元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
我が名はステガマリー・アニマスフィア……
あのクエストクリア後の強制敗北&強制ログアウト事件から数日。
あからさまなバグの気配やら怒涛の情報をやら浴びせられかけた、俺たち【クローニンと愉快な仲間達】は────
[p.m.21:07(
[フルダイブ会議室システム-KK phobia-]
「Sパラミスで回避は-2! 翼を授けてあるから飛んでて命中は+1! ボスは泥濘みにハマっててさらに-1!」
「
「ウオオ、ダメージロール! グヌ……ツマッタケド、ココデ“ヘンテン”ヲキッテ[1:2]を[6:5]ニヘンコウ! [4:4][5:4][5:5][3:4]でサラニツイカロール!」
カラカラとフルダイブVR上の卓でダイスが転がる。
「ぐぽーぽん!」
《黒Sを切って防護点は-5》
「音の弾幕で宣言は封印、指揮で打点は3点上がってますよ!」
「モロモロガッサンシテ、132テンノダメージダァァァ!!」
「馬鹿な、4撃全て命中だと!?
あっあっ生死判定無理な火力じゃんならばッ!?」
「キマッタゼ……アトハ、タノンダゼ」
無駄に精錬された無駄なフルダイブ技術により、目の前に投影されたボスがずんばらりと3倍くらいHPを消し飛ばされてオーバーキル。得体の知れないクライマックスの熱の中、魔法の刀と銃を構えたユーちゃんのHPが0になる。
「ユーちゃんが(反動で)死んだ!」
「この人でなし!」
「
つまるところ。
絶賛、俺たちはFEVから離脱して別のゲームを遊んでいた。
フルダイブVRTRPGとは一体。
そんなことを思わないこともないが、実際ボイスチャットでやるより楽しいのだろうか? 捜査のためにジャングルの奥地に向かった我々はウンババウバッホラオラオハー!(気さくな挨拶)
問題はなかった、いいね。
「いやー、久しぶりにやると楽しいですねTRPG!」
「なら、次はダイスいっぱい振れるシステムにしましょう。やってみたかったんです謀略持ってシングインザ雨粒の矢!」
「やっぱりあの秘伝導入して、将来樹木と化す縛りで強化するしかない、か……?」
「ぐぽーん(でもそれやると僕とヤブサメのPC結婚しない?)」
「将来的に木になれる神官と、将来的に木になりたい秘伝術師……お似合いみたいだね、アブっさん」
へへっと鼻を擦る。
エルフの神官(牝)と人間の魔術師(牡)、どうなるかはわからないがロールプレイは捗るだろう。
「では、これより結婚してくれやぁ!ループの証明に入ります」
「ぷっびがぁん!(拒否!拒否!人の仔など孕みとうない!)」
「
シャカシャカパチンと互いにエアシャカパチで威嚇しながら、セッションの残り火のような熱を楽しんでいる……そんな時だった。
「イヤ、チガウダロォッ!」
遂にツッコミを我慢しきれなくなったユーちゃんが暴発した。
「おや、ボクのGMでは不服でしたか? それともシステムが? 仕方ありません、なら次は王道を行く──」
「ソコハチゲェ、メッチャタノシカッタ。マタアソビタイカラ、ジカンアッタラサソッテホシイ」
「よっし! じゃあ次はボクもプレイヤーやりたいので、誰かGMお願いします」
仕方ないにゃあと俺が手を挙げ、流れを察したのかアブっさんが手を挙げる。次いでFluoriteさんがフライドチキンを掲げ、弾バカが一番最後に。どうぞどうぞとお決まりの流れ、一手遅かった弾バカがGMとなることが確定した。
「弾幕は義務ですよ、市民」
終わった──………
「ダカラ、ソウジャナクテサァ!」
ほう、天丼ですか。大したものですね。
「フツウ、ナンカコウ……モットアルダロ!
