元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
RTA、すごいです…♪
「ヤブサメ!? ユーちゃん!? 何をする気ですか!」
「へい、パース」
今更クローニンが気付いたようだがもう遅い。ユーちゃんの手にボスから奪い取った盾が渡り、その手に収まって──
「ブッピガァン!」
《ブッピガァン!とマスターは仰っています。えっ》
──その瞬間、ボスの動きが変貌した。
ぐりんっ!
全ての動作の連続性から切り離された、決して人体ではありえない動き。
ここまで最もダメージを稼いでいる弾バカ、ヘイトを稼いでいるクローニンに向いていた顔が180度反転。光を失った2つのガラス玉がギョロギョロと非生物的に蠢き、ついには1点を捕える。無機質に、異質に、ユーちゃんのことを睨め付けた。
「ヒィッ!?」
:こっわ
:あっ(察し)
:ホラー苦手なんですけど FEV検証班代理ちゃん
:ふつくしい……
:人形しぐさが完璧すぎる
:油を挿してぬるぬる動かしたい球体関節すぎる
:なんかコメ欄ヤベー奴らばっかじゃない?
遠くからチャートが粉砕されたクローニンの悲鳴が聞こえる中、場とチャット欄に嫌な沈黙が流れた。弾バカの弾幕ですら一旦止まってしまっているこの空気は……よくない。非常によくない。
場の空気がゲームから、ホラーに塗り替わる気配がする。
『──シテ』
能面のようなボスの口元が、錆びついた機械のような音を立てて動き出す。その奥から溢れ出てくるのは、ひどくノイズが混じった
アカン(あかん)(白目)
『カエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテ!!』
俺に座標を固定しやがったユーちゃんと共に、絶叫するボスから全力の遁走を開始した。
「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
がざがさとした異音を鳴らしているのに足音すらしない人らしくない動きで迫るその姿は、なんというか生理的恐怖が湧き上がってくる。
VRMMOという1から10まで電子で形作られた世界においてあるまじき表現だが………ソレを表現する言葉はひとつ。
悪霊。
そうとしか言えなかった。
:こっわ(10秒ぶり2回目)
:奇遇だな兄弟
:人体って自由なんだなぁ FEV検証班代理ちゃん
:みつを
:あんな閉所で跳ね回るスーパーボールみたいな……その……
:酔ったわ
:さては初見だな? もっとキモい動きしてるよあのGIFバード
:キッショ
「ゆゆゆゆユーちゃん! 捨てて! ゴミ! そんなばっちいのポイっとしてポイっと!」
「モウヤッテルケド、ハズレネェンダワ!」
ぶんぶんと振り回される幾つもの分割線を持ったシールドは、ユーちゃんの腕にジャストフィット。道にへばりついたガムもかくやという強度でその腕に固定されていた。最悪すぎる。
「ふざけるんじゃないんだわ!」
「ダワ!」
「ダワ!!」
『カエシテ、ダワ』
あっ、悪霊さんちぃーっす。
ガラス玉みたいなおめめが怖気が走るほど怖いですね?
『カエシテ』
「「だわぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
くそっ、もってくれよ俺の三半規管。
三次元殺方を追加ァァ!
「パージ! パージ! キャストオフ! リムーブ! アッチョットイケソウ。リムーブリムーブリムーブ!!!」
後ろから弾幕を後光のように背負った(受けている)悪霊から全力で逃げながら、明らかに俺たちにヘイトが向き切った原因であるボスの盾を捨てようとする。捨てようとしているのだが、外れない。
:ざんねんながら ユーちゃん は のろわれてしまった!
:デデドン(絶望)
:ででででででででででんてででんでん
「アッ、アッ、ナンカデタ!」
それでも抗ってパージを試行すること数回、ついにユーちゃんの目の前に1枚のウィンドウが展開された。
流石にまじまじと眺める余裕はないが、チラリと覗き見した限りそこにあったのは無数に連なる数字の群れ。それを見たユーちゃんが顔をみるみるうちに青くして叫んだ。
「ウワァァァァァア!! コレRSAアンゴウジャネェカ!」
「なにそれ?」
「サマーウォーズ」
「おk把握」
あっ、ちょっと呪い掠る♡
HP消し飛んだな、ヤバいヤバいヤバい!!!
:つまり実質的に解呪不可……ッてコト!?
:デデドン(禁断の2度打ち)
:正確には可能ではあるものの実現不可能なほど時間がかかる、ですかね。FEV検証班代理ちゃん
なんか触られたら終わりくさい手を避けて右に跳ぶ、先回りした悪霊を交わすように上へ尻尾のフックを射出して引き寄せ、空中で軌道を変更。弾バカの作った足場兼防壁を踏み込み更に空へ跳躍、入れ替わりでFluoriteさんが一撃を打ち込むのを探知越しに確認しながらフックを外し翼を展開、滑空で体勢を入れ替え天井を蹴って地面へ着地──迫る腕に回避を選択。ユーちゃんが地面を擦り抜けるのをいいことに回転、尻尾の反動で立ち上がりながら左手を瓦礫に引っ掛け走りの軌道を変え、反対から迫るFluoriteさんと手を繋いで身体を入れ替え射出して────んああああやることが多い!!!!
「グポーポン」
《アクションマジック【回避】(笑)! とマスターは仰っています》
乱入ペナルティでも喰らわせてやろうかウチのタンク様よぉ……!
「ヤブサメ、そのまま聞いて下さい朗報です!」
1秒を何十倍にも重ねたような濃密な闘争劇の最中、我らが聡明なるギルドマスター殿のありがたいお言葉がお届きあらせられた。
「装備1つでざっくり与ダメが10%上がります!
