元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする)   作:銀鈴

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65話:昨今の無敵イベントバトルは攻略されるもの

 

 【強制敗北イベント

 

 それはいにしえからゲームに存在する、カタルシスのための助走距離に等しいイベント。

 大体が専用のムービーと共に始まって、ここまで何発撃たれようがピンピンしていた味方NPCが何故か銃弾の1発で死亡したり、突然のQTE*1でプレイヤーにダイレクトアタックをかましてきたりする。

 

 ……が、それも昔の話。

 

 昨今のゲームではそもそも存在しないか、あったとしても数が限りなく少ない。加えてそういう無敵イベントバトルのほぼ全てが、プレイヤーの腕次第で攻略できる可能性を残されている。

 フルダイブ式のVRが全盛の時代になってからは特に顕著で、ユニーククエストと同じく滅んでしまったゲーム文化の1つ。ならば何故滅んだのか?という話になるが、それはつまり──

 

 

 

「クソゲー!」

 

 

 

 その一言に尽きた。

 

[墜落戦艦フツギョウ・LOSE MOVIE 1]

 

 一番最初にそう叫んだのは誰だったか。

 誰でもいいか。

 詰まるところ、『自由に自分の身体を動かして遊ぶ』フルダイブ式のゲームと『自由を制限されて好き勝手に動かれる』ムービーシーンとの相性はまさに水と油。

 ときおり界面活性剤入り(例外的に面白い怪作)はあるものの、年々堪え性というものを失いつつある人間の中で、段々と風化し忘れ去られていっていた。

 

 

『ケサレテタマルカコラァ!』

 

 

 故に。

 

「総員退避、回避ーー!!」

「ボムと撃ち返しは試しますが、ダメ元ですよ!」

 

 空から落ちてきた光の流星群に対応できたのは、社会人組2人だけだった。

 

 乱れ舞う閃光、飛び散るポリゴン。

 

「ピガァン!?」

《盾が溶けたんだけど!? とマスターは驚愕しています》

 

 当たり前のように盾で防ごうとしたアブっさんの左半身が消し飛んだ。

 

「む、ふうひょうほーへひ(通常攻撃)ひゃ(じゃ)はへれふは(駄目ですか)

 

 反撃を試みたFluoriteさんは尻尾が分解され消滅。

 

「間っ、に合わな──!?」

 

 咄嗟に回避はしたものの、俺も右腕が巻き込まれた。

 ユーちゃんは……

 

「チョチョチョッ、オレダケナンカオオクネェ!?」

 

 ……前と左右の3方向から叩きつけられる光の柱に、0と1の数字で作られた防壁を展開して耐えていた。

 明らかにゲームシステムじゃないAI的パワーを感じるそれは、ついさっきボスの最後っ屁から守ってくれた壁を生み出した時と同じもの。それが、瞬きをするたびその厚さを減らしていく。

 

「コンノォッ!」

 

 確信があった。

 人間以外にこの光が当たったら終わりだと。

 

 直感があった。

 このままいけば0と1の壁は光の柱を防ぎ切ると。

 

 だからこそ、自分しか助けるのが間に合わないと理解した。

 

「ユーちゃん!」

 

 言葉より早く尻尾のアンカーを射出、ウインチの巻き取り時間すら惜しく全身でユーちゃんを無理矢理引き寄せる。

 

「オッブェ!?」

 

 くの字に折れ曲がりながらユーちゃんが離れた直後、寸前までいた空間が光に飲み込まれた。

 光の発生源は、下。

 地面の内側を通る3Dマップを見ていないと分からない死角からの攻撃。意地の悪い真似を、そういう学習ばっかして!

 

「ごめん間に合わなかった!」

「シナヤス!」

 

 しかし当然、直撃こそ免れたものの完全回避には至っていなかった。

 両足の膝から下。光に飲まれたそこはポリゴンを散らしながら、ノイズのようなエフェクトが走っている。

 

「デモワリィ、アルケネェワ」

 

 困ったように笑うユーちゃんを背負う、最近行けてないけどいつもの外界スタイルだ。右手はないけどもーまんたい。

 

「背中どうぞ、右手やってくれると助かる!」

「ヘイヘイ」

 

 とかなんとか言ってる間に、第一波は乗り切ることが出来たらしい。光の流星群が過ぎ去った此処に、惨憺(さんたん)たる結果だけを残して。

 

