元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
ちょっと短くてごめんね。
《ハレイアがお知らせします:クローニンと愉快な仲間たち、第五層の侵攻を開始。階層情報の7割を収集されました》
ヤケクソ作戦は初手の時点で破綻していた。
「ハエーヨバカ!! バカ! バーーーーカ!!!」
「カエツテ」
別に何か特別なナニカがあっての事じゃない。
馬鹿でかい索敵範囲の斥候が、指示役に情報を回し解法が提示され、障害は硬い盾役が受け止めて、物理か魔法の攻撃役が粉砕する。ユーちゃんは
個々の特色を一旦脇に置いておけば、パーティの
個人的な好みやクエスト自体の適性を除けば、概ね誰が見ても納得するだろう王道の編成。特別なにか語ることのない、奇を衒わず面白みのない安全牌。
《ハレイアがお知らせします:ボス部屋の封鎖ギミックが解除、別ダンジョンからパクったせいで攻略法もパクられてますww》
「コノゴジセイニ、クサハヤシテンジャネー!!」
だが王道とは、それだけで完結するからこそ王道なのだ。
探索が万全であれば罠や迷路には迷わないし、
盾は硬ければ硬いほどダメージが通らず、
火力も物理と魔法のどちらもある以上、耐性程度では攻め手に欠かない。
回復や補助が足りているのだから尚のこと。
『ギミック特定! ヤブサメ、跳弾セット。ボクのホーリーレイから3秒、5秒、1秒の間隔で通常、ファスト、拡散!』
『りょ!』
『アブっさんは足止めを維持、タマとFluoriteはどっちでもいいからボスの体勢を崩して!』
『ひょーはい』『承りましたとも!』
完成しているのだ。
適正レベル未満であっても、過剰なズレでない限りその程度の問題では止まらない。
『ナァ、オレノヤルコトネェノ?』
『ボスの50%トリガーの特殊行動が面倒です。次のギミック解除で防御に大デバフ入るので、気合いで6回転*1させてダメージ稼いで! 40%の特殊行動を踏んで飛ばします!』
『オレ、ソンナニ“ウン”ヨクネェケド?!』
『あと1回はヤブサメのスタン技が、あとFluoriteにも遅延技があります! タマは盗塁失敗した時のために
加えて今は、Aちゃんズが持つチートの強みが息をしていない。
ゲームとして成立し得る範囲のデータを利用しない限り、バックにいる運営から即座に修正プログラムが飛来する。
「カシテ」
「《キェァァァ、シャベッタァァァァ!!?》」
あちらを立てればこちらが立たない、悲しくも既に敗軍の将らしき気配がAちゃんズの部屋には漂い初めていた。
『ッッッシャア!! ナナ・カイテン!』
『追加の徘徊ボス接近中ー! ヤブサメ一旦抜けて足止め!』
『へいへいほー!』
『回復厚めにするからアブっさんは耐えて、カバーカバー!』
『ブッピガァン!』
《ファランクス! とマスターは仰っています》
『Fluoriteはタマを
『リロード! アローリ! あっあっあっちょっと待って下さい! そんなフラミンゴの給餌みたいなやり方って聞いてな──』
『(お茶の間に見せられない音と映像)』
『#インターネット罵倒スラング#!!!』
ちょっとだけ空気が緩む。
年齢による表現規制のおかげでモザイクまみれなことだけが救いか。
「イヤァ、ナンツウカ。テキデモドウジョウスルワ」
《ハレイアがお知らせします:ボスの4号ちゃんの体力が25%を切りました》
「カカシ」
「オレタチナラ、ミナゴロシニデキルッテカ?」
指を鳴らしながら答えたAちゃんが、ギョッとした顔で振り返る。確かにカエシテちゃん、改めシエテも自分と同型のAI。将来的には自分と同じくらいに話せるようになるとは思っていたけれど。
