元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
頭部を極太の杭でハリセンボン状態にされたボスの身体が崩れていく。どろどろと四肢が溶け出し黒い液体となって流れ、不気味の谷まっただ中の雰囲気で人としての形が崩れていく。
「今なら泥パック無料ですけど、ユーちゃん行かないんですか?」
「オレ、デンシビハダダカラパックモケショースイモイラネェンダワ」
:は? FEV検証班代理ちゃん
:これは許されない
:もっと化粧しろユーちゃん
:二次元由来の可愛さの暴力を現実に向けるな
:多分これメスガキ煽りのざぁこざぁこに相当する部分マコ
:負けてないが!!??? FEV検証班代理ちゃん
「ミロヨコノ、ハダノトウメイカン!」
「うーん不透明度50%!」
「オロカナジンルイヨ、ヒレフスガヨイゾー!」
「天井で逆さまになってる相手にひれ伏すとは一体……?」
などと適当にしている間にもボスの崩壊は続いていく。そして、
「さて、スワンプエンペラーの討伐演出中に第三層の説明をいたしましょう」
跳ねる泥の雫を受けて配信規約的に心配になる姿になりながらも、泰然自若としたクローニンは語りを続けていた。
「このあと転送されるBF3層は所謂決戦マップになります。
BF2層の戦闘をギミックとして、与えたダメージによる固有デバフの『装甲損傷率』、与えた効果による固有デバフ『制御妨害率』が解除不可の状態で付与されてボスが出現します。
だから、ノーダメージでも戦闘でダメージやデバフを与える必要があったんですね」
などと話している間に、俺たち全員を転送用のエフェクトが包み始めていた。とりあえず変なイレギュラーを引かないように、天井からアブっさんの盾に着地してっと。
「グポーポン」
《おかえりんごー、とマスターは仰っています》
「ただいマンゴー」
「タベルンゴー」
「
──気配もなく、音もなく、気がつけば真後ろにFluoriteさんがいた。首筋をぴちゃりと舐める湿った何かの感覚、エ駄死*1というよりは被捕食者の烙印
:なにアレ羨ましい
:翡翠の色がみえるみえる……
:羨ましいならお願いすれば?結構食べてくれるよ(ガンギマリ)
:飽きちゃったんだって、俺の味に
:草
:やはり作るしかないのか……連綿と受け継がれてきた、PLのボディ組成変更薬(味限定) FEV検証班代理ちゃん
:受け継ぐなそんなもん
さて後は弾バカさえ確保してしまえば、ガバの芽は潰せるが……
「ふむ。暇すぎて食べられてみましたが、ぬめってて、生暖かくて、これはこれで悪くはな──」
「
「は? 歯ぁー!? 歯! ホァっ!? ハッホアほっほっ歯歯っほはぁぁぁぁっ!!」
わーお、お口の中。
がじがじと噛み合わされる口腔の中で華麗なダンスを踊っていた。
「
「これが裏・球針態……!」
多分違うと思う。
「ピガ、ブッピガン」
《踊れ弾バカ、死のダンスを。とマスターは仰っています》
「ダガ、ユーチャンハレアダゼ」
一部違うと思う。
「そんなこんな話している間に撃破演出も終了。今度の転移は光るので、過敏な方は目を瞑ることをオススメします」
うおっ、まぶしっ。
事実上やるべき仕事が殆ど終わったのもあって気を抜いていたところに、眩い閃光が直撃。視界が潰されている最中に浮遊感を感じ、気がつけば転移は完了。新たなフィールドが目の前には広がっていた。
「このユニーククエストはメインストーリーの総集編に近い解釈もすることが出来るようになっています。
地上の1層がFEVにおける旧旧暦、人類同士の戦争の歴史。
BF1層が旧暦、
BF2層が地に堕ちた人々の再興を目指す祈りと苦難の歴史。
そんな話を本来なら集めていくことになります」
ならBF3層は何を示しているのか?
砕けた建物の残骸、降り頻る黒い雨、中心に浮かぶボスのコアだった結晶体。その答えは目の前にありありと示されている。
「BF3層は滅びと恨みの歴史。
メインストーリー2章までやってる渡り人には周知の事実である通り、今ボク達が拠点にしているケントルムを中心とした艦隊都市以外の人類は滅亡、ないし連絡が途絶しています。
その原因は未だメインストーリーで明かされてないのですが……」
:FEVってそんなストーリーだったの!?
:そう、大体AHEADから不完全なEDGEになってGENESISになり損ねた感じ
:それで分かるの古のオタクだけで草
:知らなかった……コイツらがチュートリアル爆速攻略したせいで
:記憶飛ぶよね
「はい、3層ボスこと推定滅びの原因ちゃんです」
結晶に微かにひび割れが走り、砕け、その中にいた存在が地面へと降り立った。
スラリと伸びた長い手足。白磁のような──否、球体関節が見える以上きっと本物のきめ細やかな肌。闇夜に溶け込むような黒く長い髪。一歩間違えばホラービデオになりかねない、無気味の谷を踏み越え、完成した美しさを持った人形がそこに居る。
表示された名前は【Fleet Control Unit - Burnup】
その
「チクショウ、チッグヴショウ!」
成長した自身の似姿を前に崩れ落ち、魂を削るように咽び泣くユーちゃん。
その
:#不適切なコメントのため削除されました#
:その資格はない、おおその資格はない
:おお、
:おおじゃねえよ
:推定滅びの原因ちゃん、これで撃破報告ないんだから怖いですよね FEV検証班代理ちゃん
:ないの!?
