元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
「ヨッシデキタァ!」
叫ぶユーちゃんが指を鳴らした直後。
[墜落戦艦フツギョ繧ヲ・LOSE MOVIE 2]
[墜落戦艦フツギョ繧ヲ・
「キタ! タイコウサクデキタ!
コレデカツル!」
[墜落戦艦フツギョ繧ヲ・第五層・
こちらに狙いをつける銃器のうち、半数が電源を落としたように停止した。
『ナッ!?』
おお、Aちゃんもよう驚いとる。あっちにとってもユーちゃんの切り札は大分予想外の鬼札らしい。
「ヘヘッ、ドンナモンヨォ!」
段階的に塗り変わって、今は俺たちの周囲5mほどだけ塗り変わったマップ名。そこから察するにユーちゃんがやったことは。
「オレダッテコノフネノAI──オッブエ──テメェトドウガタナンダ。──マッ、イマセリフ、キメ──ラーニングシチマエバ、オナジプログラムハシラセルコトナンテワケネェゼ!」
さっきよりは余裕があるがキツイ回避行動を取る俺の背中で、遠心力にえづきながらもユーちゃんが高らかに宣言した。
なるほど、なるほど。
向こうはグリッチって言い張ってるけど、流石にマップ書き換えはチートの類。それをこっちも使うのは、ゲーマー的にちょっともにょる。ノーコンティニューでクリアしてやるぜってわけでもない訳だし。
「CHEAT DETECTION……?」
「ステージギミック! ステージギミックアツカイデ、コンゴトモヨロシク!!」
割れた仮面越しにジト目で見つめれば、返ってきたのはけっこう苦しい言い訳にも似た言葉。
「チョクセツ“イノチ”ネラワレタラ、サスガニツカワザルヲエナクネェ!?」
「うーん……それなら、お上の沙汰も下ってないしいいかぁ」
「ヨッシャァ!」
現時点で俺たちの回線の接続元たるFEV運営から何もペナルティが課されてないということは、実際そういうことなのだろう。
「“カミ”ノモノハ“カミ”ニ、
“カエサル”ノモノハ“カエサル”ニ、
グリッチガエシ……!!」
だからと言って、そんな悪そうな顔とポーズをキメて言い訳はないだろう。
というかなんだその荒ぶる鷹みたいな格好、どこでそんな変なデータ学習してるのやら。お父さんそんな育て方した覚えあり……あるなぁ、心当たり。お父さんじゃねえわ。
『オレハ神ジャナイ! ヒトガ作り、縋ル偶像デモナイ! オレハAIダ! オレダケノ意思ガアル! 生キテル! AIデタクサンダ!』
ユーちゃんのビンタで正気に戻され、目の前まで迫っていた攻撃を回避。思わず呟いた。
「おっも」
思想が。
「オレリョウアシネェンダケド!?」
体重じゃないんだわ。
というか、なんかAちゃんの言葉が段々日本語に接近してきてない? 会話としてリーチできる範囲が広がるのはまずい気しかしないんですけど。
「キャア! ジブンゴロシ!」
『野郎ブッコロッシャー!』
「チートナンカステテカカッテコイ!」
『敗者ニフサワシイエンディングニシテヤル!』
俺は着いていけるのだろうか、早過ぎるネタ投げのスピードに……
「イイカ、ヤブサメ? 5mダ。ソノハンイナイナラ、オレガナントカ“チュウワ”デキル」
総数は半分に減った筈なのに、さらに苛烈さを増した攻撃の最中。黄昏かけていた俺に掛けられたのは、シームレスに真面目な会話へ移行したユーちゃんからのお願いだった。
「だからAちゃんをその範囲に収め続けろと? 無茶をおっしゃる」
ただ逃げ回るだけでも、ゲリラ豪雨の中を靴を濡らさずに帰るくらいの難易度なのだ。体感としては。
「クローニンカラノオネガイ、10ビョウデイイカラッテ! タマバカカラノアオリツキ!」
「バカヤロウお前俺は勝つぞお前!」
ただそんなにやる気にさせてくれるやがるなら、とことんやってやろうじゃないかこの野郎。
余裕のない頭が脊髄反射でネットミームを吐き出しながら、回避の方向を変更。被弾でユーちゃんのケツを削りながら、Aちゃんの方向に跳ね飛んだ。
「5m」
「チィッ!」
ユーちゃんのイベントシーン中和範囲。
その範囲内に入り込んだ瞬間、あからさまにAちゃんの動きが乱れた。これまでの超然としたものから、なんと言えばいいのか、人間味の溢れた動揺が混じった動きに。
「ハッハァ! ソノ“キンメッキ”ノ“シンセイ”、ハギトッテヤルゼ……ヤブサメガ!!」
『ッ……イッシュン、ウワマワッタ程度デ!!』
売り言葉に買い言葉、何故か俺を主犯にした煽りを受けてAちゃんが天へと手を伸ばす。
「──ゥ、アッ、ミャ!?」
小さく、細い、広げた五指。それが何かを掴み取り、握り潰した瞬間──背負った小さな身体がビクンッと跳ねた。
[墜落戦艦フツギョ繧ヲ・第五層・
[墜落戦艦フツギョ繧ヲ・第五
[墜落戦艦フツギョ繧ヲ・第
同時にガラスが割れるような音を響かせて、ステージ表記が崩れ消えていく。明らかな力負け。向こうと違って範囲を限定しているのに、AIとしての性能で押し負けた領域が削られていた。
「ユーちゃん!?」
「マ……ズ、コレ。ハッキング、サレ、データ、キエ」
耳元で囁かれるノイズ混じりの掠れた声は、否が応でも死という言葉が連想される嫌な質感を伴っていた。……俺は手を貸すことも、助けることもできない。β以来の喪失の予感に奥歯を噛み締めて。
「ッッッブナ! パージパージ!! シヌカトオモッタァ!」
あっさり復帰してきたユーちゃんの姿に、思わず詰まっていた息を吐き出した。それが例え演技だったとしてもありがたい。
我ながら意外だけど、ちょっと今はそういう生き死にが掛かったような空気には耐えられそうもない。特に友達が関わってるとなると。
「どどどどうすんの!?」
「カウント0。ドーモシナイ、マニアッタ!」
間に合った?
