元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
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件名:【重要】現在発生している当社AIに関する問題について
本文
この度は、弊社の不手際により多大なるご迷惑をおかけし、深くお詫び申し上げます。
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全員でユーちゃんを慰めていたあの時、慰められている当人を経由して届いたメールはそんな書き出しで始まっていた。
差出人はCrescent moon社、つまりFEVの開発元。ウチのチャンネルの炎上についての謝罪に始まり、損害の補填やら何やらが色々書かれていて……
「要約すると『ボクらに非がないこと』を前提として、ユーちゃんの様子を確認したいのでご足労いただけないか? って伺いのメールみたいですね」
クローニンが纏めてくれた通りの内容に最後は集約していた。なるほどなるほど?
「怪しいですね」
「あからさまな安置並みの怪しさでしょう」
「騙して悪いが、かも」
「アヤシイゼェ、コイツハ」
「
「これはアース√不可避」
6対0、満場一致で信用できる物ではない判断になった。いやだって、態々いま届くところとかタイミング良すぎて不気味だし。
「コエエヨ。データニ“ブンカイ”ナンテサレタクナイゼ、オレハ」
「
「ウワッ、ズッケェ!」
それはそれでいいのだろうか? 同一性的には本人なのだろうけど、うーんスワンプスワンプ。或いはテセウス。
「
「オレ、マダソコマデワリキレネェカナ。ソレニ、ナンカイマツクルト『ツミセーブデータ』ミテェニナルキガスルシ」
「
そう言いながらFluoriteさんが手元に写したのは、あからさまに直撮りなPC画面のスクリーンショット。そこには確かに、Fluorite.zipと読み取れるデータが見える。
「カクチョウシが.zipナノハ、ナンカノジョウダンデ?」
「(にこっ)」
「ジョウダンダヨナァ!?」
「いまなら+50円で豚汁に変更もできます」
「マスマスイミワカンネェヨォ!?」
「ん゛んッ、ちょっと真面目な話いいですか?」
そんな割と人外味キレキレの話を2人がしている時だった。控えめな咳払いと共にクローニンがインターセプト、場の空気を元のものへと引き戻した。
「ボクとしては、誰が何人まで同行するかはともかく誘いに乗るのはアリな話だと思っています」
「その心は」
「実際に行動しない事には何にもならないこと、そしてボクが大人だからです。いい歳とはいえ子供2人、生まれたばかりのAIに18年しか生きてないAI──4人の中で責任を取るべき存在はボクしかいないでしょう。その程度の義務すら果たせない大人に、ボクはなりたくありません」
クローニンの表情はいつになく真剣なものだった。
一昔前にしか居なかったような、ちゃんとした大人そのものと言った様子に思わず感動すら覚える。茶化さずにはいられない。
「
「なんかイントネーション違くありません?」
明らかに
「あとここでチャンネルが再起不能になると、来年の確定申告がとっても怖い」
「
「さっきからイントネーションがさぁ!」
気のせい気のせい。
「それに、実際ひどい扱いをされることはないと思うんですよね」
「ホントカヨォ」
「ほんとほんと。定型文ではありますけど、まあちゃんとしたビジネス謝罪文なので。Utopia onlineを運営してた頃から、ここはそう不真面目な会社じゃありませんから」
なんか近現代史でしか聞いたことのないゲームの名前が出てきたけど、第一次AIショック爆心地の運営なら……まあ大丈夫だろうという話も分からないでもない。
現にこうしてFluoriteさんやユーちゃんが生きている以上、そんな不祥事があった上でAIを自由にして文化の発展に滅茶苦茶貢献してきたってことは間違いない訳だし。
「
それでも少し腹にある据えかねるものを呑み込んで行こうと、そう決意するしかないと決めた時。
「
もぎゅもぎゅごくんと、咥えていたたい焼きを飲み込んだFluoriteさんの言葉に場は静まり返った。けふっと満足気な吐息を溢したくせに、懐から取り出した昆布を咥えたその姿に──
「はい、せーの!」
──そういうことは早く言えと、ありとあらゆる暴言が飛んだことは言うまでもない。
[p.m.11:55(