:はい FEV検証班代理ちゃん
「なおチャートはちゃーんと組んでいるので、ガバってなければ現時点で勝ち確の調整は済んでいます」
堂々と腕を組みながら語るクローニンの視線の先で、滅びちゃんが指を打ち鳴らす。呼応するようにして背後に組み上がっていくのは無数の武器や防具たち。0と1とが青い輝きとなって編んでいく武装の数々は、控えめに見てもプレイヤー側の数段は格上のもので。
「なにせギミックの核たる超級武装が」
背部に浮かぶ巨大な刀の柄と思しき物体、手元に握る剥身の刃と銃、ボスに装備された甲冑と、その周りに浮かぶ装甲板。正しく機械仕掛けのSF鎧武者とも言うべき威容が、一歩を踏み出して──
「全部装備できないんですから」
ずるり、
アイテムと位置を同期させなかった3Dアバターのように、ユーちゃん(バストエネミー版)だけが装備をすり抜けた。
それはボスにとっても予想外の挙動だったようで、あからさまに狼狽しながら出たり入ったりを繰り返して──
「今です!」
クローニンの号令の下、俺たち全員の最大火力が無防備に直撃した。おー、HPはミリしか動いてないのにビックリするくらいノックバックしてる。これもしや雑魚では?
:AIなのにそんじょそこらの人間より人間っぽくて草
:うぅ、モーション設定ミス、固定ミス、TボーンMMD……頭が!
:これもう滅びの原因ちゃんじゃなくてクリエイターの苦しみちゃんたろ
:いいですねそれ FEV検証班代理ちゃん
:な に も よ く な い
:つかそもそもどうしてこうなった
「装備失敗の理由は半分はギミック、半分は必要ステータスの不足になります。
先ほど説明した専用デバフの『装甲損傷率』と『制御妨害率』はそれぞれ1〜5段階設定されていて、前者は『Str・Vitへのデバフ、及びそれに伴うHP減少』、後者が『Int・Minへのデバフ、それに伴うMPの減少』として適用されます。
今回は後者しか適用されていませんが、ウチの猿のお陰でDex・Aglに尋常じゃないデバフが発生しているので、本来のギミックである装備の妨害が120%発揮された訳ですね」
つまりIntとMinとDexとAglが下がったことで、装備の必要要件が満たせなくなった結果ボスが素っ裸になったと。元々のギミックとして。
事前説明は受けていたから驚きはないけど、しっかし物理がびっくりするくらい通らない。破城弓士のスキルが乗った破壊弓って、たぶん現時点だとほぼ最上位くらいの火力を出せるはずなんだけど。
戦闘用のビルドじゃないから? それは、そうなんですが……
「結果として、無駄にHPと装甲だけはあるノックバックもし易いボスが芸じゅちゅ、芸術品として完成しました。ただ、こんな一方的な暴力シーンばかりでは画面が味気ないでしょう」
:まさか
:待って!?
:よしてくれよ
:せめてー少女戦闘中ーくらいで許し亭ゆるして
「そんな視聴者のみぃなさまのためにぃ〜!」
:流すな
:流して
:うわぁぁぁぁ!! FEV検証班代理ちゃん
まさにコメント欄は阿鼻インフェルノ地獄。ノリノリでゆっくりVoiceを披露するクローニンの配信を横目に、同じくボスを小突くもダメージを出せていないユーちゃんの肩を叩いた。
「Heyユーちゃん」
「スミマセン、ヨクキコエマセンデシタ」
「ユーちゃんはRTA動画って見たことあります?」
「スルースンナ、デモアルゼェ。イツカヤッテミテェヨナ、キリマンジャロRTA……」
「RTA違い」
とはいえ、ボケられるほど分かっているなら話は早い。
「RTAの華といえばガバとオリチャー。こんなつまらないパーティ、2人で抜け出しませんか?」
「ポチャァァン」
打てば響くとはまさにこのこと。
ピシガシぐっぐっと拳を打ち合わせ、我大義名分を得たり。これから2人で、チャートを破壊しようと思っている。クローニンには、悪いけど。抜け駆けで。
「デモヨォ、イウテオレタチニデキルコトッテナニヨ?」
「そうですねぇ」
とりあえず景気良く矢を撃ち込みつつ、良さそうな獲物を見繕う。あの概念的玩具箱から引きずり出せるとしたら……
「刀と銃、後はファンネルみたいに分割してた盾。ユーちゃんはどれ使ってみたいです?」
「ンー、タテ!」
「よしきた」
尻尾の先からフックを伸ばし、矢といい感じに接続して装填。ケーブルの繰り出し速度が間に合うか微妙な感じだから、予め多めに出しておいて。
「《精密狙撃》」
わざわざ
「クゥ〜アブナイ!ココデオリチャーヲハツドウ!」
「どっっっせい!」
そのまま全身と腕の腕力を総動員して、アンカーと尾を結ぶケーブルを一本釣りの要領で一気に手繰り寄せた。
「ヤブサメ!? ユーちゃん!? 何をする気ですか!」
「へい、パース」
今更クローニンが気付いたようだがもう遅い。ユーちゃんの手に盾が渡り、その手に収まって──
「ブッピガァン!」
《ブッピガァン!とマスターは仰っています。えっ》
──その瞬間、ボスの動きが変貌した。