アンナコトアッテ、イロイロ“キキタイコト"トカサァ!」
ぜぇぜぇと肩で息をしながら、堪えきれないとばかりに吐き出されたユーちゃんの言葉。
確かに
「あります? 聞きたいこと」
ということで首を回して聞いてみるが、全員が特になにもないといった顔をしている。
「あ、強いて言えばアレですね。ボクらFluoriteがやらかした時に『@ピザ』って古の煽りを使ってましたけど、ピザデブじゃないことが確定したのでもう使えないのは寂しいかも」
そんな中でポツリと呟かれたクローニンの言葉に、あーとなんとなくの声が漏れた。FluoriteさんがAIだったと言われても、衝撃より納得の方が優っちゃったし。
「
「だっていつログインしてもオンラインでしたし、その食欲ですし、浮世絵離れしてましたし。それはそれは、もう巨大な体積をお持ちか重病人の2択かと──ねえヤブサメ!」
「流れ弾ァ!」
「trick or eat?」
「それどっちを選んでも喰われぎゃーーーっ!?」
左腕にピラニアめいて噛みつき咀嚼を始めたたFluoriteさんを、ほらほらとユーちゃんに見えるように指差した。これでマトモな人間だと言うのなら、友人に向けるには不適切な言葉が出てきそうになる。
「
「嘘だ!」
「
「ひ、否定できない……」
Fluoriteさんの親*1は、かのネット上の伝説の1人にして現役ブロガーの某存在であることは明白。
『話が通じない、悪い意味じゃなくて』『未来視でもしてるのかって会話『会話はA→B→Cなんだ、A→C→Fは会話じゃないんだ』『助けてシャンク』『頼むから常人に分かる速度で話してくれ』『AにB'で返せとは言ってない』『待って!助けて!』『止まっ』『かゆ、うま』
本来そんな食欲とは無縁の処理速度の怪物だったらしい逸話ばっかり残ってる人だし、そう考えると食欲が全面に出てるFluoriteさんはまだマシなのかもしれない。
「ってことは、Fluoriteさんって第一世代……?」
「ふぁい」
「はへー」
第一次AIショックの頃から活動してるということは、相当長寿というかなんというか。俺と同年代くらいか。
「と、いうことで!」
パン、と乾いた音。
肘くらいまで感覚がなくなって来た左手をそのままに振り返れば、若干重くなってしまっていた空気を変えるようにクローニンが手を叩いた。
「生身の人間だろうが、電子の生命だろうが、ぶっちゃけボクらのスタンスは変わりません。世代的にボクやタマは忌避感ある方ですが、FluoriteがAIだったなんてビックリ事実のおかげで、個々人の間でなら特になんともないことが証明されてますし」
「デモヨォ」
にへら、とゲーム外にまで侵食して来た美少女ボディでクローニンは笑顔を浮かべて。
「ユーちゃんが責任を感じる必要はないんです、なにひとつとして」
語られたのは、幼子に諭すような柔らかい言葉。
「ボクらのチャンネルが絶賛大炎上していることも、
ゲーム内の拠点が燃やされて無くなったことも、
アブっさんには見せられないくらい個々人のSNSが放火されてることも。全部悪いのはボクらじゃないんですから」
誰もFEVどころかオープンなネット空間に戻っていない理由。
結局のところそれは、人の悪意が原因だった。
コトの発端は、インターネットのガンジス川みたいなSNSであの配信が取り上げられたことだった。
一先ず全員が無事にログアウト出来たこと、FEVのデータ破損もハードに異常もないことも確認できて、ああ良かったと。何が起きたのかも知りたいし、さあ復帰を──なんて話していたそんな矢先。
気がつけば全てが燃えていた。
インターネットの悪意曰く、俺たちは第三次AI戦争の引き金を引いたアホなんだとか。でもって謝罪しろやら、死ねやら脳みそレンチンしろやらなんならかんやら、とんでもない誹謗中傷の嵐が巻き起こっている。
