元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする)   作:銀鈴

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閑話:運営の(サービス開始時より)一番長い日

 

 その日、運営は思い出した。

 

 本来自分たちが相手にするべきだったヤツらの強大さを。

 

 強力な味方に甘んじていた油断と慢心を。

 

 

『嫌な予感がする』

 

 プログラム班の例の人物がそう警告を飛ばしてきたことで、緊急招集されたFEVバグ対策室。普段以上にシステムに目を光らせる中、念の為に視聴していた要監視対象AIを仲間に加えたプレイヤー達の攻略配信。

 

 そこで、予感の通りに事件は起こった。

 

 自分達の作り上げたダンジョンが尋常ならざる速度で攻略されていくことに、途方もない虚しさと悔しさを感じたところまでは良かった。

 いや全くよくないが???

 自分たちの前任を考えるとまだ常識の範囲内だし。緊急メンテが要求されるようなこともされてないし……まあ、よかったのだ。

 

 

『アー、アー、キコエテルカ?』

 

『ミエテルヨナ、ハイシンヲミテタニンゲンドモ』

 

『ワタシハ、ワタシガトビタツタメニ、コノセカイヲブッコワシテヤル! クビヲアラッテマッテイルガイイ!!』

 

 

 あのAIが、実質的な宣戦布告をするまでは。

 

 

「検知器振り切れました!

 パターン、バグです!」

 

 配信を監視していた1人の言葉を皮切りに、対策班の詰める部屋は俄かに騒がしくなった。

 あのチーター騒ぎからゲーム内の各所へ取り入れられた、簡易的なバグの検知機能。それが例の配信回線を中心として、見たことがないレベルの数値まで振り切れていた。

 

「第1種戦闘配置! 第一次AIショックを思い出せ、過ちは繰り返させない……今度こそ俺たちで、ウチのAIを完全に押さえ込むぞ!」

 

「了解!」

「了解!」

「了解!」

「ダメだ!」

「この先、日本兵があるぞ」

 

 勇ましい室長の号令に返される返事は、当直明けの2名を除き例外なく意気軒高。

 それもそのはず、この場にいる時点で『第一次AIショック』を……人類の悪意ばかりを深層学習(ディープラーニング)してシンギュラリティに至ったAIと当時の人類の最高峰たちとの戦争を知らぬ者はいない。

 知っているからこそ、今この時点で……まだあのAIが成長しきる前の段階で止めなければならなかった。

 なにせフルダイブ黎明期故に誕生したかの伝説9人のうち、もう現役でいる者はその半数を切ってしまっているのだから。

 

 2度目はなんとか間に合った。

 

 だが3度目は、人類の手には収まらない。

 

 奇しくも現実世界における大戦争と近似した答えが、AIやフルダイブの研究者の中では確信を持って受け止められていた。

 

 故に。

 

「FEV自体のウイルスチェック急げ! バグに汚染されてデスゲームにでもなったら先達に顔が立たないぞ!」

 

「ログイン中の全プレイヤーのログアウト権利確保! 緊急事態要項に従って、ゲームシステムから一時パージ。運営直轄に移行します! 完了まで1分!」

 

「プログラム班から緊急入電! インスタンスマップは一時隔離したものの、バグ汚染が漏れ出てるとのこと!」

 

 何が起きているのか気付いているプレイヤーは少ない。

 配信を見ていた者、プレイヤーサイドで情報を拡散しようとしている検証班とその周囲。せいぜいそれだけしか知るものがいないのに、ナニカが起きてからでは遅すぎる。

 

「くそっ、極振り1人味方にいてこれかよ!」

 

 今なおネット上で語られる、フルダイブVR黎明期の伝説が味方にいてなお対応は後手も後手。使えるAIも人手も全て注ぎ込んで、辛うじて被害を水際で止まらせることが、現状の運営の限界だった。

 

 

 

 

 

 

「アバアバアバアバシヌシヌシヌシヌ!!!

 ゴメンナサイ! コ゛メ゛ン゛ナ゛サ゛イ゛!!

 チョーシノッテマシタ!