 

[墜落戦艦フツギョウ第5層・階段前]

 

 

「……手酷くやられましたね」

 

 苦々しい顔でクローニンが呟く。

 ほんの5秒程度のことだった。フィールドが書き換えられて敗北イベントが差し込まれたのは。それでもなお、被害は壊滅的と言わざるを得ない。

 

「歳の差でしょう。撃ち返せるあたり、完全に古式ゆかしきタイプでもないようですし」

 

 無事であるのは装備がボロボロになっているクローニンと、弾幕用のユニットが何個か脱落した弾バカだけ。アブっさんは特に重症だし、()()()()()H()P()()()()()()()()()()()のが気味が悪い。

 

「ジ、ジジ、ぐぽーん」

《なに、今の? とマスターは困惑しています》

 

 困惑するアブっさんの言うことはよく分かる。俺だって同じ気分だ。

 だってムービーシーンだ、相手側が有利なのは重々承知の上でプレイヤーがここまで一方的にやられるはずがない。曲がりなりにも、FEVは最新のゲームに分類されるのだから。

 

「ムービーシーンってやつですよ。ヤブサメとアブっさんには馴染みがないでしょうが」

 

「ピ──ジジ、ガァン!」

《おかしいよ、だったらこんな理不尽なんて! とマスターは怒っています》

 

『オカシクナンテネェサ!』

 

 そうだそうだと応援したくなる反論をかましたアブっさんに、隠しきれない高笑いをこぼしながらAちゃんが応えた。

 

『『ハイボクイベント』ッテノハナァ、ムカシカラ『カナラズマケル』カラソウヨバレテルンダ。

 ニンゲンハクソダガ、コノゲームヲツクッタヤツト“ソコダケ”ハシュミガアウゼ!』

 

 

「ぶぇっくし!」

 

 

 どっかで実年齢相応のくしゃみが聞こえた気がした。助からない。

 それと、今になって合点がいった。こともあろうにAちゃんが持ち出してきたのは、石器時代もかくやな古のムービーシーン。つまり、必中必殺のキリングゾーンと。死ゾ?

 

「ユーちゃん、実際のところどうなんです?」

「ドーモコーモ、イッテルトオリダナ。オレノフネ、フルイセダイノナンダワ」

 

 心なしか目を逸らされてる気がする。

 と、いうかそうか。元はここユーちゃん(NPC時代)の居城なんだから敗北シーンもそっち準拠なのか。つまり。

 

「戦犯はユーちゃんだった???」

「オットナガレダマガキタゾ?」

 

 よし、煽るチャンス到来。

 こうなったら……最近やれるようになった、仮面の変声機能を悪用した一発芸を喰らうがいい。

 

『オビエロ! スクメ!

 セイノウヲイカセヌママ──

 

「# 口から放たれるWindows95起動音 #」

 

 ──シンデイケ! ……ア゛?』

 

「うわやっべ」

 

 場を和ませつつ煽ろうとした渾身のボケが、Aちゃん渾身のカッコつけ台詞に思いっきり被ってしまった。

 台無しである。

 どっちも。

 ついでにカエシテちゃんもかくやな速度でAちゃんの視線がこっちに向いた。うっわめっちゃ目が血走ってる。こわいわぁ、こういう時は俺も後ろに向いて、と。

 

「オレェ!?」

 

 ユー Lose、なんで負けたか明日まで考えといてください。

 

「トムの勝ちデース」

「オマッ、コノ、テメッ、コノ!!!」

 

 ゴスゴスと背負ったユーちゃんに殴られながら、視線でクローニンに合図。盾役(アブっさん)が機能不全を起こした以上、こっちが回避盾やって名誉挽回(誤用)するしかない。

 

『トコトンマデ“コケ”ニシヤガッテ……!』

 

 こうして俺にヘイトを一極集中させることに意図せず成功したいま、やれる最良の手はこれになる、はず。

 

「コンドカラ、オマエノヒコウチュウニ“アポカリプスサウンド”バクオンデナガスワ。ミミモトデ」

「アレの正体シンギュラAIと幽霊どっちなんでしょうね?」

「サァナア?」

 

 軽口を叩きつつ、自分がどれくらいまで生き延びる必要があるか算盤を弾く。ユーちゃんは攻略の要な以上どこかでパージする必要があるとして、右腕なくなってバランスが終わってるボディで流星群をどれだけ躱せるかと問われると……

 

「──」

 

 左指を3本立てる。

 3分、多分それが限界だ。

 それだけ時間があれば、きっと聡明なる我らがギルドマスターなら打開策を考えついてくれるだろう。

 俺には全くもって検討もつかないけど!