現在進行形で。
「ボクらの中で一番守られるべきアブっさんがあの形でプレイしてたことは、不幸中の幸いでしたね。一番リアルバレの可能性が低い」
「ぐぽん?(なんで僕だけ?)」
「You are 未成年!」
ずびし!っとクローニンが指差した通り、俺たちの中で未成年はアブっさんただ1人。その1人が一番身バレしにくいプレイスタイルだったのは、本当に良かったと思う。燃えてるMyアカウントを見ていると特に。
「したり顔で頷いてますけど、厳密にはヤブサメもですからね。分別つく年齢でしょうから、道を踏み外さない程度にしか口出しはしませんが」
「弾バカが真面目な話してると違和感しない」
「なんだとぉ……!?」
一応まだ20にはなってないから、俺も未成年ではあるか……上の世代的には。
「ふん、大人ぶるなら酒と煙草が呑めるようになってからすることですよ」
「なんだとぉ……!?」
「ハイそこの野良猫共ストップ。ユーちゃんに説明出来ないでしょうが」
やんのかやんのかステップを踏んでいると、まだ空間に残ってたらしいGM特権で強制的に距離を取らされた。中間地点に残されたのは、左手咥えたFluoriteさん。なんてこったい裸足で駆け出さなきゃ。
「見ての通り、ダメージが0とは言いませんがボクらは大丈夫です。
そもそも燃やしてるのも、権力者気取りのアホが取り上げた話を信じ切ってるバカばかり。相手にするのが面倒なので関わらないだけで、言っちゃえばカモねぎに近い」
なんだったら、弾バカのホームであるリンパにすら結構な輩が押し寄せたらしい。淘汰圧に負けて大半が消えて、一握りは定住したらしいが。
哀れな犠牲者に祈りながら、冷静に語るクローニンを援護射撃すべく残った右手を挙げて発言の許可を求め──あ、OK?
「友達の妹がバーチャルアイドルやってる伝手で、誹謗中傷に強い弁護士さんこっちに引き入れて行き過ぎた奴はバンバン訴えてもらってまーす!」
配信のお陰で溜まっていたスパチャを惜しげもなく全額投入した。ので正確には依頼者はクローニンで色々やりとりを押し付けてしまった形になるが、なぜか普段と違ってすんなり受けてくれて助かっている。
「オレノセイデ、ハジメテノ、トモダチニッ、、コンナ、ヒドイオモイッ、サセテ……」
それでも。
ボロボロと堰を切ったように涙をこぼし、ぐずぐずに崩れた顔を両手で何度も、何度も、拭い続けるユーちゃんの姿は見ていられない。
痛々しくて、胸が辛くなる。
「あーもう、泣かない泣かない。泣いていいのは誰も見てないところか、親の腕の中だけなんですから」
「クローニンママァ……」
「誰がママかって、まあいいですが」
「ぶっぴが──敢えて普通に話すけど。ボクらだってユーちゃんに泣いて欲しくて遊んでるわけじゃない。それとも、ユーちゃんはボクらに怒ってほしい?」
「(フルフル)」
「すごい、効果音が口から出てる」
「カガミミロヤ」
「ネットは燃えましたが俺たちは無事。ユーちゃんは無事シンギュラってゲーム外まで遊びに来れるようになった。危機は脱してハッピーハッピー」
「ゲームナイハオオアレダゼ?」
「そんなの運営に任せとけばいいんですよ。俺たちはみんなプレイヤー、ユーちゃんだってそうお墨付き貰ってるんですから」
「気の利いた言葉の代わりに綺麗な花火は如何でしょう?」
「イラネェ」
「
「モットイラネェ」
だからだろう。
誰が言うでもなくユーちゃんを抱き止めたクローニンを中心にして集まっていた。ユーちゃんの親が誰なのかと問われれば、それは間違いなく俺たちが大部分を担っているのだろうから。
そうして、いつしかユーちゃんの涙がおさまった頃。
俺たちの中心に、空から1通のメールが落ちて来た。