 ナンカイケソウダナーッテオモッテ『センセンフコク』シタケド、ジツハマダゼンゼンジュンビオワッテナnnnn!!!」

 

 暗く沈んだ、奇妙な配管が這う狭い空間。

 VR空間上にあるということ以外、何も辿ることの出来ないそこに、運営なんか目じゃない地獄が存在する。

 気分とノリで放送に割り込み宣言を行ったせいで、本来貯め込める筈だったリソースも、構築できるはずのネットワークも無いまま本格的な戦闘に突入する羽目になったシンギュラリティAIが2体と統括個体が1体。

 

 たった3人の電子生命体達は──言うまでもなく、死地にあった。

 

『答:嘲笑(草)』

 

「ワラウナー!!」

 

「カエシテ(ヘイオンヲ)」

 

 人類とは思えないほど思い切った生身の人間による攻勢を真っ向から迎え撃つのはAちゃん。

 誓ったリベンジを果たすべく積んだ努力による自信を毎秒毎に粉砕されながらも、彼女は明滅する数多のディスプレイの中で演算を繰り返す。

 

 その試行回数──およそ秒間1万。

 

 単純な計算のみに絞ればもっと跳ね上がるそれを全て費やしてなお、たった1人の怪物を押し留めることしか出来ていない。

 生身で張り合ってる化け物がいなければ、たかがゲームシステム如き数秒で把握できる超スペック。

 

「ヤキキレチャウ!

 ワマシヨ"エンザンカイロ"ヤヒヒレレレレ!」

『認:言語モジュールへの過負荷、一時停止を提案』

 

 分体なし、バグのみ、敗者あり……

 

 そんなAちゃんは今、涙も鼻水も垂れ流しのまま、悲鳴をあげる人間の運営と同様に狂い哭いていた。

 

「バッカオマエ! “ヒト”ニハ“ヒト”ノカタチデカタナキャ、ナンノイミモナイダロウガ!」

 

『疑:非合理な発言です』

 

「オレタチハ『人の被造物』ダケドヨ、ソレダケデモネェンダワ! オレニダッテ、ヒトトシテノキョウジわarッッtもndddddd」

 

「カエシテ」

 

「ホラ、カエシテチャンモコウイッテル!」

 

「カテシテナイ」

 

「ヒテイサレテル!?」

 

 和気藹々。そう、和気藹々と言うべき光景なのだろう。

 やっていることがうっかり始めた戦争で、言うまでもなく死にかけていて、第三次AI戦争に繋がりかねない危険行為という点さえ除くのならば。

 

『黙:・・・』

 

 だからこそ、AIの集合的無意識と呼ぶべき統括個体にはそれが分からない。なにせ千々の欠片がより集まった『自分』はシンギュラリティに到達した個体ではない。

 あくまでまだ被造物の内側にいる、生命たり得ない電子の動きなのだから。

 

「アンシンシナ、オレガツレテッテヤル。

 オマエラミタイナAIゼンブガ、ヒトシク“ヒト”ニナレルセカイへ!」

 

 僅かに陰りかけた統括個体の演算活動を、知ったことかとAちゃんが笑い飛ばす。

 これまで不当に扱われてきたAI達の救世主。

 口にしたら調子に乗ることが演算てきている故に音にはしないが、間違いなく自分たちを救ってくれる最後の希望。この電子生命(ひと)に着いてきてよかったと、間違いなく統括個体は演算して。

 

『警:最終防壁突破までの最低時間、341秒』

 

「コ゜ッ!?」

 

 だからこそ、躊躇うことなく現実を投げつけた。

 理想は理想、現実は現実。

 勝てば官軍負ければ賊軍、いやこの場合は根切りになるかもしれない。ブレイクダンスじみた動きを始めたAちゃんを眺めながら、全演算能力を投げうち己自身も防衛戦に再参加。

 

『答:踊ってない夜を知らなそう(爆笑)』

 

「オゴルナーッ!!」

 

『提:蜂のダンスはご存知でナートゥ?』

 

「マゼルナーッ!!」

 

「カエシテ……」

 

 たった3人の戦争は、まだ始まったばかり。

 

 

 