スナーーッチ!」
確かにチラリと悪霊をみれば──うわこっわ目が血走ってきてる──HPの減り幅は明らかに加速している。攻め手から俺とユーちゃんが抜けているのにも関わらず、あからさまなほどに。
:ねえこれって新情報?
:なんとびっくりボスの装備が奪える、使用不可になることから攻略wikiには存在しないのである!
:こんなの僕のデータにないぞ!?FEV検証班代理ちゃん
:やめちまえデータキャラ
:検証班ちゃんにデータキャラ辞められたら困るのは俺らマコ
「ユーちゃん! 装備奪いに行くけど余裕は!?」
「アンゴウカイドクニシューチューサセテクレネェカナァ!」
「無理では?」
「イヤナ、コノマエ『チームドラゴン』ガ、ゼンセカイニナグリコミカケテタトキノロンブンニヨ、チョウド"ソインスウブンカイ"ニカンシテモツカエソウナノガアッテヨ」
「歴史的大発見では?」
「Downloaded、カンゼンニリカイシタゼ!」
おお!
「ヨクワカンネェケド、ナンカワカッタ!」
「駄目そう」
しかしまあ、暗号が解ける可能性はあるってことなのだろう。
多分。きっと。メイビー。
「でも奪っちゃうんだよねぇ! これが!!」
この状況は楽しくなったが楽しくない。
だってほら、見てみれば分かる。さっきまでのクローニンの指揮下よりはみんなの顔に笑顔が戻っている。なんだったらクローニン自身もやけっぱちだけど楽しそうだ。
なら、もう1つ引っ掻き回すのが筋ってものだろう。
迫る悪霊に向けるのは矢を番えるむき身の右腕とは反対、ゴツい鎧で固められた弓を構える起点たる左腕。ステ振りをしていないVitのおかげでロクな
『カエシテ?』
こんなタイミングでお披露目することになるとは思わなかったが……開帳しよう新装備! ほんとの本当にリラティック・テルの攻略配信用に取っておきたかったとっておき!!
「喰らえワイヤー新戦術!」
パシュッ、という音と共に左手の甲から発射されたのは小さなワイヤーアンカー。視認すら面倒なサイズのそれを、すれ違うユーちゃん(悪霊のすがた)へ打ち込んだ。
当然、与ダメは堂々の0。尻尾に備え付けてあるものと比べプレイヤー1人くらいの対荷重しかなく、仕込んだ強力な巻き取りウインチに対して鋼線は貧弱極まる。だが、これでいい。自分1人を支えられれば十二分に役割は果たせるのだから。
「クキキキ……ッ!」
食いしばった歯から変な声を溢しながら、ワイヤーを巻き取りターザンの要領で急旋回を果たし悪霊へ高速接近。ありえない軌道で背後を取り──クローニンが超級武装とか言ってた
:あの動き──宇宙人妻!
:宇宙人妻ってなんだよ(困惑)
:そんな変態人妻みたいな
:†スティグマ†戦術って言え
:変態人妻ってなんだよ(再困惑)
:いいだろお前撃墜王だぞ
「ユーちゃん!」
「ガッテンジャン!」
そんな危険地帯のど真ん中へ着陸した理由は1つ。無理がなく、可能な以上、どうせ最後には総取りするつもりなのだから、最初からそれを狙いに行く!
「タマ! アブっさん! ボクで時間を稼ぎます! 盾!」
「
「ほーらフリスビー!」
「わん!(天下無双)」
なんか視界の端に変なのが映り込んだ気がするが無視だ無視。いや、親指立てて装備の中に沈み込んでいくユーちゃんもだいぶ『変』寄りなんだよな……なんだこの空間。
しかし、一気にやることがなくなった。
既にチャートを建て直したらしき苦労人のお陰で、タンクとシールドによる足止めは完成。いつもの確殺の陣が完成されている。となればぺちぺち遠距離攻撃自体は連打できるが……運ぶべき相手も撃ち抜ける対象もいない自分のなんと暇なことか。
「ヨッシャトケタァ!」
そんな閉塞感が打ち破られたのはその僅か数十秒後。くぐもったユーちゃんの声が、あり得ない言葉を告げた時。
:ちょっといま聞こえちゃいけない言葉が聞こえた気がするんですけどFEV検証班代理ちゃん
:RSA暗号解いたってマ?
:いやいやいやいや、ちゃんと鍵3つあったかもだし
:私魔女のキキ! これは信用経済の危機!
「因みにチラ見した限りだとマジでサマーウォーズのラストみたいでしたよ」
:ダメじゃん!FEV検証班代理ちゃん
:やっぱAIは滅ぼさなきゃ
:ウウッ、ユーちゃんノシゴトハ、ヒトヲ、エガオニスルコトダカラ……滅亡迅雷.netに接続
:洒落にならんからやめれ
「カエシテモラッタゼェ、オレホンライノエンザンスペック!」
刹那、足場にしていた武装群が
思わず飛び退いた視界に映るのは、蓮の華にも似た形に展開された無数の武装とその中心でガイナ立ちをかますユーちゃんの姿。
「カエシテェェェ!!」
「モトモトゼンブオレノダヨ!
蓮華の外周に伸びた馬鹿でかい砲身
「シュート!」
ユーちゃんがタンヤオのポーズで突き出した片手に従い、鋼の威様が唸りをあげ──あっちょっこの位置とHPだと余波で死ぬ死ぬマジで死ぬ!!!