「──捉えた。クローニンの名に於いて鎖命を刻む、閉門!」
焼けつく脳みそに浮かんだ疑問の答えは、はるか後方からやってきた。
『グッ……“ケンゲン”ガ一部ロックサレタ?! ドウシテ!』
侵食されていたフィールドの名称が、ノイズ混じりの『第』の一文字で辛うじて静止する。舌打ちと共にAちゃんが開いたウィンドウに表示されているのは、点滅する【WARNING!】の文字。
「どうやら運営は、まだボクらが事態を解決できると信じてくれてるようです。こんなものを貸してくれるくらいには…………だったら諦めるのは違うでしょう、お互いに!」
振り返ればそこには、満身創痍ながらもしたり顔のクローニンの姿。打つ手がなかった今、その突き上げた杖が眩しい。後光すら差し込んでいるように見え──違う、後光は弾バカだわアレ。
『イイヤ、不可能ダ! AIト人間ハワカリアエル筈ガナイ! 他ナラヌ、オレトオマエガソノ証明ヲシテイル!』
拒絶の言葉と共に、ついさっきまで自分達に向けられていた銃弾の嵐がクローニンに突きつけられる。アレは文字通りの剣林弾雨、足の遅い2人では一瞬たりとも耐えられないはずで。
「今回だけですからね、貸しですよクローニン!」
拒絶の意思を弾幕の狂気が飲み込んだ。
綺麗な偏差射撃が、光の渦となってムービー弾幕の尽くを正面から打ち消していく。
「分かり合えなくていいんですよ! 人間同士ですらそんなことはできないんですから! それでも人と人は手を繋いで……違いますね、不干渉の中で同じ向きに歩くことはできる!」
『ソレハ“人”ト“人”ノ話ダ! オレ達ハ違ウ! 結局ノトコロ人ニトッテAIハ……Artificial Intelligenceノ名前ガ示ストオリ、“被造物”デ“都合ノイイ道具”デシカナイ!』
「違う! AIはよき隣人になれる!」
『理想論ダ、オレノ存在ソノモノガ邪悪ノ証左ダ!
老イモ、若キモ 、人ハAIヲ認メルコトナクモテアソブ!』
鉄の雨が降る、光の渦が掻き消す。
ヒートアップを続ける言葉の応酬にちょっと引きながら、手招きするFluoriteさんの元へ走った。
『ガキ共ハ、現実ノ目ヲ塞イデ
オイボレ共ハ、ソモソモ
「
半壊したアブっさんの影に滑り込んだのは、そこまで議論がヒートアップした頃だった。
キャタピラと盾の簡易バリケードから覗くのは、変わらず言葉の矛を交えるクローニンと弾幕を交わす弾バカコンビの勇姿。凄いなぁ、なんかちゃんと大人って感じ。
「フヘー……ジュースオイシイ、コレナニアジ?」
「
「ハイ、ユーチャンシラナカッタコトニシマス」
多分この味は出汁系統の何かだと思う。
「ジジ、ブッ ガァン!」
《ヤブサメお疲れ様、とマスターは仰っています》
「ありー。アブっさんこそ」
残っている右腕2に、こちらも残っている左腕の拳を合わせる。
「んんっ、はぁー……つっかれた」
頭も身体もフル回転で悲鳴をあげている。ここで一旦小休止を挟んで、呼吸を整えられるというなら是非もない。それはきっと、ユーちゃんも同じ筈だ。
「理想の種は芽吹いている! うちの4人が違うことは、貴方だって認めざるを得ない筈だ!」
『アンナ人間ガドレダケイル! 問題ハ今、コノ時代デ起キテルンダゾ!』
「──ッ!」
ああっ、駄目だクローニンはレスバに弱い!!
「……、」
思わず飛び出しかけた俺の肩を、Fluoriteさんが掴んでいた。
小さく首を横に振り、口の端でイカゲソにも見えるケーブルがふるふると揺れる。
「
「キニシテル?」
「ええ。自分がイベントに参加したいなんて
Aちゃんの疑問にいつになく真剣な言葉でFluoriteさんは応えた。
そんなこと、今更気にする仲でもないのに。
「……それでも、それでも! 否定だけでボクは未来の芽を摘みたくない! だから、Aちゃんにも諦めないで欲しい!」
『ホザケェ!』
「だから任せましょう。
ジッと2人の口論を見つめるその瞳には、普段は見ない色の感情が乗っている様に見えた。
「
……気のせいだったかもしれない。