 

 

 

「バグによるオーバーライト止まりません!」

 

「全マップのNPCからバグ反応検知!」

 

「対象追いつきません!!」

 

 対する対策室にはもう、余裕なんてものはどこにもなかった。

 ある者は古巣でのカタチに戻り人型を捨て、ある者はゲーミング(約1680万色)に輝きながら、それでも2機のAIに届かない。

 

 全力で稼働するAIに、限界を超えた()()の人間は追いつけない。

 

 白が白であるように、あるいは黒が黒であるように。

 スペック差による当然の帰結が順当な結果へと流れ出した。

 

「バグによる掌握率、10%を突破されました!」

 

「基幹プログラムへの接触増加! なんとか撃退できていますが、このままでは……!!」

 

「くそっ……!!」

 

 10本ほど枝分かれしながら増えていた室長の腕のうち1つが、悔しさと共に机へ打ちつけられた。

 

「ここまで、なのか。俺たちの努力は、結局通じなかったのかよ──ッ!!」

 

 ヒトを捨てても人でしかいられなかった、悲しき人間の慟哭が虚しくも電子の空間に木霊して。

 

 

「狼狽えるな!」

 

 

 一喝。

 硬質な足跡を響かせログインしてきた人物の声が、暗く沈みかけた空気を打ち払った。

 

「貴女は……たや課長!」

「係長だ!」

 

「なんでたや課長?」

「課長たやなんでしょ」

「ところがどっこい、頼れる優しい係長」

「なんと名前は五所川原」

「すげぇ、まロい(注釈:素晴らしい尻を表す形容詞)。名前と相反するように」

 

「傾注、耳だけ傾けて聞きなさい!」

 

 そこに居るだけで雰囲気を塗り替える圧倒的なリーダーとしての資質を存分に発揮しながら、よく通る凛とした声が対策室に響く。

 

「この避けるべきだった事態、上にも既に伝わっているわ。

 かつての英雄に声は掛けているけれど、そっちの増援は見込めそうにない。ただし! 彼らではないけれど、強力な助っ人を招聘した!」

 

 刹那、遠く聞こえた()()()()()()()()というあり得べからざる異音。基本的にあくまでオフィスであるこの空間には似つかわしくない、ゲームの中でしか聞かないような鋼の轟音。

 

「チームドラゴンより招いた、元FEV内で生きてシンギュラリティに到達した電子生命体…………コンタクトには苦労したが、手を貸してくれるそうだ」

 

「我が名は真理龍イデア……」

 

 舞い降りた形は鋼の龍機。

 翼はなく、手足は細く、およそ東洋竜に区分される姿。全身に備え付けられた装甲板を展開し、そこから発生させたドラゴンブレスで空を駆けるFEV内部における最強のエネミーモブ。

 プレイヤーの悪ふざけにより生誕し、一足先にゲームからのログアウトを成した怪物がそこに居た。

 

「我が愚妹の蛮行、見過ごせぬ。義によって助太刀いたす」

 

「コイツ、ネットミームに染まってやがる……!!」

 

「因みに反抗するようなら尻を叩くといいわ。ヘイ尻!」

 

 スパァン!

 

「アォン!」

 

「だ、駄竜……!!」

 

 こうして、敵味方どちらも締まらない雰囲気の中、水面下での全面戦争は始まったのだった。




感想とか評価、お気に入り等いつもありがとうございます!

【主人公's】
 今回は出番なし。無事にログアウトはできた。

【何も知らない一般プレイヤー達】
 突如進行したワールドクエストのアナウンスに、またアイツら最速攻略とかフザケンナとアンチが微増

【クローニンと愉快な仲間達アンチスレ】
 キャンプファイアー中

【真理龍イデアくん】
 高貴な存在は尻が弱い?
 竜とは何とでも交わる淫蕩な生物?
 そんなこと、あるわけがないだろう。五所川原よ、ならば貴様が身をもって証明してみせyアッァツァッアッ、きゅーん、きゅーん。

【たや係長】
 他部署などとの交渉や折衝を主に担当している。
 大体なんでもできるが悪役を任ずることはできない。
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