【今回起きた事象】
社長「みんな見て! 面白いことやってる!」
みんな「なんだなんだ」
ヤブサメ(視線を向ける)
みんな「ファンサだー!」
ヤブサメ(緊急シャットダウン)