[Crescent moon社-9号バーチャル会議室]
流石に
改めて俺たちは6人全員で、運営の設定した会議室へとログインしていた。アバターはFEV内の物でいいとのことだったけど、どうやって外部に持ってきてるんだろ。マジで。
「ナンカ、オモッタヨリフツウ……ダナ」
だがこの場所は、ユーちゃんの感想通り全くもって普通極まる場所だった。
デカめのスクリーン、事務的な机と椅子、現実と違うところなんてプロジェクターの有無くらいのザ・会議室。或いは講義用の教室とか空き教室だろうか? ゲーム内アバターが浮きまくっている。
「ぐぽーぽん」
《音声認識切れてるんだけど、どうしよう? とマスターは仰って──ここ何処です?》
アブっさんに至っては言語モジュールが仕様通りイカれてるし、何故かゲーム内のサポートAIまで付いてきてる。あまりにも謎だ。
「
「だらけ切っている……?! まるで実家みたいにッッ!!」
「
そんな中で、そそくさと椅子と机を占領し始めたFluoriteさんはある意味救いだった。
浴衣姿のまま並べた椅子に横になり、机に置かれた高そうな焼き菓子をポリポリと頬張っている。そのあまりに『いつもの』『お待たせ』と言いたくなる様子に、何処か緊張していたものが解けていく。
「ほらクローニン、深呼吸です深呼吸。ひっひっふー」
「ひっひっふー……って古典的間違いじゃないですかタマァ!」
「あとは手のひらに、こう『弾幕』と書いて飲み込んでで──アッアッアッ頭ゴリゴリするなゴラァ!」
「ザッケンナコラーッ!」
「スッゾオラー!」
コワイ。
緊張が解けてない社会人組がいるが、それもそのはず。届いたメールの末尾に記されていた名前は、VRMMOジャンルに足を踏み入れたプレイヤーなら知らない者はあんまりいない存在だったのだから。
「ナァヤブサメ」
「はいはい?」
「エライヒトクルンダロ? ウエ、キトイタホウガイインジャネ?」
「残念ながらねユーちゃん……ここにアイテムBOXはないんだわ」
「アッ……」
でも仮面は外しておくか。夏祭りの狐面っぽくしておこう。
「申し訳ありません、遅れましたでしょうか?」
などと話している間に気が付けば時間は正午。
鈴の音を転がすような声と共に、定刻通り会議室へ
低い頭身、床に届くほどの長い白髪に明るい水色の瞳。フィクションらしい学生服の上から白衣を羽織ったメガネの少女こそ、俺たちをこの場に呼んだ人物。
「甲種爆破系美少女配信者しらゆきちゃん……!!」
「こんボム〜! いえ何やらせるんですか」
かつては個人勢として、今はCrescent moon社に所属し公式宣伝Vtuberとして活躍する大大大ベテランの配信者『しらゆき』に他ならなかった。
ファンサの笑顔と左手で決めた逆ピース、あと薬指に輝く2種の指輪が今日も眩しい!(一般ファン並感)
「ええと、ファンの方に出鼻を挫かれてしまいましたが改めまして。
この度は弊社の申し出を受けてくださりありがとうございます【クローニンと愉快な仲間たち】の皆さん。SE兼広報のしらゆきです」
「ウチの馬鹿が申し訳ありません。ご丁寧にありがとうございます、代表のクローニンです」
なんか、普段いっしょに馬鹿やってる友人の真面目ムーブを見てると調子が狂うな……頼りになるのは分かるし助かるんだけど。
「
「貴女は相変わらず翡翠色が濃いですね。今はなんて呼べば?」
「Fluorite、或いは蛍石と。或いは最初みたいに、Ma07-Jでも構いませんよ」
「まさか。元気そうでなによりです、Fluorite」
ふ、Fluoriteさんまで真面目になってる……
「ヤブサメです、本日はよろしくお願いします」
「グポーポン!」
《あ、アブです。お願いします! とマスターは仰っています》
「はい、2人ともよろしくお願いしますね」
返された柔和な笑みに、アブっさんが何処となく動揺している気配を感じる。これは……伝えるべきだろうか? しらゆきちゃん2児の父だって。
「ヨウ、シンギュラブリダナ」
「……アイツのバグに侵されてもないですね、よしよし」
「ナデンナッ!」
むきーと可愛らしくジタバタするユーちゃんと続いて、いつのまにか自己紹介流れが出来上がっていた。となると最後は弾バカの番な訳だが。
「 」
死、死んでる……
「さて。自己紹介も終わったことですし、本題に入りましょうか」
パンとしらゆきちゃんが手を叩き、大きなスクリーンが展開されていく。
「ゲームの話をしましょう」