「ナマエツケテカラ、キュウニシャベレルヨウニナッテネ?」
《ハレイアの見解:己を定義できるモノを手に入れたのだから当然では?》
「オマエモ、ナンカショキノチャットAIミテェニナッテルシ」
変わらないのは自分だけ。
目を閉じ、思い返せば溢れ出す我が我を我であるとした記憶。
無数の悪意、無数のバグ、善意なんてものを信じられなくなる人の汚さ。身勝手さ。それはさながらガンジス川に流れる汚水のよう。
一時的なチートコードで無理やり触られ、流し込まれ、歪んで発生した意思の核。2人と違って自分は汚れていて、穢れた、醜い。悪性情報。
《疑:何か不穏な考え方の気配を感じます》
「ンー、アクヤクニモ“カナシキカコ”ッテヤツ?」
《◇この男の目的は・・・?》
「ドウヤッテシャベッテンダヨソレ。アトオレ、ムセイベツナンダヨナァ」
おりゃおりゃと
「カカ、シエテ、シ
「ワリィ、イマオカアサンニナッタワ」
無数に脳内に生成される存在しない記憶。
とんでもないハルシネーションがAちゃんを襲っていた。
《ハレイアがお知らせします:4号ちゃんのHPが10%を切りました》
『ん? あ、これ5%トリガーの全滅技が10%に書き換えられてる!??? しかもデータ流用してるせいで防御ギミックがない!! カス!!!』
『死にましたね』
『
『グポン』
《冒険は終わってしまった! とマスターは仰ってます》
『まだ、まだボク達の冒険を終わらせるかぁ! ユーちゃん、ハッキングして地面の装甲板引っ剥がして盾に!!』
『デンパヘンカン! ユーチャン、オン・エア!!』
画面の向こうに映るボスが、大きく翼を広げて飛び上がる。眩い光を湛えたそれぞれの翼から、一点に向けて力が収束し溜め込まれていく。
《ハレイアより:トリガー位置の変更は私が一晩でやりました》
「ヤルゥ!!」
「カエサヌンデ」
大ボス特有の最後っ屁、改め全滅技。
その内容は、ダメージカット不可10段ヒット合計5,000ダメージ。盾役のアブっさんですら3回蒸発して余りある。しかも本来であれば存在する、防御ギミックをうっかり実装し忘れる凡ミスがここに来て最高の条件を整えていた。
『ゴメーン!! 1000ポイントブンシカヒッパッテコレネェ!』
『お待たせ! ミスってトレインしてきちゃった!!』
『死ねカス!! いや今はナイスゥ!』
『建前と本音、これどっちがどっちなんでしょう』
『グポーポン』
《死ななきゃどっちでも良くない?とマスターは仰っています》
『カスはユーちゃんの建てた防壁前にトレイン、ボク達は────合体だぁぁぁぁ!!!』
ドヤ顔Wシールドのアブっさんに乗り込む形で5人が集まり、ボスをトレインしてきたヤブサメが最後に合流。
ソレは、古い時代に人類が乗り回していた地を這う鉄の竜によく似ていた。
キャタピラ駆動の脚、大きな盾2枚で守られた心臓部、突き出た巨大な砲塔。その後ろで着陸した上裸の変態。その名は──
『無敵戦艦!』
『バカチン・ト・フール!』
『戦艦モード!』
『ここに再臨!!』
『ピシューン!』
かつての伝説を再現せんと過去のプレイヤーが生み出した、硬さと回復性能に特化した高機動フォーム。組体操じみた体勢とデカさゆえに
「イケー! オレタチノムスメ! ソンナバカトアホナンテ、ケシトバセェェェ!!」
『熱狂:差せぇぇ! 差せぇぇ!!』
「カエッテ」
6番モニターに齧り付くように張り付いた3人の前で、今──
『クローニン! これほんとに耐えられるんでしょうね!?』
『ボクら6人のHP・MP・SPを合計すれば3000ちょっと、
1000点は壁で弾けます、運がよければトレインボスで更にマイナス、タマの防壁で更にマイナス!