 ギルメンはギルマスを助ける、ギルマスはギルメンを助ける。我らの道ってやつだ。知らんけど。

 

『コロシテヤル、コロシテヤルゾ……ヤブサメボーゲン2035!』

 

 

[墜落戦艦フツギョ繧ヲ・LOSE MOVIE 2]

 

 

 高らかな宣言と共に、再び塗り替えられる戦場の設定。あれ、ちょっとまって文字化けしてるというかコレ、さっきの流星群とちが。

 

「ヒャッハァ! 

 サイコウダゼェ!」

 

 ガシャン

 

 鈍く響く鉄の音と共に、周囲の壁や床から無数の銃火器が姿を現す。なーるほど? さっきは弾バカが打ち消したから、デカい強攻撃から連射できる弱攻撃に切り替えたと。

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ、よ、わあ沢山」

「アラヤダオクサン、ケイ235ノジュウコウデスワヨ」

「これはデスお嬢様部になりますわー!」

「デスオジョウサマブッテナンダヨ」

「しりませんわー!」

 

 かつてネットの伝説と言われた人類の極限のひとりは、瞬きのうちに数千の銃口を無力化する処理速度を持っていたという。

 というかその発展系をさっき見た。

 

 

「っくちん!」

 

 

 それと比較すれば、たった235個の銃口なんて月とスッポン。回避しきれて当たり前の数なのだろう。でも、俺は人間だ。ちょっとAIと友達だったり、距離が近く育っただけの人間だ。

 

「……これが領域展開ってやつですか」

「ヒッチュウ、ヒッサツダモンナ。……ヒッチュウヒッサツ? ア゜!」

 

 視界が段々とスローモーションに変わっていく。

 マズルフラッシュ、飛び込んでくる無数の弾丸、背中で(いにしえ)のネットミームみたいな声を出すユーちゃんデルジバセヨ。何かあるならもうちょっと早く思いついて欲しかったなぁ。

 

「──」

 

 右、右、左、ステップ、くるっと回って、右手に被弾。

 撃ち返し、拡散、拡散、速射、足りんわこれ。

 左、上、上に飛んで、宙返り、ステップ、ユーちゃんのケツに被弾。

 アンカー発射、巻き取り、方向転換、ステップ、ステップ

 あとは分かるやろ? 詰みや。

 

ひひゃはらいへふねぇ(仕方ないですねぇ)

 

 轟──風が巻き起こった。

 視界を埋め尽くす銃弾を遮るように出現したのは、翡翠色の鱗。爬虫類のソレに酷似した鱗の先には鋭い鉤爪、根本を辿れば逞しい腕。首。縦に裂けた蛇の瞳。雄々しき翼。

 

「時間稼ぎ、してあげます」

 

 尻尾のない半透明の西洋竜が、俺たちを守るように銃弾の前に立ち塞がった。

 それはついさっき、レベル50に到達したことでFluoriteさんが獲得した魔法。竜体の顕現。βではついぞ見れなかったドラゴニュートの到達点に感心する間も無く、降り注いだ銃弾が鱗を貫いて。

 

「んべ、ふぁふのはひ(バグの味)

 

 あっという間に竜体が解けて消えていく。

 不味そうに舌を出すFluoriteさんの全身にもダメージが増えている。あと少し回避は出来そうだけど、完全にジリ貧だ。

 

「ヨッシデキタァ!」

 

 叫ぶユーちゃんはが指を鳴らした直後。

 

 

[墜落戦艦フツギョ繧ヲ・LOSE MOVIE 2]

[墜落戦艦フツギョ繧ヲ・_ ̄ _  ̄(ザザザザ)

 

 

「キタ! タイコウサクデキタ! 

 コレデカツル!」

 

 

[墜落戦艦フツギョ繧ヲ・第五層・_ ̄ _  ̄(ザザザザ)

 

 

 こちらに狙いをつける銃器のうち、半数が電源を落としたように停止した。

 

*1
Quick Time Eventの略。ボタンを押せ!! 失敗するとタイムベント




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