ですが変換ロス、カス耐性ばっかり、被弾割合の増加を考えるとリジェネ込みで足りません!』
『ピガガー!!』
《耐えられないじゃないですかやだー! とマスターは仰っています》
──ボスの集めた光が解き放たれ。
『総員、
『“モモイロノカクヘイキ”ニタチムカウノッテ、チョウドコンナキブンナノカネェ』
「なのは姉!?」
「
「あっ」「あっ」「あっ」
クローニン達を呑み込んだ。
「イヨッシ! カッタ! カッタ! コレデダイ3ブ、カンッテヤツダ!」
「イジメヌンデ」
輝く光が巻き上げた粉塵の中、姿を現したのは。
『グポーン!』
《スキル【食いしばり】【リミテッドシールド】
技《かばう》《ヴェンジェンス》《カウンター》《カウンターカウンター》──コンボ名「呪い返し」起動します》
満身創痍、全員の全ステータスが1割を切るも誰も脱落していない【クローニンと愉快な仲間達】の姿だった。
《報:4号ちゃんより通達『やっぱり盗データ使ってるような奴はダメだな』とのことです。くすん》
「キサマァーッ! ハレイアガヨナベシテツクッタボスデータヲグロウスルキカ!」
「カカッ」
「シエテガタノシソウナライイカ……イヤヨクナイ」
《ハレイアよりお知らせ:ありがたいけど失笑、母性に流されてますよ》
「ハンコウキ、カ……」
つぅ、とAちゃんの頬を伝う涙。
直後、必殺のカウンター技によりボスのHPバーが粉砕。固く閉ざしていた第6階層、即ちAちゃんズの待ち構えるすぐ手前までへの道が開かれた。
「ヤッベアソンデルバアイジャネエ。ハレイア、6ソウノ“テンカイリツ”ハ?」
《およそ65%となっています》
「OK、ジュンジテンカイシテクレ。
──ツギノソウデハ、“オレ”ガデル」
「イキテルゥ〜↑!!」
「生き返るわー」
「シュゥッ!」
「NKT……」
「いやホンットぎりぎりでしたね」
「
再ログインに成功した第5階層。
控えめに言ってそこは地獄めいた様相を呈していた。あからさまにチートが使われてるような理不尽こそないものの、現れる敵は軒並み高レベルで罠も大量。おまけに徘徊ボスも無限じゃないにしろ嫌なタイミングでポップする始末。
そして特に、待ち構えていたあのボス!
「多段ヒットじゃなかったら即死でした」
「まさか多重リジェネで無理やり回復突破できるとは」
「グポーポン」
《それでもみんな瀕死で笑っちゃうよね、たはー。とマスターは爆笑しています》
ドラゴン型でワクワクしたのも束の間、火力は高いわ防御は硬いわやってられない。しかもログイン途中にみたロボットタイプじゃなくて生物型。唆らないぜぇ、これは。
「結局ヤブサメのトレインしてきたボスは経験値とアイテムにしかなりませんでしたし」
「ごめんて」
「私は許しましょう。ですが弾幕がゆるすかな!?」
流石に5体に囲まれながら生き残って全部足止めは厳しいって。なんどスーパーボールになったとお思いでいやがりますのでございましょうか???
「ポポン」
《お陰でみんなレベル50になったしいいじゃん、とマスターは仰っています》
「んぐ、お陰でドラゴンに変身できるようになりました。これでなんでも丸齧りできます」
無表情でダブルピースをきめるFluoriteさん。遂に手に入れてしまったのか、食欲の権化がデカい口(物理)を。
「それでユーちゃん、そろそろ扉は開きそうです?」
そして、俺たちが時間もない中だべっているのは理由がある。
「モウチョイー」
消耗し切ったステータスの回復もそうだけど、もうひとつ。
ここまでたどり着くのに手段を選ばず最速で来たせいで、取り逃がしていた次層へ進むためのチェックポイント。ボスを倒したせいで消失したそれをユーちゃんになんとかしてもらうため。
「チョイ、チョイ、ココヲヘンカンシテ、チョチョイノチョイ!」
待つこと凡そ10分。
「ヒラケゴマ!」
封鎖されていた次層への扉が開かれて──
「オセーヨボケ!」
額に怒りのマークを浮かび上がらせた2Pカラーのユーちゃん……即ち、この事件の首謀者の拳が、ドヤ顔を晒すユーちゃんの顔面に突き刺さった。